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魔法世界の剣術士 中  作者: 相會応
ワンスアポンアタイム 〜雪降る古都で〜
173/189

9 ☆

「私とうさぴょい……する?」

       しおん

 やって来た香月こうづきを部屋に迎えた誠次せいじは、彼女の後ろ姿を追っていた。

 香月は無言で窓際に近づくと、遠くに見えるイルミネーションが施された嵐山と渡月橋を、じっと見つめているようだった。大粒の雪のせいで、お世辞にも視界は良いとは言えないが、それでもその奥に映るものを見ようと、アメジスト色の目を向けている。


「窓際は寒くないか? 何か、温かいものを淹れよう」

「ありがとう、天瀬あませくん」


 誠次はお茶を淹れ、机の上に二人分をそっと置いていた。時刻は九時になろうとしている。今頃他のクラスメイトたちは、祇園のホテルで自由時間となっているのだろう。

 そんな中で、自分と香月の二人だけは、遠く離れた嵐山前の旅館に泊まろうとしている。今日は朝から異常事態であることに他ならないが、同級生女子と夜の部屋の中で二人きりという状況も、十分な異常事態だろう。


「それで、どうしたんだ香月?」

「あなたこそ、お風呂にも入らないで、お部屋も汚いわ」


 窓の外から振り向き、部屋の中を見渡す香月は、そんなことを言った。

 確かに、整理は出来ていないままだ。色々と。


「す、すまない。まさか香月が来るとは思わなくて……」

「ちょっと、後ろに下がって頂戴」

「? わ、わかった」


 何事かと、誠次が後ろに一歩下がると、香月が魔法を発動する。部屋の中に散乱していた誠次の荷物に、瞬く間に魔法が掛かり、それが光を帯びて浮かび上がり、次々と整理整頓されていく。


「……やっぱり、魔法は凄いな。映画で見たような光景そのままだ」


 誠次が感心すると、香月は満更でも無さげに、微笑んでいるようだった。

 綺麗に整理整頓された部屋の中で、誠次と香月は座椅子に座り、話をした。


「今日一日で、色々なことがあったわね」

「ああ。俺もそれを考えていて、全然眠れないんだ」

「私もよ」


 誠次の言葉に、香月は頷く。

 

「゛捕食者(イーター)゛が、過去の神々であったこと。そして、君によく似た女神の存在。順を追って、話し合わないか?」

「そうしましょう」


 香月もこくりと頷き、長袖を手の甲まで持っていき、そっと手を擦る。


「まずは、君によく似た女神の存在だ。これは、偶然なのだろうか」

「……」


 顎に手を添えて呟く誠次の前で、香月がどこか不安げな表情をしている。

 香月が不安に思う気持ちは、誠次にはなんとなく分かる。仮にもしも、自分そっくりの人間が近くにいるとしたら、それは怖いことだろう。ましてや、女神などといった大層な呼び名を、持つのであれば。


「香月。俺をあの時渡月橋で助けてくれたのは、紛れもなく香月詩音、君だ。それだけじゃない。去年の春に交差点で出会い、俺に戦うための勇気と力をくれて、重要な時に傍にいてくれる、大切な人だ。女神なんかとは違う」

 

 香月を前にして、そんな言葉は自然と溢れるようになる。目の前に座る大切な女性を悲しませたくはないと言った感情は、誠次を中腰の姿勢にまでさせていた。

 そんな誠次に、アメジスト色の目を微かに見開いていた香月は、優しく微笑んだ。


「大丈夫よ天瀬くん。あなたがそう言ってくれるから、私は安心できるの」

「香月。俺は君のことが心配なんだ。強がってはないだろうか?」

「それを言うのなら、こっちの台詞よ、天瀬くん」


 急に、言葉の行き先がこちらに向けられて、誠次は少なからず動揺してしまっていた。自分ならば、香月の悩みの種を少しでもなくすことができるはず。そう思っていた矢先での、切り返しであった。


「え……」

「ここ数日までのあなたは、何をするにしてもうわの空で、いつも遠くを見てる」

「そんな、ことは……」

「アフマドさんとの会話を、私は聞いたわ」

「……」


 香月には、どうやらあの日の会話を聞かれてしまっていたようだ。


「何を悩んでいるの、天瀬くん。まさか、本当に彼の言うとおり、あなたがここにいない方が良いって、自分で思っているわけじゃないでしょうね?」


 いつもよりもだいぶ、香月の語気は強くなっているように、感じる。

 全て、当たっている。もう二年も共にいれば、彼女にはなんでもお見通しなのだろうか。或いは、一緒にいすぎたのか。誠次は俯き、やがて小さく、口を開いた。


「俺の推測だが、゛捕食者(イーター)゛は本当に、過去の世界の神々の成れの果てだと思って、間違いないと思う。そして、俺たちの歴史から抹消された、旧魔法世界は、本当にあるのだとも、思う」


