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魔法世界の剣術士 中  作者: 相會応
羊飼いの財布
175/189

1 ☆

「あれ、俺お土産なんかミスった……?」

       そうすけ

 大晦日の午後一ニの時を秒針が刻み進めば、年代は西暦二〇八一年。人類は変わらず、夜の世界を失ったまま、それでも新年の幕開けを迎えることができた。夜に蠢く怪物への恐怖も、室内にいればそれ済むという安心感が自然に生まれ、頭の片隅へと消え去っていく。


 ――それで、良いのじゃないか。

 夜に怪物がいることに変わりはないが、人はそれでも強く生きて行けている。言い方は悪いが、夜に外出をするような人には当然、それ相応の罰があるわけであり、大人しく、礼儀正しく生きている者には、なんら弊害はない。

 誰かが言っていた気がする。゛捕食者(イーター)゛は人間に罰を与えるために生まれたのだと。人間への罰を与える生き物だと。そんなもの、空想の中の神様にしか思い浮かばないような気がする。

 もちろん、様々な宗教的な考えを加味すれば、人間に罰を与える神様の存在も、信じる人はいるのだろう。

 だが実際にはどうか。

 思い描いていたすくいもそこにはなく、あるのは無残な死のみ。とても人間らしい最期の迎え方などではない。

 ゛捕食者(イーター)゛は人類の敵だ。その事実に変わりはない。だからと言って、無闇に喧嘩を売っていいような相手でもない。

 得意な人付き合いと同じだ。上手く相手の機嫌を窺いつつ、お互いを認めあって、時にはどうにか妥協して、当たり障りのないように生きていく。

 

 なあ……それじゃあ駄目なのか、天瀬? 

 

            ※


 年明けの初詣は、例年通り、親友と過ごすことが当たり前となっている。

 それは向こうが、どれだけ()()()()()()存在になっても変わりなく、向こうもその気に変わりはない。言わば、ローカルチックな恒例行事だ。

 ただ、今年の初詣は、いつも以上に異質であり、賑やかになりそうであった。


「みんな、お疲れさん。年末年始も働かなくちゃいけないのは、わかっていたけど、流石に疲れるよな」


 魔法学園の生徒会実行委員として、志藤颯介しどうそうすけを含めた生徒会メンバー四人は、年明け早々の正月の午前も、執務を行っていたところだ。

 

「いえ、構いません」

「生徒会長こそ、お疲れ様です」


 書記と会計である坂本優花さかもとゆか中岡友佳なかおかともよが、共に笑顔を見せる。二人とも一つ下の後輩であり、お互いに仲が良いようだ。

 

「そうだ。修学旅行で行った京都の土産は、もう食ってくれたか?」

「はい、とても美味しかったです」

「京都の河原通りで買われた、醤油お煎餅……う、頭が……」


 喜ぶ坂本と、なにやら頭痛を感じてしまっている中岡であるが、お土産はきちんと受け取ってくれたようだ。

 

「大丈夫、中ちゃん?」

「大丈夫だよさかもっちゃん……。ちょっと、変な夢を見ちゃったみたい……」

「ふ、二人とも新年早々ありがとうな。今年もよろしく頼む。先にあがっていいぞ」


 なにか、悪いことでもしてしまったのかと不安になる志藤が二人を見送る。

 この後は、坂本と中岡は二人で初詣にも行くそうだ。せっかくなのでと言うことで、志藤ともう一人の副会長も誘われて、生徒会メンバーで行こうかとも彼女らからは誘われていたが、気を遣わせるのも悪いと思い、辞退していた。

 

