3 ☆
子供の頃から身体が弱くて、病気がちだった。
学校と病院を何度も行き来して、友だちらしい友だちも作ることが出来なかった。そんな少女が好きになったのは、本だった。病院ではホログラムを使えないため、必然的に紙の媒体による読書。
それがヴィザリウス魔法学園一年生、七海凪の好きなことだった。
自分に自信がなくて、引っ込み思案で、身体も弱い。そんな自分でも、魔法を扱う魔法学園に入学すれば、何かが変わるかも知れない。僅かばかりの勇気と、ちょっぴりの期待を胸に、ヴィザリウス魔法学園に入学して、早くも半年。結局自分は、率先して何をすることもなく、ただ変わらない月日を過ごしていた。
そんな七海凪と、彼との初めての出会いは、夏前のヴィザリウス魔法学園の図書館でのことだった。
あまり人気がない為か、端の尚かつ高いところにあった本を、七海は物体浮遊の汎用魔法を使って取ろうとしていたところだった。
「――あ、その本、君も興味あるのか?」
右腕を伸ばしていた七海の横には、まるで椅子を積み木のように積み重ねている先輩男子が立っていた。一つ年上の、青いネクタイに青いラインの制服を着た、変な髪型の黒い瞳の先輩である。
子供がやるような事をしているようだった先輩に、七海はあっと驚く。
「な、何してるんです……? 椅子は積み木では……」
「いや、べ、別に遊んでいるわけではないぞ!? 俺はこうしないと、高いところの本も取れないしさ。魔術師向けにここが作られているのは分かっているけど、俺からすれば不便だな」
どこか悔しそうに、先輩はぶつぶつと呟き、天を見上げていた。
その先輩の事は、七海もよく知っていた。魔法が使えずに、背中に剣を背負った男の子。当初は誰もがその存在を気味悪がり、実際に七海もその一人であったのだが、まさかこんな所で遭遇するとは。
だから七海は思わず、後退りしていた。
「こ、怖がらないでくれ……」
それに気付いた先輩は、両手を胸の前で掲げ、宥めるようにこちらに声を掛ける。
「は、はい……。ごめんなさい……」
「そう言う反応は慣れてるから構わない。しかし、背中の剣を棒のように伸ばして取ろうにも、本を傷つけてしまうかも知れないし。やむを得ずこうしていたんだ」
「……」
心臓が緊張でどくどくと鳴る中、七海は先輩をじっと見つめる。ただでさえ少ない学園生活の経験で、先輩男子は愚か、同年代の男子と話すことなど、今まで全くもってなかったからでもある。そこへ更に、目の前に立つ先輩が自分とは真逆の有名人であることも、七海のあまり強くはない心臓の鼓動に拍車を掛けていた。
「わ、私は別の所へ……」
「あ、ちょっと待ってくれないか?」
「ひゃっ、な、何でしょうか……?」
慌てて立ち去ろうとする七海を、先輩は呼び止めていた。
お陰で、変な声を出してしまい、顔を真っ赤にして俯いてしまう。
それに対し、先輩は少しだけ、申し訳なさそうに後ろ髪をかいていた。
「君も天文の本、読みたかったのか?」
確かに、七海が取ろうとしていた本は、天文関係のものであった。
どうやら先輩も、その本が目当てだったようである。図書館の隅にある、あまり人気のない本だ。
「は、はい……」
「そうか。なら是非読んでくれ!」
心なしか、もの珍しい黒い瞳をきらきらと輝かせ、先輩は嬉しそうに言ってくる。
「……え?」
「何を隠そう、俺の両親は二人とも天文学者だったんだ。分かる範囲だったら、何か教えられるかも知れないし」
「私とお話ししても、楽しい事なんてありませんよ……」
「楽しい事……? 別に俺はただ、嬉しいんだ。同じ趣味がある人が同い年ぐらいでいるなんて思わなかったからさ。それとも、適当に天文の本を見たいと思ったのか?」
「……はい」
本当は、調べ物があったので読みたかったのだが、思わず七海は嘘をついてしまう。この時代で天文の事など学んでも、何ら意味などないので、笑われたくはかった。何よりも、自分と話して、自分がつまらない人間だと思われて、変に嫌われるのが嫌だった。……そんな偏屈な自分が嫌になるのは、今に始まった事ではない。
すると、目の前の先輩はバツが悪そうに後ろ髪をかいてしまっていた。
「そ、そうなのか……。じゃあ俺の勘違いか……すまなかった……」
