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魔法世界の剣術士 中  作者: 相會応
蛍火の女傑
49/189

3 ☆

バレンタインが、近づい、てる……!? 早、すぎる……っ!

 カモメの鳴き声が聞こえ、風を浴びる顔を上へと向ける。燦々さんさんと輝く太陽を多い隠さんと、カモメが両翼を広げて空を飛んでいた。


「気持ちよさそうだな……」


 夢うつつな思いでそれを見つめ上げていると、不意に頬にぴとりと、冷たい感触が起きる。

 冷た、と呟いて顔を引くと、篠上しのかみが冷たいドリンクボトルを差し出してくれていた。

 24時間。それが東京の船着き場から小笠原諸島にある篠上の父方の実家に行くまでに、船で掛かる時間だ。当然、夜を越える必要があるのだが、一般常識として海上に”捕食者イーター”は出現しないことにより、週一での定期船の往来は昔から続いていた。

 ――しかし。

 残念ながら”捕食者イーター”は水中に出現することが分かってしまったので、クルーズ船のデッキで潮風を浴びる誠次は、浮かない表情をしていた。

 すぐ隣には、同じく潮風を受け、赤い髪を手で触る篠上がいる。


「……特殊魔法治安維持組織シィスティムは、隠し通すつもりなのか。水中にも”捕食者イーター”が出現したことを」


 船底も大きく、遥か下にあった水面のすぐ下を泳ぐ二頭のイルカを眺め、誠次は悔しく言う。つがいだろうか、二頭のイルカは仲睦まじそうに船の横を通り過ぎ、やがて見えなくなっていく。


「その方が都合が言い訳ね。天瀬の言葉だけじゃ、今さら何年も続くこの定期船とか、他の海上輸送も止めるわけにはいかないって言うことよ……」


 東京から離れるにつれて綺麗になっていくような太平洋を見つめ、誠次も篠上も浮かない表情でいた。朝や昼間、夕暮れは綺麗なこの海も、夜になれば相応しき支配者が蹂躙する。その事実に、この場では誠次と篠上を除いた誰もが知る由もない。同じ目的地であろう、ちょうど二人の横に年端もいかない子どもがやって来て、柵の下から青い海を見ようと目を凝らしている微笑ましい様子があり、誠次は思わず言葉を失う。


「何かが起きてからでは遅いと言うのに……」


 転落防止用の柵を握る手にぎゅっと力を込めていると、そっと、篠上が自分の手を重ねるように添えてくる。

 はっとなった誠次が篠上の顔を見れば、彼女はこちらを心配してくれているように、見つめ返していた。


「……すまない」


 小笠原諸島へと至る夏の潮風を浴び、髪と瞳を揺らした誠次は、俯いていた。

 篠上は首を軽く横に振っていた。篠上の誘いによる今回の()()()の目的は、小笠原諸島にある島に暮らすお祖母ちゃんに会いに行くと言った、何かの昔話のような事態となっている。


「お祖母ちゃんはずっと、蛍島ほたるじまって言うところに住んでいるの」

「蛍島? 聞いたことはないな」


 誠次がそう言っていると、篠上は電子タブレットを出力し、列島から遠く離れた太平洋に浮かぶ、小笠原諸島周辺の地図を見せつけてくる。

 本州から遠く離れた太平洋に浮かぶ小さな島たち――小笠原諸島。その中でも蛍島は、本州からもっとも遠く離れた位置にある円形の島であった。


「まあ名前の通り、蛍がいっぱいいる島よ。春夏秋冬蛍がいて、夏は特に多いわ」

「ただでさえ成虫の寿命が短いのに、それが年がら年中いるなんて凄いな……。島ならではの独自の生態系ってやつか」


 確か蛍の成虫の寿命は、一週間かそれ以内という、セミよりも儚い命だった気がする。それが年中見られるのは、実際に見るまで想像するしかないが、きっと凄いことなのだろう。実際に夜に光る蛍というのを、誠次は生で見たことがなかった。夜間に外出が出来ないのと、都市開発が進んだ影響が重なっている。


