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魔法世界の剣術士 中  作者: 相會応
ガブリール魔法博士によるなんと素敵な魔法世界
19/189

6

 腰にレヴァテイン・ウルを装備し、もう片方を右手に握り締め、誠次せいじは背後の悠平ゆうへいに声をかける。


「注意しろ。相手の中には薬の影響で痛覚が鈍っている奴もいるようだ。半端な魔法では怯みはしないだろう」

「この数……多いな。ってこれ、やばいやつじゃねえか?」


 新雪のように積もったさらさらの白い粉の山を睨んでから、悠平は眉をひそめる。


「一応言っておくけど……吸うなよ?」

「さすがにそこまで馬鹿じゃねえよ……」


 慎重に忠告する誠次に、悠平は苦笑する。


「んで、どうする、誠次?」

「ここの地形はコンテナや倉庫やらで複雑で、高低差もある。隠れながら戦い、隙を見て各個撃破する。心羽ここはが多くの敵を引き付けてくれている今がチャンスだ」

「簡単そうに言うな……。それで、最終的には結衣ゆいたちが捕まっている潜水艦の正確な場所を吐かせるって?」


 先ほどまでの運動によるものか、それとも今から行われる戦闘への身震いか、頬に一筋の汗を流す悠平は、苦笑しながら誠次に問う。


「夜になれば”捕食者イーター”が出てしまう。それまでに三人を救出する!」


 誠次はレヴァテインをその場で軽く振り払い、男たちへ向け突撃をする。


「ちょっ、おい!」


 悠平は信じられないような顔で誠次の背中を見つめ、すぐに目の前の敵に集中する。


「アイツにも、いたんだっけな。助けられなかった分、代わりに助けるってか……」

 

 妹を救うためにも、思わず竦み上がりそうになる足腰を踏ん張らせ、悠平はまず緑色の魔法式を発動する。


「俺にも、格好いいところ見させてくれよな」


 照準は男たちへ……ではなく、左に積もった白い粉の山へ。放った風属性の魔法は、白い粉を一気に巻き上げ、悠平の姿を男たちの目から眩ませる。

 悠平は白煙を吸い込まぬように息を止めながら、恵まれた体格から来る運動神経の高さで、コンテナの真横から離脱する。

 直後、男たちが放った攻撃魔法が、悠平の元いた場所に撃ち込まれる。それは赤いコンテナの側面を凹ませるほどの威力であった。


「そこだ!」


 波風を背中に浴びながら、隣のコンテナの影から飛び出した悠平が、《フォトンアロー》と呼ばれる攻撃魔法を放つ。放たれた一筋の光る魔法の矢は、集まっている男の中心部に着弾。魔法の直撃を受けた男が、悲鳴を上げてうずくまる。

 命中を確認するのもほどほどに、悠平は誠次に言われたとおり、大小様々な使用積みのコンテナが並ぶ廃棄場へと逃げ込み、身を潜ませる。


「ぬわ!?」


 そこにはすでに先客がおり、悠平は驚く。


「ホワイ!?」


 相手も同じように驚き、シルクハットを手で押さえて飛び退く。


「ニュースで失踪したとか騒ぎになってたな。あんたその、何とか博士だよな!?」

「失礼だな筋肉少年マッスルボーイ! ガブリール魔法博士だっ!」


 ばさっ、とマントを広げ、ガブリール魔法博士は誇らしげに宣言する。

 

「いたぞ! マントが見えた!」


 近くでマフィアの声がする。


「しまった筋肉少年マッスルボーイっ! マントがはみ出ていたようだ!」

「何やってるんだよアンタ!?」


 ガブリール魔法博士が慌てふためき、悠平は慌てて前に出る。


「見つけた!」

「《エクス》!」

「ぐおっ!?」


 超至近距離で悠平が放った魔法が、接近していた男の腹部に命中し、身体ごと吹き飛ばす。


「あっぶねえ!」

「君も素晴らしい魔法の使い手だな、筋肉少年マッスルボーイ! コントロールに難があるようだが、命中すれば一撃の威力だ」

「一発で当てれるって、さすが魔法博士ってことか?」


 悠平は周囲を警戒しながら、ガブリール魔法博士とともに違うコンテナの陰に隠れる。


「しかし、私自身の魔法は大したことはないのだ……」

「俺はアンタの事はよく分からねえけどさ」


 再び急激に上がった心拍数を落ち着かせながら、悠平は言う。彼方から夕日が差し込み、滴る汗を照らす。


「でも、血の繋がった大切な妹がいるんだろ?」

「ああ。シア・ガブリール。私の大切な妹だ」

「俺にも妹がいるんだけどさ、血は繋がってない。今攫われてるんだけど」

「そうか……。君にも、申し訳ないことをしていたようだな。このガブリール魔法博士、謝罪しよう」

「いいや。俺も兄貴っぽいこと出来てなかったしさ。だから今度、妹との接し方的なの、教えてくれよ。魔法は参考にならなくても、そこは参考になりそうだ」


 どこか恥ずかしそうに微笑んだ悠平に、ガブリール魔法博士は自信気に頷く。


「任せてくれたまえ! このガブリール魔法博士、妹への愛情の注ぎ方を直々に伝授しよう!」

「おいっ!? だからマント広げるのやめろって!」

「ソーリー!」

 

