小さな冒険[2]
投稿ミスで更新遅れました。
古いトンネルを見に来たら、変な妖精みたいなのがいたでござる。三匹。
わけがわからない。
「変じゃないよー」
「ないよねえ」
「ないの?」
俺に聞くなよ。
それは西洋的な妖精というより、むしろ日本のアニメに出てきそうな典型的な「羽根の生えた、ちみっこい幼女」な感じの妖精たちだった。
ただ、何かこう、それぞれの個性に乏しい。
言っちゃなんだけど、そっくりというか、コピペというか、三つ子すぎるというか。
本当、アニメに出てくるような、わかりやすい三つ子ちゃんなところに違和感があった。
「どしたの?」
首をかしげていたら質問してきたので、正直にそのことを言ってみた。
そしたら。
「そんなの知らないよぅ」
「知らないよねえ」
「あたしたち、うまれたてだもん」
「え?うまれたて?」
「そうだよ?」
うまれたてなのか。
妖精たちの、妙に無個性な感じはそのせいなのか……いやまてよ?
少し前に新宿で出くわした、巨大怪獣騒ぎを思い出した。
確かあれは、休日に新宿にやってきた人たちが「怪獣」を想像するから現れたといってたよな。
すると、もしかして?
「もしかして」
「?」
「誰かがおまえらを欲したから、だから生まれてきたと?」
こんな森の中なら、妖精くらいいるかもしれないと。
そんなメルヘンな妄想を抱いたやつが、本当に彼女らが実体化するほどいたというのか?
そしたら。
「しらなーい」
「でも、そうかも?」
「うんうん」
あーうん、微妙な返答だなぁ。
でも、可能性はありそうだな。
ま、とりあえずだ。
俺は生まれたての妖精さんに会いに来たんじゃなくて、このファンタジックな古隧道を見に来たわけで。
とりあえずスマホを出して撮影しようとして、ふと気づく。
「おまえらなんで寄ってくる?」
「しゃしん、とるんでしょ?」
「ちょっとだけよー」
「あんたもすきねー」
「やめなさい」
そういう、古すぎて誰も知らないネタをするんじゃない。
とりあえず、写真を撮影しつつ隧道を見聞することにした。
近づいて見ればみるほど、この隧道は現代的な「トンネル」の枠から外れまくってるよな。
まず何より、上に山がない。
千葉県の山は、四国や近畿・アルプス方面などに比べると「丘陵」に近い、ゆるやかな地形が目立つ。
これは中国地方にも似ているかな?
ゆるやかな土地柄のせいか、トンネル類もあまり深い山の底をぶち抜いてるようなのは見当たらないんだけどさ。
そのせいか、山というよりも、ただの丘の下をトンネルがぶち抜いてるような風景もよく見かけるんだよね。
「昔はもうちょっと、高い山だったんだろうなぁ」
この隧道に至っては、中ほどのあたりの天井が落ちてしまっていて、そこだけ空が見えているありさまだ。
そんなになってもトンネルとしての機能を失わず、さらに、その「ありえない風景」が、この風景のファンタジーっぽさにさらに拍車をかけている。
こりゃあ、すごい。
感心しながら撮影を続けるんだが、ちょっと困ったことが発生した。
「……なぁ、そこでフレームに入らないでほしいんだがなぁ」
油断すると、すぐにフレームに入ってくる妖精たち。
普通に入ったかと思えば、ナゾのダンスを踊りながら隅っこで出入りしてみたり……どうもこっちのフレームのサイズとか境界線を認識できてるみたいだな。どうなってるんだ?
生まれたての存在にガリガリ怒っても仕方ないし、軽く抗議してみたんだけど……ダメだ、逆に面白がってる。
やれやれ仕方ないな。
それでも抵抗しつつ何枚か撮影して、あとは撮影タイムをすることにした。
よし、大昔に習った古いネタを使ってやろう。
「いちたすいちはー?」
「「「にー」」」
うむ撮影。
って、なんで一発でわかるんだよこいつら、俺ですら元ネタ知らないのに。
しかもノリがいい。
まさかと思うけどさ。
さっきの「ちょっとだけよー」もそうなんだが。
彼女らを出現させている原因の皆さんって、結構お歳を召してるとか、ないよな?