「すみません。ありがとうございます、生徒会長」


 坂本がペコリとお辞儀をして、中岡と共に、地下生徒会室を後にする。

 そうすれば、部屋の中の男女比率はあっという間に男オンリーとなる。


「……」 


 生徒会副会長、西川晴斗にしかわはるとと、二人きりだ。


「西川。お前はこの後、なにか用事あるのか? 家帰ったりとかさ」

「いえ、特にはありません。寮室で過ごすつもりです」


 お互いに温かいお茶を啜りながら、机を挟んで話をする。


「そっか。お年玉とか、貰わねーの?」

「そういう風習は、実家にはありませんでした」

「うっそマジで? 可哀そうだな、それ」

「いえ、慣れていますので」


 西川は自分の電子タブレットから出力されるホログラムを見ながら、なんともなさそうに言う。本当になんともないのだろう。

 男同士のほうが気が楽なのもある。志藤は時間を確認し、よければと、こんな提案をした。


「西川。このあと一緒に、初詣にも行かないか?」

「……矛盾行為ですね」

「矛盾?」


 西川から紫色の切れ長の目を向けられて言われた志藤は、きょとんとなって首を傾げる。


「志藤生徒会長は人の心が読める人だと思います。後輩の二人からの初詣のお誘いも、気を遣わせない為に断ったのでしょう? 俺も、あの二人の会話には付いていけませんから」

「ズバッと言うな……。まあ、お前の言っていることは半分正解だよ。後輩女子二人に気は遣わせたくないからな」


 志藤は背もたれに寄りかかりながら、苦笑混じりに答えていた。


「もう半分は、先約さ。初詣は決まって同じ奴と行くことになってんだ」

「では、そこに俺が加わるわけには……」

「大丈夫だよ。男だしな。何よりも、アイツも人付き合いが良いやつだ」


 それとも、と志藤はニヤリと微笑み、西川を見る。


「まさか俺が彼女と一緒に行くとでも思ってたのかー?」

「いえ。生徒会長に彼女がいるという噂も話も何もないので、その線はないと思っていました」

「いや……少しは、思おうよ……。そこは、気を遣おうぜ……」


 志藤はがっくしと項垂れる。


「それは、生徒会命令ですか?」

「いや違ーよ……。初詣一緒に来いこれは命令だ、って……どんな生徒会長だよ」


 物凄く行かない理由を探し始める西川に、志藤は内心で、ひょっとしてコイツ……真正ボッチか……、と思い始める。

 ……そんな奴と話をするのも、アイツが中学生の時に似たような感じだったな……。とも同時に、思い出した志藤は、席を立ち上がっていた。


「気が変わった、西川。()()()()()()()()()()。一緒に初詣に来てもらうぞ」

「……わかりました」

 

 特に喜ぶこともなく、嫌がる様子もなく、西川は承諾する。まあ喜びはしないことは知っていたが、こちらの言うことは素直に従うところもある、よくわからない後輩男子だ。

 昼前の都内神社。今年も例年通り、朝から昼過ぎにまで、この神社の参拝客は多く、長蛇の列を作っている。


「まさか今年はこうして横並びに整列するとはな」

「一年前を思い出すな。アンタとの出会いも、思えばここだった」


 列に大人しく並びながら、志藤の横に立つのは、一応の同居人、エレーナだ。

 そして反対側には、誠次せいじと無理やり誘った西川が立っている。


「……」

「き、気まずいのだが、志藤……」


 無言で参拝の順番を待っている端の西川の隣から、誠次がぼそりと耳打ちをする。誠次と西川は、おそらくこれが初対面だろう。エレーナが来ることはある程度分かっていただろうが、副会長の後輩まで来ることは想定外だったのだろう。

 

「わ、悪い天瀬……。暇そうにしてたから、ついさ……」

「……まあ、構わないが。なにか、趣味とか知っているか? 話題があれば、話もしやすいんだが」

「……悪い。なんも分からん」

「……」


 申し訳なさそうにする志藤に、絶句する誠次。

 どうにか西川と話そうとする誠次であったが、お互いに情報がなさすぎて、西川とのトークが何もない。こういう時に、気さくな先輩パワーを見せつける番であると思うのが、生憎お互いに部活動に所属した経歴もなく、こういう時の先輩後輩らしい接し方も分からずじまいであったのだ。


「いい天気だな。正月が天晴あっぱれとは、縁起がいいな」


 誠次がぼそりと呟く。


「ハっ、いきなりトークテーマが天気の話とか……。もっと面白いこと言えよ、サムライボーイ……」

「なにおう!?」


 エレーナがぼそりとそんなことを呟き、誠次が怒る。


「新年早々喧嘩はよしてくれって……」


 志藤がげんなりとしていた。

 ちゃりん。数十分の長蛇の列を耐え忍んだ末、志藤と誠次たちは、神様へお金を貢ぐ。こうすると聞こえは悪いが、それが昔からの風習だ。


「……?」


 古い習わしの通り、神様へのお願い事をする傍ら、ふと隣に立つ誠次の動きが止まっているのを、志藤は薄目を開けて確認する。

 なにか、お金を投げるのを戸惑っているようにも、見える。その表情も、今までに見たことがないほど、暗いものであった。気のせい、だろうか……?

