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2.不思議少女ミウ

 ミウと名乗るその少女は、みっしいの注いでくれたオレンジ・ジュースを一気に半分ほど飲むと、

「わたし、ドクター・ペッパーが一番好き」と言い放った。

「あら、ごめんなさいね。買い置きしてないのよ」みっしいはすまなそうに答える。

「コーラじゃダメ? あたし、ちょっと行って買ってくるけど」中谷が立ち上がりかける。

「ダメ、ぜんぜんダメ。コーラとドクペじゃ、ホタルと稲妻くらいの違いがあるわ。わかるでしょ?」そう言いつつもオレンジ・ジュースを飲み続けるミウ。

「ふうむ、ドクター・ペッパーにだいぶこだわりがあるようですね。一般受けしにくい飲み物ではありますが、熱烈なファンも確かに存在します」志茂田がもっともらしくうなずく。


ミウがオレンジ・ジュースを飲んでいる間に、わたし達は自己紹介を始めた。というより、桑田が勝手にわたし達を紹介していった。

「おれは桑田孝、そんでこっちのちょっと太ったのが志茂田ともる。その隣は中谷美枝子で、向かい側のがむぅにぃ。むぅにぃのとなりであぐらをかいてすわってるのが木田仁、そしてこの部屋の主がそこのみっしいだ」

 ミウは桑田が指差す相手に順々と視線を向けていき、いちいちうんうんと首を振っている。

「えーと、あなたが桑田さん、それから志茂田さん、中谷さん、むぅにぃ、木田さん、みっしいさん……ね」覚えが早かった。


「それはともかくよー、ミウはやっぱ異世界から来たのか?」桑田が話を元に戻す。わたし達も、そう言えばと思い出した。

「異世界ってなんのこと? わたしはわたしのいた場所から来だけだけど」それがミウの返答だった。

「じゃあさあ、東京って知ってるかい?」木田が切り口を変えて質問する。

「もう、ばかにしないでちょうだい」ミウはちょっとムッとした顔をした。「わたしだって東京に住んでるんだから」

「ねえ、ミウちゃん。ミウちゃんって、なんて名前の町に住んでたの?」今度はわたしが聞く。

「多摩区南千住8丁目」とミウ。


「ああ、多摩区かあ」桑田は納得しかけ、慌てて首を振った。「って、そんな区なんかねえだろ。多摩市ならあるけどな」

「ちゃんとあるわよ。だってわたし、そこに住んでるんだもん」さも、当然だというように断言する。

「いや、桑田君。きっとミウ君の言う通りなんだと思いますよ。わたし達の世界にはありませんが、ミウ君の住む世界には多摩区が存在するのでしょう」志茂田の目には疑いの色がまったく含まれていなかった。

「ほら、やっぱり異世界から来たんだ!」木田がうれしそうに声を上げる。

「そう言えば聞いたことあるわ。パラレル・ワールドって言うんだっけ? 似てるけど、ちょっとだけ違う世界が無数にあるんだってさあ」中谷は興味深そうにミウを見つめた。


「ええ、中谷君のおっしゃる通りです。仮説に過ぎませんが、そうした考えかたはあります。けれどどうやら、それは事実だったようですね。現に、ミウ君がここにこうしているのですから」と志茂田。

「あの押し入れの奥の部屋だっ」思わず、わたしは叫んでしまう。「きっと、あそこが別の世界に通じてるんだよ!」

「あれか、ポータルとかいうやつ」桑田も今こそ合点するときだとばかりに、ぽんっと手を打った。

「ミウ君、聞いてください」志茂田が真剣なまなざしでミウを見つめる。「ここはあなたのいた世界とは違う、もう1つの世界なのですよ。どうやら、あなたは何かの拍子に迷い込んでしまったらしいですね」

「ふーん、そうなんだ」ミウはやれやれとでも言いたげに溜め息をついた。


「驚かねえのか?」桑田のほうがよほどびっくりしたような顔をしている。

「別に。ちょっと面倒だなあとは思うけど」ミウは答えた。

「肝のすわった子ねえ」中谷は感心したように言う。

「そういうんじゃないけど、いつものことだから」とミウ。

「すっげえ! ミウちゃんの世界って不思議が日常なのか」木田は半ばうらやましそうにミウを見た。

「どんなふうにしてこっちへ来ちゃったの? 歩いてたらいきなりとか?」わたしは尋ねてみる。

「えーと確か、図書館へ行こうとして歩いてたら細い路地があって、近道になりそうだと思ったから入ってみたの」

「うんうん、それで?」中谷が興味津々に促した。

「あと少しで大通りに出る辺りでね、不自然なドアがあったのね。ほら、ドアノブって見ると回してみたくなるじゃない?」


「あなたはそれを回して中に入ってみたのですね」志茂田が先回りして口をはさむ。

「うん、そう。そうしたらポツンと灯りの付いた小さな部屋にいたってわけ。おまけに、ドアが消えていたの」

「その部屋と押し入れの奥がつながっていたってわけなのね」みっしいがぽつりと声に出す。「災難だったわね、ミウちゃん。わたし思うんだけど、もう1度押し入れに入れば元の世界へ帰れるんじゃないかしらね」

「その可能性は高いですね。異世界を結ぶ特異点は固定されたものと考えるのが妥当ですからね」志茂田はあごに手をやる。これは彼が考え事をするときのクセだった。

「よしっ、ミウ、押し入れに入れ。小部屋の引き戸はおれが閉めてやっからよ」桑田は立ち上がるとミウの手を取る。その手を振り切って、ミウは意外なことを言った。

「せっかく来たんだから、町を見て歩きたいわ。志茂田さんだって言ってたでしょ。いつでも戻れるって。帰るのはあとでもいいわ。ねえ、どこか面白いところない?」


 これには一同、驚いてしまう。中学生、それも女の子がたった1人でいきなり別世界へ来てしまったら、ふつうは不安になってすぐにでも元いた場所へ帰りたいと思うはずだ。それなのに、むしろ楽しんですらいるのだから。

