優しさと甘さに包まれたならきっと (小話) ☆
「あたしこのケーキ嫌いなのよね」
かぼちゃのケーキが嫌いな娘
特殊魔法治安維持組織、即ち日本が誇る国家実力組織との戦いに身を投じる決意をした少年は、今日も魔法戦闘の特訓を行っていた。
「最初と比べると見違えるようだよ、小野寺真くん」
こちらが連続して放った攻撃魔法を、向こうは防御魔法で防ぎきりながら、称賛の言葉を送ってくる。
的確に全てを防がれたが、これでも進歩はしたほうだ。フレースヴェルグに入りたての頃は、相手によって防御魔法も使わずに躱されていた有様だ。
――もっとも、その相手が規格外の凄腕の魔術師であるという点も、少なからず影響していたのだが。
「ふう。お疲れ様です、影塚さん」
滲んだ汗を拭いながら、今日の特訓を終えた真は、同じく戦闘状態を解除した影塚に声をかける。
「小野寺くんこそ、お疲れ様。確実に強くなっているよ」
「ありがとうございます。ですがもう少し、他の人にはない強みをつけたいところですね……」
これも明確な成長の証というべきか、緊張もいい意味でしなくなってきていた。マンツーマンによる特訓の日々の賜物だろうか。
――しかし。
「このままでは他の皆さんに、真がやられたようだな……奴はフレースヴェルグの中でも最弱……と言われかねません!」
「いや、そんな悪の四天王みたいなものじゃないと思うんだ……」
真の不安に、影塚は苦笑していた。
顎に手を添えて、真剣な表情で考えるそんな真に、僭越ながらと影塚がアドバイスを送る。
「ここ数日は強度の高い特訓を続けていたからね。たまには息抜きをして、リフレッシュするのもいいかもしれない」
「リフレッシュですか。自分はそう言われるとすぐ、甘い食べ物を想像してしまいます」
「それでも良いんじゃないかな?」
影塚はそう言うと、自前の電子タブレットを起動し、ヴィザリウス魔法学園周囲の地図のホログラム画像を浮かび上がらせる。
「実はね、小野寺くんが喜んでくれると思って、暇を持て余してここら辺にあるいろいろなジャンルのスイーツ専門店に通っていたんだ」
「え……」
「なにせ今の僕は無職だからね。ははは」
いまいち笑っていいものか分からない言葉を影塚から言われ、真は硬直して戸惑う。当の本人は笑っているので、えへへと、愛想笑う。
では今の生活の方はどうなっているのかと思えば、そこは国家公務員。しっかり貰うべきところから貰っているので、他の脱退者共々、心配はいらないそうだ。ここは詳しくは聞かないでおいたほうがいいと思う。
「データを君の電子タブレットに転送するよ。よかったら行ってみてほしい」
「あ、ありがとうございます。ですがせっかくですので、影塚さんも一緒に行きませんか?」
真が影塚を見つめあげて提案するが、影塚は困ったような顔をして、青みがかっている黒髪をかいていた。
「いや行きたいのは山々だけど、僕も行くと君のリフレッシュにはならないだろう? それに、前行った時は、軽く騒ぎになってしまったし……」
「あ、あはは……。確かにそうでしたね……」
前に一度、二人でドーナツ屋に行ったときは、影塚が変装もせずにその場にいただけで、軽い騒ぎとなってしまっていた。一応言っておくが、彼は国家実力組織に所属していた一人の青年である。アイドルでもなんでもないのに、それでも人気は高かった。
一般の人は、彼が今の特殊魔法治安維持組織を脱退した事はおそらく、知ってはいないことだろう。
「ありがとうございます影塚さん。早速、次の休みの日に行ってみたいと思います……」
頭をぺこりと下げて礼を言う真であったが、その胸中では、一抹の不安があった。不安と言うと、仰々しく聞こえてしまうので、別に人からすれば大した問題ではない事だ。
しかし真にとってはやや、いやかなり、重大な問題なのだ。
前提として、甘いお菓子や珍しいお菓子、美味しいお菓子とスイーツには目がない。朝のニュースで特集がやっているような、大人気行列店にも並んででも行ってみたいし、食べ放題だって行きたい。