 賽銭が終わり、色々な意味で気まずい雰囲気のまま、四人は屋台を歩く。


「そちらの女性はいったい何なのでしょうか? 日本人ではないようですが」

「ただの知り合いだよ。知り合い」

「深くは尋ねない方が良いのでしょうね」


 西川はエレーナを気にも留める様子もなく、ただただ大人しく志藤の跡をついてくるだけだ。

 賽銭の瞬間とはうってかわり、初詣用の屋台が立ち並ぶ神社境内では、誠次のテンションはわかりやすく上がっていた。もっともそれは、お金を賽銭箱に投げ入れることよりも屋台を見て回って美味しいものを食う方がこちらも楽しいので、妥当な事だろう。


「志藤」


 一通り屋台を見回っていると、突然誠次が、声を掛けてくる。


「どうした、天瀬?」

「二人きりで話がしたい。歩きながら、話さないか?」

「真剣な顔だな。わかった。どうしたんだ?」


 快晴の青空の下、周囲の人々の喧騒もよそに、誠次と志藤は境内を歩きながら話す。行く宛は、今のところどこにもない。


「゛捕食者(イーター)゛が昔の世界の神様ねえ」

「ああ。おそらく、間違いないと思う」

「ったく、結構な話だぜ。人間ってのはすぐ神様を都合よく利用するからな。神様が見ているーだとか、神を信じるーとか。そして都合が悪くなったら神が見捨てたとか、神が悪いとか。そりゃあ、人間の都合で振り回される向こうも怒るって話だよな」


 志藤が苦笑すれば、誠次も思わず笑ってしまっていた。


「それで、真相を確かめに、一週間ぐらい休みをもらって、またアメリカのマンハッタンに行くつもりなんだ。俺とレヴァテインの力を求めていた国際魔法教会本部に、何かがあると思うんだ」


 誠次がそう言うと、志藤はじっと前を、見据えたまま、口を開く。


「――そっか。まあ、今度はちゃんと帰ってくるんだろ? 怪我なく無事でさ」


 そんな志藤の言葉の返答には、やや時間が経った。


「ああ。必ず帰るよ。一年前みたいにはならないさ。話をするだけだから」


 誠次が微笑んで言った直後。新年の冬の寒風が、木枯らしを巻いて、二人の間を駆け抜けていく。

 思わず寒気を感じて振り向くと、なんとすぐ後ろに、西川が無言で立っていた。


「「ぬわ!?」」


 これには誠次と志藤は、同時に驚いてしまう。


「ビクッた……。いるならいるって言えよ……」

「どこかへ行けとも言われていませんし、貴方の後をずっとついていたのですが」

「ピク○ンかお前はっ!」


 志藤のツッコミに西川が困惑するような表情を浮かべている。

 そうして次には、エレーナまでもが、志藤に詰め寄っていた。


「おいソースケ! 私、次、アレ、食う!」

「お金渡しましたよね!?」

「全部クジに使ってやった。おかげですっからかんだ」

「誇らしげに言うなし!」


 性格も年齢もバラバラだが、志藤を中心として花が咲いたように一気に賑やかになっていた。彼がいれば、どんな人とも繋がり、そこから輪ができる。それが彼の良いところでもあると言うことをよく知っている誠次は、人知れず、微笑んでいた。


「な、なんだよ天瀬……笑うなし……」

「いや、志藤こそお節介な所は相変わらずだな、と思ってさ」

「へいへい……」


 友の屈託のない笑顔を受ければ、嫌な気持ちもどこかへ飛んでいく。おみくじやお守りを買いつつ、今年の初詣は穏やかに終わっていった。


 正月からの三が日が終われば、昨年のクリスマスイブから続いた冬休みは早くも終わりを迎える。

 おおよそ一週間だけの休暇を終えれば、ヴィザリウス魔法学園の魔法生として迎えるニ学年生の新年が始まった。


「年末のガチ使見た?」

「私はずっと白黒歌合戦見てたなー」


 たかが一週間、されど一週間。それは夏休みほどではないが、いつも中一日で顔を合わせているクラスの面々に再会すると、たちまち話題には事欠かなくなる。大晦日と正月はどちらかと言えばきちんと実家には帰っている人が多いのも、久しぶりな気がすると言う感覚に拍車をかけるのだろう。


