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魔法世界の剣術士 中  作者: 相會応
ミルキーウェイで会いましょう
39/189

6

某死にゲーの竜狩りさんと、くるくるアクロバティックな前転しながら追いかけてくる仮面鎧の人たちはトラウマです。

 翌朝。二〇八〇年の七月七日は日曜日であり、多くの人にとって休日となっていた。朝日は眩しく、予報では一日中晴れとなっており、直接見ることは叶わないが、夜には綺麗な星空が広がるそうだ。

 夜を失う前から病院では、患者にいつなにが起きても対処できるように、住み込みの医師がいる。夜を失った世界でも、そこは変わらないものであった。

 支度を終え、ナース服を着た看護師たちが朝早くから忙しそうに、ロビーや通路を行き来している。


「302号室、ティエラ・エカテリーナ・ノーチェさんの回診行ってきます」


 女性看護師の一人が職員室で担当する人のチェックをし、早速、スペインからやって来た熱中症の皇女の元へと向かう。

 もっとも病院側は、ロシアの魔法学園からやって来た留学生、と言う事でしかティエラを認知していないが。


「ティエラさん。朝の回診のお時間です」


 ドアをノックし、中からの応答を待つが、それがない。


「ティエラさん? 失礼しますよ」


 まだ眠っているのだろうかと、予め回診の時間は昨夜伝えておいた事を前置きに、看護師はティエラの病室のドアを開ける。


「え……」


 絶句する看護師の視線の先、白いベッドの上に、ティエラはいなかった。強引に引き千切られた点滴のチューブが、開け放たれた窓の先から差し込む朝日に、照らされている。


「まさか、窓から……。でもここは三階……」


 ロビーには常に勤務している看護師が何名かいるので、素通りは不可能なはずだ。

 ――となれば。

 窓から身を乗り出して、下にある駐車場を確認する。空でも飛ばない限り、飛び降りたら軽い怪我ではすまない高さだった。


         ※


「……」


 快晴の青空に咲いた眩い太陽を手で隠し、顔だけに日差しを作り、恨めしく空を見上げる。ビルとビルの間から覗く日差しは今日も暑く眩しく、ティエラは浮かない顔を背けた。


「――如何なさいました、ティエラ様?」


 ホログラムの信号機が車を誘導している道路上の車の中。数十年前に電柱は全て地中に埋められ、歩道の景観も良くなった日本の首都東京の朝は、今日も蒸し暑い。

 運転席に座るギルシュ・オーンスタインは、日本で借りたレンタカーを操り、東京の中でも更に中心部へと走らせる。


「……気に障りますか?」


 ロシア語でのやり取りであった。


「いえ。しかし何処か面白くなさそうなお顔をされていたので」

「なんでもありません」

「そうですか。では、急ぎますよ」


 何処か愉しげに、ギルシュは口端を曲げていた。


「向こうも、きっと再戦を楽しみにしていることでしょう。言うなれば、我ら国際魔法教会ニブルヘイムが手塩にかけた二人の優秀な魔術師による一騎打ちです。その試合の監督を行えるとは、これもまたこの私が優秀な国際魔法教会ニブルヘイム幹部だからのこと」


 ことあるごとに自分の地位を自慢するギルシュと言う男であったが、自分も同じようなものか、と心の中で自嘲し、ティエラは大人しく聞いていた。

 

「……ルーナ、私は楽しみです。強くなった私は、もう負けません」


 ふと、そこでバックミラーに映るギルシュと目と目が合った。冷房が効きすぎていたのだろうか、二人が乗る車内はどこか、肌寒く感じた。


         ※


 夜を越え、晴れて七夕当日を迎えたヴィザリウス魔法学学園。

 そこでは、私服姿のルーナが学園通路にて、二人の同級生男女にとある事情で詰め寄られていた。


「だから、ルーナは私と料理を作るの!」


 一人は、篠上綾奈しのかみあやな


「いいや、ルーナは俺とゲームをするんだ!」

 