 スヴェンやロイナス。そして魔剣レーヴァテインの存在。ファフニールの言葉も、全てが正しいものであると感じた。

 香月はじっと、誠次の言葉を聴く。


「では、なぜスヴェンやロイナスが見ていた神の姿と、俺たちが見ている゛捕食者(イーター)゛と言う姿の見方には違いがあったのか。そのことについて、とある仮説を立てたんだ」

「仮説?」

「ああ。思うに゛捕食者(イーター)゛、いや、旧世界の神々の成れの果ては、この魔法世界に()()()()()()()()()()()()()()

「適合って。それに、今はまだ……?」


 香月が真っ直ぐ、誠次を見つめる。

 誠次は真剣な表情のまま、言葉を続けた。


「推測の段階だけど、奴らが夜にしか現れないのも、家の中に入れないのも、ゲームで言う、そのシステムが奴らの中で出来上がっていない状態なのだと、思う。不完全な人の形のような姿も、人間の悲鳴のような鳴き声も、人にはなれていない、怪物としての姿だ。たった一枚の壁を隔てるだけで、その先に人間がいるにも関わらずに自ら進行できないのは、まだそのプログラム――言わば知性が出来上がっていないからとも言える」

「でも奴らは、人を食べるし、何よりも普通の人以上の力を持っているわ」

「それが神々であったと言われれば、納得はできるはずだ。それだけじゃない。今はまだ、不完全な存在の彼らが、やがて完成された完璧な姿となって、この魔法世界に生まれたら、それこそ――」

「そんなこと、ないはずだわ」


 誠次の言葉を遮るようにして、香月が言葉を被せる。その表情は怯えており、しかし、話さねばならぬことであった。


「あくまでこれはまだ推測の話だ。でも、仮にそうだとしたら、奴らは今も進化を続けていて、プログラムはやがて完成を迎える。そうなってしまえば、再び、この魔法世界は争いの時代を迎えることになるのかもしれない」


 誠次はそう言って、窓の外の夜の景色を、睨むようにして見据える。


「そうなってしまえば、いよいよ人類は、再び滅びの時を迎えかねない。それを防ぐ可能性があるのが、俺と、レヴァテインかもしれないんだ」


 そう言って持ち上げれば、微かに震えかける両手を誠次は凝視し、ぐっと、握り拳を作る。


「どうしろって言うの? あなたは、天瀬くんは……私と同じただの学生よ! 同じ魔法学園にいる、同い年の男の子!」


 香月もまた、震えかける声でこちらを諭すようにして、机の上に身を乗り出す勢いで言ってくる。


「俺もそうだと思いたい。だが、実際には違った……。幾千億もの時を越えて、俺の力を求める人はいた。そして今も……」

「今もって、まさか……――」


 驚き戸惑う香月のしっかりと見て、誠次ははっきりと頷いた。


「――国際魔法教会だ。彼らは俺と、レヴァテインの力を欲している。スヴェンとロイナスと同じだ」

「待って天瀬くん。まさかとは思うけれど、あなた、国際魔法教会本部に行くつもり?」

「……ああ」


 香月の言葉に、誠次は素直に、頷いていた。嘘は、つけない……。


「きっと罠よ! ルーナさんやティエラさんの件を見たでしょう!? 何よりも、あなたがいるべき場所は、あそこではないわ! ヴィザリウス魔法学園……私と、一緒のところ!」


 照明に照らされる以上の水の輝きを纏い始める香月のアメジスト色の瞳が、誠次に強い口調とともに、必死に訴えかけてくる。

 その目と表情にやられる誠次は、苦しい思いを吐き出すように、首を横に振るう。


「しかし真実には近づける。このままでは全てが手遅れになるかもしれない……。何よりも、香月やみんなを本当の意味で守るためには、行かなければ」

「本当の意味ってなに……。今までのあなたがやってきたことは、全て違う意味って言いたいの……? あなたによって救われてきた人は、みんな紛い物だって言いたいの!?」


 そんな目で、見ないでくれ……。そんな顔で、言わないでくれ……。思わずそう言いかけた口を噤み、誠次は言い返す。


「違う、そうじゃない! 俺が今まで守ってきたものを、大切なものを失わないようにするためには、やはり゛捕食者(イーター)゛を倒し、夜の世界を取り戻すことこそが、俺が果たすべき夢なんだ!」