先輩はどこか寂しそうに、苦笑いをしていた。
「あ、あの。本、取ってあげます」
どことなく申し訳ない気がし、七海は魔法を発動する。
「そうか、助かる。ありがとう。優しいんだな」
「これくらいは……」
本当は読むはずであった予定の本を、七海は先輩に魔法で運んで渡していた。
「君はいいのか?」
「は、はい……。私は平気です……」
「……取ってくれて、ありがとう。次からは高いところは、素直に誰かに魔法を使ってもらって頼ることにするよ」
先輩は納得していないようではあったが、深くは食い下がらず、手を引くように頷いてから笑っていた。
それきり七海は、先輩の元から離れる。
病院から学園に来られるときは、図書館には必ず立ち寄ることにしていた。先輩も本が好きなようで、見掛けることは多々あった。しかし七海は、先輩に近付くことはせず、遠くからその目立つ姿を何度も見るようになる。
先輩の周りには、沢山の人がいつも集まるようになっている。自分とは違って、明るくて前向きな先輩のことだ。自然と人を引き寄せるのだろう。……自分とは、違って。
もう話しかける事も出来なくなった。いつしか七海は先輩に対し、強い憧れと同時に、勝手な嫉妬を抱くようになってしまった。
それはただ自分に勇気がないだけなのに、なんて醜い……。そう感じてしまう七海は、気付けば逃げるように、先輩の視界に入らないように天文の本を読むようになっていたのだ。
いつも自信があって前を向ける彼のことが、羨ましい。その自信の源とはやはり、背中の剣なのだろうか。背負うものが形としてあるだけで、何かが違うのだろうか。
「今日も病院に行かないと……」
病弱な身体が災いとなり、部活にも打ち込めない。七海凪にとって今や大切な居場所とは、学園よりも病院となっていた。
※
東京都内の病院に、熱中症により搬送されたティエラは、病院にいた少年少女を周囲に寄せ集める事態に陥っていた。何を隠そう、病院でも七夕のイベントが開催されており、病院に通う少年少女たちが見慣れない外国人の女の子に興味津々だったのだ。
「へえー。お姉ちゃんお姫様なんだー」
そして、元々病院に入院している病衣姿の子供たちも。
「ええそうですわ! クエレブレ帝国の皇女ですの」
「食いまくり帝国?」
「ええ。島国ならではの地中海で獲れた新鮮な魚介類と、温暖な気候で育てられた果物が、食欲をそそるまさに食べ放題の楽園……って、クエレブレ帝国ですわっ!」
「お姫様がノリツッコミしたー!」
「適応力高いお姫様だー!」
「当然ですわ! 私は大国クエレブレの皇女なのですから!」
「しかもですわ口調だー!」
「量産型お姫様だー!」
子供相手にノリツッコみを繰り出す、量産型で適応力の高い姫であるティエラに、子供たちは楽しげに笑っていた。海外から来た人がよほど珍しいのだろう。それほどまでに、世界各国は閉鎖的となってしまっているのだから。
「お姫様、ちゃんと飲み物飲まないと駄目なんだよ? だから倒れちゃったの」
「心得ていますわ……。みなさんは、私のようにはならないで下さいませね?」
「「「はーい」」」
子供たちの元気のよい反応に、ティエラも満足そうに微笑み、頷く。
「――みんな、あまりティエラさんを困らせちゃ駄目だよ……」
病室の入り口の方から、ティエラにとって聞き慣れた少女の声がする。七海だった。
「凪お姉ちゃんだー!」
「こんにちはー」
子供たちは七海の元に駆け寄り、何かを期待するかのように七海を見上げていた。
七海は手慣れた様子で、持っていた鞄から何かを取り出していた。
「はい。みんなの分、ちゃんとあるから」
ティエラがきょとんとして見つめる視線の先で、七海は紙の媒体の本を取り出しては、子供たちにそれぞれ配っていく。
「貴女は、これ」
「ありがとう凪お姉ちゃん! 一週間で読むね!」
女の子は笑顔を見せ、七海が渡した本を大事そうに両手で抱えていた。
「焦らなくても、一週間は延長できるから」
「すごいですわナギ。貴女はこの病院の子供たちの人気者でしたのね?」
ティエラが微笑みかけると、七海は顔を真っ赤に染めて、縮こまる。
「そんな、大したものじゃないです……。お姫様と、比べても……」
