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魔法世界の剣術士 中  作者: 相會応
砂漠の王子と電脳の貴公子
145/189

1

「これが月まで目指すメソッドよ」

         しおん

 薄暗い部屋の中で、ぼうっと光り、点滅するホログラム画面が三つ。

 椅子に座り、そんな三枚分の光と向き合うのは、魔法学園に通う少女であった。


「ん、良い調子」


 目の前にあるホログラム画面には、大きく【WIN】の文字が。

 少女がやっていたのは、ネットゲームであった。一緒に戦っていた仲間からは、賞賛の言葉が続々と、チャットで流れてくる。


【アクアさん、あざっす!】【さすがですアクアさん!】

「みんな、どうもね」


 自分の力が役に立ち、チームの為になる。そういう場が少女にとっての、なによりもの居場所であった。

 アクア、と言うのが、ネット上での自分のもう一つの名前。


「……そう言えばもうすぐテストだ。ちゃんと勉強もしておかないと」


 少女は眼鏡をかけている目をそっと擦り、壁に掛かっている自分の冬服の制服をじっと見つめる。

 紺色のブレザーの左腕に巻かれている赤い腕章とは、もう少しでお別れとなる。

 普通の魔法生とは、ほんの少しだけ違った役職に就いていた自分の証だ。おっちょこちょいなところもあったが、真面目で優しく、優等生であった先輩と、明るく社交的で企画力もあった先輩。そして、努力家でチャレンジ精神旺盛な同級生の友人に引っ張られ、役職をこなした自分。

 慣れないことをしている、と言う自覚はあったものの、終わってみれば思いの(ほか)、早かったような気がする。

 同時に、この経験でなにかが自分の中で変わったかと尋ねられれば、そこまで変わった事もない。

 差し迫った学園のテストに向けて、ゲーミングチェアから離れようとした少女であったが、眼鏡越しの視線は、未だ物欲しそうに、物足りない。ので。


「……あと30分だけ、ね」


 魔法が使えたところで、人間がそれよりも前から深く長く付き合ってきたこの文明を、早々に捨て去ることなど出来はしないのだろう。それこそ、一度世界がひっくり返って、水も電気もなにもない、砂の惑星のようにならない限りは。

 私の居場所はこの目の前に広がる、ホログラムの中――電脳の世界だ。


           ※


 特殊魔法治安維持組織シィスティム本部での戦いから数日後の10月の半ば。魔法学園では、生徒会総選挙とテストがこの時期にある。

 世間から見れば、ここ数日のこの国は間違いなく、激動の日々だっただろう。

 特殊魔法治安維持組織シィスティムのトップ、新崎しんざきが表舞台から姿を消したところで、特殊魔法治安維持組織シィスティムは事実上の活動休止状態となっていた。

 また、光安と言う組織の真の姿と、それを操っていたなずなへの不信感が国民の間で高まり、連日のデモ騒動も起きていた。そんな彼らを鎮圧するのは、いつもは特殊魔法治安維持組織シィスティムの役目であったのだが、今は警察がその役を担っている。

 そして間もなく迎えるのが、秋の議員総選挙だ。大昔の日本と変わった大きく選挙は、この秋のシーズンに行われており、なんの因果か、魔法学園の生徒会総選挙と同じ日程である。

