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魔法世界の剣術士 中  作者: 相會応
砂漠の王子と電脳の貴公子
164/189

18 ☆

「飛行機は怖くて乗れないから、泳いで韓国まで行くしかないね」

         ちか

文化祭の翌日。後夜祭の名残もまだまだ至るところに残っている魔法学園の理事長室で、誠次せいじ志藤しどうとセリムの三名が、八ノ夜はちのやに事の顛末を話していた。


「まずは、この学園を守るために尽力してくれた三名には感謝する。よくやってくれた」


 八ノ夜は優しい口調でそう言ってくるが、真の心は笑ってなどいない。

 そのことは、セリムも肌に染みて感じているようで、神妙な表情をして、誠次と志藤の一歩前へと出る。


「結果的に、俺の国の者が魔法学園に迷惑をかけたのは事実です。賠償もなにもかも、クーラムは全てを受け入れるつもりです」

「当事者は私ではなく、後ろの男子二人だろう。その二人の意見を聞こうか」


 八ノ夜はそう言って、サファイア色の瞳を、セリムの背後に控えるようにして立つ誠次と志藤に向ける。


「結果的に、セリムには文化祭の出し物も手伝ってもらいました。彼なしでは、文化祭の出し物の成功もありませんでしたし、恩も感じています」


 誠次がセリムを庇うようにして言う。


「そのアフマドって奴の狙いは、クーラムって国の王位うんぬんだけじゃなかった。もう一つの目的、国際魔法教会がこのヴィザリウス魔法学園にちょっかいを出してきたのも、見過ごせない点です」


 志藤が言う。


「……」


 その言葉を聞き、俯きかける誠次。


国際魔法教会ニブルヘイムの狙いか。俺には全くわからないな。この魔法学園にお宝でも眠ってるのか?」

「宝、か。私からすれば、この学園にいる魔法生全てが、私にとっての宝なのだがな」


 セリムの言葉に、八ノ夜が理事長机の端をそっとなぞり、そう呟いていた。


「国際魔法教会の件は、私が対処しよう。セリム・アブラハム」

「はい」

「今回の事は忘れずに、どうか善き国王になってくれ。民も君の帰還を望んでいるはずだ」

「寛大な処分、感謝いたします。魔法学園理事長殿」


 セリムは胸に手を添えて、頭を深く下げていた。

 そうして部屋を後にしようとするセリムと志藤。その途中、踵を返した志藤は、足音が一人分少ないことに気がつき、ドアノブに手を添えたまま顔だけ振り向く。


「天瀬?」


 直立不動となって、八ノ夜と対面したままでいる誠次を見つめ、志藤がその背中へ声をかける。


「国際魔法教会への対処とは、具体的にはどうされるおつもりですか?」


 誠次が八ノ夜に問う。


「本部へ向けて抗議の文を送る。それだけでは不服か?」


 八ノ夜がそう返す。

 誠次は表情を変えずに、八ノ夜を見据えていた。


「不服はありませんが、不十分では……? 国際魔法教会は間接的に、明らかな敵意をこちらへと向けてきています。いつ彼らが本腰を入れて、この学園に災いをもたらすか……不安ではあります」


 国際魔法教会は敵である。今の誠次の口からは、そういう風に出ていた。


「まさか、国際魔法教会と戦争でもするつもりか? 相手は世界を統べる一大一強の組織だぞ。()()()()など、相手にもならない。上手く立回らなければ、一方的に踏み潰されるのは私たちの方だ」

「……貴女は本当は、知っているのでは? 彼らの本当の狙いを……真の目的を……」

「天瀬。一体どうしたんだ? らしくないぞ」


 中学生時来の親友の様子が心配となり、志藤が思わず口を挟んでいた。

 一方で誠次は、背中から聞こえる友の声ではなく、答えを求めて、八ノ夜を見据え続けていた。


「……いいや、知らないな。ともかく天瀬、国際魔法教会の事はお前の問題ではない。引き続き、お前にはその特別な力を以て、なにか学園に脅威があれば、信頼できる友と共にこの学園の為に尽力してほしい。今まで通りのお前でいいんだ、天瀬」


 八ノ夜もまた、表情を変えることはなく、口調だけ強くして、納得させるようにして、言ってくる。そうして最後には、いつものように、張り詰めた場の空気を緩ますように、微笑むのだ。