 そしてもう一人は、天瀬誠次あませせいじ

 ルーナに詰め寄る二人は、包丁とゲーム機を交互に押しつけ合う。

 睨み合う二人に挟まれる形となっているルーナは、両手を胸の前まで挙げ、二人を抑えていた。


「ふ、二人とも。喧嘩はしないでくれ……」

「ルーナは私のものよっ!」

「ルーナは俺のものだっ!」

「俺のものとは誠次……そうか私は……」


 胸に手を添えて嬉しそうに微笑むルーナを取り合う同級生の様子は、周囲の人の目を大いに引く。ルーナからすれば、このような状態はよくあるのだが、その原因を打開しようと頼れる篠上と誠次に頼んだところ、よりにもよってこの二人がこうなるとはまったくもって想定外であった。

 はっとなったルーナは、邪念を振り払うように首を左右に振り、いつも通りクールな表情へと戻る。


「二人ともすまない……。私が欲張りすぎた……」

「何よゲームって。全然女の子らしくないわよ! アンタ、そんな女の子可愛いとでも思ってるの!?」


 顔を真っ赤にしながら、篠上が誠次にいてくる。

 誠次は迷う間もなく頷いていた。


「あ、ああ! 可愛いと思っている!」

「……そ、そう……。ふぅん……」


 急に満更でもなさそうにする篠上に、誠次も勢いを無くし、棒立ちとなる。


「?」


 ゲーム好きな女性を好きと言われてしおらしくなった篠上と、何かを思い出したようにして顔を真っ赤にし始める誠次を交互に見つめて、ルーナは首を傾げる。


「で、でも、()()()()()()()話は別っ! ルーナに美味しい料理の作り方を教えるの!」

「いいや、俺もルーナをみすみす諦めるわけにはいかない!」

「せ、誠次……」


 再び顔を赤らめるルーナを見て、篠上はむすっとした表情を見せる。

 この目の前に立つ男子は本当に分かっているのか分かっていないのか、時々こちらが分からなくなり、それで、どうしても気になって……。


「アンタさっきから卑怯よ! 言い方狙ってるでしょう!?」

「? 何のことだ! 俺はただ、ルーナと一緒にゲームがしたいだけだ! 日曜日の学校が休みの日のゲームなんて最高だろう!?」

「本当に馬鹿すぎるっ!」


 篠上の右手に握られた包丁が、さきほどから何度もきらりと光っている。


「うわ危ない! 刃物を人に向けるな!」

「ご、ごめんなさい天瀬……って、だからアンタに言われたくないんですけど!?」


 馬鹿真面目に受け答えする誠次に、篠上は地団駄を踏む。

 ぐぬぬと、篠上は誠次を睨んでいた。


(こうなったらルーナにどっちと過ごすか決めて貰う……って、そんなことをしたらルーナは絶対に天瀬を選ぶに決まっている!)


 もしそうなったとしよう。篠上の頭の中では、誠次とルーナが冷房の効いた部屋の中で、二人だけでゲームをして遊んでいる光景が、事細かに思い浮かぶ。


「誠次。ここはどうすればいいのだ? 出来れば、教えてほしい」

「ここは一緒に乗り越えよう。俺についてきてくれ」

「ありがとう、君は本当に頼りになるな……」

「俺もルーナの力になれて嬉しいよ」

「うふふ。誠次……大好きだ」

「ははは。ルーナ……俺もさ。篠上よりも愛してる」


 やがて二人は、肩を寄せ合うまでに自然と接近し、ふとゲームをする手を止めて、熱っぽい視線で見つめ合い――。

 その先の事までも想像した篠上は、慌ててぶんぶんと首を横に振る。気付けば全身が熱く、変な汗もかいていた。何としても二人が部屋で二人きりでゲームをするのを阻止しなければ! 

