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ミニミニライダーズ

 仕事あがりに晴れたので、ちょっと走りに行く事にした。

 

 そういえばカッコいいのかもしれないけど、正直言うと煩悩的な理由もあったりする。

 え、どういうことかって?

 ほら、サワナさんとそういう関係になったでしょ?

 なんていうか、気持ちが先走るというか、ムズムズしちゃってね。

 今、サワナさんの顔見たり声聞いたら、どうにもガマンできなくなりそうなんだ。

 

 え?おまえは中高生(ガキ)かって?

 あーいや、自己弁護になるけど俺は無実だと言いたい。

 つーかさ。

 サワナさんがちょっと、そっちの意味でもいい女過ぎたんだよ。

 

 うん、実は予想はしてたんだけどね。

 サワナさんっていつも体型を出さず、素肌をさらさない服装をしているんだよ。

 冬場だからと思ってたけど、夏でも似たようなもんらしい。

 身のこなしも妙に軽いし、のほほんとしているようで、猫みたいに周囲を警戒していたりする。

 そして、人混みを避けるようにして動く。

 昔の知り合いにひとりいるんだけど、セクハラや痴漢対策と俺には見えた。

 聞いてみたらやっぱりで、手足を出したり体型の出る服で電車に乗ると、確実に痴漢が出るんだという。

 レディススーツでもお尻なでられるの、と言われて返答に困ったんだよな。

 

 正直いえば、たしかに俺は異性経験に疎い。

 そんな俺が、セクハラ誘引機みたいなキレイな体をみせつけられたんだぜ?

 先日の俺ときたら、頭ン中は真っ白で、しっちゃかめっちゃか。

 くすくす笑うサワナさんに終始、文字通り、手取り足取り腰取り楽しまれちゃったんだよ。

 

 あーうん。

 やっぱり俺、もう少し頭を冷やすべきだ。

 

 ……なぁんてことを考えているうちに、ちょうど駐輪場についた。

 

 ヘルメットをホルダーから外し、かぶる。

「じょうしゃー」

「はっちんー」

「ちょっとまて」

 ノルンと単体呼びをしているけど実際は三匹で、でも個体の区別が弱い妖精たち。

 着替えたのか作ったのか知らないが、いつのまにか全員、デフォルメされたライダースーツにヘルメット、ブーツまで装備している。生意気にぺったんこの胸元をあけているのは、それはセクシーなつもりなのか?

「すまんが、二頭身半は対象外だ」

「えー」

「えーじゃねえよ」

 さてと。

「あ、しまった」

 ヘルメットにつけてあるインカムは無線なんだが、充電し忘れたようだ。

 これだとナビの音声を運転中に聞けない、まいったな。

 どうしたものか……いやまてよ?

「おい、ちょっと一匹、前にきてくれ」

「はーい」

「なになに?」

「どうするの?」

 一匹といったのに三匹とも来やがった……まぁいいか。

 タンクの上やらハンドルのそばやら、滑り落ちないのをいい事に好き放題の位置に陣取った。

「場所きまったか?」

「いいよー」

「おけ」

「らじゃ」

「よしよし、まぁ落っこちるなよ?」

 そういうと、俺は単車のエンジンをかけた。

 シートにまたがり、スマホをホルダーにセットする。

 ナビアプリを起動して目的地を叩き込み、そして即座にナビ開始。

 ボソボソッとアナウンスが鳴るが当然、インカムの電源落ちてる俺には聞こえない。

「よし、スマホがしゃべったら教えてくれ、できるか?」

「わかった」

 こいつらは風にも飛ばされないし、時速80キロでもこのまま会話できる。

 うん、試してみるとしよう。

 そのままスタートした。

 

 

 都心に住み着いて数年になるけど、実はよく走るようになったのは最近のことだったりする。

 俺は出不精のうえ、電車が嫌いなんで特にひどかった。

 かといって徒歩だと時間がかかるし、自転車は……ちょっと怖い思いをして懲りてしまった。

 さらに、こいつの前に乗っていた単車はポンコツで、動かなくて外出中止がよくあった。

 しかも旧式で、スマホの充電もできなかったから、スマホ時代になるとさらに足が遠のいて。

 特に近年は、せいぜい年に数回のお出かけで使うくらいになってしまっていたんだ。

 

 そもそも今の単車に買い替えたのは、そんな毎日を変えるためだったんだ。

 なんかこう、変わりすぎのような気もしないではないけどな、ハハハ。

 ただのぼっち人生だったはずなのに、ずいぶんと賑やかになったもんだ。

 

 話を戻そう。

 そんなわけで新生活突入状態の俺なんだが、あいにく土地勘も新生活と変わらなかった。

 普段の行動範囲から外れちゃったら、正直ぜんぜんわかんねえ。

 青梅街道や明治通りの一部なら何とかなるくらいかな?