「安心しろ天瀬。このヴィザリウスだって、国際魔法教会にきちんと認められて魔法学園を名乗っているんだ。どうしてそんなところを潰すような真似をする? なにも起きはしないし、起こらせはしないさ」

「生みの親が子を殺すってのは、クーラムにもない風習ですよ。単にアフマドに協力する口実と分前を作りたかったんじゃないんですかね? 奴らの狙いはそもそも、クーラムの領土だったのかもしれないしな」 


 セリムも妙な緊張感を解すように、理事長室の出口付近で肩を竦めていた。

 八ノ夜はだな、と頷き、一方で思い出したかのように、


「二学年生は年内行事は残すところは修学旅行だな。ちょうどリフレッシュも出来る楽しい行事のはずだ。天瀬、志藤。とにかく今回の件は助かった。その日まで、存分に休んでほしい」

「……わかりました。天瀬?」


 志藤が先に返事をし、続いて誠次を見やる。口調的には、ここはもう引き下がろうと、誠次を、宥めるように。


「……失礼しました、八ノ夜理事長」


 最終的に、誠次も自身が通う学園の理事長であり、また、育ての親でもある八ノ夜に向けて、頭を下げていた。

 部屋を退出した途端、セリムが二人の年下の男子の様子を気遣ってか、真っ先に胸を撫でおろしていた。


「ふぅー。若くて美人な人で助かった。ゴツくていかつい人が理事長だったら、俺も緊張しちまってたかもな」

「逆に緊張しなさすぎじゃないっスか……? 知らない学園の理事長なんて、俺だったらガチガチに緊張すると思いまスけどね」

「初見の外国の王に謁見して、俺の方がビビってちゃ、交渉も一方的に不利になるだろ? 王たるもの、根性と図々しさも必要なのさ」


 セリムはにこりと微笑んで、志藤に答えていた。


「お前も生徒会長とか言う、魔法生の代表的な立場なんだろ? だったら、他の高校の生徒会長と会ったときも、堂々としているべきだ」

「いや別に戦争とか交渉とかはしないっスけど……。まあ、堂々としているってのは、あながち間違ってないっスよね」


 志藤は苦笑して答えていた。


「ところで誠次。暗い顔してどうした? 俺が言うのもなんだけど、一件落着したんだろ?」


 セリムが誠次の顔を覗き込んで尋ねる。


「すまない。いつも最悪な事態を思い浮かべてしまうんだ」

「まあ連絡先も交換した。遠く離れた砂漠の地からでも、悩みごとがあれば相談してほしい。クーラム総出で、手を貸してやるぜ」

「心強い。ありがとうセリム」

「礼なんていらないさ。お前たちには相当世話になったしな。砂漠の太陽の導きがあらんことを」


 セリムはそう言って、二人にも軽く頭を下げていた。飄々としているようで、しっかりするところはしっかりしている。志藤もそんなセリムのたち振る舞いには、同じ多くの人の上に立つ身分の者として、参考にするべきところはしているようだ。


「そう言えば気になったんだけど、()()()()()()()()()って言うのはなんだ?」


 学園の廊下を歩きながら、セリムがふと思い出したように、二人の男子に尋ねる。


「学園側からすれば読んで字のごとく、学びの為の研修旅行だ」

「まあぶっちゃけ俺ら学生からすれば、ただ単に遊ぶことが目的の学園側からのご褒美にしか思えないけどな」


 誠次と志藤が二人で、説明をする。


「ノリ的には文化祭と同じようなものだ。二泊三日で同学年のみんなと旅行をするんだ」


 誠次が人差し指を立てて、続けて言う。いつの日か、先輩である長谷川翔はせがわしょうが言っていたのが、曰く、ニ学生にとってのご褒美期間だとか。なるほど確かに、文化祭に続けて修学旅行に冬休みとなれば、ご褒美期間と言われても遜色ないラインナップだ。