 内心であらぬ妄想をしていた篠上は、指を立てて、こんなことを言いだす。


「こ、こうなったら天瀬も来なさいよ! 今日は一日休みなんだし、料理もゲームも三人ですれば問題ないわ!」

「料理してゲームするのか?」

 

 誠次が目を見開くが、ルーナもその案に賛成のようであった。


「それはいいな。それなら、平和そうだ」

「でしょう!?」


 篠上の一人勝ちな気もするが、ルーナが賛成してしまっている以上、誠次が反論することも出来ない。


「しかし、俺が無闇に女子寮棟に行くわけにはいかないだろう」

「こう言うとき、《インビジブル》が使えれば便利なんだけどね」


 篠上も思い出したようにして、頭を悩ませる。


「私の部屋なら平気だ。クリシィも君なら歓迎するだろう」


 それにと、ルーナは誠次に向けて手を差し出す。

 

「ロシアのガンダルヴル魔法学園では、ボーイフレンドを部屋に誘う女子生徒も多くいた」

「そうなのか?」

「さすが海外ね……」


 篠上があごに手を添えている。

 そして、何やら気がついたように、ははんと口角を上げて、ルーナを見る。


「もしかしてルーナ、内心でその光景に憧れてたり?」

「わ、私のガンダルヴル魔法学園の魔法生時代の話は放っておいてくれ! 別に羨ましかったなどとは思っていない!」


 髪を揺らし、全力で否定するルーナであるが、篠上はふふんと勝ち誇ったように笑っている。やはり、ルーナも年頃の女の子だったというわけか。


「ガンダルヴル時代のルーナって、それこそ軍人みたいな感じだったんだろうな」


 誠次もそんなことを言えば、ルーナは耐えきれずに俯き、もじもじとする内股の姿勢で熱い息を吐き出す。

 

「い、今はもう、何ら変哲のない魔法生だ。だ、だから……。君が私の部屋に来るのに、何ら問題はないだろう……?」

「……いや、根本的問題の解決には至っていない気が――」

「誠次! 君のいつもの勇敢さは何処へ行った!? 胸を張ってついてきてくれ!」


 ルーナは四の五の言わせずに誠次の腕を掴み、女子寮棟へ向けてずいずいと進みだす。


「こういう所の勇敢さは持ち合わせてはいない! と言うより、持ち合わせちゃ駄目だろ!?」

「ちょっと!? 待ちなさいってば!」


 篠上が慌てて二人の後を追いかけようとすると、三人の進行方向であった女子寮棟側から、歩いてくる見慣れない女子が一人いた。


「――ご機嫌ようルーナ。お久し振りね」


 それは綺麗な顔立ちをした、同い年の外国人の女性のようだった。セミロングの金髪に紫色の目。ノースリーブの私服はこの夏の暑さにしてもそれなりに大胆な服装だが、周囲の女子高生たちも同じような私服だ。