 当然の如く、そんな時代の転換期に、一介の学生たちが深く関わっていたという事は世間一般には知られる由もない。

 彼らは目下、目前に迫ったテストの事で頭がいっぱいである。

 そんな中で天瀬誠次あませせいじは、隣を歩く中学生時代からの友だちから、衝撃的な発言を聞かされる。


「俺、生徒会長に立候補するわ」


 現在の魔法生たちの脳内は、先に迫る生徒会総選挙よりも後に来る、うっすらと高く聳えて見えるテストの壁に戦々恐々としている。

 そんな中で、廊下をてくてくと歩いていた誠次せいじの隣で、志藤しどうが突然そのようなことを言ってきたのだから、誠次は驚きに溢れていた。


「はあ!? 生徒会長って……正気か志藤!?」

「正気も正気だわ……。ってか、そんな驚くか?」

「きっと大変だぞ……。それでもやると言うのならば、応援するしサポートするけど……」


 誠次が友の身を案じて言うと、志藤はお気楽そうに両手を頭の後ろに回して答えた。


「フレースヴェルグだって率いたんだ。将来の為に、はくだってつけておかないとな」

「志藤……」

「お前には副会長を頼みたい……って言いたいところだけど、お前はお前でいつも忙しそうだし、遠慮しておいてやるよ」

「それは助かるが……」


 しかし、と誠次は右手を持ち上げてガッツポーズをする。


「応援ならば任せてくれ! 組織票も何でもござれだ! 裏金もあるぞ!」

「いや堂々と公職選挙法違反しようとするな!」


 志藤がげんなりとして、誠次にツッこむ。


「問題は選挙当選するかどうかだけど、実際他にやりたがる奴いなさそうだよな」

「ストレート勝ちってことか?」

「そうだといいな。第一、あんまし同じ魔法学園内の連中と争いあいたくねえよ。もしも候補があったら、いっそのこと譲るか」


 あくまで志藤らしく、そんなことを言う。

 一見、なんと責任感のない発言だろうとは思うが、それでもそれは、彼の長所であるとも思う。実の父親とは別の道で、新たな道を開く。それは到底、生半可な者に出来る事ではないはずだ。


「それも良いと思う。ただ、俺はこの魔法学園の次期生徒会長に相応しいのは、志藤だと思うけどな」

「はは。お前に言われちまうと、やんなきゃいけないってますます思えるわ」


 そんな会話をしながら廊下を歩いていると、目の前から一人の少女がやってくる。


「ここにいたのね、二人とも」


 クラスメイトの少女、香月詩音こうづきしおんであった。


「香月、どうしたんだ?」


 誠次が訊く。


「フレースヴェルグ再結成よ。重要なことなの」

「なんだと?」


 志藤が険しい表情を浮かべていた。

 隣に立つ誠次もまた、何か緊急事態の様相を見せている香月の様子に、真剣な表情をして頷いていた。

 しかし次の瞬間。二人の男子は、げんなりとした面持ちで、席についていたのである。


「と言うわけで。俺と香月さんによるテスト前の詰め込み駆け込み塾を、お前たちには受けてもらう」

「「嫌だーっ!」」


 黒板の前に立ち、眼鏡を光らせる聡也そうやに、席に座る誠次と志藤は悲鳴をあげる。


「言ったはずだ誠次。学生である俺たちの本業は勉強をすること。フレースヴェルグでの活動を続けていた分、他の生徒との遅れが出ている。それをテストまでの間に、どうにかして埋め合わせなければ」

「私と夕島くんが徹底的に教えてあげるから、覚悟して頂戴」


 横一列で座らされている誠次と志藤の前に立つ香月は、赤縁の眼鏡をかけていた。度は入っていないのだろうが、形から入るタイプらしい。似合っているか似合ってないかで言えば、とても良く似合っていると思う。


「何かしら、天瀬くん?」


 見つめていたことが先生……否、香月に気づかれてしまい、誠次は慌てて背筋をぴんと伸ばす。


「な、なんでもありません!」


 そして、誠次と志藤の他にも、もう一人。


「はっはっは……。俺はもっと前からここにいるんだぞ……」


 左端に座る悠平ゆうへいが、額に冷えピタを貼り、完全に知恵熱を出した状態でそこにはいた。


とばりが死にかけてるぞ……」

「一体何をそこまで……」


 友の悲惨な姿に、志藤と誠次はゴクリと息を呑む。


「さあ始めるぞ、三人とも。なに、必ず赤点などという無様な真似になど、させはしないさ」


 眼鏡を光らせ、聡也はフっ、と微笑む。

 そんな彼の隣に控える香月もまた、ふふふ、と微笑を浮かべているのであった。

 そうして、この国の未来の為に血反吐を吐いたり流したりして戦った男子たちが、鬼教官たちによる勉強漬けの日々を、過ごすこととなる。

 唯一、火の粉を浴びることなく穏やかに過ごせるのは、まことだろうか。

 彼が食堂にて食事をしていると、目の前を千尋ちひろが通る。


「あれ、小野寺くんお一人ですか?」

「ええはい。他の皆さんは、お勉強会だそうです。自分は、そこそこ出来るらしいので、免れましたが」

「そう言えば詩音ちゃんさんも言ってた気がします。下がってしまったみんなの成績を上げると」

 

