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魔法世界の剣術士 中  作者: 相會応
雨上がって、鈍色の心は晴れ渡る
97/189

ⅩⅣ

「注射って、痛いよね……」

        かずき

 第五演習場で誠次せいじが時間稼ぎを試みる中、偽りのない本当の雨風が激しく外壁を叩く体育館では、パーティーが開催されている。

 豪華絢爛な舞台を彩どるBGMは、先ほどまではヴィザリウス魔法学園の吹奏楽部による華やかな演奏と、パーティーを心から楽しむ人々の談笑の声であった。優雅な雰囲気であったそれらが今、頭上にて突如響き渡ってきた、一人の少女の力強い言葉により、変わろうとしている。


『パーティー会場の皆さんは、すぐにその場から避難をしてください!』


 しかし、今はまだその言葉の真理を、理解する者はこの場に多くはいない。

 

「放送事故ってやつ?」

「なんだ……?」


 多くの魔法生は首を傾げ、来賓者たちもその場から動こうとする人は全くもっていない。


(駄目だ……皆さん、理の言葉を信じていない!)


 特殊魔法治安維持組織シィスティムの監視をかわすために、双子の妹である小野寺理おのでらあやの影武者としてパーティー会場に潜入していた小野寺真おのでらまことは、内心で焦り、周囲を見渡す。この慣れないサイドアップの長い髪の鬱陶しさにも、ようやく慣れてきた頃だ。

 自分も、理から直接事情を聴かなければ、到底信じることなど出来ない事態であるのは分かる。それか、彼女が同じ命を平等に分け合った双子の妹であるからこそ、彼女の言葉を信じたのだろうか。


(どなたか、協力者を探さなければ……!)


 露出度の高い扇情的なドレス姿は周囲の女性もだが、それでも飛び切りの目を引く容姿の顔立ちを周囲へ向け、真は装飾が施された会場の中を見渡す。

 少なくない見知った顔であるが、当然、向こうは自分の事を理解していないだろう不思議な感覚。それはつまり、本当に信頼のおける人でしか、今の自分の姿と真理を明かせないと言う事。

 

(あ……あれは!)


 その中でも、森の博士を使役する彼の瞳は見つけることが出来た。

 自分と趣こそ異なるが、同じくパーティー会場に相応しい給仕係の格好をした、同級生の友人らの姿を。


志藤しどうさん! よかった、貴男方がいてくれて!」

「はーいなんです……――か……?」


 こちらに背を向けていた志藤が振り向いて、こちらの姿を凝視している。

 志藤は急に顔を真っ赤にして、一歩二歩、と下がっていた。


「ど、どなた、ですか……?」

「じ、自分です! 小野寺真です!」


 本当の理は放送室にいることだろうが、それでも未だ特殊魔法治安維持組織シィスティムによる監視は続いているかもしれない。小声ではあったが、何よりも信頼できる友であるので、こちらのしんの姿をばらしてまで告げるまことである。

 しかし、志藤は後ずさりを続けている。


「う、嘘だろ!? あの小野寺真が、なんだってそんな……!?」

「本当です! 信じてください!」


 真は自身の胸元に手を添えて、ずいずいと志藤に迫るが、逆に志藤の疑念は深まっていくようだ。


「い、いやいや! その格好と姿で言われても!」

「は……っ! この格好はその……いろいろとありまして! それでもお願いします、どうか自分を、信じてください!」


 自分の身体を自分で咄嗟に抱き締めながら、真は諦めずに、志藤に詰め寄った。


「おい、どうした志藤?」

「何しているんだ?」


 まるで、一人の女性に一夜のパーティーを共に楽しむように詰め寄られて焦っているかのように見えた友人の姿を見たのか、志藤と同じ給仕姿の帳悠平とばりゆうへい夕島聡也ゆうじまそうやがやって来る。


「えっと……逆ナンって、やつ……?」


 志藤が髪をかきながら、やって来た二人に告げる。

 今度はショックを受けた真が後退り、悠平と聡也も互いの顔を見合せた。


「皆さん! 信じてください! 自分は小野寺真なんです! 常日頃から皆さんのお部屋掃除とか、せっせとやっているじゃないですかっ! それなのに忘れてしまったのですか!?」

「いや、そうは言われてもな……」


 聡也が眼鏡の奥の赤い瞳を、困惑気に揺らしている。


「仮に小野寺だったとして、こんなことするか……?」


 悠平が至極まともな事を言っている。

 真はハッとなり、自身のもちもちの身体をぎゅっと抑えつけるが、羞恥を飲み込み、顔を上げる。


「緊急事態なのです……。どうかお願いします! 皆さんの力を貸してくださいっ!」


 真が深く頭を下げる。

 