「おはよう、天瀬くん」

「おはよう、香月こうづき


 先に教室の席に座っていた誠次の前を、彼女の席の関係上通る必要がないというのに、わざわざ通って香月は挨拶をしてきていた。一瞬だけ黒色と紫色の目線が合わさったかと思えば、何事もないように、新年最初の授業を受ける風景の一部に、溶け込んでいく。


「京都のホテルでさ、C組の――!」

「うっそマジで!?」


 一応、二学年生は京都の修学旅行から帰ってきてから今日に至るまでの冬休み期間であったので、そのことについての話題もチラホラあった。

 間もなく、チャイムがなる。学園最大の目玉行事とも言われている修学旅行を終えて心機一転、魔法学園で過ごす新たな年の始まりだ。


「あけおめことよろ〜。んで、宿題はちゃんとやってきたか?」


 教卓に着くなり、にんまりと嫌な笑顔を見せつけながら、クラス中を見渡すはやしに、新年早々心の中は晴れやかではない。


「ま、俺が堅苦しい抱負を言うのも変な話だし、いっちょ今年もよろしく頼むぜ。面倒事は起こさないようにな」


 寒い気候が続く中、相変わらずな林のHRが終わり、新年の授業は始まった。

 加湿暖房器の白い煙が時より天井から降り注ぐ中、クラスメイトたちは真面目に授業に取り組む。

 何事もなく放課後になれば、それぞれ寮室に戻る生徒、部活動に赴く生徒、委員会に向かう生徒に別れていく。

 志藤も、冬休み明け初日から生徒会実行委員の執務の為に、部屋がある地下室へとやって来ていた。


(ま、分かっちゃいたけど、フレースヴェルグの活動と体育祭が重なってた秋に比べちゃ、平和だわな)


 逆に秋が異常であったのだ。今はもう戦うべき相手はおらず、フレースヴェルグも店じまい中だ。

 他愛ないような穏やかな日々というものを、しばし楽しもうじゃないか――天瀬……。


(なんで、天瀬が……)


 人知れず、頭の中にぼんやりと浮かんだ友の姿にあっと驚いているとふと、目の前にそっと、温かいお茶が入った湯呑を差し出される。

 誰かと思えば、先に部屋に来ていた、書記の坂本であった。

 

「お茶どうぞ、志藤生徒会長」

「あ、悪い。変な真似させちまったな」

「これくらいは後輩の私に任せてください」


 気が効き、優しい性格で真面目な彼女である。後輩ながらにも人望は高く、生徒会長として、何よりも一つ上の先輩としては、襟を正さねばならなくなるような存在だ。勿論、良い意味で。


「一人は珍しいな。中岡ちゃんは?」

「あ、えっと……」


 中学校よりの友だちで旧知の仲だと言う中岡とは、プライベートでも仲が良い。それに同じクラスのはずなので、いつも一緒な印象がある。

 二人きりでこの場にいるのがなんとも珍しく感じ、志藤は坂本にいていた。


「――おはようございます」

 