 千尋はそこまで言うと、何かを思いついたように、両手を頬の横で合わせていた。


「そうです、小野寺くん! この後一緒に、お菓子の差し入れとか持っていきませんか? お勉強のお供には甘いものと、よく言うではありませんか」

「いいですけど……誠次さんや帳さんたちに差し出す場合、お菓子を食べることがメインになってしまいそうで、怖いですね……」


 真は苦笑していたが、やがて席を立つ。


「ですがその時は、自分も一緒に注意すれば良いのですよね。では、一緒に行きましょうか、本城さん」

「はい! なんて言いますか、お友だちへの差し入れを選ぶのは、とても楽しいと感じませんか?」

「わかりますその気持ち! 相手の反応を想像したりすると、自分も嬉しい気持ちになりますからね」


 等と、優等生すぎる会話を繰り広げる二人の魔法生である。この二人に関しては当分、鬼の補習の必要はなさそうだ。

 多目的室では、聡也と香月による鬼の授業が続いている。そんな中での小テストの成績は、志藤がトップであった。


「やるな、志藤。問題はこれが続ければいいことだが」

「ど、どうも……」


 テストを返却される傍ら、聡也に褒められ、志藤は机に突っ伏しながら返答する。実際のところ志藤は、昨年末辺りから成績もぐんぐん上がっていき、中の上くらいにはなっていた。

 

「天瀬くんは及第点ね……。問題は帳くんだわ。どうして、さっき教えたばかりのところをすぐに忘れてしまうの……?」


 中の中、ど平均点を叩き出す誠次と、中の下の成績の悠平に対し、香月は額に手を添えて残念がる。


「それが俺もわからねえ……はっはっは。そもそもそれがわかってたら頭いいか、俺!」

「……はっはっは、って言いたくなるのはこっちよ……」


 開き直り、明るく豪快に笑う悠平に、香月も悩んでいるだけ損と思うばかりに、微笑んでしまっていた。


「期待に答えられず申し訳ない……。勉強もしなくてはいけないと思っているけど、つい、その……」


 誠次が言い訳がましく後ろ髪をかきながら弁明していると、香月にジト目を向けられる、


「貴男は本を読むことが勉強することだと言うものね」

「誠に仰る通りですね、はい」


 香月にずばりと言われ、誠次は遠い目をして白状する。


「いいわ。私はどんな人も見捨てない。必ず全員の偏差値を上げるわ。それが私の授業の方針だから」


 眼鏡をくいと持ち上げて、香月が言う。


「「おお……」」


 それはそれは、何かの授業アプリ動画でも見ているような気分で、誠次と悠平は顔を上げて、神々しくにも見える香月の姿を見つめていた。

 ――がらら。

 しばらくすると、真と千尋が差し入れのお菓子を売店で買ってきて、持ってきてくれる。


「自分もお手伝いします、皆さん」

「食べ過ぎは厳禁ですからね?」

「「「やったー」」」


 真と千尋のサポートもあり、三人の男子の勉強会は、どうにか捗っていた。これならばテストは大丈夫そうだ。

 そうして、ヴィザリウス魔法学園の生徒会総選挙期間が始まる。数日後にテストを控えたこの期間で忙しい中、それでも生徒会役員としての責務を果たす技量と度胸を試すことの意味も兼ね合いで、この期間なのではないのだろうかと推測する評論家(三ツ橋)もいる。

 体育館に集合した、一、ニ、三学年生総勢千人超えの魔法生たち。用意されたパイプ椅子に整列して着席する彼らの頭上には、新生徒会役員候補の顔写真が浮かんでいる。

 生徒会長候補には、宣言通り志藤颯介が立候補を果たした。


「あれ、志藤以外にももう一人立候補した人がいるみたい」


 同じ学級委員として、すぐ隣の座席に座っている綾奈あやなが呟く。立候補者は確かにもう一人、見覚えのない男子生徒がいた。

 

「本当だ。しかも一年生で生徒会長立候補者なんて、ガッツがあるな」


 しかも白地に赤いラインの入った制服を着た、一学年生の男子だったのだ。

 名前は西川晴斗にしかわはると。1―E所属。銀髪で、端正な顔立ちをしている。

 一体どんな人物なのだろうか、彼に少しだけ興味が湧いた誠次は、同級生として知っているかもしれない結衣ゆいに聞いておこうと、制服の胸ポケットにある電子タブレットに手を伸ばそうとしていると、隣にいる綾奈に軽く手を叩かれる。


「ちょっとやめてよね……。会の途中に連絡なんてマナー違反にも程があるでしょ……」

「あ、ああすまない……」


 うっかりしていた誠次は、手をひらひらとさせて膝の上に戻す。

 一方で隣に座る綾奈は、全くもう言わんばかりに、胸の下で腕を組んでいた。

 生徒会総選挙は、手元に支給された投票ボタンで任意に投票先を選ぶことができる。

 最初に現役生徒会役員からの言葉があり、彼女らの言葉が終われば、立候補者たちの演説の時間だ。まず推薦者が立候補者の推薦理由を述べ、その後に立候補者自身の演説が行われる。