しかし、一人ではそのような店に行くことはない。恥ずかしい、から。
友人を誘おうにも、自身が所属する陸上部の男子にそのような趣味を持つ者はおらず、その機会はなかった。
「一人で街に出たはいいものの……。冷静に考えて、敷居が高いですよ……」
晴れ時々曇り空の下の都会の街を歩きながら、真は呟く。
影塚ならば変装さえすれば、気にせず一人で色々なお店に入ることも出来るのだろう。
「変装か……自分の真の姿を偽れば、或いは……」
そう呟いた真は、気がつけばすぐ隣にあったお店のショーウインドーの前で、立ち止まっていた。
偶然か否か、そこにあったのは、女性向けのファッションを纏ったマネキンである。
途端、真は顔を真っ赤にして、思わず後退る。
「って、思い出したくないことを思い出してしまった……」
ガラスに反射した自分の姿が、ツインテールをした少女の姿に重なって見えてしまった。
真は顔をぶんぶんと左右に振り、自分の偽りの姿を消し去ろうとする。
「変装が駄目だったら、せめて、誰かと一緒に行くという手もありましたね……」
男二人ではなく、行くとすれば、女性と二人で、だろうか。
自分にそのような相手がいるわけでもない。ただ、可能性があるとすれば、同じ血を分け合い、母親の元から同じ時に生を受けた少女、だろうか。
「想像も出来ないですよね、そのような光景……」
自分と双子の妹が仲良くスイーツ店巡りをしているようなところはもっと想像できず、真は肩を竦め、再び秋の都会の中を歩く。
「さて、どうしたものでしょうか……」
このままではストレスばかりが溜まり、リフレッシュなんてもっての他だ。ましてや自分は元より、人一倍努力しなければならないと言うのに。
そうした迷える小鳥が一羽、またしても止まり場へとやって来る。
――からんからんと、ドアベルの音が鳴れば、それが新たな迷い鳥がやって来た合図だ。
「――このお店は、こう言った人たちを寄せ付けてしまうのですかね……」
カウンターの向こうに立ち、エプロン姿のクリシュティナ・蘭・ヴェーチェルは、興味深そうに来客者、小野寺真を見つめる。
私服姿の真は、やや申し訳なさそうに、入り口付近で立ち止まっていた。
「す、すみません。駅前の喫茶店でアルバイトをしていることは耳に入れていましたが、まさかここのお店だったとは」
真は慌てて、次にこんな言葉を言う。
「ここで働いていると言うことは、クラスメイトの皆さんには内緒にします!」
「いやその言い方ですとまるで私たちがいかがわしいお店で働いているみたいです! 別に普通の喫茶店ですから、むしろ内緒にされる方が怪しいですから!」
クリシュティナが慌ててしまっていた。
「せっかく来てくださったのですから、なにか頼んでいってください。専門店ほどではないですが、甘いものも結構ありますよ?」
気を取り直したクリシュティナに誘われ、真は「お邪魔します」とカウンター席に座る。
天井をお洒落なシーリングファンが回っている、アンティークな内装をした喫茶店だ。店長の趣味なのだろうか、昔の西洋風を思わせる雑貨がところどころに置いてある。
「頂きます。やっぱり、知り合いがいると安心できますよ」
真はほんわかと笑い、昔ながらのメニュー表を手にとって見つめる。コーヒーの良い匂いが鼻孔をくすぐり、奥の方からは甘い香りが漂ってくる。
「仰る通り、メニューが豊富ですね。裏方の人が全て作っているのでしょうか?」
「いらっしゃい、小野寺くん」
真がそちらの方を見れば、ちょうどクリシュティナと共に働いている香月が、作りたてのサンドウィッチを、ショーケースまで運びに来ていた。
「こんにちは、香月さん。凄いですねお二人とも。立派なパティシエではないですか」
メニュー表を眺めながら真が褒めれば、香月とクリシュティナは嬉しそうに微笑んでいた。