 二人の兄が、大切な妹を救うために戦う。

 

 悠平とは逆方向へ動き、倉庫へと向かった誠次。


「こっちに来る!」

「なんて加速スピードだ! ニンジャか!?」


 入り口で待ち受けていた二人組の男が、猛スピードで接近する誠次へ魔法式を向ける。


「押し通る!」


 右腰に一本のレヴァテイン・ウルを納刀したまま、誠次は高く跳躍し、頭上から男たちを強襲する。右手の刃の一振りだけで、男の胸と腹部をそれぞれ浅く斬り、包囲網を突破する。


「潜水艦は、まだ来ていないのか!?」


 コンテナとコンテナの間を跳躍し、飛び越え、誠次はマフィアの男たちを翻弄する。

 クレーンに片手を伸ばして掴まり、反動で飛び移った倉庫内の二階に身を潜ませ、誠次は離れた場所にいる心羽と連絡をとる。


『せーじ! そっちは平気!?』


 ホログラム映像の心羽は離れた場所におり、イエティたちを使役しているようだ。


「ああ。心羽も無事か?」

「――見つけた!」


 想定以上にマフィアたちの数は多く、誠次は声を上げて階段を上がってくる男を睨む。


「斬られたくなければ来るな!」


 日本語が通じる事もなく、男は魔法式を展開しながら、襲いかかってくる。壁に繋がった二階の通路は細く、簡単に鋼鉄をも斬り裂くレヴァテインの性質上、無闇に振り回せない。


「相手は一人だ! 挟み込め!」


 背中の方からも叫び声がした。ちらりと見ると、新たな男がまた一人、誠次の背中目がけて魔法式を組み立てている。


「敵が来た。ちょっと待っててくれ!」


 ペン型の自前の電子タブレットを口に咥え、誠次は空いた左手を腰のレヴァテインに添える。目の前の敵を右手のレヴァテインを向けて威嚇しつつ、くるりと身体を振り向かせながら、腰のレヴァテインを抜刀。勢いをそのままに、腰の左手用のレヴァテインを、男に向け投げつける。


「ぎゃっ!?」


 誠次が投げつけたレヴァテインは、円形の線を描いて回転しながら飛んでいき、一瞬のうちに男の左足の太股に突き刺さる。


「馬鹿なっ!?」


 レヴァテインを投げつけられた男は、悲鳴を上げて倒れ込む。


「野郎っ!」


 向かって来た男の破壊魔法を、誠次は右手のレヴァテインで弾き斬る。

 ぷはっ、と口に咥えていた電子タブレットを口から離し、再び自由になった左手でそれをキャッチする。


「心羽っ! 動物の威嚇の真似だ!」

『えっ!?』


 心羽は一瞬だけ仰天した後、すぐに頷き、合図を送る。


『が、がおーっ!』


 心羽は精一杯の大声と共に、両手と髪を目一杯立たせる。

 同時に誠次は、電子タブレットのホログラム出力と音声を指先で最大値にし、二発目の攻撃を放とうとする男へ向ける。


「な、なんだ!?」


 突如として現れたホログラム画像の心羽の威嚇に、接近していた男は怯む。


「貰った!」


 誠次はホログラム画面を出力させたまま、画像を突き破るようにレヴァテインを刺し、突き立てる。

 ホログラムを貫通したレヴァテインの刃は、男の右胸に突き刺さっていた。


「ぐはっ!?」

「治癒魔法で治療しろ!」


 致命傷にならぬうちに男を蹴り飛ばし、レヴァテインに付着した血を斬り払う。


『ど、どうだったせーじ?』

「助かった心羽。本物の動物みたいだった」

『も、もう! 急に言うからびっくりしたし、心羽は動物じゃないよ!?』

「すまない。でも、可愛い怖かったぞ」

『うぅ……。せーじのいじわる……』


 顔を真っ赤にして縮こまる心羽であった。


「餓鬼が調子に乗るなーっ!」


 喚き叫びながら、誠次の背後より接近していたのは、誠次が投げたレヴァテインによって左足を負傷した男だった。彼もまたクスリの使用者の一人なのだろうか、太股を斬ったと言うのに、それ相応の痛みを感じてはいないようだ。

