変わった世界
同じ空を見上げ、それがどう見えるかは、あなたの心次第。
だから、まずはおしゃれをして心を切り替えてみよう──。
歌詞を言ってしまうと色々とまずいと思うので、まぁそういう内容の歌があると思ってほしい。
ありきたりの内容かもしれないけど、とても大切なことを歌っている歌だ。
この歌を歌ってる人、奇抜な姿で歌うことでも有名な人だけど、いい歌うたってるんだよなぁ。
それに年とともにナチュラル系に向かってるというし、このまま個性的実力派として生き残って欲しいと切に思ってる。
「……マジかよ」
スマホの充電ケーブルがおかしくなって、新宿まで買いに来た。
別にコンビニでも買えるけど、バイクのハンドルに使ったりもするので頑丈なやつがよくてね。
曲げ耐性に優れた高級ケーブルはやっぱり、たくさん比較できるところで買うのがいいんだ。
……なんだけどさ。
「いるなぁ」
ふと目を巡らせると、いるんだこれが。
え、何かって?
決まってるじゃん、ひとでない連中だよ。
「なんでこんな、いっぱいいるんだ?」
たぶんだけど、最近いきなり増えたってわけじゃなさそうだ。
なんでかって?
見覚えのあるユニクロ店員のひとりに角が生えていたからさ。
それってつまり、以前は人間に見えてたって事だろ?
そう。
どうやら変わったのは町やひとじゃない、俺の方らしい。
俺の側の目線が変わったから、今まで気づくことのなかった存在が見えだしたってことじゃないのかね?
「きゃはははーっ!」
走り去っていく数名の子供。
見ると、その中にしっぽつきが混じってる。
あ、あの子、まるで座敷わらしみたいだなぁ。
うーむ……。
これじゃ本当に某魔界都市か、テレビの女悪魔人間アニメの結末みたいじゃないか。
そんなことを考えながら歩き、電気店に到着した。
ちょっとごついけど長持ちしそうなケーブルをゲット、電子マネーで払った。
時間は昼過ぎ。
どうしよう、何か食べようかと思っていたら背後から声をかけられた。
「おや、なんじゃ少年ではないか?」
「え?あ、はい」
振り向くと、大変見覚えのある人物がそこにいた。
「こりゃどうも、お仕事は終わりですか?」
「うむ」
それはなんと。
この間、上野広小路から上総の神社まで送り届けた狐の巫女様だった。
新宿の町にガチ巫女衣装のお狐様かい。
おかしな組み合わせのはずなのに、違和感がないのが怖いよな。
で、これも何かの縁だと一緒に昼食を食べる事になったんだけど。
……なんだこの飯屋?
「珍しいのか?」
「今どき丸いプレートの食券って」
珍しいどころか、物語の中でしか知らんぞ俺。
建物も古めかしいオール木造。
なんというか、まるで高度成長期の大衆食堂みたいじゃないか。あの上品そうな奥様とボンカレーの看板が似合いそうな時代の食堂だ。
いや……確かに新宿の裏には渋い店があるけど、これは色々と突き抜けすぎじゃないか?
つーかたぶん、間違いなくこの店もそっち系だな。
それなりに慣れてきたはずの新宿の町だけど。
こうして混沌になってみると、改めて面白い町だって思うわ。
「改めて名乗ろうかの。
わしは楓と呼ばれておる者で、見た通り神社にまつわる仕事をしておる。
先日は本当に助かった、この通りじゃ」
「いえ、お気になさらず。
俺は諸田誠です。
親しい人や家族はそのまんまマコトと言います」
正直いえば、特にご年配の女性陣からマコちゃん呼ばわりされることがある。
けどそれは昔の女性アイドル歌手にひっかけたネタであることが多く、マコちゃんよばわりイコール、いじられるって事でもあった。
なので、マコは自称しないのだけど。
「ほうほう、ではマコと呼んでよいかのう?」
「……できればマコトで」
やはり出たか。
なんで皆、マコ呼ばわりしたがるんだ?
「それはそうと、そなた、短い間にずいぶんといろんな種族と交流しておるようじゃな。
ひとより人外のニオイが多く染み付いておるが……死者のニオイも混じっておるぞ?」
ちょっと渋い顔をした。
「死者……あー、院長先生かな?」
俺はここしばらくの体験を楓さんに語った。
「水かき状の耳?……ああ海の者か」
「知ってるんですか?」
「わしは会うた事がないが、たしか早稲田の近郊に少し住み着いたという話を前に聞いたのう」
「あ、もしかしたらソレかも」
サワナさんたちのアパートの正確な番地は知らない。
けど、俺のとこよりは早稲田に近いはずだ。
「確かその者は常世にある水族の者じゃが……そうか、そなたが交流をもっておるとはのう」
「……とこよ?」
どこだそれ?
