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魔法世界の剣術士 中  作者: 相會応
天微睡むギンヌンガガプ
183/189

3

 深い霧が立ちこめていたワシントンDCを越えた先、そこは、魔法世界の中心部となる大都市、マンハッタン。

 国際魔法教会本部がある場所だ。発展している周囲のビル群とは一線を画す、旧世の神殿のような造りをしている建物で、全世界にいる魔術師たちの総本山となる場所である。

 航空機を操縦していた誠次(せいじ)は、気が付いたら、そこに運ばれていた。

 まだ、生きている……全身はひどく痛むが、呼吸は、正常だ。つくづく自分は、死神には、好かれないらしい。

 微睡まどろむ視界の目は、まだ、深い霧の中に自分がいるようだった。一寸先も、不明瞭で、手探りでしか進むことの出来ないような、白い霧の中。あれほどはっきりとしていた指先の感覚、戦うための意思、理由も、なにもかもが、今は見えていない。


「起きろ、剣術士」


 男の、日本語で誠次は意識を取り戻す。

 点滴を打たれていたのか、コートを脱いだ私服の姿で、誠次は病室らしきベッドの上で寝かされていた。ひどく喉が渇いており、サイドテーブルにある水差しに口をつける。


「ここは国際魔法教会(ニブルヘイム)本部の医務室だ」


 国際魔法教会の制服を着た男が、起きたばかりでまだ混濁している意識のままの誠次に向けて言う。


「飛行機は……」

「墜落した。あの機に乗っていた生存者は、君だけだ」

「……!? そんな、そんな……」


 やがて徐々に記憶を取り戻してきた誠次は、飛行機の中で起きていたことを全て、思い出した。


「君はあの機の中ではただ一人の生存者だ」

「なず……一緒の機に乗っていた、日本人は……?」

薺紗愛(なずなさえ)、の事だろう? そして彼女の付き人の女性も、即死の状態だった」


 誰一人として、自分は救うことが出来なかった。それを聞いた誠次の心はやがて、()()()()()自分が一人だけ助かってしまったと言う、強いトラウマを植え付けられる事となる。


「そんな……嘘だ……。俺は、やれることをしたはずだ……それなのに……」


 全身が震え、誠次はうわ言のように呟きだす。


「君は英雄ではない。多くの屍の犠牲によってただ一人生き延びた、ただ運が良いだけの人間だ。ずっと、そうなのだろう?」


 眼鏡をかけた欧米人の男は、誠次をじっと見据えたまま、口を開く。


「運が良かった……? 今までも……?」

「その通りだ。今こうして君が生きているのも、ここにいるのも。今の自分があるのも、全ては運が良かっただけのこと。だから、そう悲観することはない」


 眼鏡の男は一切の愛想など覗かせる事もなく、淡々と、告げてくる。


「今回は運がなかった。そう思えばいい」

「人が死んで、運がなかったで全てを片付けろと……? 元を正せばあれは、ギルシュ・オーンスタインが航空機の中で魔法を使ったから――!」

「それも含めての運、だ。しかし唯一その運に抗い、自らの意思で世界の命運すら決めきれる特別な存在がいる」

「ヴァレエフ・アレクサンドル……」


 誠次がぼそりと呟くと、男はそうだ、と言わんばかりに深く頷く。


「ヴァレエフ様こそ、唯一無二にして偉大な存在である。あの御方は人間と言う運に支配された矮小な存在からも脱し、魔法すらも自由に扱ってみせる」


 男は、何もないような所をじっと見据え続けては、言葉を続ける。


「そして、この世の全ての人類は等しく皆、平等に、ヴァレエフ・アレクサンドル様によってその命運を定められていると言っても過言ではない」


 それが当たり前のことのように、男は、つらつらと話してきた。

 誠次からすれば、到底理解できないことである。


「そんな、あの人は神様ではないはずだ!」

「……貴様、ヴァレエフ様を侮辱するつもりか?」


 ギルシュの二の舞だ。航空機内の混沌とした悲惨な光景が脳裏を過った誠次は、慎重に言葉を選んだ。


「あの人の功績は確かに偉大なものだ。"捕食者(イーター)"と魔法が同時に生まれ、混迷を極めた世の中で人が(すが)る組織を一から作り上げた。当然、救われた人も多くいる。しかしあの人がこの魔法世界に生きる全ての人の命の権利を握っているかと言われれば、そうではないはずです」