「……わかった、日頃の礼もあるし、信じるよ。それで、なにをする気だ?」


 真の言葉を聞き、頷いた志藤が悠平と聡也に目配せしながら言えば、二人の男子も、一応は頷いてくれた。


「少しだけ、目立たないように振舞っていてください。今、理と連絡を取ります」


 真はそうして、胸元に挟んであった電子タブレットを取り出し、離れたところにいる理と連絡を取り合う。


『もしもし、真兄? 会場はどうなってるの!? みんな避難してる!?』

「ごめん理。残念だけど、みんな聞く耳を持っていない。ただの悪戯だと思われてしまっている……」

『そ、そんな……』


 通話先の理の声が分かりやすく落ち込んでいる。

 

『やっぱり、私の言葉だけじゃ信じてくれないの……?』

「理。君が天瀬さんから受け取った情報を、自分たちにも共有させてほしい。協力者がいるんだ」


 真はそう言いながら、三人の男子をちらりと見る。


「とても頼りになる、友だちがいてくれる」

『そう……。じゃあ、教えるね――』


 そうして、真と理は情報を共有する。

 本城直正ほんじょうなおまさ率いるレジスタンスが、雨宮愛里沙あまみやありさの悲劇を利用して革命を起こそうとしていること。それを食い止めるために特殊魔法治安維持組織シィスティムと光安が、それぞれの思惑で戦おうとしていること。そして、それらを食い止めようとしている誠次の事も。

 真は改めて、自身が片足を突っ込んだ状況の異常性に絶句する。しかし、引き下がる事は出来ない。スタートに着いた以上、後は地面に両手を添え、笛の音で両足を走らせる番だ。


「天瀬さんが持っている最後のデータの回収次第、レジスタンスは確実な証拠と雨宮愛里沙さんの身柄を使って、この場で演説を行う。確かに、テレビカメラや多くの報道機関が集結しているこの場では、またとない機会ですね……」

『このままじゃ、会場にいる人が戦いに巻き込まれちゃうの! どうすれば、いいのかな……』

「理はそこから、放送を続けてくれ。君の声が聞こえている限りは、本城大臣も迂闊に雨宮さんを舞台には立たせられないはずですから」


 真は冷静に告げる。

 性懲りもなくかのじょに近づこうとする輩は、志藤と悠平と聡也がさりげなくガードし、作戦を練る彼の周囲から遠ざけていた。


『わかった……。でも、いつこの放送が切られるかも分からない……。データが揃わなくたって、本城大臣が雨宮さんを舞台の上にあげる可能性だってある』

「……僕たちが、本城大臣を直接止めに行く。だから理は、出来る限りの時間稼ぎをお願いしますよ」

『うん。真兄……信じてくれて、ありがとう……』

「家族を信じるのは……当然、だよ」


 真は頷くと、理との通信を終え、改めて三人の友人の元へ駆け寄る。


「皆さん。すみませんが、この学園を守るため、力を貸してください」

「おう。俺たちの魔法学園を、よくわかんない奴らに好き勝手させられたくもないしな」


 悠平が腕まくりをして言う。


「どうすればいい? 眼鏡を取り戻した俺は今、力がみなぎっているぞ」

「そんな眼鏡があったら、是非とも欲しくなるんだけど……」


 真顔で告げた聡也に、志藤が苦笑しながらツッコむ。


「やはり皆さんは、変わらないんですね。自分、皆さんと知り合えて、とても嬉しいです」


 くすりと、真も微笑めば、三人の男子は微かに顔を赤く染め、それぞれ明後日の方を向く。


「なんか……」

「なんとも……」

「やべぇ……」


 そうして、言いづらそうに口をまごまごとさせつつも、


「「「分かってても、ちょっとドキドキしてしまう……」」」

「皆さん!? しっかりしてくださいっ!」


 どうしようもなく素直になってしまう三人の男子に、男子の真は大声でツッコんでいた。

 そして、真面目な表情へと戻った真は、軽く息を吸い、こう告げるのだ。


「自分たちはこれから、本城大臣の元へ直接向かい、雨宮愛里沙さんを救出します!」


        ※


 学園の全ての棟に同時に放送を送ることが出来る、ヴィザリウス魔法学園の放送室は、体育館からほど近い委員会棟と呼ばれる棟の上層階にあった。

 薄暗い部屋の中に、名称もよく分からない機材が所狭しと並んでいる。ガラス張りの窓の向こうには、よくあるラジオ番組のセットのように、テーブルとマイクがあり、理はそこで一人、必死に言葉を送り続けていた。


「――誰か来た?」


 自身の声に混じり、徐々に近づく足音をその気配で感じられたのは、彼女の使い魔が監視をしていたからだ。

 天井にかぎ爪の足で捕まって、逆さまになって宙ぶらりん。ともすれば気取ったポーズのように、翼を胸の前で交差させて折りたたみ、優れた聴力で迫り来る脅威や獲物を察知する。

 理の目の前で危険を知らせるように羽ばたいたのは、彼女の使い魔であるコウモリたちであった。


「今は一秒でも長く、時間を稼がないと!」


 普段生徒が立ち入ることが出来ない場所であるが、百合ゆり()()()()()()落としてしまった教師用のカードキーがある為、ここに入ることが出来ている。ロックはしたが、装甲自体は特段頑丈と言うわけでもない。

