第19話 おつかいとプレゼント
久しぶりの投稿となります。書きたくなったので帰ってきました。
その後もう一度アクセサリー店の店員に道順を教えてもらい、喧騒とした街並みに気圧されながらも無事青果店へとたどり着いた。
バザーが立ち並ぶ商店街のような通りの一区画。よくファンタジーものの作品で見る感じだな、とゲームをしている時から思っていた。今朝果樹園で取れたものを売っているのだろうか、新鮮な果物が所狭しと並んでいた。
この青果店を営んでいるのは白髪のおばあちゃんだった。人当たりが良さそうで包容力のありそうなおばあちゃん。自分が果物を買いたそうにしてるとすぐに「いらっしゃい」と声をかけてくれた。
「えーと....何買うんだっけ」
俺は独り言を言いながら母親から渡されたメモを見る。メモにはこう書かれてあった。
『青果店 りんご 3個 オレンジ 6個 パイナップル 3つ レモン 2個 モンスターフルーツ 4個』
一瞬モンスターフルーツの文字に首を傾げたが、ここがゲームの世界だということを思い出し納得する。
モンスターフルーツは主にモンスターに与えるための果物で、モンスターとの親密度上昇のためのアイテムだ。モンスターが普段食事なしでどうやって生きているのかは不明だが、一応プレイヤー側から食事を与えることができる。
「というかここに売ってるんだな....」
モンスターフルーツは基本的にダンジョンやステージの中に落ちているのを拾ったりモンスターを倒して手に入れたりすることが主な入手方法なのであまりショップでも見かけたことはなかった。まあ見かけたとしてもわざわざ買うほどの効果は見込めないんだけどね。
しかしこれを母親が買って欲しいと思っているということはやはりモンスター達の世話は母親がやっているのだろうか?俺たちが持っているモンスターは現在4体で4個必要みたいだし....
母親には聞いてみたいことが色々あるな、と思いながら頼まれたものを買う。
「え....っとあの、これで」
俺は喋るよりも早く母親直筆のメモを直接見せる。
「はい、わかったよ。お使いなんて偉いねぇ」
いやそれは3、4歳児にむけてかける言葉だろう。しっかりモンスターテイマーという職についている俺にその言葉をかけないで欲しい。
「はい、どうぞ」
俺はポケットにそれらをしまい、店を後にする。
「また来てねぇ」
おばあちゃんの温かい声を受けて俺は次の目的地へと向かう。
「えーと次は........お菓子屋さんか、こっちは大体の位置わかるし、とりあえず大通りに出ようかな」
位置はわかるが現在地からの行き方がイマイチ掴めないのでとりあえず大通りに出ることにした。
「それにしても人多いな....」
いつ来ても王都の大通りは人が多く、俺のような人はこの光景を目の当たりにするやいなや目眩がしてくる。
比較的静かな裏路地もあるにはあるが、そこに用がある状況はほとんどない。従って王都に来るなら目眩を避けられないということだ。なんたる理不尽........まぁ、俺が悪いのだが。
と心の中でぐちぐち言っている間に無事お菓子屋さんに着いた。先ほどのバザー式の青果店とは違いしっかりと店舗を構えているお菓子屋さん。
この差は大きく、入店しないとそもそも店員さんに相手にされないというのが辛い。察してくれて中から「ご注文は何でしょうか?」と聞いてくれるシステムでもないのだろうか。
しかしいつまでも店外でウジウジしてはいられない。意を決して中に入る。
カランコロンカランコロン
「いらっしゃいませ〜!ご注文決まりましたらレジにお並びくださ〜い!」
元気溌剌な女性店員さんの声が店内に響く。ショウケースのようなものの中に様々な種類のお菓子があり、それを注文する形式みたいだ。
僕はおつかいのメモを見返す。
『菓子屋 美味しそうなのを4つ』
青果店の時に比べて大雑把すぎるだろう....そもそも見た目だけじゃどれが美味しいかなんて判断できない....
オススメの商品でも聞ければいいのだが、いかんせんそのような度胸は持っていないので、諦めて自分のセンスに任せる。
お菓子屋さんはショートケーキやモンブランなどのスイーツのようなものからチョコレートやキャンディなどのいわゆる駄菓子まで幅広く取り揃えているためなかなか決めきれない。
お金はあるしスイーツにしておこうかな....あぁでもこれの方がいいのかな....
迷いに迷い続けた結果、ショートケーキ3つとチョコ1つを購入した。あまりにも長い時間店内にいたため若干店員さんに引かれたかもしれないがそんなことは気にしない気にしない。
「次で最後だ....!えーと、雑貨屋ね。あ、多分ここから近いよね」
『M蒐』に限った話ではないと思うが、ゲームで使用できる店は大体固まっている。プレイヤーの移動のストレスを無くすためなのだろうが、おかげで迷わなくて済む。
雑貨屋ももちろん店を構えているが、注文する形式ではなく自分で買いたいものをレジに持っていく形式なのでそこまで緊張はしない。欲しい物がどこにあるかわからないなどという状況にならない限り。
「いらっしゃいませ」
誠実そうなお兄さんが店番をしている。まあ誰がやっていても関係ない、このお店では店員さんとのやりとりなどほぼないのだから。欲しい物がどこにあるかわからないなどという状況にならない限り。
メモを確認し、頼まれているものを探す。探している最中に店員さんから話しかけられることもない。ここは王都の中でも本当に落ち着く場所だ。欲しい物がどこにあるかわからないなどという状況にならない限り。
「どこにあるんだ............」
見事なフラグ回収である。入店してしばらく経つが、母親から頼まれたミキサーが見当たらない。おそらく先に買ったフルーツをジュースにするためのものだろうが、そんなことどうでもいいくらい見当たらない。
そもそも雑貨屋には商品となるアイテムが多すぎるのだ。ペンやゴミ箱、コップ、皿、カトラリー、ヘアピンなどの日用品から蛇口や漬物石、物干し竿、まな板など人生で1回買うか買わないかレベルのもの、鉋や彫刻刀、絵筆、斧などのその道の人が使う技術的なものまで取り揃っている。
ゲームとは言えどの店も取り揃えすぎではないだろうか。絶対に雑貨屋のものは他で売っているものと被っている気がする。
店員に場所を訊けば一発であるが、店員も正確な場所を理解できているのかどうかわからない、などと理由をつけて必死に自分で探した。
「あった....こんな奥に置くなよ....」
入店してかなりの時間が経った頃、ようやく俺はミキサーを発見した。母親から頼まれたものに加えて自分で欲しいものも買って店を出る。お金は渡された分で何とか足りたのでよかった。
「ご来店ありがとうございました」
最後まで丁寧な店員さんだったが、煙たがられてないか不安だ。店員側からしてもいつまでもいるくらいなら頼って欲しいところだっただろう。
「....とはいえここからが本番か」
俺は王都を後にし家に戻っていく。果たして仲直り大作戦(?)は上手くいくのだろうか。
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