 二人一組で自分はいかに生徒会役員に相応しいかを魔法生に訴える、と言うのが分かりやすいだろうか。


「志藤の推薦人、アンタじゃないんだ。意外」


 現役生徒会役員、生徒会副会長渡嶋わたしまの涙の辞めたくない宣言を聞きながら、綾奈が正面を見たまま言う。


「俺だと後から裏で色々言われそうだしな。ただでさえ、八ノ夜はちのや理事長と昔ながらの知り合いだし、俺が下手に表立って志藤を支援したら、裏で何らかの力が働いていると思われても致し方がない。だから、推薦人は他の人に頼むことにした」

「他の人って?」


 綾奈がステージの上を見る。


「み、三ッ橋みつはし……? 出来るの……?」


 志藤の推薦人として、ステージ上に決め顔で座っているのは、2―Aが誇るぽっちゃり系男子、三ッ橋であった。

 一体どこからそんな自信が湧き出ているのだろうかと疑問に感じるほどの凛々しい表情で、三ッ橋はステージ上に座り、その他魔法生たちを見下ろしている。

 そんな中で、生徒会総選挙は次々進んでいく。先に決まるのは、書記と会計だ。

 そのニつの役職に関しては立候補者は全員女性であり、そのことから見るに、やはり前任の生徒会の人気が大きかったのだろう。あとは単純に、()()()()()()()()と言う肩書きへの憧れか。


『えっと……一生懸命頑張りますので、ぜひ投票をお願いします!』


 会計は、坂本さかもとと言う一学年生の女子。


『この学園をより良いものに変えていきたいと思います。未熟者ですが、投票をお願いします』


 書記は、中岡なかおかと言う一学年生の女子が、他の候補者を抑えて当選確実となっていた、

 二人とも真面目そうな女子であり、なるべくしてなったような雰囲気が漂っている。

 対象的なのは、会長に立候補した二人の男子だ。

 志藤は今更であるが、西川も鋭い目つきに長めの髪と、おおよそ見てくれだけでは先導者に相応しいかと聞かれれば、決してそうではなく、どちらかと言えば体育館の裏や屋上でたむろっているような印象を受ける風貌の生徒だ。

 そんな彼の推薦者であるが、なんと欠席とのこと。

 そのアナウンスがされたとき、体育館はどよめきに包まれた。そんな中でも、ステージ上のパイプ椅子に座る西川の表情に変化はない。肝が座っている、のだろうか。


『生徒会長になったら、それなりに頑張ります』


 あまりにもあっけらかんとした演説を述べ、西川は一礼をして、自分の席に戻っていく。

 

「なんだあれ……」

「アイツ、当選する気あるのか……?」


 等と、誠次の周囲からもそんな声が聞こえてくる。


「すごい度胸ね……」

「あの場であんなことを言うとは……」


 綾奈と誠次も、思わず呆気に取られていた。


「生徒諸君、この僕三ツ橋は、志藤氏を生徒会長として推薦したいっ!」


 一方で、ステージ上の三ッ橋は、早くも勝利を確信した様子で、自信を持ったドヤ顔で、マイクの所まで向かっている。先程までは椅子に座ってしきりに周囲をきょろきょろしていた彼が自信を急に持つのも無理はない。対立候補があまりにも適当な演説をしたのだ。最早勝ちは貰ったと思っているのだろう。

 当の立候補者である志藤も、なんとも言えないような気まずい表情を浮かべていた。

 投票前予想通り、生徒会長には志藤颯介が、圧倒的な票数を獲得して当選した。

 場内が拍手で満ちる中、票を競い合った志藤と西川は、形式で決まっていることとはいえ、互いの健闘を称え合って握手を交わす。


「西川、って言ったか。どうして生徒会長に立候補したんだ?」


 握手の音が会場中に鳴っているため、ステージ上での二人の短いやり取りの声など到底聞こえることはないだろう。

 圧倒的なまでに勝ち目のない戦いだった。握手の際、志藤にそのことをかれた西川は、表情を変えることもなく、簡素に答えた。


「答える意味はありますか?」

「答える意味って……。あのなぁ……一応俺は先輩なんだけどな……」


 志藤はがしがしと髪をかきながら、困ったような表情で西川を見る。

 そして、しばし西川の顔をじっと見た志藤は、とある提案をする。


「わかった。せっかくの機会だ。良ければお前、副会長やってくれないか?」

「副会長、ですか?」

「ああ。今年の立候補者に副会長候補いなかったじゃん? その場合は例年通りだったら、他生徒による多数決で決められるんだけど、今立候補すれば当確だ」


 真剣な表情でそのようなことを言う志藤。冗談ではない。

 

