13.決戦前
PU1の水着鯖が三名全て引けたので更新です
11話にてランベールによるクレアの復活を示唆する会話が抜けていたので一文だけ追加しました。
ランベールが待ち受けている、であろう古戦場には馬に乗っていくことになった。
馬車に乗って移動しないのは、馬車そのものが乗用に耐えられないほど痛んでいたから。どうやらあの粘液は置き土産として重要な部品を溶かしてから帰ったようだ。
幸い人を軽々と乗せれるほど体格の良い馬が二頭いる。シズクとナツメは経験がないが、シルバとケイは乗馬の経験がある。駆けることは出来なくとも普通に走らせる分には問題なかった。
「正直言うと、二人ともなんで乗馬の経験があるのか不思議なんですけど。特にケイさん、馬の扱い、妙になれていません?」
「私の場合は家に馬がいましたから、この子達も何度か世話をさせてもらったこともあるんですよ?」
「お嬢様なのにそういうこともするんだ。ならギルマスは? 触るぐらいはあっても乗りこなすなんて前の生活じゃあんまりお目にかかれない技能でしょ」
「親戚が牧場をやっていたからそこで教えてもらった。だから私の場合は世話とかは出来ない」
それにしてもメンバーが女性ばかりでよかったとシルバは人知れず息をつく。
ケイとシズク、シルバとナツメの二組をそれぞれ乗せている馬達は、つらい顔も見せずに歩を進めてくれている。これが男性ともなれば、先ほどまで馬車を牽いていた彼らでは潰れてしまっていただろう。
「この先にある丘って前に争いがあったんですよね」
「…百年以上前の話ですね。当時では珍しく相当数の人間がなくなったらしいです」
「へぇー百年前。つまり古戦場って訳ね。ネクロマンサーに有利な戦場ってことか」
家族を殺し、従っていた兵士を殺し、無辜の民を殺した男。
死んだ人間を蘇らせるために、協力を要請した相手が生者ではなく、過去の恨みに支配される死霊とは虚しいものだ。
「……」
黙りこくったケイをちらりと視界に納めながらシルバは前方の空を見た。
分厚い雲に覆われ、青空の気配もない曇天の空。
雨はまだ降ってはいないがこの先は分からない。せめて、事が終わるまではもって欲しいと心中で祈った。
木々も生えていない不毛な土地。
生温い風が肌を撫で、怖気が走り、産毛が逆立つ。
一瞬だけ大地に突き立つ剣の墓標とその下を埋め尽くす無数の死体の姿を幻視する。ここは死の後悔がこびり付いている。過去に縛られた者たちが未来には行かせないと、不自然に空間が停滞している。
そんな丘であの男は、宣言通り待っていた。
攫われていたはずのシェムの姿は見えず、ランベールの横にいるのは赤黒い鎧を纏った巨漢の騎士だけ。
その様子にケイは戸惑うように声を上げた。
「シェムをどこにやったのですか」
「開口一番にそれか。もしかしたらこれが最期の会話になるかもしれないというのに心配するのはあの男のことか」
心底呆れたようにランベールはケイから視線を外す。
何かを思案するように彼は空を見上げる。どこからか猛禽類を思わせる甲高い鳥の声が聞こえた。
「この私が何もせずにただ待っていると本当に思っていたのか」
大仰に、おどける様に男は手を広げた。
ぽたぽたと指先から血が大地に落ちる。自分で切り裂いたのか、ランベールの手の平は真っ赤に染まっており、手当ても施されていない傷口からは今も血が流れ出ていた。
「ここは素晴らしい場所だよ。死に溢れていて、死霊術士にとってみれば無尽蔵に力が込み上げてくる土地だ。なんせ自前で死霊を用意しなくとも、周りにうじゃうじゃといるんだからな。……それで、あの男の話だったか?」
「……そうです。シェムをどこにやったのですか。姿を見せなければ人質としても―――」
人質。その言葉にランベールは可笑しそうに喉を鳴らして笑う。
「いつ私が、あの男を人質にするなんて言ったんだ?」
「そ、それは…」
「ほら、言っていないだろ?」
「ですがそれなら何故っ! 人質でないというのなら一体どこに」
ランベールの顔が歪む。
不快な音を立てて動き出した騎士の姿に、シルバはケイを庇うように前に出る。
「あの男ならさっきからずっとここにいるじゃないか。多少、いやかなりかな。姿は変わってしまったが、お前の護衛騎士だった男ならほらここに」
「アァァァ!!」
雄叫び。騎士が出した声は酷く歪んでいたがケイにとっては聞きなれたもので。だからこそ、理解してしまった。