 男は太股から流血しながらも、抜いたレヴァテインを握りしめ、誠次に向かって突撃している。


「投げつけておいてなんだが、それは俺のだ。返して貰う」


 心羽との通信を終えた誠次は、電子タブレットをズボンにしまいながら、男に言う。


「死ねえええええーっ!」


 闘牛のように直進してきた男を、誠次は狭い通路上でひらりとかわし、背中をとる。

 男は闇雲にレヴァテインを振り回しているが、まるで逆にレヴァテインに振り回されているように、剣筋は出鱈目でたらめな軌道を描いている。


「そんな出鱈目な構えでは、なにも斬れない。仮に刃が命中したとしても、かすり傷に終わるぞ」


 誠次はバックステップで男と距離をとると、右手のレヴァテインを背中の鞘に収め、両手を使って手すりの上に飛び乗る。鉄棒ほどの大きさでしかない手すりの上で、バランスをとる間もなく、誠次は男の攻撃を躱し続ける。


「クソっ、クソっ、クソがッ!」


 ひらりひらりとかわす誠次の足場の手すりを斬り裂こうと、何度もレヴァテインを叩きつけているが、レヴァテインは男に応えず、火花を撒き散らすだけに終わっている。


「なんだ、このなまくらは!? 全然斬れないじゃねえかッ!」

「残念だが、お前にそれは扱えない。俺にしか扱えないんだ」


 言うことを聞かないレヴァテインを忌々しく睨む男に、誠次は言う。


「お前たちには魔法があるんだ。銃ならまだしも……今時剣なんていちいち使う必要はないだろ?」


 大振りな男の隙を見て、誠次は男の懐に潜る。そのまま男の腹部を肘で打ち、男が手放したレヴァテインを左手で取りあげる。


「調子に――!」

「だから、返してもらう。これは俺のものだ」


 誠次が扱ったその瞬間、レヴァテインは武器以上の本来の凶悪すぎる性能を取り戻す。

 倉庫の壁を切り裂きながら、横薙ぎにレヴァテインを振るい、男の胴体に当たる直前で、レヴァテインを回転させる。柄による打撃攻撃へと変わった一撃は、男の身体を二階から吹き飛ばし、一階へと落下させた。


「まだ潜水艦は来ないのか!?」


 迫る刻限に少なからず焦る誠次は、ガラス窓の外を睨む。茜色の空は漆黒へと染まっていき、間もなくヤツらが出現する時間となる。


「!? この音はなんだ?」


 突然、橙色の太平洋方面から、水が弾け飛ぶ大きな音が聞こえた。

 誠次は立ち止まり、倉庫の窓から外を確認する。


「あれはっ!?」


 沈みかけた夕日さえ隠す巨大な黒い影が、まるで天を目指すかのように、海中から突き出ている。さすがに空を飛べるまでには至らず、滝のような水を流しながら、巨大な黒い影は海面を叩きつけ、水上にその姿の半身を表す。


「あれが、旧イギリス海軍の潜水艦か!」


 ガブリール魔法博士はクジラのようだと言っていたが、その通りであった。大勢の人員を収容できる全体像は、きっとクジラ一頭どころの大きさではないだろう。


「二階だ! 追え!」


 新手の男たちが、次々と両サイドの階段を駆け上がってくる。


「お前たちにもう用はない!」


 叫んだ誠次は、階段を使うこともなく、通路の途中で一階へ向け飛び降りる。屋根の骨組みから垂れ下がっていたロープを空中で掴んで着地の衝撃を和らげ、一階部に転がりながら落下する。