 その手の魔術師が扱う魔法ならば、簡単に粉砕されてしまうだろう。

 それでも、最低限のガードはしたこの場で、理は諦めずに声を振り絞る。冷房もつけていない真夏の雨の夜。湿気が嫌に身体に纏わりつき、全身に汗も滲んでいるが理の放送は止まらない。


「おい! 中にいるのは分かっている! ドアを開けて大人しく出てこい!」

「お断りよ! こちとらもう半日ぐらい引きこもってたんだから、これくらい大した事ないんだからっ!」


 真の髪型に寄せたウイッグはさすがに蒸れ過ぎていたので取り外し、いつものサイドアップヘア―となった理は、ドアの外に向かって怒鳴り返す。


「痛い目にあいたくなければ早く放送を中断しろ! じきに特殊魔法治安維持組織シィスティムと光安だって来るぞ! そうすれば、どんな目に合うかもわからんぞ!」


 どうやら向こうは、本城が手配したレジスタンスのようだった。

 そんな脅しが通用するものかと、理は、すうと息を深く吸い、怒鳴り散らす。参考は、アルゲイル魔法学園の養護教諭だ。


特殊魔法治安維持組織シィスティムだか光安だかが来たって上等よ! 浪速の魔術師舐めんなーっ!」


 そうして、内心で懸ける。姿形を偽った自分たちと同様、偽りの世界の中で戦う、二人の剣術士の無事と、その正義の真理を取り戻す瞬間に。


           ※


「一希! その力を一人で使うのは危険だ! 今すぐにやめろ!」


 演習場に広がるVR空間の中。真夜中の都会の夜空に立つ、赤く禍々しい光を放つ一希かずきへ向け、誠次せいじは叫ぶ。 


「誠次……。四人で仲良くお茶会でも開かせる気かい?」


 一希は上空で佇んだまま、誠次を見下ろして苦笑する。


「そうだ天瀬誠次! 僕たちの共闘など、もはやあり得はしない!」


 誠次めがけて、影塚が属性攻撃魔法を放つ。

 咄嗟に身体を衝き動かした誠次と、その背からさらなる攻撃魔法が向かっていったかと思えば、日向が放った攻撃魔法が、誠次の顔を掠めて、影塚へ向けて飛んでいく。

 たちまち周囲を激しい振動が奔り、人もいない静かな都会の夜に、爆発音が轟いた。


「愚かな……。今の僕を前にして、隙を見せるとは」

「一希……っ!」


 爆発の煙の糸を引き、鼠色の煙の中から現れた誠次の目の前まで、一希は降りて接近していた。


「っぐ!?」


 誠次は生身のレヴァテインで立ち向かい、空中を舞う一希の攻撃を、何発も斬り、受け流していく。

 やがて一希は道路の上に着地すると、付加魔法エンチャント能力を切り替えた。


「さあ誠次。あの日歩道橋の上で見た色は……僕の全てを変えたこの色を、今度は君が見る番だ!」

「ま、まさか……」


 一希にむけて、車が真正面から一直線に向かっていく。


「――モルガン」


 車と一希が衝突する直前、口元を歪ませた一希が握る漆黒の刃が、青い光を放つ。

 高速で走行する車が逆に跳ね飛ばされ、一希が仁王立ちをしていた。


「マズい……っ」


 視力を奪われたかとも錯覚するほどの青い光が、一瞬のうちにこの世界を青に染め上げる。ビルの色、街路樹の葉の色、果ては漆黒の夜空でさえ青く染まる。

 それはすなわち――一希の魔剣が支配する時間の中に入ってしまったと言うこと。

 

「――どうやら魔法が効かない君にも、この世界では意味もないようだね!」


 嗤う一希の姿が、一瞬で見えなくなる。

 どこだ――!?

