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魔法世界の剣術士 中  作者: 相會応
白黒 天下の秋を知る
127/189

11

「今日から君もフレースヴェルグだ!」

           せいじ

 南雲なぐもユエの追跡をかわした黒ずくめの男が、柱をつるつると滑って再び地上に降りる。

 はたはたと、黒いフード付きパーカーにこびりついた埃を手ではらっていると、人混みをかき分け、鬼の形相で迫ってくる男がいた。


「貴様! 待て!」


 長いブロンドの髪を揺らし、日向蓮ひゅうがれんが駆け寄る。スタジアムの天井にいるユエから連絡を受け取り、ここまで駆けつけたのだ。


「っ!?」


 黒ずくめの男は、そんな日向のマジ走りを見て、自身も全力疾走を開始する。

 腰ほどの高さはある花壇をジャンプで飛び越え、スロープ沿いの鉄の手すりの上を滑って降りる。

 日向も逃走する男を追いかけ、花壇を飛び越え、スロープの壁をも手を使って反動をつけて乗り越える。両者ともに、身軽で高い運動神経であった。


「逃げるな!」


 魔法が使用できれば簡単に仕留められる間合いではあるが、ユエ同様、特権もない今の身分では無闇やたらな魔法の使用は出来ない。それでも、大勢の人を危険に晒そうした疑いのある人物を放ってはおけず、日向は全速力で走る。

 灰色のアスファルトが広がる、ここはスタジアム専用の駐車場だ。今まさに行われている体育祭を含め、普段このスタジアムでは様々な大会やイベントが行われる為、必然的に駐車場も広くなっている。

 何台もの車が駐車されている中、日向は背丈の高いワンボックスカーのところで曲がって行った男の後を追い、同じように曲がる。


「なに………?」


 しかしその先に、すでに男はいなかった。

 まるでマジックのように、すぐ目の前を走っていたはずの男は忽然と姿を消していた。

 こうなってしまえば、空間魔法を用いて周辺を索敵する他ないだろう。

 そうして右腕を掲げた日向の真横で、急に、海外産の高級車の電源が入る。

 何事かと日向が黄色い目を向けば、なんとその車は、相手の男のものだったようで、エンジンをかけて急発進を行う。

 日向は咄嗟に前へと転がり、車の直撃を回避する。


「ま、待て!」


 すぐに態勢を整えたが、車はすでに走り出し、角を曲がっていってしまう。反撃の為に咄嗟に攻撃魔法を見舞おうと右腕を伸ばしかけたが、すぐに思い留まる。

 魔法が自由に使えればこれほどの苦戦はしないが……と歯がゆい思いを味わったところで、向こうが止まるわけもない。

 すぐに立ち上がり、私服を整え直していた日向の後ろから、別の車がやって来て、真横で急停車する。

 きゅるきゅると、タイヤがアスファルトを擦る音とともに、彼方を睨む日向の優美な長い髪が、風に揺れた。


「――らしくないじゃないか、日向?」

 

 開いていた車の窓の奥から、運転席に座る古い友の声が聞こえてくる。その声で、誰かわかっていた。


「……魔法を使っていたら、もっと速く捕まえられていた」


 日向は真正面を見据えたまま、すぐ真横で車を止めた男に対して言い放つ。

 運転席に座る仲間の男、影塚は肩を竦め、車の助手席のドアを開けてやっていた。


「乗るかい?」

「容疑者確保のためだ。力を貸せ」

「了解」


 目線を合わせるのも少々に、日向は影塚が運転する車に乗り込み、シートベルトを装着する。

 影塚がすぐにエンジンをかけると、二人を乗せた車は急発進をし、先に駐車場を出た黒い車を追う。もちろん、自動運転ではなく、影塚の手動運転だ。


「間に一台車が入ってしまった――追い越す!」


 ペダルを踏み込み、スピードを上げる車。

 スタジアム外の市街地に出た途端、影塚は前の車両を追い越し、すぐに逃亡する男が乗る車の後ろにピッタリとつく。

 違法行為すれすれの行動は、影塚の運転テクニックを見せつけると共に、助手席に座る男の不興を買う。


「……っち。マナー違反だ、やはり乗り気はしない!」

「だったら、目の前を走る多くの人を傷つけようとした犯人をむざむざ逃すのかい!?」

「寝言を言うな! ここまでやっておいて引き下がれるか!」

「掴まって!」


 影塚が急にハンドルを大きく回す。

 日向が体をドアに押し付けられるほどの急旋回を行った車のすぐ横を、向かいの交差点から直進してきていたトラックが掠めて通り過ぎていく。

 遅れて鳴らされたークラクションを背に、影塚はすぐに車体を安定させて、再び前の車両の追跡を行う。


「っち、やはり後ろ髪を引かれる思いだ!」

「君の髪型だけにかい、日向!?」

「冗談を言う暇があったら運転に集中しろ! 奴を逃がすぞ!」

「わかっている!」


 しかし、ここ愛知県は日本でも有数のさかんな車の産業地でもあり、交通量もそれに比例するように、多かった。ましてやここは大都会の道路の真っ只中。

 黄色信号と赤信号の切り替わりの直前で前を行く車が直進しきれば、たちまち真横から車が列を作るように行き交う。


「日向。形成魔法で即席の車道橋を架けてくれ! そこを通る!」

「っ!」


 影塚に言われたとおり、車窓から半身を出した日向は、素早く形成魔法を発動する。

 目の前の道路に沿うようにして、斜め上へ向けて半透明な魔法の坂道が出来上がる。影塚は恐れることもなく、一見透明に見える道を直進する。無数の車の列はいつの間にかに下におり、影塚と日向が乗る車は、魔法の橋の上を通っていた。