「そうね。子どもの頃から何度か行ったことはあるけど、きっと驚くと思う」

「でも、ずっと東京に住んでいたんだろ?」

「ふふ。小笠原諸島だって立派な東京よ?」

「すまない。本州の中という意味だ」


 くすりと微笑む篠上に、誠次はすかさず訂正する。


「ええそうよ。物心ついたときは都内にいた。でもその時から、お祖母ちゃんはずっと蛍島で暮らしているの。昔からずっとそうなんだって」


 海上の日射しは強く、誠次と篠上はデッキから移動し、一週間に一度しか往来しない東京、小笠原諸島間を行き来する連絡船の室内通路を歩く。ここには里帰りをする者や観光客、船員以外にも、島の生活に必要不可欠な物資も一緒に乗せて航海しているのだろう。


「そこで初対面の俺を連れて行く理由は?」


 誠次は篠上から地図を受け取りながら、尋ねる。

 手と手が触れあったその時、目の前に立っていた篠上は、大胆不敵に微笑んでいるように見えた。


「私の将来の旦那さん……って紹介するとか?」

「なっ!?」

「冗談よ、冗談。……まあ、今のところは、だけど……」


 思わず手を引っ込めそうになっていた誠次を見て、篠上はくすくすと微笑んでいた。


「か、からかわないでくれ……」

「お祖母ちゃんにあんたを会わせたい理由はね、お祖母ちゃんを説得する手伝いをしてほしいの」


 表情に真剣さが戻った篠上の顔を見て、誠次も半分浮かれていた身を引き締める。


「説得?」

「うん。お祖母ちゃんの家に実際に行ってくれると分かると思うんだけど、お祖母ちゃんの家、昔の日本家屋そのまんまなのよ。それも物凄く大きい」

「日本家屋……。それってつまり、あの、庭があって、ふすまがあって、門があるような感じか……?」


 思わず身振り手振りを交えて思い描いた日本家屋を、誠次は一生懸命表現していた。例えるならば、戦国時代の武家屋敷のようなものである。

 篠上は青い瞳をぱちくりとしながらも、「だ、大体頭に浮かんでいるので間違いないと思う」と言う。


「それは危険だ。いくら室内に”捕食者イーター”は入ってこないと言っても、昔の構造の家なんて。第一、法律でも人が住まない文化財産以外はもう禁止されている建物のはずだ」


 数十年前に建築に関する法律が変わり、家の造り方も一変していた。


「そうだけど、何度国の人が説明に来ても、その都度お祖母ちゃんは跳ね返す勢いで……。蛍島って本州から離れた場所が場所だけに、強制工事も出来ないのよ」

「今まで無事だったのか? もし”捕食者イーター”が出現したら、危ないはずだ」

「それがね……」


 至極当然の危機感を誠次が伝えると、篠上は悩ましげに、おでこに添えていた。


「島の人からも、お祖母ちゃん自身も胸を張ってこんなことを言うのよ。蛍島に”捕食者イーター”は出ないって――」


            ※

 

 二十四時間のクルーズを終え、誠次と篠上は互いの荷物をゆさゆさと背負ったりがらがらと転がして、蛍島の船着き場に足をつける。

 ここまで来るのに父島や母島を経由したため、連絡船に乗っていた他の人々は殆どそこで降りており、蛍島まで来たのは指で数えるほどの人数しかいなかった。

 

「こう言っては悪いかもしれないが……意外と結構、発展しているんだな……」


 重たいボストンバックを肩に、誠次は船着き場から島内を見渡してみる。地形的には、島のちょうど中心地帯に山があり、海沿いに街が広がっているような火山島のような形をしている。

 島の中心部には大きな川も流れており、市街地以外の自然は豊か、季候も一年を通して温暖な為、蛍も生活できるのだろう。


「なによ。ジャングルみたいなところだとでも思ってたの?」


 篠上がくちびるを尖らせる。

 店も普通にあり、島民が住まう家並みも近代的なものばかりだ。道路もきちんと整備済みで、自動車がそれなりの頻度で行き交っている。


「――おお! 綾奈あやなちゃんお帰り!」


 島に降り、早速第一村人発見……と言うわけではないが、声を掛けてきた男性が一人いた。


「ただ今戻りました! お久し振りですね!」


 漁師だろうか、帽子にタンクトップ姿のおじさんに、篠上はぺこりと頭を下げていた。


「一年ぶり以上かぁ!? また可愛くなって! 見るたびに可愛くなっているのはどういうこっちゃ!」


 豪快に笑う男は、大きな声で周囲を見渡しながら、


「おーいみんなーっ! 綾奈ちゃんが帰ってきてくれたぞーっ!」

「「「おおっ!」」」


 船着き場兼、漁港にもなっているのだろう。停泊している漁船から、次々と漁師たちが顔を見せ、駆け寄ってくる。たちまち人だかりが出来あがり、まるで島のアイドル的な状態であった。