 慌てて周囲を警戒しようとする誠次であったが、一希の声は、すぐ後ろから聞こえた。


「――誠次、僕はここさ」


 一希は誠次の右肩に顔を乗せる程にまで近づき、耳元でほくそ笑む。

 すっかり汗ばんだ互いの髪が、至近距離で縺れ合う。


「あの日僕は見てしまったんだ。君が扱う、魔剣の力を……。僕にもその力があればと願えば、まさか向こうから舞い込んできてくれたんだよ。これで僕は君と同じさ」

「レヴァテイン・ウルを舐めるなーっ!」


 そう叫んでレヴァテインを引き寄せた誠次であったが、今度は誠次の前に出現した一希は、誠次の右腕を関節のところで掴み上げ、持ち上げてみせる。

 その時、長く伸びた髪の奥から覗いて見えた一希の瞳に強烈な違和感を感じたのも少々、誠次は一希によって腹部を蹴られ、吹き飛ばされていた。


「ぐはっ!?」

「今すぐ君を殺すことは容易だが――」


 飛ばされた誠次は、走行中の車のボンネットの上を転がり、道路の上に落ちた。

 そんな誠次の目の前に再び出現した一希は、立ち上がろうとした誠次の右足の甲の上に、逆手に持ったレーヴァテインの先端を突き入れる。


「ぐあああああっ!?」


 まるで釘を刺されたように、一瞬にして道路ごと穴が空いた足と靴と、そこから突き出る刃と滲み出る血。

 足の指先が全てを吹き飛んだかと思うほどの激痛に、誠次は叫び声を上げ、立ち上がることが出来なくなってしまった。

 そんな誠次の背後に回り込んだ一希は、誠次の髪を後ろから掴み上げると、その頭を思い切り引き寄せる。

 喉仏のラインがはっきりと見えるほどに顔を持ち上げられた誠次は、揺れる黒い瞳で、一希を睨んだ。


「ぐうっ! か、一希……っ!」

「一つ、大事な事を言い忘れていたよ、誠次……」


 穴が開いた誠次の靴と、そこから雨に混じって滲んでいく赤色を満足気に見つめながら、一希は誠次の耳元で囁く。


「君の死ではるかは救われるんだ。その点では、君に感謝しないといけないね、誠次」

「なん、だと……。それはどういう意味だ……!?」


 未だ激痛走る右足の止血も叶わず、口でぜえぜえと息をつく誠次に、一希は誠次の髪の毛を握り直し、改めて顔を寄せる。


「そのままの意味だ……。はるかの為に、君には死んでもらう。……君ならばそれも本望なのだろう? 自分の身を焼き尽くしてまで、誰かを守る事こそが、君の使命なのだから」

「俺の……使命は……っ」


 容赦のない鋭い雨粒が、無理やりに持ち上げられた黒い瞳に突き刺さり、誠次は薄目を開けながら、それでも刃向かう。


「生きて……仲間を守り続けることだ――っ!」


 汗をだらだらと流し、強気なまま口で荒い呼吸をする誠次を見つめ、一希はどこか呆れたような、ため息を一つこぼす。

 こちらの頭を引っ張り上げる力が弱まったかと思えば次の瞬間、誠次の視界の右側で、赤い液状のものが霧散する光景が見えた。

 そして続いて、青い光が伸びていく。

 一希が傾けた刃が、後ろから誠次の右肩の中心を貫き、骨を砕いて肉を貫通させていた。


「ぐあああああーっ!?」


 右肩を貫かれた誠次は、出血箇所を左手で抑え込み、悲鳴を上げる。

 痛みに地面の上で蹲る剣術士を、もう一人の剣術士は冷酷な目で見下ろしていた。彼の右手にある、刃渡りの長い刃に滴った誠次の血が、雨水によって洗い流され、落ちていく。


「ハア……ハア……っ! う……ぐ……っ!」

「仲間を守る、か……。そうだよね誠次。君を慕う友人や女性たちがいるから、君は誰かを守るだの、誰かの為に戦うだのを、言えるんだ」

「それのなにが、悪い……っ!」

「なにもかもだっ!」


 一希が蹲る誠次へ向け、思い切り足をすくい上げ、腹部を蹴り上げる。

 アスファルトの上で誠次は蹴り飛ばされ、冗談ではなく宙を一回転して、再び落下。アスファルトの上に叩きつけられた全身の痛みに、悲鳴を上げる。

 一希は、そんな痛みにのたうち回る誠次の元へ、歩いて近づいていく。


「思い出せ誠次! 家族を゛捕食者イーター゛に殺された時の憎しみを! 怒りを! お前はただ、人を傷つけたくない現実から目を背けて、ぬるま湯に浸かっているだけだ!」


 一希が誠次の制服のネクタイを掴み上げ、引き寄せ、もう片方の手で思い切り頬を殴る。

 誠次は二度にたびアスファルトの上に倒され、言葉にならない声を出す。

 そんな誠次へ容赦なく、一希は近づき、再びネクタイを掴み、無理やりに立たせる。

 誠次は、鼻から血を流し、そして、雨に打たれた顔には、まるで涙のように水の雫が流れ落ちていた。


「俺は……ヴィザリウス魔法学園で、変わることが出来た……。家族の仇である゛捕食者イーター゛を倒すことでしか、意味がなかった俺の人生を、変えてくれた人たちが、魔法学園の、みんな、なんだ……」


 春の夜の月の下で香月こうづきと出会い、そこから、多くの出会いや別れを経験した。そんな中で見つけることが出来た、本当に守るべき、大切な存在の数々。ずきずきと継続的に痛みが起こっている誠次の頭の中で、彼ら彼女らの笑顔が浮かんでは、消えていく。