「どうしていちいち私と貴女を比べる必要があるのです? 私は私。ナギはナギですわ」
「……」
「当然ですわ。誇り高きクエレブレ帝国の皇女は魔法世界にただ一人、この私一人だけですもの!」
呆気にとられてティエラを見つめる七海に、ティエラは胸を張って自信満々に言い切る。
「そして、七海凪と言う存在も、この魔法世界にただ一人。貴女だけですわ!」
「俺もー?」
「ええ、勿論ですわ!」
子供一人一人に向けうんと頷くティエラの姿が、七海には眩しく感じてしまい、思わず視線を逸らしていた。
子供たちが去り、とても静かになった病室で、七海は持ってきてあげたリンゴをカッターで剥いていた。
「私、子供の頃から病気になりやすくて、よくここの病院に入院していたんです……」
手元で細長い指を動かし、七海は言う。
「ここの病院にいる子供たちはみんな、治癒魔法じゃ治せない重たい病気の子ばかりなんです」
「そうだったのですね……。皆さん元気で、とてもそうは思いませんでしたわ」
ティエラはベッドの上で落ち着いた姿勢のまま、七海の言葉に耳をかたむけていた。
「病院ってすることがあまりないですよね。電子タブレットも使えないし、やることと言ったら、読書だけで。それで本が好きになったんです」
「確かに、ずっと座ったままなのは退屈ですわね。でも、紙の本なんて、持ち運びが面倒そうですわ」
ティエラは、ブックカバーが巻かれている七海の私物の本を手に取り、それをじっくりと眺める。
「みんなそう言います。だから、私がヴィザリウス魔法学園の図書館で借りた本を、こうやって持ってきているんです。みんなが、私みたいに退屈しないで済むように……」
「小さな子たちを思う心がけは、素晴らしいと思いますわ。だからきっと、ここの病院の子は元気一杯なのですね」
「さ、最初は数人だけに渡していたのが、いつの間にか病院内で有名になってしまって……。親御さんも公認、みたいになってしまっているんです……」
病院の本のお姉さん、と言うのが、ここでの七海凪の通称であった。自分も経験があるからこそ、苦しい治療を乗り越えてほしいと願った七海の善意であった。
「ではナギ。何か私にお勧めの本はありまして?」
「ティエラさんに、ですか……。ごめんなさい。私、ティエラさんのこと、よく知らなくて……」
七海が切り揃えたリンゴを落としてしまいそうになり、ティエラは咄嗟に物体浮遊の汎用魔法を使い、リンゴを全て空中で浮かべ止める。七海の目から見れば、とても早い魔法式の構築速度であった。
「ご、ごめんなさいっ!」
「いいえ。でも、確かにその通りですわ。私も貴女の事をよく存じ上げてありませんもの」
「ですよね……」
「そんな残念そうな顔をしないでくださって、ナギ?」
「っ!? し、してませんそんな顔……」
七海は慌ててそっぽを向く。昼下がりの病院のガラス窓に映る横顔は、確かに赤らんでいた。
ティエラはそんな七海を見つめ、くすりと微笑む。
「これから知っていけば良いのですわ。ナギ、よろしければ、私とお友だちになっては下さいませんか?」
ティエラは点滴のチューブが刺さっていない左手を差し伸ばしてくる。
その手を掴めば、自分はティエラと友だちになる……。簡単な事のはずなのに、七海にはそれが出来なかった。こんなにも親しみを持って接してくれる少女に対してさえも、歩み寄る勇気がないのだ。
「ご、ごめんなさい……っ。リンゴ美味しいので、是非食べて下さいねっ! で、では、失礼しました!」
七海はぱぱっと手荷物を纏めると、慌てた様子で走り出す。
「あ、お待ちになって!?」
追いかけようとするティエラであったが、右手に刺さった点滴のチューブが、それを許さない。
やむを得ず、ティエラはその場で肩を落としていた。
「もしかして私、フラれてしまいましたの……?」
ぽつんと残され、呟いたティエラの視線の先には、七海が大事そうに持っていたブックカバー付きの一冊の本があった。よほど慌てていた彼女の事だ、落とした事にも気がつかなかったのだろう。また出会えるはずなので、せめてそれだけは拾っておこうと、魔法を使って本を浮かべて取った直後の事だった。