「へえーそいつは楽しそうだ。夜はみんなで仲良く゛捕食者(イーター)゛を討伐するのか?」


 セリムがお気楽そうな顔でそんなことを言ってくる。これもまた、向こうの国の考え方との乖離かいりだろうか。

 誠次と志藤は二人して、呆気に取られてしまっていた。


「そんなことすりゃ誰も行きたくなくなるって……」

「それではまるで修学旅行ではなく、戦闘旅行だな」


 言い合い、苦笑する志藤と誠次であった。

 セリムはバツが悪そうに後ろ髪をかき、流石にないかと、笑って場を誤魔化す。


「学校のみんなと旅行に行くのは楽しそうだ。羨ましいな」

「まさか、ついて来る気ですか?」


 誠次がジト目でセリムを見ると、彼はますます愉快そうに笑った。


「流石に帰らないとな。でも、クーラムでも砂漠ツアーなんか企画してもいいかもな」

「熱中症には注意っスね」


 志藤が苦笑しながら、セリムの案にツッコんでいた。

 そんなセリムとも、そろそろ別れの時が近づいている。

 これもなにかの縁である。日本式のお見送りの作法とやらに習い、誠次と志藤は、ハネダ空港までセリムの見送りにやって来ていた。もうすでに赤の他人ではなく、共に戦いを乗り越えた戦友としての絆が、そうさせたのだろう。あとはちょっぴり、彼が迷子にならないか心配になっていた節もある。


「はあー。やっぱすげえなこの国は。韓国もそうだけど、なんでもかんでもピカピカですげえわ」


 日本と世界とを繋ぐ玄関口、ハネダ空港に入るなり、セリムは天井を見上げて呟く。アフマドやロシャナクらは、すでに空港に到着しているらしい。セリムの命令で、先に行っているようにしたのだそうだ。

 誠次と志藤も、見慣れない光景に圧倒されかけていると、ふと見覚えのある少女の姿が目に飛び込んできた。


「あれ、火村?」


 志藤が声を上げ、空港で一人で立っていた向こうもこちらに気がついたようだ。


「あ、志藤と天瀬じゃん。奇遇だね」


 幾らかホクホクした様子で、コートを着ている火村は、こちらまで歩いてやって来る。


「空港になにかの用だったのか?」

「それはこっちの台詞……って、後ろにいるの、あの砂漠の王子様?」


 誠次の肩の向こうに立つセリムを見つけ、火村はなるほど、とひとりでに納得する。


「付き添いってわけね。私もそんなところ」

「誰かを見送るのか?」


 誠次が更に問えば、火村は首を横に振る。


「見送りの付き添い……ってところかな。あの、人が多いところ苦手だし、数日前には私のお出かけにも付き合ってもらったし」


 そう言った火村の視線の先には、ややそわそわした様子で、空港の出発口付近に立つ一人の少女がいた。彼女の姿もまた、誠次と志藤は見知っている。水色の髪をした、水木チカだ。彼女も温かそうな格好をして、火村曰く、待ち人を見送るのだそうだ。


「近くには行かないほうが良さそうだな」


 空気を読み、志藤がそのようなことを言えば、誠次も黙って頷いていた。

 

「殿下。時間通りに間に合うか、冷や冷やしておりました」


 一方で、すっかりセリムの部下に収まったアフマドが、やはり数名のお供と共に、誠次らの後ろに立つセリムへ声をかけてきた。一員の中にはロシャナクもおり、ペコリと、頭を下げている。


「まったく。俺をなんだと思ってる。お節介も過ぎれば毒だぞ、アフマド」

「しかし殿下……。この国で得た友も、お節介にも見送りに来られているようですが」


 アフマドが誠次と志藤を交互に見て冷静に言葉を返すと、セリムはわざとらしく大きなため息をつき、そして目をつぶりながら言う。


「わかったぞアフマド……。お前に足りないものは周りを信じて、友を頼るその心意気だ」

「生憎、裏切りと陰謀の世界の中で生まれ育った者ですので……」

「それを一から矯正してやるよ。今度は俺がお前に教えてやるぜ」


 セリムの決して見捨てはしない、そんな言葉に、アフマドはしばし押し黙り、やがて深く頷いて、理解を示していた。

 続いてアフマドは、誠次と志藤に視線を向けて、胸に手を添えていた。


「貴男方への正式な謝罪は私の口からはしていなかったはずなので、心から申し訳なくは思う。殿下と共に寛容な処分を下してくれた事を、感謝しよう」

「今度クーラムに行くかもしれない時は、もう陰謀は勘弁してくださいね」


 誠次がそう言えば、アフマドは「善処しよう」とだけ、答えていた。相変わらず素っ気なくは感じるが、彼なりに反省しているのだろう。

 そろそろ、飛行機の時間だ。空港内にアナウンスが響き、セリムたちクーラムの民たちが乗る中国行きの航空機のフライトが、間もなく行われるそうだ。中継地が中国であり、そこから中東へ帰るのだろう。