「今の魔法世界があり、人類が生き永らえていられるのもヴァレエフ様のお陰だ。やがてこの魔法世界の生きる全ての人類も身に染みて分かることであろう。あの御方がどれだけ偉大な功績を残し、崇められる人物であると言うことを」


 男は抑揚のない言葉でそう言うと、胸にそっと手を添えだす。


「ギルシュ・オーンスタインもきっと、あの世で喜んでいるだろう」

「……仮にヴァレエフ・アレクサンドル氏が貴方に自決を促したら、貴方はそれにも従うつもりなのですか?」


 ベッドの上から誠次が問えば、男は毅然とした態度で応じた。


「無論だ。ヴァレエフ様のご命令とあらば、私はそれに従おう」

「……」


 そんなの、間違っている……と、喉まででかかった言葉は、遂には最後まで出てくることはなかった。

 ここは国際魔法教会本部であり、向こうの地だ。下手な言動や行動は自身の首を締めるだけであると、誠次は身に染みてわかっていた。

 ニューヨークに不時着した航空機の存在及び、自分が操縦したと言う事実は、国際魔法教会の魔術師による幻影魔法による記憶操作で全てなかったことにされ、自分を含めて(なずな)芹澤(せりざわ)の搭乗記録も抹消された。

 犠牲者は愚か、そもそもそんな便など初めからなかったことのように。これも全ては、国際魔法教会の強大すぎる支配力と影響力によるものだろう。


「俺をヴァレエフ・アレクサンドルさんに会わせて下さい」


 誠次に残された唯一の道。多くの犠牲の果てに、ただ一人と会うために、誠次は今も、まだ生きている。

 その目的を果たさなければ、死んでいった者たちに顔向け出来るわけがない。

 重い頭痛が続く誠次の頭には、ただそのことだけが、ぐるぐると渦巻いて浮かんでくるようだ。


「そう()くな。君の身体とて完全には回復回復してはおるまい」


 男に指摘され、誠次は自分の身体を見る。クリシュティナの即時回復が無くなり、それに加えて酷使し続け、負傷も重なった誠次の身体は、すでに限界を迎えつつあった。


「今は鎮痛剤と麻酔が効いているだろうがそれも次第に効力を失う。君に我々が施したのは、応急措置程度のものだ」

「なぜ……」


 生々しい赤い血が滲んだ包帯によって、全身を巻かれていた事にようやく気がついた誠次は、戸惑う。視界が不明瞭なのも、片目を包帯によって包まれていたからだ。

 答えを求めて、ひどく重くなった顔で男を見ると、返ってきた言葉は残酷であった。


「ヴァレエフ様が、そうしろと命じられたからだ」

「!? あの人が……?」


 麻酔も鎮痛剤も消えれば、耐え難い痛みが待ち受ける。タイムリミットを抱えた身体で誠次は、必死にベッドから這い上がろうとした。

 そんな、誠次の姿を見た男は、手伝うことはせず、抑揚のない声でこう言った。


「ヴァレエフ様は貴殿と会うのを心待にしているようであった」

「だったら、今すぐにでも……! ああっ!」


 耐え難い痛みが全身を駆け、誠次は悲鳴を上げる。


「貴殿と違い、あの御方は忙しい身だ。ヴァレエフ様はこの後も公務のご予定である。それまでは監視付きであるが、この国際魔法教会本部の中を自由に歩いていい」

