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魔法世界の剣術士 中  作者: 相會応
蛍火の女傑
54/189

7

蛍島と言う場所は実在はしませんが、私の中では部分的に江の島をモデルにしています。

あそこに入ってすぐで食べる焼きハマグリはとても美味しいので、機会があればぜひ食べてみてください。


 翌朝。洋室であった寝室のベッドに差し込む朝日に瞼を照らされ、誠次せいじは目を覚ます。

 白いレースのカーテンが風にそよいでおり、朝日が白いベッドに射し込んでいた。


「……」


 昨夜はあれから風呂に入り、なにをすることもなく、ベッドの上に横になっていた。しばらく呆然とし、誠次は寝癖をつけたまま、部屋の外に出る。

 二階の廊下に漂うのは、美味しそうな料理の匂いと、一階で食器を置く音。

 隣の部屋のドアは開いているので、綾奈あやなが先に起きて、朝ご飯を作っているのだろう。


「おはよう、誠次」


 一階に降りると、綾奈はキッチンに立ってエプロンを着けていた。


「おはよう……」


 寝起きで頭が回らないのではなく、昨夜の件から、誠次は綾奈から視線を逸らしてぎこちなく返事をする。


「朝ご飯、もう出来るから。座って待ってて」

「ありがとう」


 綾奈が作ってくれたのは、サンドウィッチであった。

 誠次はサンドウィッチをかじりながら、目の前に座る綾奈に「美味しい」と言う。蛍島原産の瑞々しい野菜が食感もよく、とても美味しかった。


「……うん。じゃあ今日はどうする?」


 綾奈は楽しみそうに、誠次に青い目を向ける。


「海、はちょっと今日波が高いから、駄目みたい。また道場で特訓とか、川に行ってみるとか?」


 サンドウィッチを呑み込んだ誠次は、綾奈に返事をしようとするが。

 綾奈の赤いポニーテールの後ろ、部屋の奥を、和服姿の朱梨しゅりが横切ったのだ。

 彼女と視線が合ったような気がして、誠次は咄嗟に俯いてしまう。


「……誠次?」


 綾奈が心配そうに誠次を見つめる。


「……すまない。今日は、別行動にしないか?」

「……? そ、そう。……いいけど」


 不審がる綾奈の前で、誠次は俯いてしまっていた。

 用意された寝室で外出用の身支度を終え、誠次は再び1階へと降りる。すでに起きて、和装に着替えている朱梨は和室の畳の上で、正座をし、何やら抹茶をたてているようだった。

 そんな彼女の元へ、誠次は「失礼します」と近付いた。

 上の階で綾奈が部屋の掃除をしている気配を感じると、誠次は和室の入り口のところで正座をし、朱梨と向き合う。


「お早う、誠次」

「お早うございます、朱梨さん」


 朱梨は昨夜の事などまるで感じさせない、ごくごく自然な手つきで、抹茶をたて続けている。


「……まだ、すぐには答えられません。今日は一人で過ごして、じっくりと考えたいと思います……」


 誠次は正座をした膝の上に添えた手に視線を送り続けながら、言う。


「そうだろうな。……誠次」


 幾らか穏やかな声音で、朱梨は誠次の名を呼ぶ。


「はい」

「私を……嫌な女だと思うか? 本心で構わない。下手な世辞も私には分かるぞ」

「……貴女が綾奈さんを思っての昨夜の事だと言うことは、重々承知したつもりです」

「本心を言えと言ったはずだ」


 朱梨に指摘され、誠次は眉間をピクリと動かす。


「そなたの目は、いっさい納得などしていない」


 そんな指摘をされるが、誠次の中でも、どうすればいいのか、本当に分からなくなってしまっていた。優先すべきは、綾奈の幸せ。その言葉が、蛍の光の光景と共に、呪いのように誠次の頭に強く残っている。

