11
「アイドルライブを視察するつもりが、まさか自分でやるとはな。ま、やるからにはきちんとやるさ。それがクーラム流だ」
せりむ
そうして、数多くの不安要素を抱えながら、いよいよヴィザリウス魔法学園で迎える二度目の文化祭が、開催された。開催期間は二日間。今日は初日。例年通り、初日は魔法生のみで、二日目に一般公開がされる。
二年目になれば、一年目の反省を活かし、スマート且つスムーズな開催が見込まれることだろう。そうなれば必然的に、そこに求められるのはクオリティの差であるはずだ。下級生よりも見応えがあったり、また来たいと思われるような出し物をしなければ、示しがつかないというもの。
「ディナーショーってなにー?」
「大御所有名人がやってるやつって印象?」
「へー。飯も食えるんだ」
演劇とレストランの融合形態と言うこともあって、物珍しさに今のところは軍配が上がり、2―Aの客足は伸びていく。
薄暗い照明のみが広がる、第三演習場の最初の公演は、早速満席となってしまっていた。入り口前では、受付を行うクラスメイトたちが、対応に追われる事態となっている。
「明日はもっと座席を増やさないとな」
「そのようですね……」
幕の下から座席の方を見渡し、2―A文化祭実行委員である誠次と千尋は、早速初日の反省点を指摘し合う。
受付の他にも、劇に出場する役者。そしてお客さんに料理を配給するウェイタースタッフ。そして実際にお客さんに料理を提供するシェフもいる。午前の部と午後の部で人員は総入れ替えを行うために、現場は常に錯綜している。
「俺は基本的に厨房の方にいる。演劇の方は千尋が現場監督として、指揮を頼む。……いけそうか?」
「はい、お任せください! 一緒に頑張って成功させましょうね、誠次くん」
「ああ。頼りにしてる、千尋」
誠次と千尋は、掲げた手を合わせ合い、力強く握り合う。
午前の最初の部、いよいよ開幕だ。ちなみに主役級であるセリムは、本人の希望もあって、午前午後とぶっ通しで出演する。
『ある日ある日、日本に住んでいた普通の女の子、光子ちゃんは、気がついたら砂漠にいました』
……割と強引な幕開けだとは思うが、そこも込で楽しんでくれれば、有りだと思う。
お客さんに振る舞われるのは、フレンチメニューのコース。昔では生物は提供できないことが多かったという学園祭の食事提供だが、近年は進んだ保存技術と魔法により、提供できることになっている。
そんな厨房でのエースと言えば、料理得意組の綾奈とクリシュティナだ。冷静に考えて、お客さんに提供できるレベルのフレンチコースの料理を作れる女子高生というのも、凄い話だが。
勿論、エースの二人をサポートするアシスタントも必要だ。
「詩音、この食材をお願い」
「ええ、任せて頂戴」
エプロン姿の人々が行き交う中、午前の部の厨房コンビである綾奈と詩音が、忙しなく動き回る。
「なあ、俺ってなんでウエイトレス役ばっかなんだ?」
「みてくれいいからでしょ? それとも料理できるの?」
「確かに出来ねえ……。まあ文句言ってても仕方ないし、せっせと働くか」
ウエイトレス姿の悠平が、綾奈たちシェフが作った料理を配膳しに会場へ向かう。演習場の中にこしらえた立派な厨房は、流石にVRのものではなく、現物としてわざわざ地下まで運び、出来上がったものだ。当然、そこで作られる料理も本物そのものである。
「俺も手伝おう」
この文化祭においての誠次の仕事は、人手が不足しそうな箇所の手伝いと見回りだ。どこかで歯車が狂わないように、適宜油として、絡んでいかねばならない。
「誠次。アンタは野菜の皮むきと、魚のおろしをお願い」
そう言って綾奈からは、包丁を渡される。
「俺には相変わらず刃物か……」
「不満?」
エプロン姿の綾奈が腰に手を添えて、言ってくる。
「いや、何でもやろう」
「結構。じゃあ私の隣で、作業して。そっちの方がすぐに指示できるし」
綾奈がすぐ隣のシンクを指で指し示し、作業に戻っていく。
そうして頷いた誠次が綾奈の隣に立てば、その姿を見た他の厨房係たちが、
「「「綾奈ちゃんが千尋ちゃんから剣術士くんを強奪しようとしている!?」」」
