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出発決定

 突然に休みがとれることになったんだけど、準備は大変だった。

 何しろGWに北海道に行くわけで、宿に泊まるつもりもその金もない。

「キャンプしかないだろうけど……装備がなぁ」

 再装備の予定はあったけど、全然間に合ってなかった。

 手元にあるもので使えるものは、年季の入ったアルコールバーナー、トランギア・ストームクッカー一式があるだけ。

 こいつは炊飯には向かないと思うけど、それはかまわない。

 もとより自炊するつもりはなく、コンロまわりは寒い朝にお茶をいれたり暖をとるためのもの。

 ただ、ストームクッカーセットには使いやすい鍋蓋がないので、そこだけモンベルの14cmを追加した……まぁお茶目で、ついでに同サイズのミニ蒸し器も持参するけど、肉まんでも暖めないかぎりまず使わないだろう。

 次。

 テントは中華系の安いのをチョイス。

 シュラフつまり寝袋も安いのだけど、冬季用のなるべく快適温度の低いものをゲットした。

 本当は寝袋だけはモンベルの厳冬期用にしたかった。春の北海道は、そこいらのキャンプ場でも氷点下いく事があるから。

 けど、シュラフカバーとあわせるとお高くなるので……。

 シュラフカバーが、昔使っていたようなミクロテックスとナイロンみたいなのがなくて、ゴア系のやたらお高いやつばかりなので、これはちょっと保留にしておく。

 もちろん、この選択であとで泣くことになるんだけど、そこまでは考えが及ばなかった。

 そんな感じでババーッと最低限の道具をそろえていく。

 収納だけど、DODのターポリンバッグにまとめて突っ込む事にした。

 さらに、昔ならではのゴム紐利用はやめて、今世紀風の強力なストラップケーブルを利用と。

 灯火類は、防災用に持っていたコールマンのランプがアウトドア用なので、これを使うことに。

 ……結局、道具が揃ったのは出発前日のことだった。

 

 

 そんなこんなで、突発的とはいえ順調に準備をすすめていたのだが?

「まこ」

「ん?」

「これ、なに?」

 いきなり問題。サーナにみつかってしまった。

「これは寝袋といって、ふとんの代わりに使うものだよ」

 ウソはついてない。

 ただし旅行の準備である事は匂わせない。

 旅行となると、一緒に行きたいと言うんじゃないかと不安があったので、念の為に焦点をぼかしたんだよ。寝袋、イコール旅行に使うという概念はないだろうしな。

 でも、俺の考えは甘かった。

「……どこいくの?」

「え」

 その質問とサーナの顔で気づいた。

 これ、ちゃんと理解してるぞ……俺が旅行の準備をしてるって。

「どこいくの?」

「えっと、サーナ?」

「まこ?」

 まずい、疑惑の目だ。

「ちょっとまってくれ」

「む?」

 とりあえずサワナさんに電話で確認してみた。

 すると、さすがに驚きつつも肯定された。

『たしかに、今のサーナならありえると思います。

 理解力や思考力がすごく伸びてますから』

「マジですか」

 ついこの間まで、ほとんど赤ちゃんみたいだったのに。

『むしろ今までが遅すぎたんです。

 父親がいなくなってから、ずっと赤ちゃんみたいな状態が続いていたんですよ』

 ほほう?

『このところの急成長っぷりは本当にすごいです、新しいパパと妖精さんたちのおかげですね』

「あの、それってまさかと思うけど」

『あら、マコトさんの他に誰がいるんですか?』

「あ、はい……いやハイじゃなくて!」

 電話の向こうでクスクス笑われた。

「だから、そういう意味じゃなくて!なんでパパ?」

 そう言うと、なぜか電話の向こうでシクシクと聞こえてきた。

「サワナさん、シクシクは擬音です。口に出すものじゃないです」

『うふふ』

 こういうとこ、サーナそっくりだよな。さすが母娘。

「それで、どうしましょうか?」

『……そこはマコトさん、パパ(・・)として自分の言葉で説明してあげてください。

 とにかくサーナをつれてはいけないんだって、悪いけどママとお留守番しててねって』

「でも、もしそれで傷つけたりしたら」

『大丈夫ですよ』

 そういうとサワナさんは電話の向こうでクスクス笑った。

『最悪でも、旅先のマコトさんの天幕にサーナが転移してくるだけかと』

 うわぁ。

「わかりました、がんばってみます!マジ説得します!」

『はい、よろしくお願いします』

 