 しかし心が悩んでいても、顔がそうではないと朱梨は言う。

 ――そして、誠次もそうであってほしいと、自分に願っていた。


「……街に降りて、一人で考えたいと思います」

「時間はまだある。ゆっくりと考えるんだ」

「失礼しました」


 誠次は頭を下げ、立ち上がる。


「行ってらっしゃい、誠次。なんか午後から天気崩れるみたいだから、気をつけて」


 篠上家から出て山下を望んでいると、家の二階の窓から綾奈が身を乗り出し、手を振ってくれていた。


「帰ってくるの、待ってるからね」 

「ありがとう綾奈」


 誠次は手を挙げて応えると、一人で蛍島の港町へと向かっていった。

 雲一つとしてない快晴の空であり、そこから天気が変わるなど、にわかには信じがたい。


「……」


 この島に来てからと言うもの、ずっと綾奈と一緒にいたためか、森の中を一人で歩くのは新鮮で、妙に寂しくもあった。都会ではまず見ないような大自然の中を、誠次は一人で歩いていく。人間の手が加えられていない、世界が生まれたままの姿でここにはあった。

 

「そう言えば、初めて綾奈に付加魔法エンチャントをして貰った時も、こんな森の中だったけ……」


 一年以上前。まだ剣を振るってばかりの頃。なにもかもが格上であった朝霞あさかと戦いで、綾奈は自分を助けるために、夜の森の中、駆け付けてくれていた。

 

「俺が剣を置いて、戦うのをめれば、みんなは幸せになるのか……? 世界は、平和になるのか……?」


 一人で思い詰め、下を向いて歩いていれば、いつの間にかに森を抜け、畑地域へと出る。


「お、坊主。今日は一人かい?」


 畑のあぜ道にて、昨日寄った駄菓子屋の店主の瀬戸せとが、呑気そうにタバコを吹かしていた。


「ええ、はい」


 誠次は立ち止まり、店主に挨拶をする。


「なんだ坊主元気ねえな。こういう時はウチの駄菓子食うか、海で泳げ!」

「そのどっちでも解消できないような悩みなのですけど……」

「なんだ。でも今日は波が高いし、嵐が来そうだからやっぱウチの駄菓子を買って食え! よりどりみどりなんでも五千円じゃ!」

「高っ!」


 島民ジョークを喰らった誠次は、しかし幾らか明るさも同時に貰い、前を向いて歩いていく。

 綾奈が一緒にいるかいないかはともかく、島の中を巡りたいと言う気持ちはあった。ルームメイトや友だちの為に、蛍島のお土産もチェックしなければ。

 田園地帯を抜ければ、近代家屋が目につく港町が、道路沿いに続いている。たった一つだけの道路を挟めば、防波堤の向こうの砂浜と海が広がっている小さな街だ。


「蛍島のお土産?」

「はい、何かありませんでしょうか」


 道すがら、すれ違った大人の女性に声を掛け、蛍島のお土産について尋ねてみたが、 相手も答えに困っていた。


「うーん。元々こんな遠い島に観光客なんて滅多に来ないから、お土産らしいお土産はなにも……。やっぱ蛍とか!? 木を蹴ればいっぱい落ちてくるよ!? ってか、そこら辺飛んでるし」

「名物の蛍の扱い方雑ですね……」


 さすがに何かの法律に触れそうなので、蛍の密輸は諦めた。

 その後、どう見ても普通の民家にしか見えないお店で、蛍島産の塩と海苔を物色した。まだ決めきれてはいないが、候補としてはアリだろう。

 同じ店で買ったたこ焼き煎餅をぱりぱりと音を立てて食べ、海沿いの道を歩いていると、砂浜方面から子どもたちのはしゃぐ声が聞こえる。そちらを見ればやはり、この島に来てから剣に興味津々だった顔見知りの子たちだった。


「俺が結婚するんだーっ!」

「い、いや! 俺が結婚する!」


 どうやら、一人の女の子を取り合って、男の子が二人で言い争いをしているようだ。


「あれって、島ではよくある光景なのだろうか」


 気付けば立ち食いをしてしまっていた誠次は、お行儀よく石造りの階段に座り、浜辺の方を眺めていた。

 風はどことなく強くなってきており、髪の毛が潮風を浴びて揺れ動く。どこから来たのか、行く当てもなく、見たこともないような分厚い雲が、頭上に広がっていた。


「二人とも! こっち! 鬼ごっこしようよ!」

「あ、待ってよ!」

「待てって!」


 先に走り出した女の子を追いかけ、二人の男の子が慌てて後を追う。

 

