いろいろな変化
俺の人生に起きた変化は多い。
その最も最初のきっかけというと、やはり、あの狐の巫女さんとの出会いだろう。
上野広小路の交差点で声をかけられて……そこからが始まりだった。
だけど、それすらも含めた最も最初と言うと、実は単車を買い替えた事だったりする。
前回話したように前の単車はポンコツで、おでかけしようとしたらエンジンかからない事もあったりした。
もともと出不精のうえにソレが唯一のアシという状況だったんで、もう少し走り回ろうよと思い、がんばって買い替えてお出かけを増やした。
年に数回もなかった外出が、一気に隔週くらいに増えた。
最初は以前いったところに遊びに行く程度だったが、次第に全く新しいところへも行くようになって。
上野広小路を通っていたのもその一環だ。
つまり、そこからすべてが始まったといえる。
何が言いたいのかって?
つまり、最低限の第一歩は踏み出さないといけないってことだよ。
ただ漠然と「何かないかな」と思っているだけの人に、少なくとも良い変化は訪れない。
たとえ通勤に乗り物を使っていたとしても、ずーっと同じ経路を走り、まっすぐ家と職場を往復するだけなら変化も何も起きないだろう。
小さな寄り道からでもいい、何かしらの「変化」を始めなくちゃ。
ボーッと口をあけて待っているだけの人のところに、空から女の子が降ってくることはないんだよ。
まぁ女の子は極論だけど、言いたいことはわかってるもらえるよね?
買わない宝くじは絶対に当たらない。
がんばって今を変化させても何もないかもしれないが、同時に、何かを変えようと今を変化させる事をしない人には、良い運命なんて絶対に巡ってこない。
ただ現状のまま、時間とともにジリ貧になっていく。
だからまずは動こう。
嘆くのは動いてからでもいいじゃないか。
そんな俺の生活の変化なんだが、もちろん最大と言えるのはサワナさん母娘との出会いになるだろう。
ぼっちの俺が結婚まで考える事態になっているんだから当然といえば当然だ。
だが、ノルンこと妖精三匹組とのことも決して小さくないと俺はすぐに気付かされた。
え、どうしてかって?
そりゃ、こいつらはどこにでもついてくるからだよ。
たとえばこんなケース。
「こら、おまえらトイレについてくんなっ!」
「えー」
「なんでー」
これは困った。
ふんばりつつも目線を感じてさ、そしたら、ちまっこい目線3つで見物されてるんだ。
やめてくれ、何かこう変な気持ちになるから。
とりあえず表で待たせたり、遊びに行かせたりと対応を教え込んだ。
あるいはこんなケース。
「諸田くん、仕事中にお菓子を口にするなとは言わないけど、ずーっと音がしてるのかどうかと思うんだぁ」
「あー、それは」
ぽりぽり聞こえてたか。
当人たちは見えず聞こえずでも、何か食べさせたらその音は聞こえるっぽい。
要注意だな。
しまいには、こんなケースまで。
「フフフ、いやー久々にゲームなんて買っちゃったよ。
やっぱ、自分で容姿まで決定したメイドさんを雇えるのが神ゲーだよなぁ……メーカーもよくわかってるよなぁ。
ストーリーはちっとも進まないが。
ま、メイドさん造りと撮影会がメインでストーリーはオマケだからな!」
「フフフ」
「お、なになに、えろげ?」
「うわっ!なんでいるんだよ、サーナちゃんと遊んでたろ!」
「もどってきたー」
「なにやらマコからエッチな雰囲気が漂ってきたと言ったら、サワナが行けと」
「まて待てちょっと待て!