「うーん、面白いところかあ。神山町って、ほんとなんにもないのよね」中谷が困ったように天井を見上げる。

「まあ、都市伝説くらいならありますが。ですがどれも、根拠のない話ばかりですよ」志茂田も肩をすくめてみせた。

「神山公園とか連れて行ってみないかい? おいら聞いたんだけど、あそこは戦時中、戦死者を山のように積んでいたっていうじゃないか。でもって、今でもまだ身元不明者が埋められているんだってさ」木田が提案する。

「神山公園、わたしが住んでいた頃からちっとも変わってないわね」みっしいが懐かしそうに言った。

「あたしもその話は知ってる。だから、夜は通りたくないのよね」中谷はこの手の話が苦手である。


「では、神山公園にでも行ってみましょうか。昼間ですし、親子連れも多いでしょう。ですが、ほんとうにどこにでもあるような公園ですよ」志茂田は念を押した。

「そう言えば、隅っこの目立たないところに慰霊碑があるよね」わたしは思い出す。草木が茂っていて気がつきにくいので、ほとんどの人は知らないけれど、わたしはもうずいぶん前に見つけていた。

「やめてよ、むぅにぃ。気味悪いじゃないの」中谷は不安そうな目を向けてくる。

「昼間だぜ、中谷。おいら、夜だってちっとも怖かないな」自信たっぷりの木田。

「そこ行ってみたいな」ミウは目を輝かせながらいった。「わたしの直感が、きっと面白いって言ってるの」

 その一言が決め手となって、出かけることになった。


 神山公園は、サンシティ神山から歩いて5、6分の場所にある。公園を取り巻く柵には低木樹が植えられており、この季節アジサイが目にも鮮やかに咲き誇っていた。

 コンクリート製のゾウのすべり台を中心にいくつかの遊具があるほか、数十本ものプラタナスが立っていてちょっとした林になっている。

 着いてみると、志茂田の言う通り子供達が大勢いて賑やかだった。母親は我が子を見守る者、立ち話をする者さまざまに初夏の日差しを楽しんでいる。

「ふーん、ここが神山公園なんだ」ミウは園内を見渡しながらつぶやいた。

「な、どうってことない公園だろ?」と桑田。

「なあ、むぅにぃ。その慰霊碑ってやつはどこにあるんだい?」木田が聞いてくる。

 わたしは隣接する中学校の方を指差し、

「あの隅っこ」


「わたしも慰霊碑のことは知らなかったわ。見に行ってみましょうよ」みっしいはきびすを返した。

「実はわたしはも気がつきませんでした」志茂田もみっしいに続く。

「よしっ、行ってみるか」桑田が先頭に立って歩き出し、全員がそのあとを追った。

「あ、待って。ここからじゃ行けないよ」それをわたしが引き留める。「いったん、公園の外に出なくっちゃ」

 慰霊碑のある側はツツジが植えられて柵になっている。向こう側に行くには、公園の外にある小道を進む必要があった。

「そういうことなのね。だから今までわからなかったんだ」中谷は納得したように言う。

「おまえ、よくこんな小道を見つけたな。ってか、そもそも入っていこうなんて思ったもんだ」感心しているのか呆れているのかわからない調子の桑田。


 小道は真っ直ぐ中学校の校舎に向かっていた。ちょうど突き当たりの角に、その慰霊碑は建っている。2メートルほどもあるのだが、場所が場所だけに見えにくくなっていたのだ。

「ほお、これが慰霊碑ですか。ふむふむ、確かに戦没者を供養するためと書かれていますね」志茂田が慰霊碑の表面に掘られた文面を読み上げる。

「やっぱ、噂は本当だったんだ」木田が心なしかワクワクして見えた。

「でも、当時の遺体はすべて移されたんでしょ?」反対に不安そうな中谷。

「だけどよ、ここに書かれてる名前はわかってるものだけだろ? 無縁仏だってあるんだし、取り残されてたって不思議じゃねえよな」中谷の心中など知らず、桑田が神妙な声を出す。

「慰霊碑に触ったらダメかなあ」ミウがいきなり言い出した。わたし達は思わず互いの顔を見合わせる。

「バチが当たるわよ」迷信深い中谷が注意した。

「おいら思うんだけど、生きた人間のぬくもりを感じて霊も慰められるんじゃないかな」

「どうせ、ただの大理石じゃねえか」桑田は意にもかえしていない。

「わたしは見たものしか信じませんので」これは志茂田の意見だ。


 誰も無理に止めようとしないため、ミウは1歩前に進み出ると、そっと慰霊碑に手のひらを置いた。

 とたんに、公園の方が騒がしくなる。母親の悲鳴や子供達の鳴き声が混ざり合い、さながら戦場のようだった。

 わたし達は急いで公園に取って返す。そこで見たのは、地面からボコボコと現れ出てくる骸骨達だった。

「なんてこった、本当に埋まってたんだ!」桑田が叫ぶ。中谷は恐怖のあまり、棒立ちになったまま固まっていた。

 わたしも唖然としたが、ふとミウを見ると、例の「やれやれ」といったふうで溜め息をついているばかり。

「なんでこうなるのかなあ。こっちの世界もわたしのところとそう変わらないじゃない」


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