「えっ…、まさかシェム、なの? でもその姿は―――」
絶句。
蠢く肉のような鎧。咽返るほどの死臭。呼吸の様子もなく、身動ぎせずに立ちすくむ姿はまるで人形染みていた。
だというのにケイの感覚が、眼前の鎧がシェムだと訴えている。
立ち方が母の傍で立っていた時にそっくりだった。
剣を握った時に出る彼特有の癖が垣間見えた。
なにより、あの声はいつも話しかけてくれた彼のものだった。
「……お兄様がシェムを殺したんですね」
「ああ、そうだ」
「なぜ、こんなに犠牲を出すのですか」
「それが私の大望に必要だから。それにこの男は無能ではあったが、死して素材として使うならば有用だ。お前はこの亡霊がなにか知っているか」
淡々と。まるで教え子に答えを求める教師のようにランベールは訊ねる。
答えは知っていた。魔道書が惜し気もなく与えてくる知識の中には眼前のアンデッドの特徴も存在する。
平均的な男性よりも大分巨大な体躯。全身に赤黒く脈動する鎧を纏い、黒い騎士剣を携えた騎士。その場に立つだけで生者を威圧し、命を吸い取る様は。
「―――命を刈り取る亡者の騎士、ダークナイト」
「正解だ」
魔道書に教えられる前からその名前は知っていた。
昔のことだ。とある国が戦争の末、滅亡した。小国であったその国には大国であった隣国に抗う術がなかったのだ。小国には近隣に名を轟かした有名な騎士がいたそうだが、天と地ほどある軍事力の差の前では多勢に無勢。物量で押し込まれ、その騎士は雑兵の槍を多数その身に受け絶命した。
騎士が倒れた後に戦線は崩壊した。城下町に火が放たれ、門扉には破城槌が叩き込まれ、首都が陥落する。城門に王族の死体が吊るされたのは崩落の翌日のことだった。
ここまではよくある話だ。問題なのはここから先だ。
属国となった小国に大国の王族が赴いた時に事件が起きた。自然発生したアンデッドたちに大国の兵士が襲われたのだ。勿論、ただのアンデッドであれば兵士たちでも制圧は出来た。だが、戦場跡から出てきたアンデッドの中に、一際目立つ騎士の姿があったのだ。
赤黒く変色しても見覚えのある鎧。アンデッドたちを統括し、軍として一つの生き物のように動かし、指揮する姿に小国の民たちは覚えがあった。そして何より、生前に対峙した大国の兵士たちにとっては忘れたくても忘れられない恐怖の象徴。
あの世から舞い戻ってきた護国の騎士は小国の民には目もくれずに、大国の兵士だけを執拗に追い、果てには偶然訪れていた王族さえも手をかけた。
その姿形を指してダークナイトと呼ばれるようになったアンデッドはその後も暴れ続け、討伐し終わるまでに出た被害は万を超えたらしい。
「まさか私もここまでのものが出来上がるとは考えていなかった。場所と素材と魔道書のお陰かな。いくら君達が強くともこれを倒しきるのは一苦労だろう?」
「そんなのやってみなきゃわからない」
薄く笑みを浮かべたシルバに対してランベールは眉を顰めて睨んだ。
「ケイ。もう一度聞くが、私に協力するつもりはないか」
「ありません」
「あの人が亡くなってからお前が隠れて泣いていたのは知っている。もう一度、あの人の手で撫でられることも、あの時は交わせなかった言葉さえ交わすことが出来るんだぞ」
「それは成功すれば、の話ですよね。私の母は既に天に召されています。何を言われようとも私は貴方に協力をすることはない。それに、母がそんなことを望むとは決して思えない」
貴方の行動は母の意志を捻じ曲げている、と言外に伝えればランベールの表情が一瞬だけ怒りの形相に変わった。
「……決裂か。まぁ、お前は決して私を許さないなんて分かりきったことだったな。なればこそ、私は私のやり方で押し通させて貰おうか」
ピューーと、どこかで猛禽類の声が聞こえた。
それに気付いたのは後ろにいたシズクだけで、前方のダークナイトを警戒していたシルバは背後から迫っていたそれに気付くことはできなかった。
「危ないっ!!」
声を掛けたが間に合わない。
上空からケイ目掛けて強襲した何かが物凄いスピードで何かを掻っ攫っていく。
鮮血が宙を舞う。
突然の衝撃にケイの身体が強張り、次第に熱を帯びていく自身の腕に疑問を抱く。
「これで材料は揃った」
そう話すランベールの手元には爪を真っ赤に染めた一匹の鷲。
そして血の出所であるケイの腕は鋭い爪で肉を抉り取られたせいで激しく出血し、衣服を赤く染め始めていた。
シルバ
乗馬 技能値:30