「あのお嬢さんの待ち人も、同じ便に乗るのか? 見たところ同じアジア行きだけど」

「い、いいえ。韓国便だって、言ってました」


 セリムを相手にすると、やや緊張している様子の火村が首を横に振る。


「そっか。じゃあ俺たちは一足先に、お別れだな」


 セリムはそう言うと、今一度誠次と志藤の方へ、身体を向けた。


「あんなことを起こしておいてだが、お前らとはまた会いたい。俺がもっと大人になって、クーラムのみんなに認められるような、王になってな」

「アンタならきっとなれそうな気がするよ。人を纏めるのは得意そうだ。元気でな」


 どちらかと言えば誠次よりは付き合い自体は浅い志藤が、先に言う。それでも、彼になりに感じ取った事なのだろう。自身も生徒会長として多くの魔法生を率い、導く立場ならば、共感して然るべきだ。


「そりゃどうも。お前らこそ、大人になったら、美味い酒でも飲み交わそう。砂漠の王様との約束だぜ? それまで絶対にくたばるんじゃないぞ」

「達者でな、セリム。俺たちが大人となり、世界がもう少し良くなったらその暁には、必ずまた会おう。積もる話もあるはずだし、クーラムのことも深く知りたい」


 誠次もそう言い、セリムと固い握手を交わしていた。

 

「じゃあな。また会おう、誠次」


 セリムは手を掲げ、航空機の出立ゲートの向こうへと見えなくなってしまう。

 出会いもあれば別れもある。おそらく簡単には再会できないであろう距離の相手に、寂しいと言う感情を胸に積もらせるのは、今このときばかりではない。

 

「あ、水木の待ち人も、来たみたい」


 遠くから彼女を見守っていた火村が、彼女が顔を上げ、何かを見つけたのを察知したようだ。


「気になったんだけど、なんで付き添いなのに遠くから見守ってるんだ……? 友だちなんだし、近くでもいいんじゃね?」


 自分の役目は終わったと、幾らか肩の荷が降りた様子の志藤が後頭部に手を回し、火村にく。

 すると火村は、呆れたようにため息をついていた。


「これだから男ってのは……。水木が待ってるの、男の人らしいの。私は空気を読んで他行ってるって言ったのよ」

「それでも遠くからきちんと見ているのは、果たして空気を読んでいるのか……?」


 誠次がジト目となって、火村を見るが、彼女からすれば何ら問題はないとのことだ。曰く、怪しい関係ではないか、様子を見なければならないとのこと。


「そんじゃ、俺と天瀬はお役御免だな。ずらかろーぜ」

「はあ!? ここまで来たんだから、見ていきなさいよ!」

「「何故!?」」


 そうこうすると、水木の待ち人は、待ち侘びていた彼女の目の前までやってくる。

 人というのは不思議なもので、関係のないことでも、一度好奇心が芽生えてしまうと、しっかりと足を止めてしまうものだった。最終的に誠次と志藤と火村は、空港の案内板の陰から顔だけをそっと出しつつ、裏から見れば周囲の人の好奇の視線に晒されるようなだんご3兄弟状態となって、水木の様子を見守っていた。


「あれって……」


 誠次と志藤には、その青年の姿にも見覚えはあった。

 やや慌てた様子で、かの人は、水木の目の前で立ち止まっていた。


「見送りに来てくれたんだね」


 ユジュンもまた、家族が待つ韓国へと帰ることになる。アフマドの人質となっていたユジュンの家族も、開放された。韓国の魔法大学でセリムと交友を持ったが為に狙われ、利用されてしまった彼も、ある意味で今回の騒動の被害者の一人だ。それでも、ユジュンとセリムの間の友情は揺るがなく、再び大学で会う約束を交わしていた。