 

「さーなもいく!」

 当然だが、自分も行くと食い下がるサーナは強敵だった。

 結論から言うと、何とかサーナを折れさせてくれたのは、なんとノルンだった。

 先日の件以来、一体でいる事が増えたノルンなのだけど、一体分離してサーナについてくれたのだ。

「これで、いつでもいっしょ」

「おー」

 サーナは確かに俺について来たがったけど、サワナさんが同行しない事を聞かされて少し怯んでいたんだよね。

 そこにノルンが一体、つくことになった。

 こいつら三体は常時つながってるようなもんだから、それでサーナも納得をしてくれた。

 やれやれと汗をかいていたら、サワナさんからも妙なリクエストが来た。

「わたしにも一体預けてくださいませんか?」

「え、なんで?」

「いつでも連絡とれるんですよね?」

 スマホあるじゃん。

 でもそしたら。

「スマホだと移動中はお話できないし、制限も多いじゃないですか。

 でも、この子たちがいれば、いつでもつながるのですよね?」

「……あ、はい」

 それって……いつでもどこでも連絡つかないとイヤだと?

 むむ?サワナさんって独占欲強いひとだっけ?

 そしたら。

「サーナだけはずるいです」

「さいですか」

 そう言ってスネられると、俺としては断る道はない。

 結局、ノルンは一体だけ連れて行く事になった。

 

 

 しかし、問題はさらに続いた。

「船がとれん」

 時期的に仕方ないとは思うけど、全然無理だ。

「しょーがないな」

 行きは青森まで東北道をひた走ることにした。

 うーん、体力的に不安なんだがなぁ。

 帰りは道内でキャンセル待ちか。

 それを前提にルートを組み立てた。

 

 しかし、ルート問題はさらに続く。

「平成最後の大雪だぁ?」

 天気が崩れるならわかるが、雪だって?

 ゴールデンウイークだってのに、東北道の岩手〜青森で雪が降る?

 うわぁマジか。

 まぁ、その、なんだ……最悪、東北のどこかで停泊して待つしかないかもなぁ。

「問題山積みだなこりゃ」

 学生時代じゃあるまいし、こんなリスキーな旅をすることになるとは。

 最悪、中止も考えたんだけど。

 ここまで準備をすすめてしまったしなぁ。

 

 調べてみると、青森に行くには秋田まわりという回避手段もありそうだった。

 だいぶ遠回りになるが、北上JCTで秋田に向かい、小坂JCTで戻ってくる手法だ。

 これにより、雪で止まってる八幡平エリアを回避できる。

 しかし。

「……体力が心配だなぁ」

 そもそも雨模様という事もある。

 近年の俺は日帰りばかりで、当然ながら悪天候の日のおでかけもしていない。もちろん雪が降りそうな気温環境での雨の移動なんて。

 これは冒険だな。

 

 とりあえず、出発予定を一晩ずらして天候の回復を待ってみた。

 予報を追いかけてみると、午後には雨こそ上がらないものの大雨や雪の地域はなくなり、交通規制が解除されそうだった。

 もちろん、完全に雨上がりとはいかない。どこかで降られるだろう。

 それに今、安全になった地域も、早朝には凍結するかもしれない。

 だったら。

「……早朝になる前に抜けるしかないか」

 

 後先考えずにマラソンランナーに徹すれば、朝四時前には青森に行けるだろ……順調にいけばだけどな。

 もしダメなら、その時はその時としよう。

 俺は腹をくくった。

 

 それからもじっと待ち、通行止めなどが解除になったのをネットで確認した俺は行動開始した。

 サワナさんに出発を告げ、念の為に部屋の鍵を預けて──サーナが入り込むとまずいからね──出発することにしたのである。

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