などと、ヒソヒソ声で囃し立てる。しかし、作業に集中している二人には、その声は届かず。
「切り方はこれで合ってるか?」
「そうね。さすが、刃物捌きは中々ね?」
「伊達に刃物を扱っているわけじゃないからな」
「調子に乗らないこと。怪我するから、いい?」
「はーい……気をつけます」
そんな会話を繰り広げながら、厨房で作業をする二人の背中を見つめ、クラスメイトたちはいよいよ吐血寸前のところまで、来てしまっていた。「「「尊いっ!」」」などと、後ろの方から聞こえてくる。
「なあ綾奈。なんか、後ろの方が騒がしくないか?」
「な、なにも聞こえないから! いいから作業に集中しなさいよ!」
「わ、わかった……」
今はクラスの出し物を成立させる為に、綾奈を始めとしたシェフたちの作業効率を上げることが第一だ。誠次は大人しく綾奈の指示に従い、野菜の皮むきと魚のおろしを手伝っていく。
一方で、ディナーショーのうちのショーの部分を司る、演劇の方は、起承転結のうちの転の部分を迎えていた。
砂漠の王子の腹心の部下が、実は敵国の裏切り者であった時のシーンである。
「まさか、お前が裏切ったのか!?」
主役のセリムの感情が入り混じった迫真の演技に、観客者たちは魅了されていた。セリムの国籍のこともあり、本物の俳優を雇ったのではないかと言う声も出てきたまでもある。
セリムは一旦舞台袖へはけ、そこで水分補給と軽いメイク直しを行う。
「ハアハア……。どうだった? 俺、上手くできてたか?」
セリムが監督である千尋に問えば、千尋は笑顔で頷いていた。
「完璧です! 皆さんも、とてもお上手ですよ!」
自身の書いた脚本を演じてくれる演者たちを労い、千尋が笑顔を振りまく。
「次はいよいよラストシーンだが、この終わり方は……」
砂漠の商人役(すでに出番終わり)の聡也が、台本を見つめて、顎に手を添えて唸っている。
「はい、賛否両論はあると思います……。申し訳ございませんけれど、私にはこれしか思い浮かばないのです……」
そう言って気落ちをしてしまう千尋であったが、セリムは笑っていた。
「いいじゃないか。こういう終わり方もあるかもしれないだろ?」
「でも確かに、見ている人はなんだかなーって気持ちになっちゃうかも……」
砂漠の踊り子役(すでに出番終わり)の桜庭も、心配そうに言っている。
舞台の内容はと言うと、家臣に裏切られた砂漠の王子と、彼を支えるヒロインが、諦めずに困難に立ち向かい、戦うというもの。
今からそのクライマックスが行われるのだが、なにぶん終わり方がスッキリしないとのことは、千尋本人も理解していることなのである。
曰く、主人公である砂漠の王子と裏切ったかつての臣下による壮絶な戦いの末、両者は共に命を落とし、残されたヒロインが、王子との思い出を胸に強く生きていくというもの。
そちらの方が単純なハッピーエンドよりは感動は出来るだろうが、文化祭の演劇の出し物という点で見れば、正しいとは言い切れない。
強引に大円団を迎えることもできるのだが、それでは物語がぐちゃぐちゃになってしまい、伝えたいことも伝えられない、ただのコメディ作品となってしまう。千尋はそれを望んではいなかった。
「自分の書きたいことと書くべきことの乖離は、避けられないものなのでしょうか……」
自分が一から書いた台本を両手でぎゅっと握りしめ、千尋はそれを胸に押し当てていた。
「ま、やってみなきゃ分からないこともあるもんだ。ひとまずは台本通りにやろうぜ、みんな?」
セリムの声に役者である一同は頷き、ヒロイン役の笠原さんも頷いた。
やがてVR機能の切り替えが終わり、舞台は最後、炎に包まれた砂漠の宮殿へ。そこでセリムと、裏切った臣下である男子生徒との一騎討ちが行われることとなる。
「お前だけは、仲間だと思っていた!」
相変わらず迫真の演技を見せるセリムである。桃華のようなアイドルでなくとも、俳優として、砂漠の王子でなくとも生きてはいけそうだ。
「祖国を思う気持ちは私も一緒だ! 勝負だハサン!」
相手役を務めるクラスメイトの男子も、迫真の演技を見せてくれていた。
観客達も、VRが作り出す世界観と話に引き込まれ、盛り上がりを見せるクライマックスの演出に見入っているようだ。