「私は……っ! 私の、夢は――!」

「魔法は夢を叶えるもの……。俺は、香月のその言葉が、大好きなんだ」


 唐突に呟くよう、やや微笑んだ誠次がそう言った瞬間、香月ははっとなる。


「たとえ魔法が使えなくとも、その言葉がいかに素晴らしいものであるか、俺には分かる。魔法世界になって、魔法はありとあらゆる可能性を持つものだ。それを扱える魔術師が、この新たな魔法世界を作っていくべきなんだ。決して゛捕食者(イーター)゛なんかじゃない。そして……剣術士でも、ない」


 だから、と誠次は、殆ど懇願するように、香月の華奢な両肩に、伸ばした両手をそっと添える。

 すでに、香月の両目の端からは、抑えることのできていない涙が、流れ始めていた。身体は震え、何かを伝えたがるように激しく上下し、こちらをじっと見つめている。

 その前に誠次が、次の言葉を放った。


「頼む香月。……馬鹿な俺を、どうか赦してほしい。俺は魔女から魔剣を託されて、魔法が使えないながらも、それでも人より多くのものを授かった。君を含めた、素敵なものも沢山に。そして同時に……負うべき責任と、果たさなければならない使命も、俺は持った」

「赦すなんて……こんなことになるのならば……魔剣なんて、魔法なんて、いらない……っ」


 魔法を否定するかのような香月を見て、誠次はとても悲しく感じてしまった。


「しかしレヴァテインがなければ、あの夜に勇気を持って飛び出して、君を守ることもできなかった。君と出会う事もなかったんだ」

「そんなことないわ! あなたは例え魔剣が無くても、私を守ってくれたはず……っ!」

「香月……」


 目の前で泣きじゃくる少女をじっと見据え、誠次も胸の底から湧き上がるような熱い衝動を自覚し、香月の両肩に添えていた腕を、そっと離す。そのまま、覆い包むように香月の背中に腕を回すと、自身の身体を寄せて、香月をぎゅっと抱いていた。

 ひく、ひくと泣き揺れる香月の身体が一瞬だけぴんと伸びたかと思えば、次には、こちらに全ての体重を乗せるかのように、もたれかかってくる。


「君がそう言ってくれて、俺は本当に嬉しい……。……だから、だからこそ、俺は君たちが生きているこの魔法世界を全て守りたいんだ……」


 銀色の髪の奥にある彼女の耳にぼそりと声をかけるようにし、もはやこちらも微熱でくらくらとしかける身体のまま、誠次はそっと、香月の後ろ髪を撫でていた。


「それが……魔剣を持った俺が果たすべきことなんだ」


 自身にも言い聞かせるようにして、誠次は呟く。香月を抱き締める腕にも、力が籠もっていた。

 ただし香月は、そんな誠次の肩の上から、顔を離していた。


「私があなたに魔法で夢を見せたのと同じように、あなたも私に沢山の夢を見せてくれたの」

「……っ」


 両頬にそっと添えられた、香月の冷たくも温かい指の感触に、誠次は目を開ける。

 鼻の先と先が触れ合いそうになるほどにまで近づいていた、香月の顔が、そこにはあった。

 