「仲間の治療をしていろ!」


 手薄となっていた一階から、誠次は倉庫内から脱出する。

 外では相変わらずイエティたちが大暴れをしており、あちこちで魔法の光がきらめいては消えていく。


「悠平!」


 海面方面にて、敵に囲まれている悠平を発見し、誠次はすかさず救援に入る。

 奇襲した男を背中から剣で突き刺し、足で蹴って押し倒す。


「無事か、悠平! 借りは返したぞ!」

「助かった!」

「私もいるぞ!」


 合流した誠次と悠平とガブリール魔法博士は、三人で死角をカバーし合い、敵を睨む。


「海の上、見たか!?」


 飛来する魔法の攻撃をレヴァテイン・ウルで弾き、誠次が悠平とガブリール魔法博士に問う。


「まさしくあれこそが、マフィアのアジトだ!」

「あの中に結衣がいるんだろ?」

「泳いで行こうにも、距離があるな……!」

「遠いな!」


 悠平が放った攻撃魔法が、男に見事命中。男は空高く吹き飛ばされ、海の中へと落ちていく。

 それをじっと見ていた悠平に、誠次が大きな声を掛けた。


「あれを見ろ!」


 驚き声の誠次が見つめていたのは、夕日を背にした潜水艦であった。その上部に、小さな人影が三つほど見えたのだ。

 その三つの人影を追い詰めようと、潜水艦のハッチらしき箇所から、まるで巣穴を破壊されたアリのように、大勢の人影が出てくる。夕日を受けてより一層輝く魔法の光が見えれば、それが前を走る三人の元へと次々に襲いかかっていく。


篠上しのかみーっ! 結衣ーっ!」


 このままではガブリール魔法博士の妹を含めた三人とも、潜水艦の端に追い詰められる。堪らず、誠次は自分の鼓膜が破れそうになるほどの大声で、叫んでいた。


           ※


 潜水艦の中にて、篠上と結衣とシアが魔法を使った脱出劇を繰り広げた結果、潜水艦は緊急浮上を余儀なくされた。軍事用の頑丈な装甲とは言え、それも魔法が生まれる三〇年以上前のこと。全世界の主兵装であった銃火器を優に凌駕した魔法にかかれば、潜水艦内部の装甲も悲鳴を上げる。操舵室には赤いサイレンが点灯を繰り返し、操舵不能アンコントロール状態に陥っていた。


「しつこいっ!」


 やや丸みを帯びた黒い甲板の上を、篠上は懸命に走っていた。後ろから幾つもの魔法の攻撃が飛来するが、それらは全てシアが防御魔法で防ぎ、跳ね返す。

 夕日を受け、黒い甲板に纏った水が、最後の輝きを放つ。地平線の彼方に見える夕日は、もう豆粒ほどの大きさになってしまっている。それが沈んでしばし経てば、この魔法世界の夜の支配者たちが、その姿を表す。


「もうすぐ、夜になる……」


 そう考えると、篠上はこれまで以上の恐怖を感じた。

 共に隣を走る結衣も、周囲を不安そうな目で見渡している。


「ここって海のど真ん中じゃないですか!?」

「向こうに港が見える!」


 息を切らしながら走る篠上が、夕日とは逆方向を指さす。

 無数のクレーンや、船舶やコンテナが見えるレンガ港が、その方向にはあった。


「……魔法戦?」


 篠上の青い瞳は、港で行われている激しい戦闘を捉えていた。

 ――そして、ほぼその中心にいる、二つの銀色の光を放つ剣を持った少年の姿も。


「あ、天瀬あませ!?」

「やっぱり、剣振り回してますと目立ちますね!」


 結衣も誠次の事を見つけたようだ。弱気になりかけた心が、彼の姿を見ると一瞬で変わっていく。彼がいるのならば、まだ自分が諦めるわけにはいかない気になる。

 結衣もまた、嬉しそうに笑顔を見せていた。

 しかし、足下に着弾した攻撃魔法が、追い詰められた現状を伝えてくる。


「シア!」


 今度は篠上が防御魔法を発動し、シアを守る。

 しかし、三人はとうとう、甲板の端にまで追いやられてしまっていた。


「追い詰めたぞ!」


 潜水艦の中からわらわらと姿を現し、男たちは三人の少女の逃げ道を塞ぐ。夕日は地平線の彼方に落ち、薄青い夜空が広がりを見せている。吹き寄せる海風も冷たく、波で打ち上がる水の飛沫は身体が凍てつくほどだ。


「この二人に、手出しはさせない」


 シアが英語で抵抗の言葉を口にする。


「ああ手出しはしないとも。が、海の底には沈んで貰う」


 対する男たちが、次々と魔法式を展開する。

 無数の魔法の光を向けられ、竦み上がりそうになる足を自覚した篠上は、塩の味がする息を大きく吸う。


「天瀬ーっ!」


 男たちが戸惑うほど、港へ向け、目一杯の声を出していた。


          ※


 彼女のこちらを呼ぶ叫び声は、波の音と共に聞こえた。


「篠上ーっ! 絶対に助ける!」


 分解状態のレヴァテイン・ウルを油断なく構えたまま、誠次は夕日が消え去った海を見つめる。


「――せーじ!」


 タイムリミットのために、倉庫に隠れていた心羽も、誠次と悠平とガブリール魔法博士の元に合流する。


「もう夜だよせーじ! 隠れないと、”捕食者イーター”が出てきちゃう!」


 心羽が誠次を心配そうに見上げ、お願いをするように言ってくる。

 ヤツらは神出鬼没だ。こちらを取り囲んでいるマフィアの男たちも、怪物が出現するかもしれない状況に恐れおののき始め、逃亡を開始する者まで現れた。—―或いは、この四人にはもう勝てないと踏んだか。