「――連絡も寄越してくれないとは、いやはや困りましたよ、ティエラ様」
ぞっとする寒気を感じさせた声が、七海と代わるようにして病室に入って来た男より聞こえる。
「貴男は……」
どうしてか、反射的に七海の本を身体の影に隠したティエラは、私服姿の男をじっと見つめる。背丈は高く、細身の青髪の男だった。年齢は、こちらより一回りは上であろう。初対面だった。
「ギルシュ・オーンスタイン。国際魔法教会の誇り高き幹部です」
にこりと微笑んだギルシュは、次には細めた目で、ティエラを睨みつけるのだった。
「準備が整いました。貴女には、ルーナと私闘をして貰います。クエレブレ帝国の名誉と誇りに懸けて、何よりも国際魔法教会のため、ですよね?」
「……分かっていますわ」
ほんの少しだけ、忘れかけていた本来の目的を思い出し、ティエラは紫色の瞳に力を宿して、頷いていた。
※
夕方、ヴィザリウス魔法学園に戻ってきたルーナが、昇降口の下駄箱の前でピタリと立ち止まっていた。
「荷物持って下さり、ありがとうございました誠次」
「クラスメイトのお土産の分もあるんだし、構わない。……ルーナ?」
ピクリとも動かないでいるルーナを不審に思い、クリシュティナに袋を手渡していた誠次が声をかける。
ルーナはぎょっとした様子で、誠次に向け顔を横にぶんぶんと振っていた。
「こ、来ないでくれ誠次! 何でもないんだっ!」
ルーナの手元では、手紙のようなメモ用紙が一枚、ぎゅっと握り締められていた。
「手紙か?」
来ないでと言われて立ち止まった誠次だが、手元は見え、そう訊いてみる。この恥ずかしがりようからすれば、おそらく男子から告白の手紙でも受け取ったのだろうか。ルーナほどの容姿ならば、多くの男性の目を引くのは然るべきだろう。
「……ら、ラブレターだ……」
「……そうか」
これは聞かなければ良かったかと、気まずい思いを感じてしまい、誠次は思わずルーナからそっぽを向いてしまう。
そんな誠次を見たルーナは、何処か安心したように、くすりと微笑むのであった。
「な、何故笑う……」
「すまない誠次。貰ったのは実はこれ、女子からなんだ」
「女子!?」
誠次が仰天する。てっきり、男子から貰ったものだと勘違いしてしまっていた。
「ああ。名前は言えないが、後輩のとある女子のようだ。私が貰うラブレターは、むしろ女子からの方が多いかもしれないな」
どうしたものか、とルーナは困り果てているようだ。
「女子にもモテるのか、さすがは、元お姫様だな……」
ルーナが亡国オルティギュアの姫であった事は、同学年はもちろん、先輩後輩の代にまで知られる事になっている。さすがにどんないきさつでこのヴィザリウス魔法学園にいるのかという詳しい事は、誠次たち数名しか知らないのだろうが。
「正直困るんだ。どんな告白を受けたところで、女性と付き合うわけにはいかない。相手にも、申し訳がない……」
ルーナはため息を溢し、女子からのラブレターを私服の胸ポケットにしまう。
「私が思うに誠次。女子たちが勘違いしてしまうのは、私のことを女子として見てくれてはいないからだと思うんだ」
「充分立派な女子だと思うけど……」
ルーナの胸元に行きかけた視線を慌てて持ち上げ、誠次は答える。
「いいや。きっと私は、女性としての魅力が欠けているに違いない。これ以上私に幻想を抱く女子が増える前に、何か手を打たなければいけないと思うんだ。これ以上、何の罪もない女子たちを悲しませたくはない!」
「女子力の磨き方の理由が勇ましい時点で、確かにルーナには女子力と言うものが必要かもしれませんね」
まこと、クリシュティナの的確な指摘である。
しかしルーナは真剣な表情をしていた。
「具体的にはどうするんだ?」
「やはり、今日のように君と一緒に出歩くこと、また、一緒にいることで、自然と向上していく気がする」
「……女子力って、それで磨けるのか……?」
自信を持って言い切るルーナに、誠次が慎重にツッコむ。そもそも女子力とはこれいかに、とゲシュタルト崩壊現象が脳内で起こり始めている。
「つ、つまり私が言いたいのは、誠次……」
ルーナは誠次の手を取り、ぎゅっと掴む。国際魔法教会の呪縛から晴れて解かれた彼女の手は、最初に握った頃よりかは、幾分も柔らかく、また温かく感じた。