 その時、他クラスである西川もやって来るが、中岡が来る様子はない。


「お疲れ西川。中岡見なかったか?」

「中岡さんは見ていませんが、坂本さんの方が詳しいのでは?」

「それで今、訊いてたところなんだが……」


 志藤はそう言って、ちらりと坂本を見た。

 胸元に手を添え、坂本はどこか気まずそうにしている。


「まあ別に話せないんだったら構わねえけど――」

「いえ、あの、話しますっ!」


 尋常ではない程の食い気味で、坂本は机に両手をついて立ち上がる。

 志藤と西川は、やや呆気に取られて、中岡不在の理由を坂本から聞くことになる。


           ※


『国際魔法教会について、ですか』

「はい。現状俺の知る限り、その手のことについて詳しいのは、朝霞刃生あさかばしょう。貴方だ」


 新年早々の放課後から、多目的室に用事がある魔法生はいない。

 よって誠次はそこに滞在し、小窓から廊下の様子を窺いながら、電子タブレットで朝霞と通話をしていた。このことは、下手に知られたくはない。


『それにしても、初めてではありませんか? 貴男の方から私に連絡をするとは。連絡先、わかったのですね?』


 ふふと微笑む通話先の朝霞に、誠次はとびっきり嫌な表情を浮かべる。


「……夏休みに貴方に奪われた電子タブレットが返却された時、連絡先の一覧に入っていたんだ……」

『誰の仕業でしょうかねえ?』

「……」


 本来、あんまり話などしたくはない相手であるが、今は目的の為に、彼の協力がなければ進まない話をしなくては。


「朝霞。真剣な話なんだ。゛捕食者(イーター)゛に関係した、もしかすれば、謎が解けるかもしれない」

『ほう。その声のトーンと貴男の表情から、真面目な話であることはわかりますが、まさか忘れてはおりませんよね?』


 朝霞に言われ、誠次は深く息を吸い、深呼吸をする。


「ああわかっている……。俺はまたしても、゛捕食者(イーター)゛憎しの為に、単独行動を取ろうとしている……。でも、どうしてもこれだけは、俺にしか出来ないことなんだ……」

『貴男にしか出来ないこと、ですか』

 

 朝霞は少々、間を置いて、次の言葉をかけてくる。


『話は聞きましょう。私は一応、幹部を脱退した身ですが、なんでしょうか?』


 かつては国際魔法教会幹部としてレーヴネメシスに潜入し、一希かずきにレーヴァテインを与えた張本人。それが例え味方となろうが、誠次からすれば善人か悪人かの両端で問われれば、間違いなく後者に当て嵌まるような人物だ。

 だがしかし、やはり国際魔法教会の扉を叩くには、この男の助力がなければなるまい。


「近いうちに、国際魔法教会本部へ行きたい。アメリカのニューヨーク州、マンハッタンだ。国際魔法教会関係者と、連絡は取り合えないだろうか?」

『無理に決まっているでしょう。先も言いましたが、私は脱退した身です』

「そうか……」

『それにそもそも、貴男にとって本部へ向かう前に、どうしても乗り越えなくてはいけない壁はもう一つあるでしょう?』


 朝霞の言葉に、誠次は顔を上げる。

 国際魔法教会本部に行くまでに、乗り越えなくてはいけない壁、だと……。

 すぐに返答をしようとした誠次であったが、言葉は詰まり、俯きかけ、力なく、答えることになる。

 

「……そんなの、多すぎる……」

『一度よく頭を冷やして考え直すことをオススメ致しますよ。貴男にとって本当に取るべき行動、何をすべきなのかを、ね』

「ま、待ってくれ、朝霞!」


 誠次が慌てて朝霞を呼び止めようとするが、通話は遮断されてしまった。青い半透明なホロ画像が、虚しく点灯している。

 朝霞からの協力は、見込めそうになかった。


「自分なりに考えたさ……その結果が、これ、なんだ……」


 多目的室の壁に背から寄りかかり、誠次は窓の外を見つめながら、そうポツリと呟く。

 この青い空の彼方にある、太平洋を挟んだ魔法大国、アメリカ。そこにいるであろう、自分と、魔剣を待つ人々。そこへ辿りつけば、或いは、゛捕食者(イーター)゛に関する何かが分かるはずなのだ。

 そこに至る思いとは必然と――この魔法学園に通う人々や、今まで自分の人生に関わってくれた人々を、守るためであった。


「他の方法を探さなければ……。なんとしても、俺は、ヴァレエフ・アレクサンドルの元へ……」


 ここで立ち止まるわけにはいかない。天から降りてきた限りなく細い糸は、未だ目の前に垂れ下がっている。それを掴んで、辿り、終着点へと向かわなければ。

 誠次は胸に手を添えて深呼吸をしてから、多目的室を後にした。


挿絵(By みてみん)

~冬休み延長への道~


「冬休み実質一週間だけって、短くね?」

ゆうへい

        「俺はそうは思わないけどな」

          そうや

「いいや、絶対夏休みに比べて不公平だ」

ゆうへい

「俺はこの制度、変えるべきだと思う」

ゆうへい

        「……確かに、夏は長くて冬は短いのは、違和感がある」

          そうや

「切り替え早いですね……」

まこと

        「夏休みも短くすれば問題ないな!」

          そうや

「頭良いんだか悪いんだか……」

ゆうへい


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