「気持ちいい風だ……」


 潮風を浴びる誠次は、たこ焼き煎餅をもしゃもしゃと食べきる。

 日射しは雲に隠れ、風も冷たく感じ、誠次は後ろに手をついてぼうっと空を眺めていた。クリームのような大きな白い雲は、青空の下を、ゆっくりと移動している。


(そなたが戦う理由など、どこにもないのさ――)

「……」


 朱梨に言われたことを反芻はんすうし、誠次は心ここにあらずな面持ちでいた。

 

「俺が綾奈を励ますはずが、逆に励まされているなんて……」

 

 そう思えば、自分が途方もなく情けなく感じ、誠次は足元に広がっていた砂を手で握り締め、力任せに投げる。細かな砂の一粒一粒が、太陽の光を受けてきらきらと輝き、誠次の目の前で失せていく。


「俺だって、必死に戦ったんだ……。その結果が今に繋がっているのなら、間違ってなんか……」


 言葉とは裏腹に、誠次の声音は次第に語気を失くし、体育座りをした頭を膝に埋めた。

 ……。……。

 どれだけ時間が経ったのだろうか。

 風と波の音だけを感じていた耳に、子どもたちの悲鳴が混ざったのは、突然の事だった。

 聞こえた悲鳴に、誠次は目を開き、すぐに立ち上がる。


「今のは、さっきの子か?」


 声が聞こえた海の方を見ると、美しかった青い海に白い高波が立っていた。

 荒れ狂っているほどではない、強いて言えばサーフィンが出来そうな程度の波であったが、先程の三人組の子どもの姿がない。もう一度波が押し寄せたその時、ずぶ濡れの女の子だけが、浜に打ち上げられた。


「まずい――っ!」


 誠次は座っていた石造りの階段を飛び降り、装備していたレヴァテイン・ウルの鞘の紐を解きながら、砂浜を走る。ここまで来るとようやく、波の高さに異変が起きていることを実感する。自分たちならともかく、大人の身長の腰下ほどしかない背の高さの子どもたちならば、充分に危険な波の高さであった。

 レヴァテイン・ウルを砂浜の上に落とし、誠次はまず波打ち際にいる女の子の元へ近付く。


「しっかりしろ!」


 誠次は女の子を引きずり、波と海水の暴力から遠ざけようとする。

 しかし、

 

(水位が上がってる……!?)


 それも驚異的なスピードであった。天候は急激に崩れ、白い雲が空を覆っている。水際も波打つごとに砂浜を浸食してきており、女の子は服も水に濡れ、明らかに体重より重たくなっていた。


「あと二人、男の子がいたはずだ!」


 ようやく女の子を引きずり出した誠次は、すぐに海を向き直す。

 救助した女の子は、けほっ、けほっ、と咳き込んでいた。

 誠次は女の子をその場に残し、波打ち際に近付く。すでに風は髪を逆立てるほど、強くなっていた。


「そこにいるのか!?」


 激しく押し寄せる波は、誠次でさえ、躊躇してしまうほど高度と激しさを増していた。


「手が見えた――!」


 白く濁り、うねる海水の中から人の肌色が見えたような気がした誠次は、意を決して、波の中へと飛び込む。

 穏やかな時は水底が見渡せるほどクリアだった水中も、巻き上がった砂によってすでに濁っており、方向感覚を失いそうになる。激しい波の力によって身体の制御もままならず、誠次は水中で波に遊ばれるように、右へ左へ行ったり来たりを繰り返す。