「もう目の前なんだ! どうにかして三人を助けたい!」


 しかし、肝心の付加魔法エンチャントの鍵である篠上は、海を挟んだ遠く向こうにいる。せめて付加魔法エンチャントが届く間合いまで到達できれば、篠上の付加魔法エンチャントで空中を自由に行き来できるのだが。


「—―剣術士ソードマン


 誠次が考えあぐねていると、背後のガブリール魔法博士が、ぼそりと声を掛けてくる。


「なんです?」

「君のその身体能力で、どうにかならないか? 見たところ、君の身体能力は、私たちの常識を大きく逸脱デビィエイションしている。……そして何より、君にはどんな困難にも立ち向かおうとする勇気がある」


 かつて憧れていた存在にそんなことを言われ、誠次は右手の剣をぎゅっと握りしめる。


「さすがにあの距離では、俺の跳躍力でも届きません」

「君は私の信念を、最後まで信じてくれた。だから君もどうかこのまま、魔法を信じてほしい! 魔法は人にドリーム希望ホープを与えるものだからな!」

「魔法を信じる……」


 ガブリール魔法博士を振り向いて見るが、まるで彼は冗談を言うように、口角を上げている。


狐少女フォックスガール! 君の使い魔は、人間の身体を優に吹き飛ばせそうだな!?」

「ううん。イエティちゃん、そこまでパワーないよ? 女の子だもん」

「ワッツ!? あの見た目で女の子だと!? この私の天才的な計画プランがっ!」


 考えていたプランが早速崩れたようで、ガブリール魔法博士は項垂れる。

 そんな会話に耳を澄ませていた悠平は、なるほどなと頷いていた。 


「なんとか博士。()()()()になるけど、要は向こうまで誠次を飛ばせば良いんだろ?」

「ガブリールだっ! わざとか!?」

「何をする気だ?」


 ツッコむガブリール魔法博士と、戸惑う誠次の背後から、悠平が服を腕まくりをした腕を伸ばす。その指先で発動した魔法式から、一頭の黒い影が飛び出した。

 黒い体毛に覆われたその使い魔は、直立すれば成人男性ほどの大きさはあるゴリラであった。


「ホッホッホ!」


 主人に似たような鳴き声を発すると、ゴリラは数歩だけ進み、それだけで満足したかのように、誠次の目の前で腹を向けて寝転がる。


「お、おーい……」


 誠次がゴリラに声を掛けてみるが、ゴリラは体格からすれば小さなお尻をぼりぼりと指でかき、寝返りをうつ。

 それを見た心羽は、面白そうに微笑んでいた。


「ぐうたらゴリラさんだ。心羽のイエティちゃんの方が強そうだよ?」

「ハッハッハ。確かに心羽ちゃんのイエティに比べれば俺のゴリラはぐうたらで、魔法も使えない」


 心羽の使い魔であるイエティは、その知能の高さで掃除洗濯、果てには魔法までもが扱える。

 

「けどな、パワーなら段違いだぜ?」


 悠平は得意げに拳を突き出し、誠次を見る。


素晴らしいワンダフル! これこそ私の考えだ! 使い魔のパワーと剣術士ソードマンの能力で、向こうまで飛ばす!」

「ハッハッハ! そういうことだ」

「そういう考え方、変わらないな、お前は」


 誠次は思わず苦笑しながらも、うんと頷く。なんだかんだで、上手くいく気がしてしまうのだ。


「でも問題はこのぐうたらゴリラ、一度寝るともう起き上がらないんだよな……」


 悠平は困ったように髪をかいている。


「どうにかして起こさないとな……」

「ならば、これはどうだろうか!?」


 すかさず声を上げたのは、ガブリール魔法博士だった。抹茶蜜公園で拝借したままどこで隠し持っていたのか、ガブリール魔法博士はマントをひるがえし、誠次の目の前にとあるものを突き出す。


「ゴリラの、フェイスマスク!?」

「その通り! これを使ってゴリラを誘惑テンプテーションすれば、きっと動いてくれるだろう! その昔、私は動物も魔法が使えるようになるのではないかという研究を、かくかくしかじかで――」