「あの二人って、知り合いだったのか?」


 誠次が驚く。


「え……ってことは、魔法学園のネットワーク世界でバチバチにやり合ってたのは、知り合いだったってことか!?」


 志藤もまた、驚愕の事実を受けて、黄色の瞳を大きく見開いていた。

 きょとんとしているのは、だんご3兄弟の一番上となっている火村である。


「え、なに、どういうこと!? って言うかあの男誰!?」

 

 友達に謎の男が近づき、興奮を隠せないでいる火村は、誠次の頭を髪ごと鷲掴みにして、ぴょんぴょんとその場で跳ねている。頭がぐらんぐらんに揺れて、酔ってしまいそうだ。


「あの日に戦い合ってた事は、お互いとも知らないんだよな……」


 その実情を知る志藤は、どこか複雑そうな表情を浮かべていた。真実を伝えるべきか否か。あの二人の間に割って入るのも、気が引けていた。

 三人が二人の様子に釘付けになっていると、ユジュンが再び、水木に声をかける。


「この間はごめんなさい。君を悩ませるような事を言ってしまって」

「ううん大丈夫。私こそ、ちゃんと答えられていなくて、ごめんなさい」


 お互いに頭を下げあっている二人。残念ながら空港内の多くの人が織りなす雑音によって、詳細な会話はこちら側にまでは伝わってはこなかった。


「ここ数日は特に、バタバタして」

「僕もさ。とても忙しくて、全てが嫌になって、何もかもを放棄して逃げだそうとしていた」

 

 ユジュンが悔しそうな表情をして、俯きかける。


「そして君に、一方的なまでの救いを求めた。それは僕の過ちだった」

「韓国に、帰るんですか?」

「うん。家族のことが心配だし、友だちともそこで会う約束をした。約束は守らないと、今度こそ」


 ユジュンははっきりとした表情で言い切り、水木を見た。

 水木もまた、うんと頷く。


「私にも、やらなくちゃいけないことが、出来た気がするんだ」

「聞いてもいいかい?」


 ユジュンが首を傾げれば、水木はもちろん、と頷く。


「ヴィザリウス魔法学園のみんなと一緒に、魔法学園を卒業する。私にもね、みんなを守ることが出来たと思うから」

「……そっか。僕が言うのもおかしいと思うかもしれませんけど、それでも、貴女には伝えたい」


 ユジュンは水木を見つめ、照れくさそうに、微笑んでいた。


「数日前の貴女と比べて、とても生き生きしているように見える」


 ユジュンの言葉を聞き、水木も不敵に微笑んだ。


「それはこっちの台詞。貴男こそ、とり憑いていたものが取れているように見える」


 互いに試練を乗り越え、笑顔を見せ合う二人にならば、或いは分かっているのかもしれない。なにもそれはただの勘ではない。今までだって、離れた距離からも、電子の世界で繋がって、互いの意図を理解しあっていた関係なのだ。