「歩く……こんな状態で、どうやって」


 額に脂汗を滲ませる誠次に向け、男は部屋の隅へ顎をくしゃる。

 その方を、誠次は見た。


「貴殿であれば、見覚えはあるだろう?」

「車椅子……」


 包帯姿の誠次はそれに、乗った。

 思えば皮肉なものだ。一年前に戦った、ガルムの成れの果ての姿に、今自分がなっている。彼はこの魔法世界の将来を案じ、戦いを起こした。

 そして、東馬迅(とうまじん)。魔法が使えない身でありながら、死者を蘇らせると言った目的を掲げ、イーカロスとして大きすぎる代償を支払った。

 新崎(しんざき)にしてもだ。確かな力を抱いた彼もまた、自分がその野望を断ち切り、終わらせた。

 ――そんな、今まで自分が否定し、戦ってきた者たちの成れの果てが、今の自分に重なっていた。

医務室は地下にあったようで、暗い通路に松明が灯った長い廊下が続いている。外装と違いなく、内部に至るまでその造りは中世に戻ったのかと思うようなものだ。


「……」


 歩けなくなり、車椅子の誠次の背後には先ほどの男が医務室からぴったりとついてきている。日本語が話せるのも手伝い、見張りも勤めているのだろう。名前はアルファベットの名札を見る限り、マルコスと言うそうだ。

 彼のみならず、どこからか絶えず見られているような視線を感じ、誠次は息を呑む。

 ちょうど一年前は招待、と言う形でここへきたので、言わば国際魔法教会(むこう)は出迎える立場であった。

 それが今では、いくら薺とヴァレエフの承諾があったとは言え、こちらが伺う立場となっている。

 現場での感じ取り方や見え方と言うのは、異なるものであった。


「通行不可能な場所はその都度伝える。質問は自由だ」

「はい」


 どうした、早く進め。そうとも言われているような気がして、誠次は向かって左側へと向かう。

 永遠とも感じるほどの長い通路上で、マルコスが歩く足音のみが、聞こえる。


「この建物は、かつてあった世界的な組織の建物の名残なのですよね」

「国際連合だな。魔法と"捕食者(イーター)"の出現に伴い、その役割を果たせなくなったが為に、我々国際魔法教会(ニブルヘイム)に全てを託した」

「なぜ、ここはこのような造りとなったのですか?」

「ヴァレエフ様を含めた当時の幹部が決めたことだ。当時の魔法は空想上のお伽噺のようなものだと言われていたからな。ならば敢えて、そんな空想上の産物であった魔法の実在を知らしめるために、目立つ外観の造りにされたそうだ」


 マルコスの説明に、誠次は納得していた。

 自分たちが魔法学園の制服を着て魔法の存在を世に知らしめていたのと、同じようなものなのだろう。もう、あの白い制服に袖を通すことはないのだろうが。


「ここは……」


 地下室かと思っていた場所の中に、目立つ木製の扉が横にあり、誠次は立ち止まる。


「入ってみるといい」


 マルコスの許可を得、誠次は扉を開けて中に入る。

 そして、衝撃を味わう。

 ぴよぴよと、喉かな鳥の鳴き声が聞こえたかと思えば、立ち尽くす身体を通過するようなそよ風が。地平線の彼方にまで広がっているかとも思うほどの草原が、地下室には広がっていた。