「正直、羨ましいです。自分は昔からお菓子や甘いものが好きで、パティシエになるのが夢でしたからね。魔法を使ってお菓子を作るなんて、それこそ子供の夢のようなものです」
「今は諦めてしまったの?」
香月が真を見つめて言う。
「諦めたと言いますか、保留中といいますか。双子の妹に少しでも頼り甲斐のある兄として見られたくて、陸上部に入っている始末ですよ。本当は自分も、香月さんやクリシュティナさんのように、アルバイトでお菓子作り、ないしは部活でそういう所に所属したかったものです」
真の双子の妹であり、大阪のアルゲイル魔法学園に通っている理の目もあり、自分なりに格好いいと思っていた陸上の道を、中学より進んだ真。結果的にそこで待っていたのは、甘いお菓子とは180度かけ離れた、汗でしょっぱい地獄のような練習の日々であったのだが。
「妹の存在とは、兄にとって時に負担となってしまうものなのでしょうかね……」
クリシュティナがやや寂しそうにして、言っている。彼女の兄ミハイルは、国際魔法教会本部で今日も世界の平和と安定の為に、努めているのだろう。
「いえいえ。そう感じてしまうのは、つまらない意地を張っていた自分だけだと思いますよ。陸上も今では好きになりましたし、時間が解決してくれることもありますよ」
真はカフェラテとパンプキンケーキを注文し、ワクワクしながらそれを待っていた。
香月とクリシュティナが共に真のオーダーを聞いているとふと、慌ただしく、店の入り口ドアが開く。
「ハアハア! マジ勘弁なんだけど!?」
チェック柄のシャツを着た、茶髪にポニーテール姿の女性が、息を切らして中に入ってくる。
「南野さん?」
カフェラテを淹れていたクリシュティナが驚く。
真にとっては知らない人なので、おそらく、ここの同僚なのだろうなと、カウンター席に座りながらぼんやりと思っていた。
「随分と焦った様子で、どうしたのですか?」
「ごめんごめんクリシュティナちゃん、香月ちゃん。今さっき店長から連絡あって、近所の役所で今日やってる町内会で、そこで配膳されるお菓子の注文ミスっちゃったらしくて、代わりにこの店のケーキに白羽の矢がたっちゃったの!」
「え、どういう事ですか?」
南野と同じくポニーテール姿の香月がまさかと、恐る恐るになって問いかける。
南野は慌ただしくカウンターの中に入ると、手早くエプロンを腰に巻いていた。すでに戦闘態勢である。
「発注担当の人がミスって、大至急代わりのお菓子を用意しなくちゃいけなくなったんだって。店長もその町内会に出席してて、なんならウチに任せてください! って言っちゃったの……」
「なんて無責任な……」
さすがの香月も頭痛を感じるように、額に手を添えていた。
「何個ほど作ればいいのでしょうか……?」
クリシュティナも不安そうな面持ちで、南野に問う。
「1000個。それを一時間までに、店長が取りに来るっぽい」
「せ、せ、せんっ!?」
クリシュティナがよろめきかけ、それを慌てて香月が後ろから支える。
カウンター席に座っていた真も真で、飲んでいたカフェラテを吹き出しかけていた。
「む、無茶苦茶です。間に合うはずがありません。と言うより、町内会どれだけ人をかき集めているのですか……?」
気絶しかけているクリシュティナの後ろから、香月がごもっともな事を言っている。
「私も非番なのにこうして招集かかったってわけ……。うんざりなのは私の方よー。一応、給料は弾むらしいけど……」
南野もため息を零し、周囲を見渡す。
彼女の視界に飛び込んできたのは、カウンター席に座り、パンプキンケーキを食べる真であった。
「この娘って、ひょっとしてひょっとしなくとも、香月ちゃんとクリシュティナちゃんのお友達だったりする!?」
「え、ええ一応、同じ学園のクラスメイトです」
スプーンを口に含んだまま、南野の勢いに気圧される形で仰け反りながら、真が答える。
「それってつまり、チートキャラって事だよね!? 軽くケーキ千個作れるのなんて、簡単だって感じの!」
「そんなチート能力、いりますか……?」