「一希……お前も、俺と同じ剣術士ならば、変わるべきだ……」

「言いたいことは、それだけか……!?」


 一希は憎しみを込めた青い目で、血を流す誠次を睨みつけた。その喉元に、片手で持ったレーヴァテインの刀身を、添える。


「僕はお前とは違う! お前みたいな、生半可な覚悟でこの魔剣を握ってはいない! 君だって僕は、殺す事が出来るっ!」

「俺を殺せば、お前の憎しみが、癒えるのか……? 家族は、戻ってくるのか……?」


 誠次は苦し気な呼吸と共に、喉元から声を絞り出す。


「黙れ……! お前だって、゛捕食者イーター゛を滅ぼすことで、憎しみを晴らそうとしているんだろう!?」

「違うっ! 言ったはずだ……! 俺は魔法学園で変わった! お前にも、そう思える人たちがいるはずだ!」


 誠次は起死回生を試みて、背後の一希に気づかれないよう、そっと、左手を右腰に持っていく。

 真正面から抵抗したところで、返り討ちにあうのは目に見えている。右肩から流れる血がぽたぽたと、右腰の鞘に当たる中、そこに収められているレヴァテイン・ウルの鞘に、誠次は左手を添えた。


「……っ!」


 一か八か、誠次が腹に力を込め、剣を抜こうとした瞬間――、


「――伏せろ、()()()!」

「っ!?」

「っ!」


 前方から聞こえた、声とその言葉。その言葉にとっさに反応できたのは、一希ではなく、聴き慣れていた誠次の方であった。

 誠次はとっさに地面の上に倒れ、残ったのは立ち尽くす一希。

 そこへ目掛けて、威力ある風属性の攻撃魔法が駆け抜ける。


「っち!」


 意識外からの攻撃を受けた一希は、咄嗟にレーヴァテインを振るい、迫る風の竜巻を斬り裂く。


「隙を見せた!」


 風が通り過ぎた後、誠次は咄嗟に振り向き立ち上がりながら、左手で腰からレヴァテイン・ウルを抜刀。叫び声を上げながら、一希の懐に潜り込む。

 すでに自身の刃を振り上げていた一希は、切羽詰まった様子で、誠次の左手のレヴァテインの軌道を、睨んでいた。


「モルガン――っ!」

「間に合えー――っ!」


 再び青の世界に閉じ込められる前に、誠次が繰り出した攻撃は、一希の喉元に迫る。

 振りかざしたレヴァテイン・ウルの刃が、一希の喉元に接触する瞬間。誠次は咄嗟に腕を引き、一希の喉ではなく、右腕を浅く斬った。

 一希のレーヴァテインを握る腕から飛び出た血が、至近距離で誠次の顔にかかる。


「っぐ!?」


 痛みを感じたのか、歪んだ表情をした一希は、次の瞬間、誠次の前から姿を消していた。

 

「ハアハア……!」

 

 なんとか一希を撃退した誠次であったが、まだ戦闘は続いている。

 左足と右肩にしきりに走る激痛に顔をしかめていると、後ろの方から誰かが跳ねるように走ってくる音が聞こえた。


「日向さん!?」

「見ていられるか、来い!」


 日向は誠次の背を押す。

 誠次もまた、後方から未だ迫りくる脅威を感じながら、日向と共に走り出す。


「さっき援護してくれたのは、貴方だったのですか!?」

「勘違いするな。流れ弾だ」


 日向は吐き捨てるように言う。確かに伏せろ剣術士と聞こえたのだが、気にしないことにするようだ。

 その手に乗り、走る誠次であったが、左足を地面につける度、激しい痛みが神経を逆撫でてくる。


「っぎ!?」


 誠次は走ることが出来ずに、けんけん足でみるみるうちに失速していく。


「足を負傷したのか!?」

「逃げるな―っ!」


 立ち止まった日向が叫ぶ。その間にも、追撃者である影塚が放つ攻撃魔法が、何発も飛来していた。


「ふ、防ぎます!」


 誠次は振り向き、左腕で握ったレヴァテイン・ウルを振りはらい、直撃コースで迫る魔法を斬り裂く。しかし、やはり威力は並の魔術師を大きく上回る。

 誠次の身体は左腕だけでは威力を相殺しきれず、宙に吹き飛ばされ、背中から道路の上に倒される。


「っち! 掴まれ!」

「日向さん!?」


 誠次の元まで駆けつけた日向が、倒れる誠次に右手を差し伸ばす。

 誠次は死に物狂いで必死に日向の手を取り、再び立ち上がった。


「腕を回せ!」

「すみません!」


 右肩に誠次の左腕を乗せながら、日向は左手で眷属魔法の魔法式を、発動。魔法式に魔法文字スペルを打ち込み、自身の使い魔を背後へ向けて、召喚させた。


「行け!」


 日向の使い魔は、中世ローマ時代の十字軍として活躍した、テンプル騎士団の甲冑を着たような、ロングソードと盾を装備した騎士であった。

 それが二体、剣を高々と掲げ、追ってくる影塚の前に立ちふさがる。


「くそっ!」


 影塚は立ち止まり、足止め目的のテンプル騎士団たちと対峙する。

 その隙に、足を引きずる誠次を支えた日向は、道路横にある階段を駆け下り、地下鉄の駅へと逃れる。激しい雨が降り続けているそこには、階段にも滝のように水が流れて来ている。