「なんですか、ここは……」

楽園(エデン)、だ」


 迷うこともなく、楽園の名を語るマルコスに、誠次は得体の知らない気味悪さを感じた。


「――マルコス様!」


 遠くの方から、子供の声が聞こえた。声のした方を見ると、数十に及ぶ子どもたちが、天真爛漫な笑顔で、こちらまで駆け寄ってきていた。みな、同じ白い服を着ている。


「マルコス様! 今日は遊んでくれるの!?」

「すまない。今日は忙しいんだ」


 流暢な英語でのそんなやり取りは、子供の反応を加味して、誠次にもなんとなく聞き取れることが出来た。

 ぶー、と言う大量のブーイングを前にしても、マルコスは無表情のままであったが。


「この子たちは一体?」

「貴殿と同じ境遇の子どもたちだ」

「同じ境遇……まさか――」

「"捕食者(イーター)"孤児。"捕食者(イーター)"によって両親を食い殺された、哀れな子供たちを、我々は保護している」


 そう言われ、誠次は真正面をじっと見る。

 八ノ夜美里(はちのやみさと)朝霞刃生(あさかばしょう)薺紗愛(なずなさえ)の三人の幼少期の姿が、目の前の子供たちと重なったような気がして、誠次は息を呑んだ。

 きっと、あの三人の規格外の魔術師は、ここで育ったのだろう、と。同時に、疑問も浮かび上がった。


「国籍はバラバラのようですが」

「当然だ。世界各国から集めた身寄りのない子供たちだからな」


 世界各国にある国際魔法教会支部。そこに身を寄せる子供たちも、多くいた。


「こんなものを俺に見せて……賛同しろと?」

「この部屋に入ったのは貴殿だ。そこで貴殿がどう思い、どう感じたか、それは我々の知るところではない」


 マルコスはそう言う。

 確かに、この部屋を開けたのは自分だ。そこで何を思い、どう感じたかも、全ては自分の責任となる。


「このお兄さんは誰ですか?」「足が、悪いみたい?」「包帯でぐるぐる巻きだ」


 誠次を見て、興味津々そうな顔をする子供たちに、マルコスは短く答えた。


「客人だ。ヴァレエフ様のな」

「ヴァレエフ様、お忙しそうですね」


 身寄りなきそんな子供たちから目を背けるようにして、誠次は振り向いていた。もしも自分が両親を失った日、八ノ夜と出会っていなければ、自分もあの中の一人となっていたのだろうか。

 ヴィザリウス魔法学園に通うこともなく、友と出会うこともなく、国際魔法教会の一員として、ヴァレエフの傍にいたのだろうか。

 考えても栓なき事だと、誠次は首を横に振る。

 楽園、と呼ばれた子供たちの部屋を出て、上層階へ。そこは昨年、ルーナやクリシュティナ、星野百合(ほしのゆり)と訪れた際に一番最初に見た、エントランスロビーが広がっていた。

 周囲では国際魔法教会の職員たちが行き交っている。そのうちの一人、自分と近そうな年齢の銀髪の青年と目があったような気がして、誠次は小さく反応する。

 その赤い目をした男は、どこか驚いたような表情をしてから、こちらから目を背けた。

 こちらは、知らない顔だ。


「あの奥の通路は?」

「あちらは幹部用に作られた専用の棟だ。仕事や、魔法の鍛練の為に使われる。貴殿は出入り禁止だ」


 マルコスに言われた通り、誠次はそちらへは行かず、食堂に向かう。

 ビュッフェ形式で、世界各国様々な食事が用意されてある。一年前に訪れた時は、殆ど客室で軟禁状態であった為、このような場所があるのを知らなかった。

 中でも――。


「寿司……」

「ヴァレエフ様は日本食が好物であられる」


 眼前に広がる新鮮なネタを前に、マルコスはそっと眼鏡を触りながら、告げてきていた。


「食べてもいいのだぞ?」

「い、いいえ」


 さすがに今の状態で食欲など湧かず、誠次は首を横に振っていた。

 全てが謎に包まれていたと言っても過言ではない国際魔法教会本部の内部を、たった少しでも知ることが出来ている。

 次に誠次がやって来たのは、国際魔法教会のこれまでの歴史が描かれた、年表のようなものが描かれた通路であった。

 組織発足から三十年にも満たない国際魔法教会であるが、激動の時代と歴史を築いたことに違いはなく、その年表には映像記録も相まって、濃密な情報が記されていた。

 誠次とマルコス、両者の顔に浮かび上がる文字が流れていく。


「我ら国際魔法教会は、世界の平和と秩序の為にある」


 謳い文句のようなことを、マルコスは告げてくる。何度も見たし、聞いた言葉であった。

 実際、それは正しいことであり、魔法世界中に強い影響力を及ぼしている国際魔法教会にとって、果たさなければならない真っ当な責務なのだろう。


「……平和と秩序の為ならば、一部の人間が虐げられるような事になっても、構わないのですか?」

「なにが言いたい?」


 よく反響する部屋の中で、誠次がぽつりと呟いた言葉に、マルコスは怪訝な表情をする。


「クエレブレ帝国やクーラム王国の件、それ以外にも、国際魔法教会のよくない話を多く聞き、この目で見ました。それらはとても、世界の平和と秩序を守ると言う信念とは大きく逸脱しているものでした」