「……」
厨房にいるシェフたちも、仲間たちが劇を行う舞台の様子を見守っていた。
「ラストシーンだと、主役が死んでしまうんだよな……」
誠次がぼそりと呟くと、いつの間にかに隣に立っていた香月が、悲し気にしているような表情を浮かべていた。やはり、望んでいるのはハッピーエンドということなのだろうか。
「後味は、悪いわよね」
「確かにな。ただ、バッドでもエンドと言う言葉の通り、それもまた物語の終わらせ方の一つとしても正しいことなのだろう」
自分もよく小説を読む身としては、そのような話にも幾度となく巡り合ってきた。ホラー系の場合を除いてそれらは、必ずしも読んだ後に気分が晴れるものではなかった。
その一方で、感じるものや、学んだことも多い。
――しかし。
「本城さんの脚本に文句があるわけではないけれど……どうせなら、ハッピーエンドの方が、いいわ」
ぼそりと、香月がそんなことを言っていた。
やがて、演劇はフィナーレへと向かう。砂漠の王子が死に、残されてしまったヒロインが一人、決意を込めて前へ進んでいくと言うシーンだ。
2―Aが誇る完璧少女、笠原さんの演技力もあり、観客たちの拍手の元、初回公演は終了した。
「皆さん、お疲れ様でした!」
「本城さんもお疲れー」「面白かったよ、演技するの」「自由時間いただきまーす!」
仕事を終えた午前の部担当のクラスメイトたちが、ぞろぞろと着崩した衣装姿で歩いていく。
「結局、アフマドは仕掛けては来なかったか」
「やはり一般参加もある明日が本命だろう。無論、今日も警戒しているが」
セリムと誠次は舞台袖で会話をしていた。その折、誠次は電子タブレットを確認し、連絡が来ていたことに気がつく。
「セリム。朗報だ。ロシャナクさんが目を覚ましたそうだ」
「本当か!?」
「保健室にいるから、次の公演まで時間があるし、様子を見に行ってやったらどうだ?」
「何から何まですまないな。すぐに戻ってくる!」
セリムは駆け足で、唯一残った子分であるロシャナクが目を覚ました魔法学園の保健室へと、向かっていった。ロシャナクの為ならば、彼は寄り道せずに、真っ直ぐに保健室に向かうことだろう。
「誠次くん」
午後の部へ向けて人員の交代がされている中、千尋がやって来る。
「お疲れ様、千尋。大成功だな。午後の部も頑張ろう」
受付の人が届けてくれたアンケートにも、概ね高評価ばかりであった。
しかし、演劇の脚本を書き上げた千尋の表情は、どこか晴れやかではいなかった。
「今思い出しますと、細かいところで修正すべき箇所が色々と出てきます……」
「ラストシーン、か」
「はい……。賛否両論はあったと思います……。演技とはいえ、王子様が亡くなられてしまうところは、私も胸が痛みました……。おかしいですよね……自分でそうさせておきながら」
千尋はえへへと微笑み、誠次の隣に立つ。
「いいや、難しいことだった。それでもこんな物語を書き上げられた千尋は、誇れる仕事をしたと思う」
「ありがとうございます、誠次くん」
「しかし……流石に砂漠の王国に牛丼屋は、ないと思う……」
ヒロインが急に牛丼屋を探し始めたときには、観客達も失笑していた。一応、コメディポイントではあると思うのだが。
「牛丼が好きなヒロインだって、いていいじゃありませんか!?」
むすっと、千尋がやや頬を膨らませて言ってくる。
「まあ、確かにそうかもしれない」
監督兼脚本家の言葉に、誠次も苦笑して納得する他ない。
「大変なことがいっぱいでしたけれど、それでもとても素晴らしい経験ができたと思います。誠次くんと一緒でなければ体験できなかった、素敵なことです」
千尋からそのようなことを言われ、誠次は気恥ずかしく、後ろ髪をかく。
「千尋の作ったものは、絶対に壊させない。ヴィザリウス魔法学園を含め、俺が必ず守ってみせる。セリムと共に」
※
ヴィザリウス魔法学園の保健室にて、そこに駆けつけたセリムは、お祭り用のハッピ姿の養護教諭に通され、ロシャナクが眠らされていたベッドへとやって来る。
「ロシャナク!?」
「セリム殿下……」