 血をぽたぽたと垂らしながら、誠次と日向はそこを滑りそうになりながらも、駆け下りる。


『間もなく、電車が発進します。駆け込み乗車は、おやめください』


 VR空間の中で律儀にアナウンスをしてくる中、発車直前であった電車の中に、誠次と日向は駆け込んで乗車する。

 雨にぐっしょりと濡れた二人が振り向くと、閉まるドアの向こうで、鬼気迫った表情の影塚が追いついてくる。


「待てーっ!」


 影塚が手を伸ばすが、あと少しのところでドアが閉まり、電車は出発する。


「ハアハア……っ」

「ひとまずは間に合った、か……」


 息を切らして、誠次と日向は安堵する。

 あと一歩のところで二人に追いつけなかった影塚は、走り出す電車を窓の外から睨んでいた。彼の歪んだ顔が過ぎていき、やがて駅の点々としたライトも背景からいなくなり、電車は地下トンネルを突き進む。

 

「……助かり、ました」


 右肩を左手で押さえつけながら、誠次は日向に礼を言う。

 誠次は痛みをこらえながら、全身から吹き出す脂汗を拭っていた。


「酷い怪我だな。治癒魔法は効くのか?」

「いいえ、効きません……」

「そうか……」


 日向そうして、自身の負傷している左腕に、治癒魔法を施す。警戒は怠っていないのか、走行中の電車の中で立ったまま、ドアに背を預けている。

 

「どうして……」

 

 相変わらずの窓の外を窺っている日向の背に向け、誠次は声をかける。

 一時は共闘を拒絶されたはずだった。それがここへ来て、命を救ってくれた。彼の心の中で何がったのだろうか、誠次は首を傾げていた。

 日向はちらりと、一瞬だけ誠次に目を向けると、すぐに外を見直した。


「……佐伯剛さえきつよし。俺がこの手で処刑した男の言葉を、思い出したんだ」

「貴方が……佐伯さんを処刑したのですか……」


 真実を告げた日向の言葉に、誠次は息を呑んでいた。

 驚きと戸惑いが、今のところはただ大きかった。


「……ああ」


 その声音は、やや掠れているようにも、迷いなど一切なかったようにも、どちらにも聞こえるようであった。

 日向は窓ガラスに映った自分の全身を見つめるようにして、誠次に背を向けたまま、頷く。


「お前も知っていると思うが、昨年の秋。特殊魔法治安維持組織シィスティム内部にてテロに情報を横流ししていたとして、当時の局長に対する処刑命令が下された。当時第七分隊の隊長をしていた佐伯剛は、志藤しどう局長を庇い、味方に攻撃をし、追い詰められて処刑された。俺が放った魔法によって」

「……っ! あの人には……家族がいたのに……! 志藤局長にだって、息子が、俺と同い年の友だちが!」


 床の上に座り、じんわりと赤い色素を広げる誠次が、思わず叫んでいた。


「状況は複雑だったんだ」


 日向が冷静に言えば、誠次は彼の長い髪に見え隠れする様々な感情に打ちひしがれ、何も言えなくなる。彼の金髪の長い髪から、水の雫が零れ落ちる度、誠次の心に激しい雨が降るように、何かが胸の奥を締め付けてくる。


「当時の特殊魔法治安維持組織シィスティムは光安による監禁状態が続いていた。外部との連絡も遮断され、何が真実で嘘か。だれが敵で味方かさえ、わからなかったんだ」

「でも……それでも、佐伯さんは仲間だったはずだ! 貴男は、あの人のことを信じるべきだった……」

「それは今だから言える結果論だ。……ただ、あの人を殺した俺が憎いのであれば、その手に握る剣で俺に切りかかって来ても、構わない」


 日向は自身の左手に治癒魔法を施し、誠次を向く。彼が着るサマースーツはところどころ切り傷が入っていたり、血も滲んでいた。

 一瞬にして巻き起こった怒りの感情も、冷たく震える身体がそれを冷ます。


「……貴男を斬ったところで、佐伯さんの無念が晴れるわけではありません……」

「……お前は家族を゛捕食者イーター゛に殺されたと聞いた。今お前の目の前に立つ男が仮にお前の家族を喰い殺した゛捕食者イーター゛であった場合、それでもお前はその手の剣を振られずにいられるのか?」


 なんだと、と誠次は思わず日向を睨む。

 しかし、年齢も立場も上の日向は怯むことも無く、誠次を見つめ返していた。

 ――()()()()()()。仮に今目の前に゛捕食者イーター゛が出たところで、魔法の力がない自分に復讐を果たすことなど、不可能だ。では更なるもしもとして、自分に魔法ちからを与えてくれる仲間がすぐ後ろにいた場合は――?