 立ち塞がるようにして現れた女性を前に、誠次の手を引いていたルーナは立ち止まり、女子を見つめる。


「私はティエラ・エカテリーナ・ノーチェ。貴女の運命の人です」


 片手を胸に添え、もう片手をルーナへ向けながら、ティエラと名乗った少女は高らかな声で宣言する。周囲の魔法生たちのヒソヒソ声を、気にすることもなく。


「運命の人? 悪いが、運命の人はすでにいる。私は今から部屋に誠次を招くんだ!」


 誠次が痛みを感じるほど手をぎゅっと握り締めながら、ルーナは返答する。よほど、部屋に異性を招く行為に憧れと夢を抱いていたのだろうか、それとも。

 きゃ、と顔を真っ赤にする篠上が小さな声で悲鳴をあげている。

 そして、ルーナの前に立ち塞がったティエラは、最初こそうんうんと頷いていたものの、最後の一言で身体をピタリと止め、何やら戦慄している。


「い、いま何と仰ったのです……っ!?」


 ぷるぷると震える指先を、ルーナと誠次へ交互に向け、ティエラはき返す。


「私は誠次を部屋に招くと言った。邪魔はしないでくれ」


 ルーナは誠次の手をぎゅっと掴んだまま、逃がすものかと放さないまま、話す。


「待ってくださいませ……。貴女、ルーナ・ヴィクトリア・ラスヴィエイトですわよね……!?」

「ああ。私の名はルーナ・ヴィクトリア・ラスヴィエイトで相違ない」

「誕生日は?」

「三月一〇日だ」

「好きな食べものは?」

「マヨネーズ。黄身多めだ」


 質疑応答を繰り返し、ティエラは、確証を得てしまったようだ。


「本当に、あのルーナなのですの……?」

「君が何を想像していたのかは分からないが、私はヴィザリウス魔法学園の魔法生、ルーナ・ヴィクトリア・ラスヴィエイトだ」

「私のこと、覚えていなくて……?」


 訊かれ、ルーナはじっとティエラを見つめる。

 ルーナからすれば、彼女の容姿に心当たりはなかったが、思い当たる節は存分にあった。

 すなわち――また私に淡い幻想を抱いて告白をしに来たに違いがない。見覚えはないヴィザリウス魔法学園の女子生徒だが、自分もまだここへ来て半年なので、顔見知りでないのは珍しくない。事実、それでも一目惚れという線は幾つもあった。

 よってルーナは、()()()()()()()()()()()()に対し、極力相手を傷つかせないように、慎重に言葉を選ぶ。


「すまない。君は私のことをよく知ってくれているようだが、私は君の事をよく知らない。それに私には、すでに心に決めた相手がいるのだ」


 そうしてルーナは、誠次の手を強く引き寄せる。

 前のめりになりかけながらも、誠次は咄嗟に態勢を整え、ルーナの横に並び立つ。


「すまない。ルーナは女の子からそのような感情を受け取っても、応えられないんだ」


 困った様子のルーナを助けるためにも、誠次がティエラに向けてそう声をかける。

 ルーナは少々顔を赤く染めつつ、誠次の腕をぎゅっと掴んでいた。

 そんな二人の様子を見つめていたティエラは、何やら青冷めた表情で、ルーナを見ている。


「どうしてしまいましたの……!? あの、凛々しいルーナ・ヴィクトリア・ラスヴィエイトは一体何処へっ!?」


 ティエラの覇気ある言葉に思わず押され、誠次は言葉を慎む。どうやら彼女は、よほど強い執念を持っており、今までとは違うようだ。


「……これ以上誠次に迷惑はかけたくない。話があるのなら、私が一人で聞こう」


 ルーナとしても、ここで引き下がらないのならばやむを得ないと、前へ一歩進み出る。


「勘違いしないでくださいませ、ルーナ・ヴィクトリア・ラスヴィエイト。この私は、貴女とゆめゆめ話すためにここへ来たのではありませんわ!」


 胸を張り、高らかに宣言するように言うティエラの前で、誠次とルーナは顔を見合わせる。


「強情だな……」

「まるで出会ったばかりのルーナのようだな……」

「せ、誠次っ!? わ、私はあんなんじゃなかっただろう……?」

「そこっ! 聞こえてますわよ!?」


 ぼそぼそと顔を近づけて会話をしていた事が、ティエラには不愉快だったようだ。よほど、ルーナの事が好きなのだろう。これではさすがに両者共に可哀想になってしまう。


「ルーナ。私は貴女をこの手で倒しに来たのですっ!」

「「なるほど。そういう事か」」


 目的を明かしたティエラの前で、誠次とルーナは同時に手を叩いていた。


「……へ?」


 急に変わった空気に、ティエラは首を傾げていた。


 場所は移って、ヴィザリウス魔法学園女子寮棟、ルーナとクリシュティナの部屋。

 通常は四人が寝泊まりする場なので、それでも窮屈しない広いリビングにて、ルーナとティエラは汗を滴らせ、激しいバトルを繰り広げる。


「そこだ!」

「そこですわ!」


 対戦型アクションゲームで。拡大も縮小も出来る、大画面のホログラムテレビの前で、二人の姫は横並びで座っていた。ルーナは正座をし、ティエラは体育座りをして。

 ルーナが扱う槍使いのキャラクターが、ティエラの扱う鎌使いのキャラクターをステージ端へと追い詰めていく。どちらかのキャラクターを画面端へと追い詰めて吹き飛ばせば勝ちな、対戦ゲームである。大人数でやれば白熱すること間違いなしだ。