「みんなお元気そうでなによりです!」


 その集団にいる篠上も、嬉しそうに眩しい笑顔を振りまいていた。

 

「そりゃあ、そうだよな……。……。」


 誠次は、やや落ち着かない心情で、輪から下がったところから篠上を見ていた。わけもなくポケットに手を突っ込んでいたり、そっぽを向いて髪をかいていたり。

 そんなことしていた誠次を、島に住んでいるのであろう、日焼けした男の子と女の子が見つめ上げていた。


「おんちゃん肌白ーい」

「何処からおいでしたのー?」


 半ズボン下の足をまじまじと見つめ、そんなことを聞かれる。


「東京。本州の方だ」

「うわあーっ! とかいじんだ!」

「とかいじんとかいじん!」


 子供らがそうやってはしゃぐと、篠上の元へ集まっていた島民らが、一斉に誠次を見る。


「見たことない坊主がおるなー」

「どこのどいつだ小僧!」


 島民特有の明るく豪快なノリにやや気圧されながら、誠次は答える。


「は、初めまして。天瀬誠次あませせいじです」


 今度は誠次の周囲に、ぞろぞろと人が集まり始める。

 どうしたものかと、誠次は目線で篠上に助けを求めるが、今度は篠上が子どもたちの相手をしており、誠次は孤立する。


「ヴィザリウス魔法学園から、来ました」

「魔術師、っていう奴かや?」

「い、いえ。なんというかその……」


 見たところ、同年代は一人もいないようだった。そして、よほど見覚えのない顔が珍しいのだろう。同じ日本のはずなのに、異国の地に漂流してきたような気分だった。


「あ、ごめん天瀬。紹介するわ」


 ようやくこちらの状況に気づいた篠上が、人混みをかき分けて誠次の隣に立つ。


「同じヴィザリウス魔法学園のクラスメイト、天瀬誠次くんって言います。今日からここで一週間お世話になります!」


 篠上の言葉を受け、一斉に誠次を見つめる島民たち。

 見ず知らずの多くの視線を一斉に受け、誠次は後退っていた。


「綾奈ちゃんの知り合いか!」

「綾奈ちゃんが男連れて来るなんて……! ここにもとうとう雪降るぞ、雪!」

「どういう意味ですかそれ!?」


 顔を赤くした篠上が、顔馴染みの島民たちに向け、声を荒げていた。

 荷物運搬用のトラックの荷台に誠次は乗り、山道を通過する。篠上の実家は山奥にあるといい、そこまで篠上の知り合いの男性が運んでくれる流れとなった。

 運転席にその男性はおり、篠上は助手席にいた。さすがに山道は舗装されておらず、がたがたと揺れる山道を、誠次は生い茂った木々から除く青い空を眺めながら、進んでいく。虫や鳥の鳴き声がそこかしこから聞こえ、日陰は心地よかった。


「しかし勇気があるな坊主ー! まさか篠上さんのお孫さんに手を出すとは!」

「コホンっ!」


 男性の言葉に、篠上が大きく咳ばらいをする。

 な、なんだろうか……。篠上のお祖母ちゃんがどれほど恐ろしい人か、篠上の普段の話から想像はしていたが、イメージが定まってきた気がする。

 誠次は「は、はは……」と引き攣った顔で笑って誤魔かすしかなかった。


「篠上さんの反応が楽しみだ!」


 口笛を吹き、慣れた様子で山道を突き進んでいく男性であった。

 やがて辿り着いた、山の峰の少し下辺り。そこには想像の一歩上を行く、立派で巨大な木製日本家屋が建っていた。温泉宿で見るような正門の表札にも、難しい手書き文字で【篠上】とある。


「んじゃ、俺らは宴会用意しとくから、来てくれよな! 坊主も、篠上さんに会って生きていたら旨い魚食えるぞ!」


 二人を乗せてきてくれた男性は、窓から片手を振りながら、トラックで下山していく。


「あ、ありがとうございました……」


 二つの意味でごくりと生唾を飲んだ誠次は、ここへ来てすごく不安になり、共に降りた篠上を見る。


「本当に怖い人なのか……?」

「もしもの時は私がアンタを守るから、安心して天瀬!」

「益々怖いだろ!?」


 篠上まで緊張した面持ちをしだし、誠次の篠上のお婆さんへ対する恐怖心は増していく一方だ。まだ篠上の可愛らしい見た目があるため、それと似たような顔立ちが思い浮かべているのでマシにはなっているが、そうでなければ山奥に潜む山姥やまんばのような何かを連想してしまう。