「好きな人と一緒にいることで、私にもその……女子らしさが備わってくると感じる。……君と一緒にいると、私は女なのだと心から実感できるんだ」
「そ、そう言うものなのか女子力とは……?」
クリシュティナが無表情で見つめる中、誠次とルーナは互いに顔を赤らめて、見つめ合う。
「付加魔法もそうだが……私はそれ以外の事でも、君に尽くしたいと思っているんだ。それともやはり、君も私に女性としての魅力を感じないのか?」
上目遣いを自然と使って訊いてくるルーナに、盛大に顔を赤らめた誠次は、ぎこちなく首を横に振る。
「そ、そんなことはないっ」
「……では、私の女性らしさについて、思い当たるところを言ってくれないか?」
そわそわもじもじとするルーナは、答えを待つようにして俯く。
すぐさまに何か返答しなければと、焦る誠次は、やはり胸に行きかけた意識を焦がし、脳に最大限のエネルギーを送りつける。思考回路はフルスロットル、である。
「えーっと! 一途なところ!」
「おお! 確かに、私は君にすこぶる一途だ! 他には!?」
ルーナは嬉しそうに、誠次の顔を覗き込む。その度に弾む胸元に、数ヶ月間を近くで過ごしてもなお、視線が吸い寄せられないわけもなく。
「えーっと! えー……で、あるからして……」
「胸はなしだぞ?」
「ははは、胸なんてそんな……ははは」
「……」
信じられない勢いで、ルーナの表情が曇っていく。
ルーナの危惧通り、やはりどうしてもルーナには男子から見ても、格好いいというイメージが先行してしまう。日頃の立ち振る舞いから、自然とそう見えてしまうのだろう。
「まさか、もう終わりなのですか誠次?」
ルーナの背後からは、クリシュティナにジト目を向けられ、誠次は更に窮する。
「そ、そう言うクリシュティナはどうなんだ?」
幼い頃からずっとルーナの傍にいたのだ。クリシュティナならば、ルーナのことを何でも知っているはずだろう。
「……」
誠次に言葉を返され、クリシュティナはルーナをじっと見つめた後、何かを諦めたかのように、遠い目をしていた。
「……私とルーナは、二人で一つのセットですから。足りない部分は、補い合えばいいのです」
と言う言葉を、残して。
「二人とも……私が悲しくなるから、もうやめてくれ……」
結局、ルーナが一番の悲しみを背負うことになってしまっていた。
「こうなれば誠次、私は絶対に女子力を磨いてみせる!」
持ち上げた手で握り拳を作り上げ、ルーナは意気揚々と宣言する。
「いや、別にルーナは今のままでも――」
「止めないでくれ誠次。私はこの学園一、いや世界一君に相応しい女性になってみせる」
こうして、かつてロシアのガンダルヴル魔法学園で最強の名を欲しいままにし、極北の竜騎士と呼ばれた少女は今。たった一人の大好きな男の子の為に、己を磨くことを決意する。
……やはり、格好良いままであると思うのだが。確かにこのままでは熱狂的で行き過ぎた女性ファンが出来てしまってもおかしくはないと思う、誠次であった。
※本編の展開無視のハロウィンイラスト
~女子力についての男子たちの談義、お好み焼きを添えて~
「みんな、少し聞いてくれないか?」
せいじ
「お、今度はどうした?」
ゆうへい
「女子力とは、いったい何なんだろうかと思ったんだ」
せいじ
「ジョシリョク? 女子の力か?」
ゆうへい
「ああ。女子力が高いとは一体どういうことか、気になったんだ」
せいじ
「握力とか、力のことじゃないのか?」
ゆうへい
「いやちげーだろ……」
そうすけ
「男目線から見た、女の子っぽさってことじゃないのか?」
そうすけ
「人それぞれだとも思いますけれどね」
まこと
「それな」
そうすけ
「って、天瀬のお土産のお好み焼き、もうそろそろ焼けそうじゃん」
そうすけ
「まさしく、お好みの問題、というわけか……」
そうや
「みんなは一緒に米食う派? 食わない派?」
そうすけ
「勿論、食うだろ」
ゆうへい
「自分はお好み焼きだけで満足です」
まこと
「俺は、胸派だったというのか……!?」
せいじ
「……上手いこと言えたと思ったのにな」
そうや
「約二名噛み合っていない奴がいるぞ……」
そうすけ




