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小さな冒険[3]

 木更津金田(きさらづかねだ)から東京湾アクアラインをわたり、高速湾岸線を飛ばして帰ってきた。

 

 ちなみに高速上でも、きゃいきゃいとノルンたちは俺の単車の後ろで遊び呆けていた。

 海を渡る景色にオーオーと感心し、後ろを走る車に百面相したり。

 たまに自分たちに気づいたらしい動物や子供に「きゃーっ!」と手をふったり。

 しかも、ビュウビュウと激しい高速の風にもかかわらず、彼女らの喧騒はきっちり聞こえてくるし、こっちの声も届いている。

 まったく、なんなんだか。

 

 

 単車を直接サワナさんたちのアパートに乗り付けた。

 ちなみに単車置き場は特に決まってないので、裏庭の隅っこにある簡易駐輪場みたいなところに停めた。

 まだサワナさんは帰ってなくて、アパートには水瀬さんとサーナちゃんがいた。

 幸いなことにサーナちゃんはお昼寝中。

 で、水瀬さんは俺についてきたノルンたちを見て目を細めた。

「おかえり……また妙なのをつれてきたねえ」

「しみじみと言わないでくださいよ」

「といってもねえ、そんな生まれたての子妖精なんか、どうしたんだい?」

「実は」

 ここにいたる事情を説明した。

 したんだけど。

 水瀬さんは途中から「あんたバカか?」というような目をして、それから、あきれたようにためいきをついた。

「まったくバカだねえ。

 自然に生まれた妖精なんて、泡沫(うたかた)の泡みたいなもんなんだよ?

 適当に遊んでやって、それじゃあねって別れればそれでよかったんだよ?」

「……あー、それはまぁ」

「条件さえ揃えばいつかは実体化したろうし、ダメなら消えるだけさ。

 それを、わざわざ名前までつけて可愛がって、世界に固定してやったんだよ、あんたは。

 そりゃあ、懐いてついて来て当たり前だろう?」

「よくわからないけど、そういうもんなんですか?」

「あー、わからないのかい?

 じゃあね、相手を妖精でなくダンボールの捨て猫だと思って、自分のやったことを思い返してみな?」

「……えーと」

 

 かけられた声に反応して、遊んでやって。

 名前つけて、そんでもって頭なでて。

 

 あー……。

 

「……すんげえ、よくわかった」

「だろ?まったくもう!」

「ハハハ、すみません」

 思わず頭をかいた。

「ま、知らなかったんだから謝ることはないさ……しっかしまぁ何やってんだいホントに」

「そう言われましても」

 ちなみにそのノルンたちだが、サーナちゃんに興味を示したあと、いっしょにお昼寝をはじめてしまった。

 おそらくサーナちゃんの起床後に大騒ぎになるのだろう。

「確認なんですけど、害はないんですね?」

「あんたが固定した妖精なんだから、あんたの個性を反映するからね。ま、問題ないだろ。

 ただし、これ引き離せないから覚悟しな?」

「……どういうことです?」

「どういうも何も、言ったろ?あんたが名前つけて世界に固定したって。

 この子らは未だ生まれたばかりで、成長が必要なんだよ。

 ある程度成長するまでは、どう引き剥がそうとあんたから離れないよ?」

「あらら……それって何日くらいです?」

「さて、わからないね。10日ですんだって話もあれば、百年ついてたって話もあるしねえ」

「百年!?」

 一生そのままってこと!?

「それに成長したから離れるとも限らないよ、そのまま在留する個体もいるらしいねえ。

 特に今回みたいな複数個体だと、一匹は確実に残るって話もあるし」

「なんですかそれ」

 俺は思わず、あっけにとられてしまった。

「自業自得じゃないかねえ。

 けど、それより別の問題があるんじゃないかねえ?」

「え?」

「いくら少ないっていっても、見える目をもつヤツはいるからねえ。

 さすがに、常時連れ歩いてたら目立つだろ?」

「あー、たしかに」

 俺がうなずいていると、水瀬さんは眉をしかめた。

「……さっそく何か、やらかしたのかい?」

「ええまぁ、この状態で東京湾アクアラインを走って帰ってきたんで。

 しかもその間、こいつら後ろのシートでキャッキャ遊んでまして」

「あんたねえ」

 いや、そんな「医者がだまって首をふる」みたいな顔しないでくださいよ。

「まったく……ちなみにこの子ら、高速でどうだった?風に飛ばされなかったろ?」

「あ、はい。あれはどうなってんです?」

「妖精由来のものによくあるけど、物質面が私らとは違うのさ。

 あんたが触れば触れるけど、触ってほしくない相手は触れなかったり。

 車やオートバイの上に乗っても風に飛ばされないのに、もらった飲食物は普通に飲み食いできたり。

 色々と不思議な存在なんだよ」

「へえ、そんなもんなんですか」

 それは面白いな。

 

 

 しばらくしてサワナさんが戻ってきた。

「ただいま、マコトさんおかえりなさ……い?」

「おかえりー……い?」

「……」

 レディススーツ姿のサワナさんは、まず俺を見て微笑んだ。

 次にサーナちゃんを見ようとしてノルンたちに気づいて、そして首をかしげて。

 で、再度俺を見て。

「マコトさん」

「あ、はい、なに?」

「……まさか幼女趣味が?」

「違うから!」

 

 しばらく必死に弁解して、やっと納得してくれた。

 というかサワナさん途中から笑ってたし、遊ばれてたみたいだけども。

 