 ここは耐えねばならない場面である。そうとわかっていたはずなのに、気がつけば、誠次の口から出る不信感の言葉は止まらなかった。

 やはりマルコスは、誠次を睨むような視線を送り込む。


「我々の信念は変わらない。世界全体の平和と秩序の為ならば、いかなる犠牲をも支払うまでだ」

「その犠牲が真に平和を望む人々でもあります!」

「我々も、相応の代償と犠牲を支払ってきた」


 マルコスの返しに、誠次はやや、たじろぐ。


国際魔法教会(ニブルヘイム)発足当初から今日に至るまでに、志を共にした者と多くの別れを繰り返してきた。魔法が生まれてまもなく、まだルールも何も定まってはいない頃より、魔法は世界各国至るところで悪用と乱用を繰り返された。そんな場で、我々は多くの同胞を失ってきた。数多くの流血や理不尽を乗り越えて、今は世界に敷いた秩序を守り続けるべく、この組織はある。死んでいった誇り高き同胞たちの歩みを、貴殿のような子供などに否定される言われはないはずだ」

「守られるべきは過去の遺産ではなく、今を生きる人々のはずです。それこそが、志し半ばで散っていった人々の本当の思いではないのでしょうか!?」

「過去の遺産たる魔剣を扱う貴殿が言えたことではあるまい」


 それに、とマルコスは圧倒的なまでの冷静さを保ちながら、来訪者である誠次にこう告げる。


「貴殿は自分が世界を守ることが出来ると思うのも無理はない。事実として貴殿は、魔剣を使い、多くの事を為し遂げてきた。しかしな、国際魔法教会(ニブルヘイム)は貴殿が思っているよりも、この世界の多くを担っている存在だ。一人の人間ごときが、魔法世界全ての問題を背負えるとは思わないことだ」

「ヴァレエフさんだって、一人の人間のはずです。背負う背負わないの議論でしたら、あの人にだって同じことが言えるはずでしょう!?」

「なにが言いたい?」


 マルコスが若干怯んだのを、誠次は感じていた。


「あの人は元々、ロシアで天文学者をしていた。日本に来た際に俺の両親と出会い、そして、天文学者を志していた俺の両親を教え育て、その夢を叶えさせてくれた、俺の両親の恩師です。そして起きた失われた夜の日(ロストナイトデイ)では、死んでしまった親代わりに、俺の両親を育ててくださいました。あの人がいなければ、今の俺だって生まれてはいません。俺の両親を導いてくれた、心優しく、愛に満ちた一人の人間です!」

「その恩師の思いを無碍(むげ)にし、忌々しい裏切りの魔女の元についた貴殿が言えることか?」

「裏切りの魔女……八ノ夜さんのことか……」


 国際魔法教会関係者から彼女が度々そう呼ばれているのを、誠次は知っていた。


「なぜ、あの女性(ひと)は、裏切りの魔女と呼ばれているのです?」


 誠次の問いに、マルコスが口を開こうとしたその瞬間であった。

 突如マルコスが(こうべ)を垂れ、下がっていく。

 そのマルコスを見つめた後、彼が最後に見た光景を辿って、同じ方を見つめると、そこに待ち人はいた。


「――私が直接話をしよう」

「ヴァレエフ、さん……」


 この魔法世界の全ての魔術師の頂点に君臨する王であり、剣術士の両親の育ての親である、ヴァレエフ・アレクサンドル本人であった。

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