小さな身体のロシャナクは、布団を退かし、ベッドから立ち上がろうとしている。元々布団をかけるという風習が無い為、ロシャナクにベッドで寝てもらうことに難儀したと、ダニエルは言う。
「申し訳ございません、殿下。殿下をお守りするのが私の使命なのに……私が負傷してしまって……」
「いいんだロシャナク。俺こそ、無茶をさせて悪かった」
「無茶なんかでは……っ」
ロシャナクは自分の使命を果たさんと、ベッドから起き上がろうとするが、セリムが両肩を押し、寝かしつける。
「大丈夫だロシャナク。ここは平和の国だ。安静にしていれば、戦う必要なんてない」
「でも、アフマドが来ます……。戦わなければ……!」
ロシャナクがじたばたともがきだすが、セリムは彼女の頭を、優しく擦っていた。
「信じてみたいんだ、アイツやあの子の言うことを……」
「アイツ……? あの子……?」
「アフマドのことは俺に任せてくれ。ロシャナクは安心して、ここにいてくれ」
「殿下……」
ロシャナクがやや、悲しそうな表情と縋る声をセリムへとする。
それに気がついたセリムは、しかし申し訳ない表情を浮かべて、ロシャナクから距離を取る。
「ずっと言えなかったんだ、ロシャナク……。お前の両親やお前の国……それをことごとく滅ぼした俺の親父を憎んだだろうに……親父も酷いことをするよな。そんなお前を、俺の身辺警護の役に任命するなんて……」
まだ子供の頃から、ロシャナクの素質を見出し、側近として雇わせたのでは他でもない、ロシャナクの親を殺し尽くしたアラン本人であった。セリムはロシャナクから見て、親の仇の息子なのだ。
しかしロシャナクは、首を横に振った。
「殿下、そうお気になさらずに……私はアラン元国王ではなく、殿下に忠誠を誓っているのです。心お優しい殿下だからこそ、私はこの命を捧げたいと思っています」
ロシャナクは薄く微笑み、セリムへ言う。
「ロシャナク……。やっぱり俺は、この道は間違っていないと思うんだ。何でもかんでも、争いで物事は解決するものじゃない。時には話し合い、歩み寄ることで、分かり合えることだってある。平和に物事が解決できるかもしれない。それを初めから放棄していた親父のようには、俺はさせない」
はっきりとした表情でセリムはそう言って、踵を返す。
※
ヴィザリウス魔法学園の生徒会室に、一人の少女がやって来る。文化祭中であるが、生徒会長に招集された為、他の人には知らせず、極秘にであった。
「ここに来るのも、久しぶりかも」
元々会計、水木チカ。現役時代は散々歩き慣れた地下通路も、現役を退いてからは通ることもなくなり、まだ退いて僅かだが、すでに懐かしいような気がしている。
入手許可は貰っているので、自動で開いたドアの先には、生徒会長の志藤がいた。
「悪いな。文化祭中なのに来てもらって」
「ううん。騒がしいのは好きじゃないし、ここは静かで、好きだから」
「そうか? せっかくの縁日なんだし、盛り上がったもん勝ちだと思うけどな」
「生徒会長の椅子に一人で座って黙々と作業している貴男に言われても、ね」
水木の鋭いご指摘に、志藤は「確かに……」と笑う他ない。
水木は眼鏡の奥の瞳で、かつて波沢香織が座っていた席に今座っている、志藤颯介をじっと見つめる。なかなかどうして、不思議とその席に座っているのは、似合っていると思う。見た目が少々、やんちゃ過ぎるような気もするが。
「仰る通り、俺も遊びたいが、そうもいかない。ここに来てもらったのは他でもない。折り入って頼みがあるんだ。少し長くなるから、座ってくれていい」
「はい」
一応同い年だが、相手は生徒会長と言う身分もあるので、自然と敬語となってしまう。
それでも喧騒から隔絶されたこの場は落ち着き、水木はこの場にいた副会長の一年生男子、西川が出してくれたお茶を啜る。
「頼みって?」
「これは周りの人からの話なんだが、なんでも水木はネット周りに強いらしいな?」
確かに人並み以上に出来るとは思うが、あまり自慢したことはない。それなのに強いと言われているのは、やはり普段の生活でパソコンを触りすぎていたせいか。
「もっと凄い人は、他にもいるよ」
数日前の彼の姿を頭に思い浮かべながら、水木は言う。
「でも、ヴィザリウス魔法学園の中じゃ水木。お前が一番なんだろ?」