自分でツッコんでおきながら、でも、ちょっと欲しいと内心で感じてしまう真である。
「お願い! お姉さんを助けると思って、バイト代は出すから、一緒にケーキ作りを手伝ってよ!」
「え……」
真が驚いたのは、別にバイト代を貰えるとか、そのようなところではない。なし崩し的にではあるが、まさか自分にも、パティシエのような事をやる日が来るとは。
「わ、わかりました。自分に出来ることであれば……手伝います」
「本当にいいのですか、真?」
「無理だったら断ってもいいのよ?」
二人の同級生女子に心配されるが、真は「大丈夫です」と、はっきりとした表情で首を横に振る。
「こういう事に興味がありましたし、せっかくの機会です。力になれるかはわかりませんが、お手伝いします」
「マジ!? いや本当に助かるよー! ありがと!」
南野は心底嬉しそうに喜び、真をカウンター裏へと通していた。そのまま真に従業員用のエプロンを渡し、調理場へと案内をする。
「わぁ……!」
テレビなどで見るような本格的な厨房に足を踏み入れた真は、それだけで小さな感動を味わう。やはり自分は、走っているよりもお菓子作りの方が、本当は好きなのだろうと実感する。
「消毒はきちんとね?」
「はい。心得ています」
きちんと手洗い消毒をした真は、南野に促され、早速、大量の材料の前に立つ。
「改めて、千個ですか……。フルスロットルで最初から飛ばしていかないと、一時間ではとても間に合いそうにありませんね……」
陸上部の用語を使いつつ、真はレシピを確認する。予め下準備はされているようで、あとはこれを丁寧に配分し、焼きあげなくては。
「若者たちよ、闘志を燃やし、ケーキを燃やせ!」
南野の号令の元、真、香月、クリシュティナの三名は厨房を行き交う。さながら大人気スイーツ店の従業員の如く、休む暇もないほどの忙しさ。……なぜか自分が職場体験をすると、決まって忙しい目に合うのだが、気のせいだろうか……。
南野を含めた四人とも、顔や髪、エプロンに生クリームやらチョコチップをつけながらも、一心不乱にケーキを焼き続けた。
額に汗を滲ませ、口の中に甘い香りを感じながらも、真も懸命にケーキ作りを行う。真が最初に焼き上げたケーキを見た南野は、感心しているようだった。
「うわ上手……! やっぱチートキャラだよこの娘!」
「チートではありませんが……どうにか!」
「いっそのことウチで働かない!?」
「部活が忙しいので無理です!」
そんなことを言い合いながらも、真はせっせとケーキを焼く。
忙しいが、楽しい。確かにそう感じる。自分が丹精込めて作ったお菓子を誰かが食べてくれて、そして喜んでくれる姿を思うだけで、幾らでも頑張れそうな気がした。
(自分が必死になって戦うことで、誰かが救われるのであれば……)
同時に、フレースヴェルグでの戦いの理由にもその思いは直結する。
楽しいことと苦しいことが合わされば、一時間という時間はあっという間だった。
お店に喫茶店の店長がやってきた時には、見事四人の手によって、千個というパンプキンケーキは完成されていた。
流石に店長も申し訳なく思っていたようで、バイトリーダー的な立ち位置にいる南野にこっぴどく叱られ、三人の時給単価はしばらくインフレを起こしそうだ。働き方大改革である。
店長が自身のトラックでパンプキンケーキを区役所へと運んでいったところで、本来非番であった南野もようやく、身に纏っていたエプロンの紐を解いていた。
「ふぇー……。三人ともマジで助かったよ……店長にはガツンと言っておいたし、もう二度とこんなことはないよね……」
「そうだといいですね……」
「クリシュティナさん。またお鼻に生クリームがついているわよ」
香月に指摘されたクリシュティナは、恥ずかしそうに、慌てて生クリームを拭き取る。
「へっへー。じゃあ今日はお姉さんの奢りで、健康ランドでも行く? 新入りの小野寺ちゃんの歓迎祝いも兼ねてさ!」