「なぜ、ですか?」

「お前が教えてくれないんなら、俺だって内緒だよ。それでも、一年生で先輩に立ち向かってきた勇気はあるんだし、その度胸を見込んで、だ。駄目か?」


 志藤はそこまで言うと、軽く首を傾ける。


「わかりました。では俺は生徒会副会長として、務めたいと思います」

「決まりだな。いっちょよろしくな、西川。ああ、みんなには俺が、この後の演説で伝えるわ」


 志藤はそう言って、前任の波沢香織なみさわかおりが待つマイク前まで向かう。


「……」


 西川は拍手喝采を浴びる志藤の背中を、口を結んでじっと見つめていた。


「おめでとう志藤くん。生徒会長の執務で、何かわからないことがあったら、私にも相談してくれていいからね?」

「ありがとうございます、波沢先輩。当選したからには、頑張りますよ」


 生徒会長の証である腕章を、ステージ上のその場で受け取り、志藤は起立している全校生徒へ向けて、腕章を巻いた左腕を高く掲げてみせる。

 一歩後ろへ下がった香織が胸元で小さく拍手を始めれば、スタンディングオベーションでの拍手が巻き起こった。

 そして、ここから新生徒会長となった志藤颯介の最初の演説が始まる。


『みなさん、俺を生徒会長として認めてくれて、ありがとうございます。期待に応えられる、立派な生徒会長を務められるよう、心がけます。そしてみなさんに一つ提案があるのです』


 途端、再びざわざわとどよめき出す体育館内。常識的に言えば、初心表明演説はある程度型にはまった当たり障りのないことを言うのが当たり前のようだが、志藤はそこも一味違うようだ。


『俺と生徒会長の座を賭けて競い合った西川晴斗を、このまま生徒会副会長に任命したいんです。どうせ進んでやる人もいませんでしたし、良いと思いますが、どうでしょうか?』


 これには会を見守っていた教師陣も、驚いたように互い互いの顔を見合っている。突拍子のない事であろうが、志藤は至って真面目に言っているようだ。


「うわぁ……。波乱続き」

「いいんじゃないか? フレースヴェルグのリーダーの目を信じよう」

「相変わらず志藤には甘いのよね」

「む……」


 やれやれ顔の綾奈に指摘され、誠次は居心地悪さ半分、申し訳なさ半分で、青いネクタイを軽く締め直す。

 そんな中、体育館の中で今日一番の拍手と歓声に包まれる。

 この大きな音は――即ち、志藤の提案が他の魔法生たちに受け入れられたということだ。これで名実ともに、志藤颯介がヴィザリウス魔法学園の魔法生たちのリーダーとして、認められたと言う事なのだろう。

 ただでさえ誰もやりたがらない生徒会メンバーの座を、自動的に埋めてくれるのだから、わざわざ反対するまでもないと言うのだろう。しかし、それほどまでに魔法学園の生徒会というのは人気がないものなのだろうか……。確か、前任者である渡嶋わたしまも、結局は香織が無理やり巻き込んだ形であったはずだ。


「おめでとう、志藤」


 彼を見つめ上げる誠次も微笑んで、拍手をしていた。

 こうしてめでたく(?)新規生徒会執行部メンバーは決まった。ヴィザリウス魔法学園の新生徒会長は、志藤颯介だ。選挙法違反も、不正もきっとない。

~魔法学園生徒会長属性別御三家?~


「新生徒会長が決まったみたいだな!」

けんご

          「頑張ってね、志藤くん!」

             かおり

「やるからには頑張りますよ」

そうすけ

          「こ、これは……!」

             まこと

「どうしたんだ、真少年?」

けんご

           「上手い具合に」

             まこと

           「得意魔法属性別に」

             まこと

           「歴代生徒会長が分かれています!」

            まこと

「確かに、火、氷、風だね」

かおり

           「おお!」

             けんご

           「なんたる偶然か!」

            けんご

「こりゃあ次の生徒会長がハードル高そうだな」

そうすけ

        「まだ志藤くん始まったばかりだよ!?」

          かおり

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