「ひ、卑怯ですわよルーナ! 槍のリーチが長すぎますわ!」

「その分攻撃力は控えめだ。君は隙を見て、近付けばいいだろう」

「ちょっと、攻撃を中断して下さいませ!」

「勝負に待ったはないだろう」

「そうですけれども……あっ」


 ティエラの操る鎌使いのキャラクターが画面外に突き飛ばされ、衝撃波を放ちながら、星の塵になっていく。

 

「っく、卑怯ですわよルーナ! 練習したのですね!?」

「いいや。初めて行うげーむだが、これはなかなか楽しいな」

「もう一戦ですわ!」

「いいだろう。何度でも来い」


 コントローラーをぎゅっと握り締め、ティエラとルーナは横並びに座って戦いを続ける。まるで、諦めない妹とそれを簡単にあしらう姉のようなやり取りだ。


「いいぞルーナ。そこで必殺技だ!」


 そんな二人の後ろで、ソファの背もたれに手をつき、見守っていた誠次は声をかける。

 そのすぐ隣では、篠上もティエラへのアドバイスを逐一行っている。代理戦、と言えばいいだろうか。


「違うわティエラ! 槍相手にその間合いは不利よ! 私が言ったとおりに弓キャラ使えばいいのにもう!」

「う、うるさいですわ! 私は鎌使いがいいですの!」


 篠上とティエラの相性は最悪、と言ったところであった……。


「白熱されていますね」

「ゲームの楽しさが、私には分かりません」


 とても白熱している両者を余所に、部屋の奥では千尋ちひろとクリシュティナが優雅にお茶をしている。


「また負けたのですの……」

「ふ。私の勝利だ!」


 槍攻撃による見事な連撃を受け、吹き飛ばされた鎌使い。ちかちかと輝く画面を前にして、肩を落とすティエラに、ルーナは勝ち誇ったような表情を見せる。


「あーあ……」

「やったな、ルーナ!」


 後ろでも、ゲームを行う二人と同じような反応を、二人でしていた。


「悔しい……。今度私と勝負しなさいよ、天瀬!」

「いいだろう。手加減はなしだ」

「アンタはどうせ剣使いなんでしょ?」


 篠上が不敵に微笑んでいる。確かに剣使いキャラクターは、遠距離攻撃を得意とする篠上の扱う弓キャラクターには不利であるが、誠次は首を横に振る。


「いいや。俺は魔法使いキャラクターでいく。と言うより、ずっとそうだった」

「はあ!? そこは剣使いでいきなさいよ!? なんのために剣持ってるのよアンタ!?」

「ゲームの世界ではせめて魔法使わせてくれたっていいだろう!?」


 第一、と誠次は不満げな表情で人差し指を立てる。


「子供の頃から八ノ夜さんとゲームすると、あの人いっつも剣使いを選ぶんだ。俺は決まって後衛の魔術師キャラクターだ。魔術師操作できるのは楽しかったけどさ」

「全然……想像できないわね」


 篠上からは苦笑され、誠次は面白くなくそっぽを向く。


「あと、あの人負けると露骨に機嫌悪くなるから、接待プレイは得意だぞ」

「……」


 絶句する篠上の中でも、八ノ夜に対する理想の魔女像が崩れてしまった瞬間である。


「どうするティエラ? もう一戦するか?」

「望むところですわ――」


 ルーナの挑戦を受け、ティエラが再びコントローラーを両手に持った瞬間であった。


「って、違いますのよっ!」


 途端、コントローラーを放り投げるティエラ。ホログラムテレビ画面を突き破ったコントローラーは、壁にぶつかって落ちていた。


「こら。いくらムカついても、コントローラーは投げるな。壊れちゃうだろ」

「ご、ごめんなさいですわ」