 直接言葉を交わさずとも、分かり合えることもあった。


「ごめんなさい。そろそろ行かないと。飛行機の時間です」

「うん。さようなら、E。私たちの世界で、待ってるから」

「……ありがとうございます、アクア。近いうちに、また会えることを願います」


 ユジュンは軽く頭を下げると、手を振って、韓国行の便のゲートを潜っていった。

 彼の背を見送っていた水木は、すぐに踵を返すと、火村が待つ場所へと向かう。そこには当然


「あれ、貴男たちもいたんだ」

「悪い。覗き見ってもんじゃねえけど、偶然な」


 志藤が髪をかきながら、申し訳なさそうにして言う。


「水木さん、あの男の人は……」


 誠次が慎重に尋ねると、水木は幾らか明るい表情で、こう答えていた。


「ただの友だち。時に協力したり。互いの腕を競い合ったりする、ライバルでもあり、友だちでもある存在」

「ふーん……友だち、ねえ」


 腕を組む火村がジト目で水木を見ている。


「女と男の間に、友情なんてあり得ないと思うけど」

「だから火村は、夢見すぎ」

「な、なによ……」


 水木がため息混じりに言えば、火村は不服そうに、唇を尖らせる。


「それよりもお腹空いた。せっかくこんな所まで来たんだから、なにか美味しいものでも食べたいな」

「あ、それは確かにある」


 火村が指を立て、続いてこの場にいる同級生男子二人を見る。


「あんたたち、飯でも奢りなさいよ」

「「はあ!?」」

「生徒会の予算でなんとかなんないの?」

「公私混同にも程があるだろ! 会計になんて説明すりゃいいんだ!?」


 志藤が慌てて反論するが、今度は水木がどこか得意げな表情となっていた。


「元会計曰く、生徒会長のお財布から出費すれば問題ないと見た」

「それはつまりポケットマネーだろ!?」

「空港で食べるご飯って、どこかそそられる響きだな、志藤。美味しそうだ」

「なんでお前も乗り気なんだ天瀬!? 言っとくけど、割り勘だからな!?」


 人から頼まれると無下には断りきれない、ある種、人並み以上の人望も必要とされる生徒会長向きな性格であった志藤はやむなさそうに、三名との空港での昼飯を承諾していた。

 と言っても、高級そうなところではなく、学生らしく背伸びしすぎないように、フードコートでの軽めの食事だ。


「詳しく教えなさいよー。さっきの韓国人のお友だちの事について」

「ただのネトゲの知り合いなだけだって」


 なんて、女子二人のやり取りを聞き流しながら、誠次と志藤は横並びに座って、飛行機が飛び立っていく光景を見つめていた。二人ともここへ来て、食べているのはラーメンである。好きなのだから、しようがない。


「あの飛行機に乗ってんのは、セリムかユジュン、どっちなんだろーな」

「二人ともに向かうべき場所は同じだ。心配はいらない」

「うわ、気取った回答だこと、剣術士様」

「ラーメンの麺が伸びてしまう。さっさと食べるぞ」


 志藤にからかわれ、誠次はやや赤面して、ラーメンから出ている白い湯気を顔に浴びる。


「ラーメンってのは、基本的にどこで食っても美味いよな。まさに魔性の食い物」

「時と場所を選ばない、まさに最高の汎用性を誇る、いいものだ」


 空へ羽ばたく白亜の鳥こうくうきたちを眺めながら、志藤と誠次は横隣で会話をしながら、ラーメンを啜る。

 

「あの二人は何言ってるんだか……」


 火村がため息をついて、同じくラーメンをすすっていた。


「ってか、八ノ夜理事長も言ってたけど、年内行事はあと修学旅行か」

「修学旅行、楽しみかな」

「へえー。水木が学園行事を楽しみだなんて、珍しいこともあるじゃん」

「修学旅行は、なんか特別って気がする。それだけ」


 澄まし顔で水木は、ドリンクをストローで吸う。


「ま、でも確かにわかるわ。修学旅行って、下手すりゃ文化祭以上のお祭り行事じゃね? なんせ三年間で一度だけだもんな」

「来年は受験とか就職で忙しくなりそうだし、この時期なのもベストかもね。それにしてもクリスマス真っ只中って、どう考えても狙ってるでしょ、これ」


 志藤が身体をのけぞらせ、火村と水木が座るテーブル席に向けて言えば、火村が答えていた。


「……」

「ぼーっとしてどうした天瀬? 麺が伸びちまうぞ」


 遠くを見つめていた誠次の肩を叩き、志藤が声をかけてくる。


「いや、そうだな。急いだほうがいいのかもしれない」

 

 誠次はそう言って、止まってしまっていた右手の箸を再び動かさす。

 美味しい。友と食べる食事は、その思いをより一層強いものへと変えてくれる。

 その一方で、誠次はひしひしと感じていた。青空へと向けて羽ばたく航空機を見つめて、この場に再び来ることは、そう遠くはないということを。


挿絵(By みてみん)

~いざ、京都へ!~


「いよいよ修学旅行だな」

せいじ

「そこでそれにちなんで」

せいじ

「皆は無人島に1つだけ持っていけるものがあれば、何にする?」

せいじ

「俺はもちろん、レヴァテインだな」

せいじ

「こいつがないと木も切れない」

せいじ

         「うーん、火は魔法で起こせるしな……」

         ゆうへい

「飲料水及び食料確保も、魔法で出来そうですね」

まこと

         「なんならば魔法で無人島から脱出することも可能そうだぞ」

         そうや

「聞いた俺が馬鹿だったー……」

せいじ

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