 そんな簡単にいくのだろうかと、しかし迷っている暇はなかった。

 誠次はガブリール魔法博士からゴリラのフェイスマスクを受け取ると、それを顔にめる。


「結局何も解明出来なかったが――って、何をするのだ剣術士ソードマン!?」


 目を閉じて得意げに語る、ガブリール魔法博士の顔に。


「頼みます!」

「ワッツ!?」


 慌てるゴリラ頭のガブリール魔法博士であったが、その背後でむくりと、悠平のぐうたらゴリラが起き上がる。


「ホッホッホ!」


 口の中の牙を見せつけ、胸をぱんぱんと交互に叩き、激しい音を鳴らす。


「完全に私が威嚇されてるではないかっ!?」


 ぎょっとしたガブリール魔法博士であったが、何かの根性か、フェイスマスクを取ることはせず、逆に両手でぎゅっと押さえ込む。

 悠平のゴリラは完全に怒ったように、ガブリール魔法博士を追いかけようとするが、その前に誠次が立ち塞がる。迫るゴリラの迫力に恐怖すら感じるが、誠次は両手を広げて、叫ぶ。


「頼む。力を貸してくれ!」

「そうだ! 私の妹の為にも、どうか力を貸してはくれまいか!?」

「妹がヤバいんだ。頼む!」


 主である悠平が声を掛ければ、ゴリラはガブリール魔法博士を追うことを止め、その場で再びお尻をぽりぽりとかく。


「イエティちゃん! お手本を見せてあげて!」

「ゴグ!」


 誠次を投げ飛ばすため、心羽の指示の元、イエティがまるでバレーボールをトスするかのような構えを、ゴリラに見せつける。


「ウホ!」


 ゴリラはイエティを見て、両腕を身体の前に突き出し、同じような構えをしてみせる。さしずめ、これでカタパルトの準備は出来たと言ったところだろう。

 完全な意思疎通が出来たとは言えないため、飛ぶ方向は自分で調整しなければならないだろうが。


「行くのだ剣術士ソードマン! どうか妹を……シアを頼む!」

 

 ゴリラへの恐怖からか、今は使われなくなった寂れたポールにしがみつくガブリール魔法博士の声が、誠次の背を押す。ゴリラ相手に棒登りは得策とは言えないと思うのだが。


「俺からも妹を……結衣を頼むぜ」

「頑張って、せーじ!」

「ああ!」


 二人からの応援を受けながら、誠次は構えるゴリラと限界まで距離を取り、コンテナを背に勢いをつけて走り出す。


「篠上ーっ!」


 走りながら、誠次は遥か水平線の彼方にいる篠上に向け叫ぶ。


「なーにーっ!?」


 やや遅れて、向こうからの返答はあった。


「今からそっちに飛ぶーっ! 付加魔法エンチャント、頼むーっ!」

「はいーっ!? 馬鹿じゃないのアンターっ!? 急すぎるーっ!」

「行くぞーっ!」

「「「「行っけーっ!」」」」


 誠次がゴリラの腕に飛び込み、ゴリラは自分の手に足を乗せた誠次を、思い切り跳ね飛ばす。

 トラポリンに乗ったかのように、誠次は勢いよく空中に投げ飛ばされ、青い海が眼下に広がっていく。


(頼むぞ、篠上……!)


 急速で落下しながら、誠次は背中と腰のレヴァテイン・ウルを抜刀し、そこに月の光を浴びせていた。

 向こうが気づいてくれなければ、自分の身体は海面に強く叩きつけられ、内臓はもれなく破壊されるだろう。そんな恐怖や不安が過ぎったのも一瞬のこと。こちらの身体を押し返そうと吹き寄せる風と共に、消えていった。

 両手に握り締められていたレヴァテイン・ウルが、赤い光を放っていたからだ。


「――いつも遅い、セイジっ!」


 打ち上がった潜水艦の上から、こちらを見上げる篠上は、四月の初日と同様に、不満そうな表情をしていた。しかしそれも一瞬のこと。すぐに嬉しそうな笑顔を見せ、こちらに向かって手を振る。


「待たせた!」


 誠次は空中で身体を回転させ、篠上の付加魔法エンチャント能力を使い、魔法の足場を次々と作り出し、落下の勢いを殺していく。


「手を引けーっ!」


 叫んだ誠次は空中でレヴァテイン・ウルを分解し、右手で握った片方を潜水艦の甲板へ向け投げ付ける。

 上空から飛来した赤く光る剣が、三人の少女を追い詰めていた男たちの目の前に突き刺さり、男たちの進行を阻止する。


「誠次先輩!」

「わー凄い。お空を飛んできた」


 結衣とシアも、上空から舞い降りる誠次を見つめる。

 誠次は男たちを睨みながら、三人の少女の前に立ち、潜水艦の甲板に着地していた。


「三人とも助ける! 桃華とうか! 俺に魔法チカラを貸してくれ!」

「言われるまでも!」


 結衣は眼鏡を外し、桃華となり、大胆不敵に微笑み返す。

 マフィアの男たちが呆気にとられる目の前で、桃華の付加魔法エンチャントもレヴァテインに付けられる。これにて誠次のレヴァテインには、高機動且つ遠距離の攻撃が出来る力が備わった。