 ようやく浮上し、水面から顔を出すが、立て続けの波が頭部に覆い被さり、誠次は海水を大量に飲み込んでしまう。


「どこだ!? どこにいる!?」


 一瞬のうちに沖に引きずり込まれそうになり、誠次は懸命に腕と足をばたつかせ、どうにか姿勢を安定させる。

 上下に揺れ動き続ける波の中、男の子が一人だけ悲鳴を上げ、こちらに向かって手を伸ばしていた。

 誠次はすぐに腕を回し、男の子の元まで辿りつく。


「助げて! 助げてっ!」

「落ち着け! 大丈夫だ!」


 誠次は暴れ回る男の子を、水面上で抱寄せる。


「もう一人は!?」

「泳げない! 泳げないよっ!」

「落ち着けっ!」


 完全にパニックに陥っている男の子をぎゅっと抱き寄せたまま、誠次は必死に周囲を見渡す。浮力は足りず、このままでは二人とも水中に沈んでしまう。まるで海が人を食うように、波を誠次と男の子の上に何度も掛け、二人を沈めようとしているようだ。


「――たずけてっ!」


 もう一人の声は、更に沖の方から聞こえた。

 暴れまくる男の身体を無理やりに押さえつけながら、誠次は片腕だけで泳ぎだす。


「今助ける!」


 無謀にも二人ともを一気に救おうとする誠次のすぐ隣に、透明なガラス板のような足場が作られる。それは形成魔法による、宙に四角いブロックだった。

 誰かが魔法で助けてくれるようだ。


「魔法!? 綾奈か!?」


 砂浜の方を向いて確認する余裕はなく、誠次はすぐに作られたブロックに、抱えていた男の子を乗せてやる。

 男の子はブロックに両手でぎゅっとしがみつくと、ぶるぶると身体を震わせていた。

 再び両手が自由になった誠次は、沖に流されつつあるもう一人の男の方へ泳いで向かう。後ろの方から女子の悲鳴が聞こえたような気がするが、応答できる状況でも状態でもなかった。


「手を伸ばせ!」

「助けてっ!」


 先程の二の舞にはならぬように、誠次はもう一人の男の子の背に回り、羽交い締めの要領で水中から引き上げる。溺れかけていた少年はようやくまともな呼吸を取り戻し、ぜえぜえと息をしていた。


「落ち着いて、もう大丈夫だ」

「う、うん……」


 続いて、またしても誠次の真横に四角いブロックが作り出される。誠次は男の子を、そこまで泳いで運んでいく。


「このガラスみたいなの……なに……?」

「魔法だ。安心して、ここに掴まって」

「あ、あんちゃん! 後ろっ!」

「後ろ?」


 途端、今までの比ではない勢いで、周りの水位が大きく下がるのと同時に、沖に引っ張られる力も発生する。

 何事かと振り向けば、空を覆うほどの高さで、巨大な波が壁にように迫ってきていた。

 あまりにも圧倒的な大きさの波に、誠次は硬直し、咄嗟に動くことが出来なかった。


あんちゃんっ!」

 

 形成魔法にしがみつく男の子の声でようやく我に返った誠次は、少年を守るために、咄嗟に少年の背中につく。巨大な波の盾になるように、誠次は津波から男の子を守っていた。

 人間をいとも容易く呑み込んだ波が過ぎると、形成魔法にしがみつき、誠次からも守られていた男の子は、無事であった。

 

「兄ちゃん!? 兄ちゃん!?」


 しかし、誠次は波に攫われていた。

 思い切り海水を吸い込んでしまった誠次は、波の力の勝てず、水中に引きずり込まれていた。

 海流の速さは人間一人が泳ぐ力を遙かに凌駕し、誠次は身動きが取れぬまま、意識を失いかける。

 横浜の海の時とは違い、綾奈の付加魔法エンチャントもなく、浮上が出来ない。海水を吸い込んだ肺が痛み、気が遠くなる。――そして、水面も。


「かは……っ」


 苦しい……。いっそのこと、このまま海の藻屑となってしまえば……。

 このまま身体の全ての力を抜こうとした誠次の脳裏に浮かび上がったのは、綾奈と朱梨の顔だった。

 彼女の為にも、あの人に勝たなければ。少なくとも、負けたままでは、あの人の言葉に従うことになる。未だ納得はしていない若い心は熱を籠め、身体を衝き動かす。残された酸素を全て使いきり、なおも生きて戦おうとする誠次の元へ、頭上から何かが近づいてくるようだった。

 雲の切れ間から一瞬だけ覗いた太陽の日射しが、水中に差し、誠次は右手を伸ばす。身体は力を失い、誠次の身体は水底に沈んでいく。

 そんな誠次が望んだ日の光を隠すように、一つの影が、水底深くに沈もうとしている誠次を追いかけて向かってきた。

 動物……ではない……人の形をしている……。


(あや、な……?)