「どうしたのよ、天瀬くん……。あなたのお得意の、空間認識能力で、私の気持ちを、読み取りなさいよ……」


 泣き顔ながらも、怒ったような表情を見せる香月に、誠次もまた目頭に熱いものが込み上がるのを、自覚した。

 そして、言われたとおりにするように、誠次は至近距離にある、香月の顔を、じっと見据えた。暖房をかけすぎたのだろうか、身体は熱く火照り、呼吸も正常なものではない。

 それでも、香月のアメジスト色の瞳をじっと見つめた誠次はまず、彼女の気持ちよりも先に、自分の気持ちを、ようやく理解する。


「香月……」

「……っ」


 香月がそっと目を閉じる。

 誠次は薄目を開けたまま、香月の薄桜色のくちびるに、自身のくちびるを重ねた。

 ソフトタッチのキスは、随分と呆気ないと思ってしまったのも束の間、次には誠次は、再び香月の背に腕を回していた。

 そうして見つめ合えば、香月の方からも誠次の胸元に手が添えられ、その指先が、服の袖を掴む。

 そして、お互いに顔を近づけ合い、キスを交わす。今度は、先程よりももっと長く、深く、互いの愛を確かめ合うようなものであった。


「あなた、とても悲しそう……」

「すまない……君のファーストキスを奪っておいて、こんな顔をしてしまうのは、駄目だよな……」

「ううん……あなたが悲しむ理由は、私にも分かるわ。他の人の事を、思い浮かべていたのでしょう?」

「みんなにもこのことは言わなければ……。きっと、止められるだろうけど」

「それはそうよ。誰も、あなたに行ってほしくなんか、ないんだもの……」


 部屋の中の風呂に入り、浴衣姿でお互いは、共に窓の外の夜景を眺めていた。


「だから、お願い。私も連れて行って」

「駄目だ。もしかすれば、ヴィザリウスには戻れない可能性もある。君は君の道を進んでほしいんだ、香月」


 隣に座る香月の手の甲の上に、誠次は自身の手を添える。

 そうして誠次が香月の肩に寄りかかるようにすれば、香月は優しい表情となって、誠次の茶色の髪をそっと撫でてやる。


「ありがとう……。こんな俺に、勇気と魔法をくれて……」


 月明かりが差し込む中、誠次は香月の胸元で、そう呟く。

 これでは赤子をあやすようだ、と微かに微笑む香月は、それでも誠次の頭を、撫で続けてやっていた。


「あなたこそよ、天瀬くん。私に生きる意味と、友だちを思う強さをくれたのはあなた……。今度は私が、私の魔法を使って、あなたの夢を叶えてあげるわ」

「香月……俺は君に出会えて、本当に良かった」

「私もよ……天瀬くん」


 ふわふわと雪が舞い降りる中、月明かりに照らされた二つ分の影は、重なり合い、もう離れることはなかった。

 

「……」


 窓の外の木々の枝の上に降り積もる雪と、そこから見える部屋の中で、重なり合う二人。それを見つめていた、一人の影はそっと、手に大事そうに持っていた丸いものを、雪の上に落としていた。

 ぽとっ、と音を立て、柔らかい雪の上に跡が残る。

 それは、幾億もの時を越えて、再び出会えた最愛の人から受け取った、シカ煎餅であった。


 ――翌朝。

 雪は完全にやみ、京都に朝日が登る。渡月橋の下から浮かび上がった橙色の陽光が、夜明けを告げていた。

 誠次たち嵐山に泊まった三人組は、始発の電車で、祇園にある元の宿泊地へと戻っていく。

 三人がいなかったことは、林を始めとした教師陣が上手く隠してくれていたようだ。


「すみません、すみません!」


 ホテルで合流する際に、向原が出迎えた林に何度も頭を下げていたが、林は面倒臭そうに髪をポリポリとかいて、向原に肩を竦める。


「礼を言うのはこっちの方だ。俺の担当する生徒二人を、よく連れ戻してくれた」

「そんな……実は、私はあの二人に助けてもらって――」

「最終日まで、気は抜けないのが修学旅行だ。問題行動を起こす輩もいるからな。しっかり見張るんだぞ、向原」

「は、はい……」


 随分とあっさりとした対応に、向原はきょとんとする。こっぴどく叱られると思っていたのだが。


「良かったですね、向原先生」


 後ろに控えていた誠次が、微笑んで向原を見ていた。

 その隣に立つ香月も、うんと頷いている。


「――良かったのですか、林先生?」

 

 同じ学年のクラス担任である女性教師石水いしみずが、部屋に戻ろうとする林を呼び止めていた。

 林はあくびをしながら、軽く笑っていた。


「まあ、無事に帰ってきてくれたら結果オーライだわ。部外者の俺らがとやかく問い詰めることもねえ。それに……」


 林は一瞬だけ振り向き、誠次と話す向原と香月をじっと見た。


「アイツ、剣術士と関わると大抵ロクな事にならねーからな。向原には、良い厄介払いさ」

「うわ……それ生徒が傷つきますよ……」


 石水が若干引いているが、林はなんのそのだ。


「まあ、良い研修旅行だったようだぜ。これくらいのイレギュラーを乗り越えてくれなきゃ、魔法をバカスカ使う連中のお守りなんて、とても危なっかしくて出来ねえ」

「若い向原先生には、ちょうどいい試練だったのかもですね」

「……なんで、若いを強調するんだ……?」


 髪をくるくると指先で回しながら、石水がぶつぶつと呟いているのを、林は冷や汗を流しながら問う。


「別に、何でもありません」

(ああ……京都で男探しをミスったんだな……こりゃあ……)