「なんじゃ常世を知らんのか。
平たくいえば異世界、別の世界にあるという理想郷じゃな」
「……ニライカナイみたいな?」
「なんで琉球のそれを知っていて常世を知らぬのじゃ?わけがわからぬな。
まぁ要するにじゃな。
浦島子、もとい、浦島太郎といったほうが今は通りがよいのじゃったか?
かの者の物語は知っておるな?」
「あ、はい」
「うむ、かの浦島太郎が招かれた地のことじゃな」
「へえ……って、え?どういうことです?」
「む、なんじゃ?」
「つまり、サワ……いや、その人たちは竜宮城の住人だと?」
いやまてよ、それじゃ、なんでトコヨ……常世だっけ、その話が出た?
んんんん?
「リュウグウジョウ?……ああ竜宮か、今はそういう解釈であったな、そういえば。
まぁ、今はその理解でよかろう」
なんか、歯の間にひっかかったみたいな物言いだな。
「もしかして昔は違ったんですか?」
「違うといえば違うのう。
しかし物語というのは、伝わっていくうちに色々変わるものじゃ。
別に常世が竜宮城に置き換えられ、夫婦生活が鯛と平目の舞い踊りに変わろうと、本質は変わらぬじゃろ」
え?
「あの、ちょっと混乱しちゃってるんですが、まとめていいです?」
「うむ、よいぞ」
「つまり、常世ってのは異界、わかりやすく言えば異世界ってことで?」
「そうじゃとも」
「じゃあ、もともと浦島太郎って、助けたカメの背中にのって竜宮城でなく異世界に行く話なのか?
いやでも、だったら乙姫様とはどこで会うんだ?」
「ふふ、落ち着かんかい……そもそも最初から色々ズレておる」
楓さんは笑った。
「よいかマコト、たとえば、わしの知る筋書きのひとつではこうなっておる。
浦島子は虹色の不思議な亀を釣り上げるんじゃが、この亀はそなたの言う乙姫そのものなんじゃ。
彼は釣りの仕掛けから優しく亀を解放してやり、彼女の家である常世の住まいに招かれるンじゃよ」
なんだそれ。
「全然違うじゃねーか……」
俺はためいきをついていた。
「な、なぁ、そしたら、♪昔むかし浦島はぁ~♪ってあの唱歌は間違ってると?」
「間違っておるのではなく、当時の子供たちにわかりやすく再編したんじゃろ。
つまり善行に対する謝礼の話とした方が教育上もよいし子供にもわかりやすいからの。
マコトよ。
いじめられる亀を助けて恩返しされる話と、釣り上げた亀と夫婦になる話と、どちらが子供にわかりやすいかのう?」
「……そりゃ、亀を助ける方でしょ」
「そういうことじゃよ。
伝説や言い伝えをわかりやすく編纂して教育用の説話にする、まぁよくある事じゃ。
しかし、男女のしめっぽい話は子供向けには不要じゃ。
さらに異界の常世という概念をわかりやすく海底の楽園にしてしまえば……。
どうじゃ?
鯛や平目の舞い踊りの浦島物語の完成というわけじゃな」
「なるほど……。
でも俺としては、釣り上げて異世界の方が面白そうだけどなぁ」
「ふふ、そりゃそうじゃろう」
クスクスと楽しげに楓さんは笑った。
ちなみに注文して出てきた定食は、地味ながらも素晴らしい味だった。
さすが、お狐様御用達。
浦島太郎の物語について:
竜宮城や玉手箱のイメージは、御伽草子(鎌倉末期~江戸時代)バージョンで成立したらしい。
もともと竜宮城は常世、つまり異界の理想郷を意味していた。(wikipedia情報から)
だが常世版や不老不死になる、鶴になる(つるかめで縁起が良い)など、さまざまな異種バージョンもそのまま今に伝えられている。
冒頭の歌について:
きゃりーぱみゅぱみゅ『つけまつける』のこと。
♪昔むかし浦島はぁ~♪:
ワンフレーズのうえに改変つきだが、参考にしたのは以下。
童謡『浦島太郎』昭和7年発表
作者の「乙骨三郎」氏は昭和9年(1934年)9月19日没
(死後84年経過→著作権切れと判断)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B9%99%E9%AA%A8%E4%B8%89%E9%83%8E