 こちらまで一直線に向かってきた少女の手を、生きようと自然の猛威に抗う誠次は、掴んでいた。


        ※


 ちりん、と風に揺れる風鈴が風流な音を奏でる。

 

「にゃあー。帰ってきたにゃあ」


 篠上家の屋敷の中にいた綾奈は、庭に生えていた猫じゃらしを摘んで、()()()()の野良猫とじゃれていた。

 ふと、畳の上で猫は明後日の方を見つめ、ピタリと制止する。猫にはよくある事で、何かの音や気配を感じたのだろうか。

 

「……」


 綾奈も、猫じゃらしをそっとその場に置き、無言で立ち上がっていた。


「誠次……」


 彼の昨夜の様子は、絶対に普通じゃなかった。まだたったの一年だが、それでも近くにいただけでも、分かる。

 だからこそ、今朝は意図して明るく接してみたが、彼は相変わらず、こちらに気をつかうような優しさで、努めて平然を装っていた。そうしてくれているのが分かってしまったからこそ、心配で、放っておけない……。


「……よし」


 決心した綾奈は、今は道場にいる朱梨の元へ、一人で向かった。


「失礼します」


 礼をして道場に入ると、朱梨は太刀掛の前で正座をし、武具の手入れをしている最中であった。


「綾奈か。蛍の知らせだ。今宵は嵐が来る。備えておけ」

「……昨日の夜、誠次くんに何か言ったのですか?」


 綾奈は道場の扉を後ろ手で閉めながら、奥に正座する朱梨に問う。


「……ああ。言ったさ」


 朱梨は太刀掛に置いてあった日本刀を手に取り、鞘に収まったままのそれをじっくりと眺めている。

 綾奈は緊張の面持ちのまま、朱梨を見つめる。


「……天瀬誠次くんは、私の大切な人です。お婆ちゃんになんと言われようと、私は誠次と一緒にいたい!」

「勘違いをしているようだな綾奈」


 しんと冷たく感じる木の床に足裏で立ったまま叫んだ綾奈に、朱梨はやや口角を上げる。


「あの男の事情は聞かせて貰ったよ。数多あまた女子おなごの力が必要であるのならば、彼はそうするべきだ。……しかし、果たして彼にそうしてまで戦う意味はあるのか。私はそれを問うたのさ」

「誠次くんは私や……私の友だちを守ってくれました! そんな人の戦いが無意味だなんて、あり得ません!」

 

 赤いポニーテールを揺らし、綾奈は声を大にして主張する。

 朱梨はそっと置いた日本刀の前で静かに正座をしたまま、冷静に綾奈を見つめていた。


「ほう。お前は、あの男の戦いに意味があるとでも?」

「守るため、その為に誠次くんは戦ってくれました……。彼がその為に魔法ちからが必要だって言うんだったら、私はいつだって、どんな時だって魔法ちからを貸します! お祖母ちゃんは実際に誠次がどんな戦いをしてきたか、分かってないからそんなことを言えるんでしょう!?」

「確かにあの男の戦いがどのようないきさつで、どのような事情によるものか、私は知らない。誰かを守るというのであれば、それは大層なことで、褒めるべきだろう。けれどな、綾奈。あの男が戦うには、お前のような存在が不可欠なのだろう? それでは矛盾しているのさ、彼の戦いは」

「そんなことないです。誠次くんの戦いは、絶対に間違っていません! だから、林間学校の日だって……」


 綾奈は自分の腕を片手で掴み、俯きながら言う。


「ほう。では訊こう綾奈。正しい戦いとは一体なんだ? あの男の子が血を流し、傷つきながら戦うのが正しいことなのか? それを肯定するのであれば綾奈。お前は惚れた男を戦場に送り出す魔性の魔女だよ」