まさかと思うが。
60代や70代の姐さん方がこんなとこハイキングしてさ、「あー、なんか妖精とかいそうよねえ」「そうよねえ」とか、金歯銀歯の並んだ歯でグフグフ笑ってたりして。
……まあ夢に歳は関係ないっちゃあその通りだが。
しばらく遊びにつきあっていると、彼女たちはすっかり懐いてくれた。
最初は勝手に動いていた彼女たちだが、次第に細かい指示をきいてくれるようになってきたんだ。
こうなると、むしろ面白くなってきた。
「ノルン、ちょっとそこでポーズしてくれる?」
「こう?」
「ああいいよ、ありがとう」
俺、サイズの比較のために必ずトンネルと単車をフレームに収めるんだけど、彼女らにもちょっと手伝ってもらった。
つまり、単車・風景といっしょに写ってもらったわけ。
といっても、彼女らを写しても俺の同類やサワナさんたちにしか見えないわけで、まぁ俺の自己満足だけどね。
でも妖精と出会うなんてめったにないだろうし、記録写真としては面白いだろ?
ただまぁ、ひとつだけ問題があった。
といっても難しい話じゃなくて、三名には名前がなかったのだ。
少し考えた末、彼女らをノルンと呼ぶことにした。
たしかノルンは単体呼びで、本来はノルニルというべきなんだろうけど……彼女ら、複数呼びしたり呼び分けようとすると拒否されるんだよね。
どうも、三体でひとつとして扱ってほしいらしい。
どうせならウルズ・ヴェルザンディ・スクルドとつけようと思ったんだけど、これも明示的に拒否された。
でもそれじゃあ、ひとりだけ呼びたくても呼べないといったら、問題ないと言われた。
言葉としての呼び声がノルンでも、誰を呼びたいかの「意味」がちゃんと載ってるからわかるんだという。
ふむふむ、なるほどわからん。
まあ、とりあえず、つーわけで名前はノルン。
せめて内輪だけでも一号二号三号くらいはつけたいけど……だめだ、まるで見分けがつかない。
……なーんて言ってた俺なんだけど、実は大きなミスを犯してしまっていたんだよね、うん。
ばいばーいと別れを告げて隧道を去ったんだけど。
大多喜方面に戻って木更津に向かって単車を走らせていて、ふとミラーに妙なもんが映ってるのに気づいた。
「……え?」
ちょっとまてオイ。
なんか、シシーバーとリアシートまわりに、ノルンたちが普通に座ってるんですが、なんで?
おまえら、ついてきちゃったの?
つーか、今、俺、時速70km出てるんだけど?
並んで飛んでるならまだわかるが、どうして普通に座ってる?
なんで風圧で飛ばされない?
確かに俺は安全運転だけど、手のひらに乗りそうな羽根つき幼女じゃふっとばされて当然だろ。
でも。
「ひもづいたー」
「はなれないー」
「ひもづいた……紐づいた?」
「ばっちりー」
「ゆうせんー」
「んー、つがるかいきょう?」
「有線じゃねえよ」
思わずツッコんでから気づいた。
そもそも、なんで普通に声が聞こえる?
なんで普通に会話できてる?
「つながってるから、きこえるのよ」
「いんかむ?」
「べんりねえ」
「おまえが言うかよ」
くすくす笑われた。
おい、騒ぐな。
信号待ちで横に止まった車の犬が、こっち向かって吠えだした。
こっち指さしてる子供もいる。
あー、やっぱり見えるやつは見えてるぞコレ。
これは俺の手には負えん。
そう考えた俺は、戻ってすぐにサワナさんとこのアパートに直行する事にした。