 つまり地図やナビは必須なわけだ。

 ただ単車は車と違って、同乗者に地図を見てもらうわけにもいかず、案内メッセージも聞けない。

 それで無線のインカムを導入しているわけなんだけど、このへんは今も試行錯誤中だ。

 

「もうすぐ、みぎー」

「おう」

 ちらっと画面に目を向けると、たしかにまもなく右折だ。

 ノルンたちは俺はハンドル、ヘッドライトの間あたりを好き放題にウロウロしている。

 風に飛ばされないのをいいことに、タンクに貼り付けてあるミニポーチをあけて中をみたり、あるいはミラーにぶらさがってコイノボリみたいにヒラヒラしてみたり。

 いいけど落ちるなよ?

 そしたら。

「む、あれなに?」

「わー」

「う○ちう○ちー」

 幼稚園児か君らは。

「ん?ああ、金のう○こじゃないか」

 俺はう○こって呼んでなかったけど、この間、知り合いのおじさんが「ああ、金のう○こか」と普通に言いやがったので、どうやら一般にも広く流布しているらしいこの言い方。

 皆さんご存知の、第二東京タワーの近くにあるアレだ。

 

 もともと、建物をう○こ呼ばわりは罵倒のはず。

 でも最近じゃ、むしろ金のう○こが愛称として定着してしまっている感がある。

 汚いだろって人もいるかもだけど、結局そこはイメージだからね。

 そのうちむしろ、腸活・快便の神様として拝まれたりするかもしれないよ。

 いやごめんなさい、俺、実はよく祈ってます。

 前に撤去するってデマが流れた時も、とらないでほしい、金のう○こはそのまんま希望って話まで出てきたというから、やっぱりみんな、親しんじゃってるんだよなぁ。

 俺もそのひとたちに同意だよ。

 オーナーさんがイヤじゃなきゃだけど、あのまま是非残してほしい。

 なんかさ、この無機質な都会風景にポンとアレがあると、ホッとするんだよねえ。

 

 って、今はう○この話をするときじゃない、曲がらないと。 

「ほいっと」

 指示通りに単車を右折させた。

 都会とはいえ夜だから車も減りつつあるし、このまま郊外に出るとさらに少なくなるだろう事は間違いないのだけど。

「うたう、へっどらいとー」

「こっくぴっとのあなたにー」

「ぱっくいんみゅーじっくー」

「昔の深夜放送かよ。

 あと目をヘッドライトにすんな、光が対向車にあたるとまずいから」

「おー」

「まみといっしょに、まみむめもー」

「しゅっぱつしんこー」

 だからラジオ番組じゃねえって。

 しかも東海じゃなくて短波ネタかよ!わかるやついるのかよ!

 なんでこいつら、いちいちこんなネタが古いんだ?

 そんなことを考えていたら、なぜかノルンたちは一斉に俺を見た。

 な、なんだ?

「ネタ元は、まこのきおくー」

「てらおあきらは、うのじゅうきちのむすこー」

「マコいうな。

 あと、最後のは俺じゃない、おふくろのネタだ」

 また、わけのわからないことを。

 

 しかしなるほど、そうか。俺の頭から読み出してんのか。

 でも、こんな情報俺の頭の中に……いやまてよ?

 

 寺尾聰が故・宇野重吉の息子なのは事実だけど、それは俺の知識じゃない。

 たしか高校生のとき、母が教えてくれた事だ。

 

 けどそんな知識、俺には意味のない情報なので忘れてたわけで。

 それをノルンたちがほじくりかえして、たったいま、突然に思い出したわけで。

 ……ん?ちょっとまてよ?

 よくわからんが、これって結構すごいんじゃね?

 

 記憶ってのは、思い出せないだけでデータそのものは消えてないって言うからな。

 俺本人は、自力ではそれを思い出せない。

 だけど、こいつらがいたらもしかして。

 ど忘れして、思い出せんーってジタバタしてるときにすごく役立つかな?

 

 でも。

「そもさんー」

「せっぱー」

「とんちんかんちんー」

「……」

 まぁ、肝心かなめの時にうまく読み出してくれれば、だけどな。

 え?それが一番無理ゲーだろって?

 ハハハ、俺もそう思うよ。

 

「しかし、郊外に出てきたのはいいが……ちょっと時間遅くなりすぎたな」

 楽しく走ってて忘れていたが、もう時間は深夜だ。

 さすがに、宵の口の普通のお店は全滅だろう。

 けどま、いっか。

 ドライブってのは、ただ走るだけでも楽しいもんだ。

 そして、その楽しいドライブの果てに立ち寄るなら、やっすい牛丼屋だって楽しめるだろ。

 うん。

 適当に思いついたところに立ち寄るとしよう。

 

 あ、そうだ。できるかな?

 

「おい、スマホ検索」

「いえっさー」

 指示してみると、何も言わないのにメノンたちはスマホにむらがった。

「けんさくー」

「おっけーぐるぐるー」

 スマホが入力指示画面になった。

「ちかくの、なかうー」

 って、勝手に行き先も決めやがった。まぁいっか。

 スマホが、見慣れた牛丼屋を表示しだしたので、俺は注文をつけてみた。

「駐車場のある、それから24時間のとこ頼む」

「まって……でたよー」

「よしよし、一番近いとこにナビしてくれ」

「いいよー」

 俺は指示の通りに単車を走らせた。


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