「正門は閉じているわね。裏門から入りましょう」


 身の丈の倍以上はある巨大な門には、当然ながらインターフォンなどはない。なんならば、本当に人の力で開くのか疑問に思うほどの重厚さである。

 篠上の先導の元、誠次は砂利道を歩いて、彼女の赤いポニーテールの後を追っていた。


「お婆ちゃーん! 私ー! 綾奈ー!」


 屋敷の中にいるであろう父親の母親に声をかけながら、篠上は裏口の木製柵の取っ手を動かし、戸を開ける。


「おりますかー!?」


 二度目の大声で、返事はあった。


「――久し振りだな、綾奈」


 小鳥たちが跳ねる大きな中庭を中央に、そこを一望できる縁側の先の居間に、篠上のお祖母ちゃんは正座をして佇んでいた。

 白い袴を着たその見た目は、七〇代とは思えないほど、とても若かった。髪の色こそさすがにダークグレーであるが、艶を保ったまま美しく、作り物と見間違えるほど。和装から除く手首も色白で張りがあり、美しいままだ。屋敷の古風な背景と相まって、まるで五十代あたりから時が止まっているような人物が、力強い眼差しで、中庭へやって来たこちらを見つめていた。


「は、初めまして。天瀬誠次と言います」


 正座をしている状態でも滲み出る気品と風格に圧倒され、なにを尋ねる間もなく、誠次は頭を下げていた。


篠上朱梨しのかみしゅり。私の名前だ」


 朱梨は軽く頭を下げてから、誠次を見定めるように、じっと見つめる。微かに篠上綾奈の顔立ちを感じさせる綺麗な顔は、決して皺も目立ってはいない。


「そなたの事は聞いている。魔法世界の、剣術士。さて、綾奈?」


 ちらりと、横目で篠上を見れば、彼女もまた緊張した面持ちで、答えていた。


「天瀬誠次くんは、充分に信頼できる男の子です」


 そんなことを言えば、朱梨は誠次を睨みつけ、しばし間を作る。

 誠次は頬に一筋の汗を流して、夏の日射しの真下、立ち尽くしていた。


「お祖母ちゃん。今日の私は本気です! どうか、一緒に話だけでもさせて下さい!」

「……いいだろう」


 朱梨は綺麗な姿勢を保ったまま、立ち上がり、こちらに背中を向ける。

 誠次と篠上は顔を見合わせ、互いに息を吐き出す。


「なにをしている? 二人とも上がりなさい」


 こちらはともかく、篠上綾奈までまるで客人のような扱いをされていた。

 畳の客間に上がった二人は、荷物を置き、改めて朱梨を前にする。

 朱梨はお茶を淹れており、それをそれぞれ誠次と篠上のお膳の前に置いていた。


「それで、この最果ての島にお前がその男を連れてまで来た理由とは。……まあ、聞かなくともおおよそ察しがつくが、改めて訊こうか」


 三人とも座布団の上に正座をし、誠次と篠上の目の前に座る朱梨は、澄ました顔のまま、尋ねる。


「何度も言っています。この家は危ないです。今すぐに改修するべきです!」


 左隣に座る篠上が、懇願するように頭を下げている。心から朱梨の身を心配しているのだろう。


「ではその男はなぜ?」


 朱梨の細めた瞳が、ひとまず誠次に向けられる。


「天瀬誠次くんは、”捕食者イーター”と何度も戦ったことがあります。その脅威を、彼は身をもって知っています。何かが起きてからでは遅いんです! お祖母ちゃん!」


 なるほど。そういう事か、と誠次はすぐに直感し、篠上同様、朱梨に頭を下げる。


「篠上綾奈さんの言うとおり、この家は”捕食者イーター”に対する設備が不十分です。引っ越しをして頂くか、そうでなくともせめて改築を進言します」

「そうか。そなたは私に対し、先祖代々守り続けてきたこの篠上の家を捨てろと言うつもりか?」


 穏やかに口角を上げる朱梨であったが、その心の底の憤怒を否応なしに感じ取り、誠次は身震いすら感じた。


「時代が、時代です……。篠上さんの家にどのような重い歴史があるのか、俺にはまだ分かりませんが、二者択一を迫られたとき、守られるべきは過去の財産ではなく、今を生きる人だと、俺は思います」