「山で生まれたての子妖精に出会って、一緒に遊んで名前もつけちゃったと。

 ……えーと、マコトさん?」

「あのーサワナさん」

「なんですか?」

「いや、その珍獣を見るような目線は正直やめてほしいんですが」

「そんな目では見てないですよ?ただ、珍しいもの、かわったものを狙ったように引き当てる人だなって」

「いやいや、偶然!偶然だから!」

 あえて言えば、印をつけられたのが大きいってだけの話だろ。

 あきらかに印を目印に寄り付いたり、声をかけられてるケースが多いんだからさ。

 というか。

「質問」

「はい?」

「子妖精ってそんなに珍しいの?」

「あー……たとえが難しいですけど、そうですね。

 マコトさん、観察とかお好きですよね?」

「え?そう?」

「ほら、この間、珍しいチョウチョだといって、じーっと気配殺して見てたじゃないですか」

「……その言い方はなんか、怪しい人みたいなんでちょっと」

「うふふ」

 わざとかよ。

 千葉に三人でいった時、珍しい柄の蝶を見て思わず観察していたのが、よほど印象に残ってしまったらしい。

 まぁ、子供の頃からの習慣だからなぁ。

「で、それで?」

「蝶でもなんでもいいですけど、産卵や羽化の瞬間を偶然見かけた事ってあります?」

「あー、それはさすがに、わざわざ狙わないとなかなか見られない……ああ、つまりそれだけレアだと?」

「はい」

「ほほう」

「妖精はそもそも、生き物や、何かの念が集まったり蓄積して生まれるんです。

 おかしいと思われるかもですけど、戦場跡に現れる悪霊みたいなものだって、ぶっちゃければ妖精の一種だったりするんですよ?

 強い想いが核になって、それに念が吹き溜まり、積み重なってカタチをなすんです」

「へぇ」

 それはまた。

「ですが、生まれたてに遭遇する確率はものすごく低いです。

 特に自然界で発生した場合、別の存在に取り込まれたり、吹き消される前に自力で固定して生き延びますから」

「……じゃあ本当にレアなんだ」

 思わず納得してしまった。

「ちなみに、同じ意味で特定の何かにべったり懐くのも珍しいですよ。

 なのに、それどころか印もちの人間につくなんて……わたし、おとぎ話かと思ってました」

「……」

 笑えねえ。

「問題あるかな?」

「害はないと思います。ちょっと対策は必要ですけど」

 対策?

「それって、どういうこと?」

「三匹はマコトさんから力をもらうので、そのままだとマコトさんの生命力が目減りするんですよ。

 疲れやすくなったり病気になりやすくなったり、いずれ問題になります。

 ちょっとテコ入れが必要かと」

 あら。

「そういうもんなの?」

「はい、生命の一部を分け与えるようなものですから」

「……」

 なんか、どこぞの小説みたいな話になってきたなぁ。

「まさかと思うが、修行とかしなくちゃダメなのかな?」

「それもひとつの手ですけど、ちょっと迂遠だし時間もかかりますよ。

 マコトさんはもっと単刀直入な方法がありますしね」

 そういうと、サワナさんはにっこりと笑って自分を指さした。

「わたしとつながればいいんです」

「……は?」

「ですから、物理的につながるんです……意味はわかりますよね?」

「……はぁ!?」

 思わず俺は目を剥いた。

 声を荒げてしまったので、サーナちゃんまでゆっくりと動き出した。

 ち、起こしちゃったか。

「な、なぁ、どういうこと?」

 俺は声を小さくしてサワナさんに聞いた。

「ほら、一族の男になるとってお話をしましたよね、アレです。

 あれは、(つがい)となる事でそれぞれの弱い部分を補うんですが、マコトさんの場合は生命力の底上げになると思います。

 それどころか、むしろ都合がいいかもしれません」

「……都合がいい?」

 どういうことだろ?

 首をかしげていたら、サワナさんがさらに説明してくれた。

 

 いわく。

 異種族の相手と結ばれる場合、普通は生命力などに差異がありすぎると危険なので、慎重にコトを進めるらしい。俺の場合もそうで、急がず慌てずだった理由のひとつにはそれもあるんだとか。

 ところが、ここに妖精という例外要素が登場した。

 慎重に進めようと思っていた矢先に、露骨に俺の生命力が足りなくなっているんだそうだ。

「自覚がないかもですけどマコトさん、すでに生命力が足りてませんよ。このままだと異常に眠くなったり体調不良になるのは時間の問題です。

 ですので、様子を見ながらなんて言わずに、さっさと結んでしまいましょう」

 あーうん、なるほど了解です。

「ところでサワナさん、ひとつ質問です」

「はい?」

「どうして、そんなうれしそうなんですか?」

「気のせいです」

「え、でも」

「気のせいです」

「……」

 よくわからない笑顔で押し切られた。

 

 

 そして、この晩。 

 俺はサワナさんの夫とまではいかないが、お手つきとなった。

 え、この言い方って男女逆なの?

 いやまぁ、どっちでもいいけど……そうなったのだった。

 

 え?さらっと書きすぎ?

 いやだって、なんというかロマンのかけらもなかったんだもの。

 ノルンたちに頼んでサーナちゃんと遊ばせ、まとめて水瀬さんに面倒みてもらうカタチで引き離し。

 で、気が変わってこっちに戻ってこないうちにって、そそくさと隠れて脱いで……うん。

 なんかこう「作業」って感じでいっぱいだった。

 

 はぁ。

 今度、こう、ゆっくりどこかに誘いたいもんだな。


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― 新着の感想 ―
風情はないけど、ヘタレにはいい機会だったのかな。^_^ おめでとう!
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