つーかその言い方やめろ、変な音楽聞こえてくるから!」
はぁ、はぁ。
いや、本当に参った。
結論から言うと、日常生活の範囲で「見える人」はほとんどいなかった。
特に職場まわりの心配だったんだけど、見える人は誰もおらず、拍子抜けするくらい変わらなかった。
また、ノルンたちも職場などでは空気を読むようで、手乗りサイズのちびすけたちが静かに本を読んだりしている光景は、華のない職場の良い癒やしにもなった。
ただ、皆で昼食に出てもこの子らを認識できる人がいないのは……当人たちはまるで気にしてないようだけど、見ている俺の方がちょっと悲しかったけどな。
仕方ないといえば仕方ないのだけど。
「あれ諸田くん、きみダッフルコートなんて持ってたっけ?」
「はい、まぁちょっと気分で」
「なるほど」
帰ろうとしたら声をかけられた。
ノルンたちがとりついたりするのに、このフードまわりがいいんだよ。
単車の時に風で動くからフードつきは好きじゃないんだけど、逆にいうと単車じゃない時はいいわけだからね。
あと俺はダッフルコードというと、とある物語に出てきた女の子を思い出すんだ。だから結構最近まで、女の子の着るものだと思いこんでいた件もある。
本来はむしろ男性用らしいと知ってもなお、そのイメージで抵抗があったんだけどね。
職場を出て、ひとり歩く。
まぁひとりといってもノルンたちがダッフルコートのフードまわりにいるのが首のまわりが暖かいのだけど、マフラーなどでなく生物的なぬくもりが首にあるのは、ちょっと心地よくもある。
以前なら絶対ありえない贅沢をしつつも帰宅していると、元の生活には戻れないなぁとしみじみ思ったりする。
そんな気持ちの時にふと、知ったような顔を道端にみつけて挨拶する。
え、なんで「知ったような」なんだって?
いや、漠然とした顔見知りっているでしょ。よく見かけるけど誰かは知らないって。
そういう相手。
軽く会釈するだけと思いきや、珍しく向こうから話しかけてきた。
「調子はどうだい?」
「ははは、おもしろいけどトラブルだらけですねえ」
「そうか大変だな、ハハハ」
目線で気づいた。
このひとノルンたち見えてるな、それで声かけてきたのか。
「まぁいい事もあるさ、強く生きなさい。
ん?くれるのかい?こりゃありがとう!」
「いえいえー」
あいさつをして、つい手に持っていたお菓子の袋をひとつあげてから立ち去った。
え、なんでプレゼントしたんだって?
あれ、どうしてだろ?
ふと、その場所が近所のお稲荷さんであることを思い出した。
そして、相手が人間でなく狐だった事にも。
驚いてふりかえると、おいなりさんの入り口にたたずむ狐さんが、楽しげに手をふっていた。
思わず苦笑しながら手をふりかえし、笑顔で別れた。
なるほど。
つまり「神様」と本能的に認識したから、手持ちの菓子から「お供え物」したんだな。
しばらくしてためいきをついた。
「やれやれ、俺もだいぶこっち側に引っ張られてんなぁ」
「なになに?」
「お菓子、あげちゃった?」
「ああ、神様にはお供えものするもんだろ?
しょうがない、あっちのコンビニで追加でも買うか?」
「おー」
「おー」
耳元でノルンたちの声がうれしそうに響いた。
響いたのだけど、なぜか足元からも声がする。
嫌な予感がしつつ足元を見ると、やっぱり。
「まこー」
「お、おう」
やばい、全然気づかなかったよ。
「サーナどうした?お母さんは?」
俺はサーナちゃんと話す時、ひとつの約束事を決めている。
ひとつは、サーナと呼び捨てにすること。
そしてもうひとつは、サワナさんのことをお母さんと呼ぶこと。
これは俺自身がそうやって育てられたからで実家の風習だが、聞けばサワナさんも同様だったらしい。
悪い言葉ほど、子供は覚えやすい。
そして世の中には悪い言葉が溢れている。
だからこそ親くらいは、なるべくキレイな言葉を子に聞かせたいと俺は思っている。
って、そんなことより今はサーナちゃんだ。
「ん、サぁナ呼んでる、ごはん」
「え、そう?」
スマホに何か着信あったっけ?
見るとメッセージが入ってた。
時刻は……職場出る直前か。
帰り支度の最中で、バタバタしてて気づかなかったな、こりゃ。
サワナさん、そういう時にガンガン連絡したりせず、連絡方法を切り替えるか様子見る人なんだ。
しかし、サーナちゃんをよこすかねこんな時間に……と考えたところで気づいた。
「まてよ、ここ家じゃないよな?」
「?」
「サーナ、おまえどうやって俺をみつけた?」
「んー、かんじる?まこまこ?」
まこまこってなんだよ。
よくわからんが、俺の居場所を探知してそっちに突撃したと言いたいのかな?
あーうん、ただの人間なら笑い飛ばすとこだけど。
でもサーナちゃんは人間じゃないし、俺もノルンたち連れてるからな。
本当に何か電波的なもので感じているのかもしれん。
うん、とりあえず様子見だな。
「よし、じゃあいこうか」
「まこー」
「あ?まさかと思うが、肩車しろって?」
「うふふー」
「はいはい、わかったよ」