 ……それでも、今のおれならばはきっと、仲間を守るための最善の行動を選択することだろう。

 その答えこそ、自分がこの魔法学園で気づくことが出来た、魔法世界で剣術士として剣を振るう、真理であった。


「……愛する人や守るべき者を失った悲劇を、俺は繰り返したくない……。それがたとえ他の人のことでも、俺は救える可能性が少しでもあると言うのならば、最善の行動をします」


 誠次はそうして、おもむろに、自身の制服にある青いネクタイを解き、それを右肩に回して締める。


雨宮愛里沙あまみやありささんを救い、この戦いを終わらせ、そして……魔法学園の皆を守ります。お願いします日向さん。俺と、協力してください!」

「……」


 日向は腕を組み、必死に懇願する誠次を見下ろす。

 その時誠次は、はっきりと見た。

 日向の右手が、微かに震えていたのを。


「一つ訊きたい……剣術士。お前は本当に、この魔法世界が変わると思うのか? 平和に出来ると思うのか?」

「変わるとは……?」

「人と人とが手を取り、魔法を元に発展し、やがていつか、このような夜の世界でも自由に出歩ける日が来ると、思うのか?」


 日向に問われ、誠次は自分の血が滲んだ手のひらを見つめ、そっと握る。その先に見えたリニア車の窓の向こうの雨風に汚れた景色が、一瞬だけ、クリアに見えたような気がした。

 明るい光の中、家族や恋人たち、例え一人の者だとしても、そこでは人が自由に夜の外に出歩いている。人の顔がみんな笑顔であり、夜の怪物に怯えている様子はない。

 その優しく温かい世界の中に、自分の家族の残滓を感じ取った誠次は、瞳を閉じて、ゆっくりと頷いた。


「思います。それに何よりも、俺たちがその未来を作るんです――!」


 ――きっと訪れるさ。お前たち次第でどうにも……。平和な魔法世界の、未来を作るんだ……――。

 

 日向の頭の中ではその時、彼が止めを刺した男の声が、雨音に混じって響いていた。あの日と今の雨は、どこか、違うのだろうか。

 やがて、誠次の目の前にまで、日向は歩み寄ってきていた。


「日向さん……」

「……佐伯隊長の死は、起こるべきではなかったはずだ。俺はあの時、瀕死のあの人に向けて破壊魔法サイスを発動し、彼に止めを刺した。そしてその日以降、俺は俺が殺した彼が果たせなかった夢と責務を背負って生きていくことを決めた。あの人の夢と思いを、俺は引き継ぐべきなのだと。そうして俺は、この日までずっと、特殊魔法治安維持組織シィスティムに忠実に従って行動してきた。それこそが、彼の為になるのだと、ずっと思っていた」

「……」


 血の味がする息を呑んで見守る誠次の前で、日向は自分の制服のベルトに装着してある特殊魔法治安維持組織シィスティムのバッジを、そっと取り外す。広げた手の平の上に乗せたそれをじっと見つめると、握りこぶしを作ってリニア車の窓を叩き割り、それを雨風が降る外へ向けて、投げ飛ばしていた。

 あっと驚く誠次の前で、日向はふうと、息を吸う。


「しかし……ようやく理解した。あの人はずっと、未来を守るために戦っていたんだ。愛していた家族を守り、魔法世界の将来の為に、命が尽きる最期の瞬間まで……。……ならば俺は、彼が本当にしたかった事を、引き継がなければならないんだろう」