 職員室で水面下の女の戦いを繰り広げないで頂くことを、願う他あるまい。向原の他にも、星野百合ほしのゆりもいるのだから、魔法学園の職員室は気がつけば大変居心地が悪い空間となることは請け負いだ。

そして、誠次もまた、本来自分が寝泊まるべきであった部屋へと戻ってきた。


「どこ行ってたんだ? 心配したんだぜ」

「自分たちの中でも、誠次さんがいないからって、女の子の部屋に行ったんじゃないかって、他の男子がうるさかったんですよ?」

「連絡ぐらいはしてほしいな。何かをしていたようだが、結局どこにいたんだ?」


 同じ部屋であった悠平ゆうへいまこと聡也そうやからは、誠次は問い詰められる。

 直接話しておくべきことであったので、信頼できるルームメイトには、昨日起きていたことを包み隠さず話していた。……香月の部分は、向こうのこともあるので、除く。


「゛捕食者(イーター)゛が、旧魔法世界の神々だった?」

「ああ。まだ推測の段階だが、俺はそう仮定している」


 最終日は全体行動。クラスごとに纏まり、京都の伝統細工や、和菓子づくりの体験を行っていた。基本的にはクラス内でも班行動なので、実質的に初日の行くところが決められている版、みたいなものだ。

 班ごとに机の前の椅子に座り、それぞれ講師の指導のもと、和菓子作りをする傍ら、誠次は隣に座る悠平と話をする。


「室内に入ってこれない理由や、夜にしか現れない理由が、彼らにとってこの魔法世界が異質で、不完全なものであるから、認識自体が出来ていない……。たしかにそう言われると、納得できるかもしれません……」


 真は持ち前の器用さとお菓子好きなことも相まって、早くもハイクオリティな羊羹を作り上げている。


「つまり、旧魔法世界の神々が、未だにこの世界を支配する事を諦められず、少しづつこの世界へと生き帰り戻ろうとしている、と言うことか……」


 眼鏡の奥の赤い瞳を研ぎ澄ませ、聡也が真剣な表情で言っている。作っているのは、小さな眼鏡の和菓子で、あまり美味しそうじゃない……。


「ああ。仮にそうだとすれば、対抗できる力はやはり……俺が持つレヴァテインなのだろう」


 誠次はそう言って、今は黒い袋に収めて自分の背後に置いてある、一対の剣の方を、じっと見つめていた。

 そうして振り向いた誠次の首筋を見て、悠平が何かに気がつく。


「はっはっは。おい誠次、お前首筋に青いあざが出来てるぞ。また怪我したのか?」

「青いあざ……? いや、そこは特に……」


 不審に思って悠平に指摘された箇所を擦る誠次であったが、真向かいに座る真が「まさかっ!」と何かに気がついたように、顔を途端に真っ赤に染めて、ぷるぷると震えながら俯き、そっと声を掛ける。


「も、もしかしてですけど…! ……それって、き、キスマークではないでしょうか……?」

「なるほどキスマークか。今まで赤いマフラーに包まれていて、首元は見えていなかったぞ」


 聡也が普通の声のトーンで言えば、周りがざわめき出し、誠次もまた顔を真っ赤にする。


「き、キスマークだと!? それは一体誰のだ天瀬!?」


 クラスメイトの男子が、和菓子づくりなどそっちのけで誠次の元に集い始める。

 逃れられない決定的な証拠を示され、誠次は慌てて首を左右に振っていた。

 和菓子づくり、静粛に、粛々と。修学旅行最後の思い出が、キスマークを巡る言い争うになど発展してしまうのはきっと、誠次も彼女も、望んではいないことだろう。

 慌てて弁明する誠次の手元では、三日月とうさぎを象った餅の和菓子が、出来上がっていた。


挿絵(By みてみん)

~神を討つ剣~


「神山ーっ!」

せいじ

       「な、なんだ天瀬!?」

        かみやま

       「そんな血相変えてどうした!?」

        かみやま

「神は俺の敵だ!」

せいじ

「俺はお前を倒す!」

せいじ

「しかも山とか!」

せいじ

「山の神か!」

せいじ

        「クラスメイトから殺害予告を受けています!」

         かみやま

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