「……」


 その言葉を聞いた朱梨は、やや瞳を大きく開け、こちらを見つめる。その表情には、怒りも、虚しさも漂わせているようだった。


「天瀬誠次。そなたのことはよく知っている。綾奈がメールを送ってきていてな、それはまるで思い人を綴るふみのようだったよ」


 唐突に告げられた事に、誠次は思わず隣の篠上を見る。

 すると、篠上は恥ずかしそうに正座の手をぴんと伸ばし、真っ赤に染めた顔で俯いていた。


「この男なのだろう綾奈? 私にかなうかもしれないという男は。そしてお前が――」

「お祖母ちゃん! わ、私は、天瀬くんと一緒に説得に来たんです!」

「言ったはずだよ綾奈。どうしても私の意思を変えたければ、方法は一つしかないと」

「?」


 交わされる婆と孫娘の会話を横に、誠次は小首をかしげる。

 篠上綾奈の青い目が、驚きをもって大きく開かれている。

 対して、こほんと優美な咳払いを行った朱梨は、ゆっくりと立ち上がり、誠次を手招く。


「来なさい天瀬誠次。綾奈」


 反論をする余地も余裕も与えさせてはくれず、女一人で広大な屋敷に住む朱梨は、本州からやって来た二人をとある場所へ誘った。

 屋敷の中でも、一際大きかった扉を開けるとそこは、四つの柱が支柱となって天井を支える、広大な面積の道場が広がっていた。


「お祖母ちゃん!?」


 篠上が不服そうに朱梨に詰め寄るが、朱梨は一礼をすると、道場の奥へ歩いて行ってしまう。

 それはあっという間の出来事であった。誠次が圧巻となって、道場内を見渡していると、しゅるりと紐が結ばれる音が、よく響いて聞こえる。

 視線を正面へと戻せば、道場奥の掛け軸の前、立ちはだかる女性の凛々しい姿があった。


「天瀬誠次。……いや、こう言った方がいいか、剣術士。私と手合わせ願おう」

「え……」


 誠次は戸惑い、返事をすることを遅れる。

 朱梨の白い袴には紐が巻かれ、着付けがされていた。そうすれば、先程までの穏やかな印象とはうって変わり、まるで戦国時代に登場するような女傑と言ったような印象が強くなる。


「む、無茶です。貴女は――」

「身体は七〇を越えているが、大した問題じゃないさ。久し振りに骨のある相手と期待しているよ、天瀬誠次」


 薄く笑う朱梨は、背に矢筒と弓を備え、両手で身の丈以上の長さはある薙刀を握っていた。そして、腰には一振りの日本刀までもがある。


「天瀬……」


 隣に立つ篠上は、申し訳なさ気にこちらに青い視線を送る。

 どういう事か、精一杯状況を呑み込んだ誠次は、一度深呼吸をする。


「篠上朱梨さん。つまり俺が貴女に勝てば、貴女は屋敷の改築、それか移住を認めてくださるのですか?」

「そう言う約束で綾奈と戦っても、いつも私が圧勝してしまう。そなたが私を討ち負かせれば、私の力不足としてその要求、甘んじて受け入れよう」


 して、如何かな? と朱梨は、面白気に誠次を見やる。

 身体も決して大きいわけでもなく、高齢の身。それでも朱梨から放たれる強大な威圧感と気迫に改めて息を呑んだ誠次は、慎重に頷いていた。


挿絵(By みてみん)



~イルカと会話する少年?~


「船の外は熱いから、部屋の中に避難してきたぞ」

せいじ

「ここの窓からでも、外の海が見られるんだな」

せいじ

「あ、さっきのイルカか!?」

せいじ

「確かイルカって、頭良いんだよな……」

せいじ

「鳴き声は……きゅい?」

せいじ

「きゅいー! きゅいーっ!」

せいじ

           「入るわよ天瀬。一緒に夜ご飯でも――」

            あやな

「キィエーッ! キィエーッ!」

せいじ

           「天瀬がおかしくなったーっ!?」

            あやな

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