「それでは――」

「ああ……。一緒に戦ってくれ、天瀬誠次。雨宮愛里沙を救うため、このヴィザリウス魔法学園を守るために」


 日向はぎこちなく、不器用そうに、やや口角を上げて、誠次へ向けて左手を差し伸ばす。

 誠次もまた、雨粒を飲み込んだ口角を上げ、日向と握手をした。


「ありがとうございます。日向さん。共に戦いましょう! 北海道の時には出来なかったことを!」

「……懐かしいな。あの頃はただの青臭い子供だと思っていたが……どちらもどちらか」


 日向が微笑んだその瞬間、突如、ギギギ……っと二人が乗っている車両が妙な音を立て始める。まるで金属がねじ曲がるような、それで巨大な、鼓膜を震わす音であった。

 続けざまに起こる、衝撃。二人は電車の中で大きくよろめき、態勢を崩す。


「なんだ!?」

「リニア車に衝撃が!」


 電力の供給が不安定になったのか、不気味に、車両内部の電気が点いたり消えたりを繰り返し始める。しかし、以前リニア車は高速で偽りの都会の中を走行中のままだ。


「空間魔法で索敵する!」


 日向は魔法を発動し、周囲一帯を捜索する。

 目を瞑った彼が、一瞬で敵の気配を察知し、バージョンアップ前の古い広告が揺れている天井付近を見つめ上げる。


「リニア車の屋根の上にいる! おそらく影塚だ!」

「後部車両を次々と潰していたのか!?」


 誠次がそう叫んだ直後、しんと、背後に冷たい気配を感じた。

 誠次は無言でレヴァテイン・ウルを背中から引き抜くと、それを両手で握って、停電を起こした車両前方部の方へと向けた。

 ――いる。

 暗闇の果てに、鈍く光る魔剣を携えた少年が、間違いなく迫って来ている。


「俺は上にいる影塚とケリをつける。お前は子供の喧嘩を終わらせろ」

「お互い様のはずです! あ、日向さん――っ!」


 思わず彼を呼び止めようと、割った窓から身体を外へ出す日向に声を掛ける誠次であったが、向こうはすぐに頷いた。


「分かっている。……お前の言葉を借りるのであれば、()()()()()()みるさ」


 日向はそう言うと、素早い身のこなしで、走行中の車両の屋根の上へと向かっていった。

 割れた窓から吹き寄せる雨風を浴びながら、誠次は頷く、深呼吸をして、暗闇へ向けてレヴァテイン・ウルを向ける。


「一希っ!」

「誠次っ!」


 一希は誠次と同じ車両に到達し、付加魔法エンチャントを終了させたレーヴァテインを構えて見せる。幅広のリニア車とは言え、一希の持つレーヴァテインの長い刃は、横向きになればつっかえてしまう事だろう。しかし、そんな戦場でも刃を不自由なく振るう事が出来るのは、誠次の持つレヴァテイン・ウルの切れ味で実証済みであった。


付加魔法エンチャントを使用したな! これでもう、平等な戦いとなるはずだ!」

「それはどうかな……?」


 誠次の言葉に、一希は嗤って応じる。


「なにが可笑しい……!?」

「確かに、普通の魔術師ならば魔剣への付加魔法エンチャントは一日に一回限りが限度だ。精々出来て二回で、しかしそれでは身体の機能を失いかねない。クエレブレ帝国の、皇女のようにね」


 一希はそうして、スラックスのベルトに差し込んであったなにか、細長い棒状のものを取り出してみせる。

 それは、注射器であった。そして、中に入っている液体を見た誠次は、まさかと、剣を握る構えを解いてまで片手を伸ばす。


「それは……東馬迅とうまじんが最期の時に使用した、魔素マナを外部から注入する薬品か!? どうしてそれを、お前が持っているんだ……!?」


 彼が最期に発明した忌むべき物を、一希が持っている。

 その事実に衝撃を受ける誠次の前で、一希は自身の首筋にそれを打ち込む。


なずな総理が、僕に与えたものだ! そうして僕は、これに適応できる魔術師なのさ! 付加魔法エンチャントもこれで連発することが出来る!」

「薺、紗愛さえ……っ! やはりあの人は、レーヴネメシスと裏で繋がっていたのか!」

 

 どう考えても、東馬の発明したものを、薺が横流ししていたとしか考えられず、誠次は吠える。


「今すぐそれの使用を中止しろ! それは危険なものだ!」

「ははは……。誠次……君の心はよくわかる。これが、君も欲しいのだろう……?」

「なに……!?」


 一希はそうして、自身の腰に隠し持っていた薬品の入った注射器の数々を、戸惑う誠次に見せびらかせる。軽く見積もっても八本。あの本数分、彼はこの戦いでまだ付加魔法エンチャントが使用できる計算になる。


「これさえあれば、君も僕たちと同じ魔術師になることが出来る。そうだよね誠次……。君が喉から手が出る程欲しいのはずの、魔法が使えるようになるまさしく魔法のような道具だ」

「俺にはすでに仲間がいる……。そのようなまやかしの魔法に魅せられるほど、浅い絆ではない!」

「この魔法ちからを前にしても、同じ口が利けると思うな、天瀬誠次!」

「魔法は夢を叶えるものだ! 戦いの為の道具や手段ではない!」

「人から魔法ちからを貰っておきながら、よくもぬけぬけとそんな矛盾した言葉を僕にけるものだ! 覚悟しろ……天瀬誠次!」

「この魔法世界に生きる数多無数の人の夢を守る為に戦うまで……その為にも俺は、お前を死力を尽くして食い止める! 行くぞ……星野一希!」


 風を破り、雨粒を穿ち、高速で走行する車両の中で、火花を散らす剣術士同士の一騎打ちが始まった。

~受け継がれる、争い~


「そう言えば気になったのですけど」

せいじ

「学生時代から日向さんと影塚さんはどちらが強かったのですか?」

せいじ

               「ぎりぎり五分五分だ」

                     れん

「……?」

せいじ

「ぎりぎり、ごぶごぶ、とは……?」

せいじ

               「時と場合によるな」

                     れん

               「俺が勝つときもあれば」

                     れん

               「奴が勝つ場合もある」

                     れん

               「それでも、唯一奴に必ず勝つ競技が」

                     れん

               「学生時代にはあった」

                     れん

「それは一体……!?」

せいじ

               「廊下の白いところしか通っちゃいけないゲームだ」

                     れん

               「あのゲームには必勝法がある」

                     れん

「なんですってっ!?」

せいじ

「ぜ、是非とも教えてください!」

せいじ

「俺も今、友だちとそれで勝ち負けを競っています!」

せいじ

                「いいだろう」

                     れん

                「まず、食堂に繋がる経路があるだろ――?」

                     れん

「はい――っ!」

せいじ

                「アイツが最近滅茶苦茶強いのこのせいかよ!」

                     そうすけ

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