第10話 お泊まり料理対決
「えっと、メリッサさん?」
「あの....メリッサで、いいですよ」
「ああそう?じゃあメリッサはなんで魔法使いに?」
「えと、生まれつき魔法使いとしての素質があるらしくて...それで、いっぱい勉強して、なりました」
「そうなんだ、かなり勉強家なんだね」
「えへへ、ショウさん、ありがとうございます....!」
「あー俺のこともショウでいいよ?」
「....!?え、えと、嬉しいご提案なんですが、その、すみません、ショウさんの方がしっくりくるので....」
「そう?それならそれでいいけど」
苦しい戦いの末、家への帰路についた俺たちはそんな他愛もない話をしていた。うん。他愛もない話だ。他愛もない話のはずなのに....
ゴゴゴゴゴゴゴゴ....
なんだか後ろから鋭い殺気を感じる....
「えっと....ツンデレちゃん....?」
「マドリンでいいのよ???」
「じゃあ....ツンデレちゃん、なんでそんな怖いかo....」
「わざとやってるでしょ!!」
oまで言ってたら「お」と発音できてるはずだろ、と内心ツッコミながら、いつもの冗談にもピリピリとした反応をしているツンデレちゃんに不安を覚えた。
「てか怖い顔なんてしてないわよ!別にあんたら二人で話してて羨ましいとかじゃないんだからね!」
怒ってるのかデレてるのかもはやわからない。まさかのヤンデレルートなのだろうか。もちろんルート分岐自体ないんだけど。
この後起こることは知ってるんだけど、、聞いたらどんな反応するんだろうか....怖いなぁ....
「てかあんたも!どこまでついてくるのよ!」
ツンデレちゃんはメリッサを指差して言った。
「えと....その、家飛び出して来たので....王都で宿屋暮らしするつもりだったんです....でも、お金ないから....」
ツンデレちゃんに気圧されているのが見てとれる。なんだかツンデレちゃんが悪者みたいな立ち位置だな。
「お金ないから....?」
「お金ないから、その、、ショウさんの家に....泊まらせていただきます....」
「しょ、ショウさんの家に....泊まる....?」
ツンデレちゃんは言葉を反芻した後、
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」
今までに聞いたことのないほどの大声で驚き、
「あ、あぁ....あぁ....」
言葉を紡ぐこともできず呻き声を上げながら、膝から崩れ落ちた。目には涙をいっぱいに湛えている。
「でもほら....うちにはゲストルームがあるしさ、ここで泊めてあげないと野宿することのなっちゃうんだよ?パーティメンバーがそうなったら助けなきゃでしょ?」
「ショウの....ばかッッッ!!!!!」
ようやく喋れるようになったツンデレちゃんは罵声を浴びせながら立ち上がった。あ、やば、これまた殴られるやつだ....痛いんだよなぁ...
「いいわよ........!だったら.....私もショウの家に泊まってやる.....!」
「ゑ?」
いや、ちょっと待て、聞いてないぞそんな話。ゲームの時では普通に家に帰ったじゃないか。なんでここでこんなイレギュラーなことが....?
「え?じゃないわよ、今日は私も泊まるって言ってんの」
「まあ....ゲストルームに余りはあるだろうけど....親御さんの方は大丈夫なの....?」
「親は今いないから大丈夫よ、どっか旅してるらしいわ」
「そ、そう。えーと....本当にいいのね?」
「もちろんよ!この女が泊まるなら私だって泊まってやるわよ!」
「メリッサは....それでも大丈夫?」
「....私は泊まらせてもらう側なので反対はしないです」
うーんもしかしてこっちもこっちで怒ってる....?