「よし」


 ――それすなわち、今の誠次を追い詰めることは、水上に浮かぶ潜水艦の上の男たちには不可能になったと言う事。

 意気込む誠次は威嚇の為、右手で握ったレヴァテインを高々と持ち上げ、振り下ろす。凄まじい風と共に、緑色の魔法の刃が、潜水艦の甲板に一直線の斬り込みを描き、突き進んでいく。男たちは蜘蛛の子を散らすように、迫り来る魔法の刃から我先に逃げようとし、悲鳴をあげて海に飛び込んでいく。


「今のうちだ! 順番に港に運ぶ」


 敵が怯んだのを確認し、誠次は振り向き、三人に告げる。


「だったら、まずは結衣を先にお願い。私とシアはまだ戦えるけど、結衣は魔素マナ切れになってる!」

「そんな、私もまだ戦えます!」


 篠上の言葉に桃華が反論するが、


「分かった!」


 留まろうとする桃華の背中に誠次は腕を回し、もう片方の腕は足へと添える。


「きゃっ、ち、ちょっとっ!」


 触れれば、付加魔法エンチャント中でただでさえ赤かった桃華の両頬が、さらに真っ赤に染まる。


「セイジ!? 私は――っ!」

「悪いが男同士の約束だ。悠平は結衣を、俺は桃華を守ると約束した。港には兄さんがいる。君を送り届ける」


 誠次の緑色の目を見つめ、桃華は息を呑む。


「え、お兄ちゃんが……」


 誠次にかかえられながら、桃華は港をじっと見つめる。


「二人ともすぐ戻る。それまで耐えていてくれ!」


 誠次は桃華をお姫様抱っこの要領で抱えつつ、篠上とシアに告げる。


「行ってらっしゃい。勇敢な王様」

「誰に向かって言ってるのよ! 任せなさい!」


 シアは軽く手を振り、篠上は胸を張る。

 誠次は跳躍し、篠上の付加魔法エンチャント能力を使って足場を作り出し、夜空を駆ける。


「私……生意気な事ばっかりで、結局真っ先に助けられて……」


 冷たい夜風を浴びながら、胸元で桃華は震えているようだ。


「心配するな。みんな、桃華のことが心配なんだ。……悠平だって」

「お願いセイジ! 綾奈先輩とシアさんを絶対に守って!」

「任せろ!」


 誠次は港まで到達する。待っている三人が魔法の光で目印を付けてくれ、誠次はそれを頼りに桃華を悠平たちの元まで送り届けることに成功する。


「結衣っ!」

「お兄ちゃん!」


 待っていた悠平の元に、結衣は駆け寄っていた。

 いつの間にか、辺り一面は暗闇となっており、月の明かりのみが視界を鮮明にさせる。


「誠次! ありがとうな! デンバコでここら辺付近の緊急避難用地下シェルターの位置は調べた。みんな助けて、みんなでそこに行くぞ!」


 悠平が結衣の両肩を支え、上空の誠次へ向けて叫ぶ。


「ああ! 急ぐ!」


 誠次は空中で身をひるがえし、月が照らす方を睨む。

 月明かりを浮かべる、黒い海の向こうの潜水艦の上では、再び魔法の光が輝いては消えていく。篠上とシアが戦っているのだろう。

 誠次は海を越え、潜水艦の元まで再び到達する。マフィアたちは執念深く、せめて篠上とシアだけはと、逃がさないように誠次目がけて無数の魔法式を発動する。


「時間がない! 邪魔するなーっ!」


 飛来する魔法の攻撃を、空中で踊るようにかわし、誠次は回避をしながら桃華の付加魔法エンチャント能力である遠距離波動斬りを、繰り出す。上空から襲いかかる緑色の魔法の刃は、潜水艦に次々と切れ込みを入れていた。