指を鳴らす南野の提案に、後退ったのはエプロンを解いた真であった。
「ま、待ってください! 自分は陸上部に所属しているので、アルバイトは無理です! そもそも自分、男ですし!」
「え……」
どうやら南野は、完全に真のことを同性だと誤解していたらしい。目を点にして、真の後ろに立つ香月とクリシュティナを交互に見る。
「嘘でしょ……?」
「いえ、真は真の男の子です」
クリシュティナがぼそりと、そんなことを言う。
「……っ!?」
え、まさかのダジャレ!? ……と、隣に立つ香月はびっくりして、アメジスト色の目をクリシュティナへと向ける。
クリシュティナの横顔は、微かに微笑んでおり、このとき香月は確信する。
絶対に面白いと思って言ったのだろう、と。
「へえーそうだったんだー。ごめんね、私がずっと誤解してたみたいで」
「いえ、大丈夫です」
「でもワンチャンバレないし平気だよ。このままウチで働いちゃえば!?」
「ですから、それは陸上部の活動がありますので、無理です」
少し前だったら、南野の提案を受け、ここでアルバイトをしていたのかもしれない。けれども今はもう、陸上部員としての自分も確かな自分だ。練習は厳しいものだが、逃げだすわけにはいかない。
「えー……。まあ、仕方がないか」
「すみません。どうしても人手が足りなければそのときは、またお手伝いさせてください」
――フレースヴェルグの一員としても、然り。
――あくる日。
真は今日も、演習場にて影塚との魔法戦の特訓を行っていた。
その休憩時間中、真は影塚に、自分から声をかける。
「影塚さん。この間の休暇、ありがとうございました」
「休暇と言うほどでもなかったと思うけど、今日の特訓は全てにおいて練度が高かった。それが先日の休暇と関係しているのなら、時間を作ったかいがあったようだね」
影塚はにこりと微笑んでいた。
休暇というよりは、一時の体験のようなものであったが、それでも。いい気分転換だったことには変わりがない。
真は頷き、続いて、先日影塚から渡された一度は行ってみたほうが良い影塚オススメスイーツ店マップを、起動する。
「ん?」
「影塚さん。自分もオススメのお店を見つけたので、ぜひ今度行ってみてください! 駅前の喫茶店なんですけど、スイーツが美味しいです。今でしたらパンプキンケーキがオススメですよ!」
「そっか。もうすぐハロウィンだから、パンプキンケーキなんだね」
「はい! 店長が材料を大量発注してるんですよ!」
「なんで、そんなお店の内部事情にまで詳しいんだい……? 流石の僕もそこまではリサーチ不足だったよ……」
「あ、いえ。あはは、なんでも……」
そこで必死になって働いていたとまでは言えずに、真は誤魔化し笑いを浮かべていた。
※
攻撃魔法の直撃にも耐えられる演習場の分厚い装甲壁を一つ挟んで隣の演習場。
そこでは、真と同じくフレースヴェルグのメンバーである天瀬誠次が、蛍火の女傑である篠上朱梨と特訓を行っているところであった。
そこへ、手提げ鞄を持った香月がやって来る。
「パンプキンケーキ? 珍しいな」
「美味であるな。良い栄養補給だ」
差し入れとして香月は、誠次と朱梨にパンプキンケーキを持ってきていたのだ。二人は早速、カロリー補給の名目としても、ケーキに舌鼓をうつ。
「美味しいよ、ありがとう香月。これでまだ頑張れる」
「それは良かったわ」
「しかしなんで、パンプキンなんだ?」
「かぼちゃが大量発生しているのよ。十年に一度の、大収穫祭よ」
「へー。そんなことがあったのか、知らなかったな。かぼちゃって大量発生するんだな」
「今頃街中かぼちゃだらけね」
もぐもぐとケーキを食べる誠次の隣で、香月が微笑んでいた。
(いや剣術士よ……普通に、はろうぃんとやらではないのか……?)
魔女にお菓子を渡され悪戯もされている剣術士を前に、フォークを口に添え、朱梨ははてと首を傾げていた。
今年のハロウィンは自粛なので、イラストも自粛です。コスプレ的な意味で()