ちょっと怯えながらも家に着いた。
母親に状況を話すのが憂鬱だな....と思っていたが話さないわけにもいかないので意を決して言った。
「ただいまー、えっとさ、今日2人家に泊まりたいっていう人がいるんだけど....」
「あら2人も?」
「うん、えーと、あ、じゃあ入ってきて」
「は、初めまして....」
「今日もよろしくお願いするわ」
「あらマドリンちゃん!?と、その子は?」
「あ、えと....メリッサです」
「メリッサちゃんっていうのね、で、もしかして2人が泊まりたいっていうことなのかな?」
「は...はい」「はい!」
「じゃあちょっと片付けてくるからリビングで待っててね〜、あとショウもこっち来て手伝いなさい」
「あ、はい」
母親に言われるがままに二階のゲストルームに来た。
「あんた....いつのまに女性を侍らせるようになったのよ....?」
「いやあいつらはパーティメンバーで....」
「まぁいいわ、1人に絞っときなさいよ?2人並行してうまく行くなんてことはほとんどないんだから」
「いやだからそういう関係じゃないって....」
実際に好意の目は向けられているかもしれないが、付き合ってるわけでもない。まぁ俺はツンデレが好きだが、だからと言ってツンデレちゃんと付き合いたいかというと既に色々やらかした前科があるので躊躇ってしまう。
「よし、これで掃除は終了ね」
「え?もう1部屋やらなきゃじゃない?2人いるんだよ?」
「いいのよ、これで」
いや何を企んでるのか知らないが嫌な予感しかしない。
俺が一階に降りると2人ともそっぽを向いて黙りこくっていた。
「えーと、一応掃除終わったよ....だけど家の都合で1部屋だけしか空いてないんだけど....」
「えっ....」「ええ!?」
驚き方も人それぞれって感じだな。
「ごめんねー、2人とも。今1部屋しか使えないのよ。でもベッドは2つあるから寝るのには困らないはずよ」
「....わ、私は野宿したくないので、その、それで大丈夫です」
先に大丈夫だという宣言をしてツンデレちゃんを牽制するメリッサ。
「もちろん私だっていいわよ!?」
しかしそれに対抗してツンデレちゃんも大丈夫宣言をする。
結局2人は同じ部屋で寝ることとなった。
「大丈夫なの...?2人とも....?」
「大丈夫です....!」「大丈夫よ!」
この言葉を信じるしかない。
「じゃあ私お夕飯作るから、みんな部屋で待っててね?」
「あ、えと、私、手伝います」
「あーら、手伝ってくれるの!?ありがたいわ」
「その、一応....料理は得意です」
「じゃあ、サラダをお願いできるかしら?」
「はい、わかりました」
へえ、メリッサって家庭的なんだな。確かに料理できそうな雰囲気が漂っていた。
「....わ、私もやります!!!」
ちょっと待て、どう見ても料理できなさそうな雰囲気醸し出してる人が我こそはってやっちゃダメだろ。俺美味しい夕食が食べたい。
「じゃあマドリンちゃんもサラダお願いね〜」
サラダ2品できちゃうねこれ。なんで同じ料理を頼んじゃったの。
トン....トン....
メリッサの方からは包丁の音が聞こえる。トマトでもくし切りにしているのだろうか。
ドシンドシンボコスカボコスカバチンバチン
あれもしかしてツンデレちゃんモンスターと戦ってる?こんな音料理してる時に聞いたことないぞ。嫌な予感しかしない。
しばらく待っていると、料理が出てきた。途中で異臭や異音がしたが、気にしたら負けだろう。
今日はサラダが2品もある。1つはボウルに綺麗に盛り付けられたサラダ。もう1つはボウルの中で何かが蠢いているようなサラダ。ドクロマークの煙付きだ。サラダって火を使うっけ....?
綺麗な方を食べる。
「おお、美味いなこれ、高級レストランで出てきてもおかしくないぞ」
高級レストランなんて一度たりとも行ったことがないけどね。
「あ、ありがと....ショウさん」
うん、やっぱりこっちはメリッサだったのね。
そして....期待の目で見られちゃってるのでもう1つの方を食べる。
「う゛っ....ま゛、真心がこもっていて....い゛い゛味だよ」
なんだこれは。これは料理じゃない。おそらくモンスターだ。捕まえなければみんなが危ない。
「これくらい当然よ!」
何言っちゃってるんだ。モンスターを生み出しておいてよく言うよ。
「あのさ...このサラダ部屋で食べてもいい?」
「もちろんいいわよ!!」
俺は夕食を食べ終わる前に部屋に戻って、サラダをボウルごとバッグの中に入れた。一応ボウルごと入れればバッグの仕様上中のものが溢れることはないはずだ。
「うっ....お腹が痛い....」
その日ショウはずっと腹痛に苛まれたそうな。