「そ、そんなことは……っ!」

「望まないのであろう? であれば、お前とあの子が幸せになる方法とはただ一つ。あの男の子の魔剣を置かせ、戦いとは無縁の日常を送るんだ。そうでなければ、お前とあの子の未来に待つのは悲劇でしかない」


 朱梨から告げられた選択肢に、綾奈は愕然として、顔を上げる。


「まさか、誠次に……私と別れろって……」

「……ああ。このままあの子が剣術士として戦い続けるのであれば、私はとても看過出来ん。なにも私は、あの子とお前の将来を思っての()()をしただけさ」


 それとも、と朱梨はここでようやく、綾奈に横目を向けていた。


「確かにあの子は凄いと褒めてやろう。魔法も使えず、しかしそれでも自分の出来ることをし、結果としてお前や仲間とやらも守ってきた。その功績は褒められるべきであり、性格も素直で良い。……だが、私には分かるのさ。あの子は例え多くの人を幸せにすることは出来ても、一人の女を幸せには出来ない」


 そう言った朱梨は、そっと視線を日本刀へと戻し、どこか悲しげな表情を浮かべていた。


「……例え剣がなくたって……私はきっと……天瀬誠次くんのことが」


 気付けば、目頭に熱いものが込み上げてきて、綾奈は必死に手でそれを拭う。足も震え、力が入らなくなっていた。泣いちゃだめだ……と身体に言い聞かせても、朱梨に動かされた心がそれを邪魔してくる。

 これでは魔女はどっちだ、と内心で反抗するが、なにも言い返すことが出来なかった。

 朱梨もまた、ため息を一つ零す。


「綾奈。お前からもあの子に言ってやるといい。もう戦う必要などないとな。それがあの子と、お前の幸せに繋がる」

「誠次に……戦うことをやめろって、ずっと魔法ちからを渡してきた私がそんなことを言うんですか……?」

「そうすれば、あの子も大人しく剣を置くだろうさ。あの子のあれは、もはや呪いに他ならない」

「そんなの、嫌だ……。でも……それが誠次のため……?」


 自分でも支離滅裂な言葉を呟いている実感はあるが、頭の中がぐちゃぐちゃにこんがらがり、綾奈は両手で頭を抑えていた。


「……虚しいものだな、剣術士とは。魔術師おまえたちと言う存在に憧れた剣術士あのこは、結局この居場所のない魔法世界を彷徨うしかないのさ。この魔法の世界に、居場所を作ろうとすればするほど、自らの首を絞めている」


 そっと、朱梨は立ち上がり、身体を震わす綾奈の真横を素通りしていた。

 手入れを終えた日本刀の鞘に止まっていた蛍が、また一匹、儚い生命の灯火を燃やし尽くして落ちていった。


「ならば私が直々に彼の戦いを終わらせてやるのも、また良いのかもしれないな……」

~スーパーアルティメットダークバースト、改良編~


「林先生!」

せいじ

       「どったの剣術士」

        まさとし

「夏休みの宿題を改良しました!」

せいじ

       「……お、おう」

        まさとし

「目の前で実際にやってみますね!」

せいじ

「すぅ……」

せいじ

「輝けっ、正義の光よ!」

せいじ

       「うわぁ……」

        まさとし

「眩しき光が悪を滅ぼす!」

せいじ

「光れ俺の心! 《スーパーアルティメットシャイニングバースト》!」

せいじ

        「……きついなこれは」

         まさとし

「闇属性が駄目だったので、今度は光属性です」

せいじ

「やっぱり主人公的な意味でも、そうでなければと思いました!」

せいじ

「どうでしょうか!?」

せいじ

          「よし。じゃあ次は炎属性も頼む」

           まさとし

「分かりました!」

せいじ

「さっそく、微妙な表情をしつつある小野寺くんに協力を仰ぎます!」

せいじ

          「おう。期待して待っているからな!」

           まさとし

「鬼ですか、貴男は……」

みこと


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