 誠次に注意され、ティエラは大人しく謝罪するが、すぐに首を横に振る。


「って、だから違うのですのっ!」

「ようやく弓キャラにする気になった?」

「いえそれも違いますのっ!」


 篠上が尚もおすすめしてくるが、ティエラはぶんぶんと首を横に振り続ける。


「私はこのようなげーむで遊ぶ為に来たわけではありませんわ! と言うより、警戒心なさすぎではなくて!?」


 ティエラは部屋の中を見渡し、叫ぶ。

 ティエラの付近にいた三人は、ぽかんとした表情をしている。


「敵をなんの警戒心もなく自室に招いてどう言うつもりですの!?」

「しかし敵としてげーむの相手をするには、同じ機械でしなければならない」


 ルーナがそう指摘するが、ティエラは「だから違いますの!」と怒鳴る。


「ルーナ! 私は貴女と本気の勝負をするために、ガンダルヴル魔法学園から馳せ参じましたのでしてよ!?」

「ロシアのガンダルヴル魔法学園から……?」

「その通りですわ! さあ、私と本気の魔法戦をしなさい!」


 ティエラは自信満々の表情で、ルーナに向け手を差し出す。

 綺麗な細長い手をじっと見つめるルーナであったが、次には首を横に振る。


「戦う理由が見つからない」

「理由ならありますわ! この私が、貴女に勝ちたいのですの!」

「そんな感情的な理由では、無意味にお互いが傷つくだけだ。そんな理由で私は戦えない」

「そんな……」


 ルーナの発言がよほどショックだったのだろうか、ティエラは先程までの熱狂の雰囲気が嘘のように静まりかえるほど、落胆していた。

 誠次と篠上も何も言えず、顔を見合わせ、どうしたものかと肩を竦め合う。


「……私の知っている誇り高き竜騎士は、もういないと言うことですの……?」

「誇りはまだあるつもりだ。それは、このヴィザリウス魔法学園の大切な仲間と共にいることだ。彼ら彼女こそらが、今の私の誇りなんだ」


 ルーナは少々恥ずかしそうにだが、周囲を見渡して、言う。誠次と篠上も、リビング奥に座っている千尋も、にこりと微笑み、こちらへ向けて軽く手を振っていた。


「……っ」


 ティエラはじっと思い詰めた後、おもむろに立ち上がっていた。


「ティエラ?」


 ルーナが心配そうに声をかけるが、ティエラは歩きだす。


「……失礼しましたわ」


 部屋を出て行く直前に軽く頭を下げ、ティエラは行ってしまう。

 微妙な空気となった部屋の中で、ルーナは軽く頬をかいていた。


「また、一人の女性を悲しませてしまったようだ……」

「「って、そもそもあの人誰だったの……?」」


 根本的な疑問を述べる誠次と篠上であった。


          ※


 ヴィザリウス魔法学園の敷地外の大道路に停まっていた車に、ティエラは乗り込む。

 国際魔法教会幹部のギルシュは、運転席に座ったままティエラを迎える。


如何いかがでしたか?」


 まるで最初から答は分かっているような言い方であるが、ティエラがそこに気付くことはなく、ギルシュはほくそ笑みながら訊く。

 後部座席に座り込んだティエラは、自分の手で自分の腕を擦りながら、俯く。


「そのご様子ですと、どうやら断られてしまったようですね」

「……ええ」

「……心中お察し致します」


 ギルシュは休日を過ごす魔法生たちが多くいる魔法学園の敷地を眺め、呟く。


「このままロシアへ、帰りましょうか?」

「……」


 無論、このままロシアへ帰りたくは、ティエラは思っていない。しかしルーナにきっぱりと断られてしまった今、選択肢などない。

 