「二人とも!」


 再び甲板の端に着地した誠次は、次にどちらを運ぼうか、逡巡しゅんじゅんする。


「私は最後で……」

「――っ!」


 悩む誠次の赤い瞳を見た篠上は、ほとんど衝動的に、シアの肌がむき出しの背を押して、誠次に押しつけていた。


「え……」


 シアが飛び込んできたため、それを慌てて受け止めた誠次は、反動で後方に下がりつつ、驚愕の目で篠上を見る。


「篠上っ!?」

「またすぐ迎えに来てくれるんでしょう? ……セイジ」


 篠上は唇を噛みしめるようにしてから、シアを抱く誠次を見つめる。


「シアも魔素マナがもうない。シアを先にお願い。そして、すぐに戻ってきてっ! 私は待ってるから!」


 殆ど泣き出しそうになりながらも、それを抑えこみ、篠上は誠次に叫ぶ。

 篠上の言うとおり、シアも今日だけで相当量の魔法を使用したのだろう。篠上に背を押されただけで倒れ込むほど、足腰に力が入っていない。


「アヤナ……」

「いいから、早く行きなさいよ! 私だって、もう限界ギリギリなんだから! あと、もう絶対にお兄ちゃんから離れない事っ! この魔法世界って、アンタが思ってるほどまだまだ平和じゃないんだから」


 シアを突き返すように大きな声を出し、篠上は赤いポニーテールごと振り向く。

 いずれにせよ、一人ずつでしか運ぶのは不可能であった。個人的な感情を籠めれば、誠次にとって優先すべきは篠上の救助であったが。

 彼女へ向け思わず伸ばしかけた手を途中で止め、誠次はシアの肩を代わりにぎゅっと掴む。


「シア。君をお兄さんのところに連れていく」


 ――三人とも助ける。最初から、そのつもりだ。


「すまない篠上……。すぐに戻る!」

「……早くしないと、承知しないんだから!」


 そんな篠上の声を背に、誠次は再び漆黒の空へと、シアを抱えて飛翔する。


「……ごめんなさい。私の、せい……」

「……今は、助かることだけを考えろ。落ち着いた話をするのは、夜が明けてからだ」


 胸元で謝罪をするシアに、誠次は冷静に答える。どのようないきさつでこうなったのか、今は詳しく分からない。しかし、少なくともこの自分の胸元で身体を寄せているシア・ガブリールという少女は、篠上にとって自分より先に安全を確保させてやりたいと思える少女なのだろう。

 或いはただ、篠上の優しさによるものか。いずれにせよ今は、篠上の行動を無駄にしないためにも、この少女をガブリール魔法博士の元へ送り届けなければ。


「心配性のお兄さんが、君を待っている。お兄さんは君のことを大切に思っているから、安心してくれ」


 身体を芯から冷やすほどの冷たい夜風が、全身に吹き寄せているときだった。


「王様、優しくなったんだね」

「王様……? ずっと俺のことをそう言ってるけど、何のことだ?」

「……あ、駄目」


 港まであと少しの海上で、シアが突然、誠次の服の袖をぎゅっと掴んできた。


「どうした?」

「来る……。怖い、人じゃないの……っ!」


 青い瞳が忙しなく揺れ動き、シアは脅えている。


「人じゃない?」

「ずっと、人に憧れて……戦ってた……っ!」


 感情の起伏が薄かったはずのシアが、強烈な反応を繰り返している。


「何を言ってる!? 落ち着けっ!」

「あなたが、ずっと戦った相手。今までも、これからも――下!」


 焦るシアの言葉を受け、誠次は咄嗟に下を向く。


「俺の……相手」


 青黒い海の水中にて、新たな巨大な黒い影が、まるで水に大量の墨汁を落としたかのように、広がっていく。やがてそれは立体的な動きを見せ、空中の誠次とシア目がけて、細くしなやかな黒いムチを叩き出すように、水中から飛び出す。


「”捕食者イーター”、だと!?」


 水中で出現した異形の怪物は、誠次の足に背中の触手を絡ませ、シアごと水中に引きずり込む。


「ぐはっ!」

「きゃあっ!?」


 視界が反転したかと思えば、背中から何かを叩きつけられるような衝撃的な痛みを受け、全身が水浸しになって、高度マイナスの世界へと沈んでいく。荒れ狂う水の襲撃を受けた口の中は塩辛く、鼻には強烈な刺激を感じ、耳の鼓膜は破れんばかりの衝撃を受ける。

 人間の胴体を易々と引き千切るほどの力を有した触手により、誠次とシアは共に、冷たい海水へと引きずり墜ちていったのだ。

日本代表惜しかった……。泣き崩れてしばらく動けませんでしたが、また四年後に期待!

ドイツが負けたのも悔しいですが、韓国の諦めないサッカーは素晴らしかった!

私はイナズマ◯レブンで、この悔しさを晴らします!(今思えば私のその手の目覚めは、イナイレの影響だったのかもしれない……)

一番好きな必殺技は、イタリア代表フィディオくんの《オーディンソード》!←ぶれない。

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