「そんなことはない……」
水木は横を向きかけながら、答えていた。
「頼みってのはそれ関係でさ。数日前、この魔法学園の地下演習場のVR機能で異常が発生したそうなんだ。勿論教師も調査をしたが、最終的には機械の不良だってことにされた」
「そうではなくて?」
「実際は違う。なんていうかその……ハッキングされたって話だ」
「ハッキング……? そこまではわかってるの?」
水木の問に、志藤は頷く。
「ああ。友だちの話だ。信頼は出来る」
「それで私になにをしろと?」
「正直言って、この学園のセキュリティは魔法関係のことに関しちゃピカイチだが、こういう技術的な面では、ハッキングされた通り穴がある。明日は一般参加がある文化祭本番って日だ。何かが起こっちまう前に、手を打つ必要がある。ギリギリの連絡になって悪いけど、力を貸してくれないか?」
「ちょっと待って。そんなこと、先生に頼めばいいんじゃ?」
しかし志藤は、悩まし気な表情で顔を左右に振る。
「さっきも言ったけど、ハッキングされたことも機材の不良で済ましちまう始末だ。俺も含めて機械音痴だし、適任だと思ったんだ」
そこまで言われ、水木はしばし考える。要するに、明日ヴィザリウス魔法学園のネットに合法的に侵入し、異常がないかチェックをする、ネットセキュリティを行えと言うのだ。
正直、文化祭中だからといって心は浮ついておらず、むしろげんなりとしている。そんな中で、自分の世界に入り浸れるのは、五月蝿い場所からの逃げ場という意味ではいいのかもしれない。
「先生にも許可を貰っている。必要な機材とかがあれば、すぐに手配する。あとは水木の気持ち次第だ」
「……」
主体性がいまいちない自分にももう慣れたかもしれない。
それに、ハッキングという分野にも、少々興味があった。
「許可があるんだったら、やりますよ」
「そいつは助かる。なにか必要なものはあるか?」
志藤が尋ねれば、お茶を飲み終わった水木は、やや不敵な笑みを浮かべる顔をした。
「とびきり高スペックの、何百万もするパソコンは?」
「生徒会の予算事情を、仮にも元会計だったら知ってると思うんだが……?」
志藤が困り顔で、水木を見る。
「知ってますよ。ギリギリ出せないこともない」
「……」
二人の会話を傍から聞いていた西川は、軽く肩を竦める。
参ったな、と言わんばかりに志藤は金髪の髪をかいていた。
「背に腹は変えられないか。わかった、用意しよう。ただ、先生の半分以上は冗談だと思っているが、俺はこの件を、真剣になって考えている。役目はしっかりと頼むぞ、水木」
「任せてください。お仕事はきちんとこなします」
水木はそうして、明日の文化祭中、ヴィザリウス魔法学園のネットセキュリティの役目を担うことになった。
(まあ、なにも起こらないとは思うけど)
この魔法世界は思ったよりも平和だ。魔法のことならばともかく、今どきネット関係のことでの事件など、目立って起きることもない。しかし、与えられた仕事はきちんと行おうとは思う、水木であった。
五月蝿くて騒がしいけれど、楽しいことばかりじゃないけれど、それでもやっぱり――この魔法学園が、好きだから。
~目指すは棘のないサボテン~
「はい、そこで棒立ち!」
せいじ
「そしてそのままずっと待機!」
せいじ
「いいぞ北久保!」
せいじ
「立派なサボテンぶりだ!」
せいじ
「ほんとか天瀬!?」
きたくぼ
「俺、立派なサボテンになれたのか!?」
きたくぼ
「ああ」
せいじ
「しかし、敢えて厳しいことを言おう、北久保!」
せいじ
「ごくり……」
きたくぼ
「お前のサボテンには……」
せいじ
「棘がまるでない!」
せいじ
「っ!?」
きたくぼ
「触っても触っても、全然痛くなさそうなんだ!」
せいじ
「そんなのではサボテン失格だ!」
せいじ
「サボテン失格……そ、そんな!」
きたくぼ
「本当のサボテンになりたくはないか?」
せいじ
「ああ……俺、本当のサボテンになりたい!」
きたくぼ
「もう一度俺と一緒にサボテンの特訓だ!」
せいじ
「ああ! 目指せサボテンマスターっ!」
きたくぼ
「VRでよくね……?」
ゆうへい