「ルーナが、変わっていましたの……。あの勇ましさは、一体何処へ……」


 まるで夢から覚めたかのように、ティエラは虚しさを漂わせて、呟く。


「貴女にとってのアルタイルは、日本に来て変わってしまったようですね」


 ギルシュは青空を眺めており、そんなことを言う。


「このまま戻って、全てを無駄にしますか? 一年越しに、ようやく会えたというのに」


 ギルシュの試すような物言いに、ティエラははっとなって顔を上げる。

 ティエラの心を揺さぶり続けるギルシュは、バックミラー越しにティエラの様子を、逐一確認していた。


「帝国の民も、ご両親も、ガンダルヴル魔法学園のみんなも、国際魔法教会ニブルヘイムも貴女を見損なうでしょうね。なにもせずに帰ってきた皇女様」

「い、嫌ですわっ!」


 ティエラは駄々をこねる子供のように、後部座席で小さく絶叫する。


「どうにかしてルーナと戦わなければ……。誇り高き皇女であるこの私が、このままみすみす帰れませんわ……!」

「そうこなくては。さすがは、クエレブレ帝国皇女です」


 ギルシュはほくそ笑み、もたれ掛かっていたハンドルから両手を離す。


「しかし、どうすればルーナと戦えるのでしょうか……」

「一つ、お話があります」


 ギルシュは人差し指を天に向け、振り向きながら言う。


「人は真に大切なものを守るためならば、命懸けで戦う。かつて、自分がそのような恩を抱いた相手ならば、尚更」

「大切なもの……」

「貴女が言うには、ルーナは日本ここへ来て変わった。つまりは、ここに自分を変えるほどのなにかがあったのでしょうね」


 そこまで言われ、ティエラはすぐに思いつく。

 再会を果たしたルーナのすぐ傍にいた、黒い目をし、背中と腰に一本づつの剣を装備していた男の子の事を。


「あの男が、ルーナを狂わせたのですね……っ!」


 愛憎の念が入り混じったティエラの確証を抱いた言葉は、ギルシュの切れ長の目を細くさせる。


「これにてさしずめ、恋と夏の大三角形の完成でしょうか」


 あと数時間後には空で輝くであろう星々。それが儚くも光を散らす光景を思い描き、ギルシュは嬉々とした表情を見せる。

~夏と言えばキーンと一発~


「はいおまちどおさま! ええと、まっちゃくろみつしらたまなまくりーむきなこかき氷!」

ここは

          「ありがとう心羽。学園の中庭で無料でかき氷作ってくれるなんて、助かる」

            せいじ

「かおりん先輩とイエティちゃんたちのお陰だよ!」

ここは

           「ガギゴゴギ!」

            いえてぃ

「魔法で氷はいっぱい作れるから、沢山作れちゃうんだ」

ここは

           「なるほど。じゃあ早速、頂きます」

            せいじ

「わくわく……」

ここは

           (? なぜ、心羽はこちらを見ているんだ……?)

            せいじ

「どう、せーじ!? 頭、痛くなった!?」

ここは

           (なるほど。アイスクリーム頭痛と言うやつを期待しているんだな)

            せいじ

           (俺はあまりならないタイプだけど、ここは一つ、乗っかってやるか!)

            せいじ

           「ぐああああああっ!?」

            せいじ

「っ!?!?」

ここは

           「痛いっ! 痛すぎるっ!」

            せいじ

           「この痛さはいったいなんなんだ!? 頭が、割れるようだっ!」

            せいじ

「た、大変! 今心羽、ダニエル先生呼んでくるから、ちょっと待っててせーじ!」

ここは

           「それはまるで、頭に剣を……って、ちょっと待ってくれ心羽!?」

            せいじ

「――大丈夫かね天瀬誠次クンッ!?」

だにえる

           「速っ!」

            せいじ

「尋常ではない頭痛のようだ。吾輩が今、つきっきりで看病してやろう!」

だにえる

           「あ、ああ……頭が痛くなってきた……」

            せいじ

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