 周囲から見れば、まるで車が空中に浮いているように見えることだろう。即席の魔法によるバイパスを利用した車は、赤信号の頭上を飛び越えてから道路の上に着地し、一気に逃走車との距離を詰める。


「真横に車をつけろ! タイヤを撃ち抜いてパンクさせる!」

「周囲への被害が少なくなるところまで待ってくれ!」


 凄まじい風を浴びて揺れに揺れる金髪の日向に、影塚はそう言って片手でナビを操作する。

 住宅街でも商業地でもない、万が一コントロールを失った車がやってきたとしても、比較的安全な場所を一瞬で探しだす。


「あの車を誘導する。合図をしたら、君が車を仕留めてくれ! 走行不能に陥らせるだけでいい!」

「ああ。任せた、影塚!」


 車の窓は開けたまま、日向は攻撃魔法の魔法式を発動し、チャンスを伺う。失敗すれば街に被害が出る可能性もあり、下手をすれば人的被害も起きかねない。正確無比なコントロールと、一撃で敵を仕留める力が必要だ。

 影塚はハンドルを器用に片手で回し、逃走車と間合いを詰め、斜め前にまで躍り出す。

 サイドミラーを確認しながら、敵の車との間合いを計り、車を一気に近づける。

 そうすれば、後方を走っていた車はこちらとの接触を避け、スピードを落とそうとする。

 影塚はその動きを見切り、今度は自身の車を急停車させ、おまけにハンドルを思い切り回す。

 

「今だ!」

「《エクス》!」


 影塚が睨む先、日向が白い魔法式から放った攻撃魔法は、鋭い軌道と素早いスピードで、敵の車のタイヤに直撃する。

 乾いた破裂音が鳴り響き、敵の車のタイヤがパンクし、向こうの運転手は車のコントロールを失う。火花を散らしながら車はゆらゆらと進んだ後、影塚の計算通り、道路横の空き地に突っ込んで行った。

 逃走車が走行不能に陥ったことを確認した影塚と日向は、空き地入り口に停車した車から同時に降り、魔法式を互いに発動しながら、強制停車させた車へ近づいていく。

 

「降りてきてくれ。これ以上逃げるつもりであるのならば、僕たちも相応の魔法を使って対処する気だ」


 影塚が警告を行うと、完全に砂利山の上に乗り上げてしまっている車の運転席が開き、中から黒ずくめの男が両手を上げて出てくる。


「――そ、ソーリー……」


 返ってきたのは、英語での謝罪の言葉。それも、なんとも拍子抜けしてしまいそうな、気の抜ける情けのない声音。

 黒ずくめの男は、シルバーブロンドの髪をしている、外国人であった。


「外国人……? それにその顔、どこかで見覚えが……」


 思い出したかのように、日向が呟く。

 

「ノア・ガブリール……。私の名前だ」

「ノア・ガブリール……。まさか、英国の魔法博士か!?」


 影塚が驚いたように、青い目を見開いていた。

 

「貴様が、体育祭の防御魔法を破壊したのか?」


 日向が問い詰める。

 ノアは、首をぶんぶんと左右に振るう。


「まさか! この私が最愛のシスターを危険に晒すような真似をすると思うか!? むしろ私は、妹を守ろうとした!」

「どういうことだ?」


 相手が世界的に知られた著名人であっても油断せず、日向は更に追求する。


「そもそも私に、魔法学園の教師ティーチャークラスの防御魔法を破壊するなんて芸当は出来ない。そう、魔術師だけにな! フハハハ!」

「ムカ……撃つぞ!」

「落ち着いて、日向……」


 何故か誇らしげに高笑いをするガブリール元魔法博士に、一瞬にして眉根を寄せた日向と、それを宥める影塚である。


「どうして止まってくれなかったのですか?」

「何度も言わせるなクールガイズ! 我が妹、シア・ガブリールを守ろうとしたのだ!」

「だから……どういう事です?」


 影塚もここまで激しいカーチェイスをしたと言う事実を思い出し、頭痛を感じてきた。おまけに、この元魔法博士の芝居臭い言葉遣いが、まともな会話を成立させてくれないのだ。


「私は手作りのお弁当を届け終え、いざ帰宅しようと考えていたところであった……」

「「ああ」」


 人差し指を立てながら、まるで何かの講義のように説明をする黒ずくめの服を着たガブリール元魔法博士に、影塚と日向は揃って腕を組み、聞き入る。


「ゲートまで行ったところで、この黒い服を着た男が私を待ち構えていたのだ!」


 大袈裟な身振り手振りを混じえて、ガブリール元魔法博士は言ってくる。


「つまり、その服はむりやり誰かに着させられたと?」

「そのとおりだ!」

「嘘だな。影塚。この男はつい前に自分の魔法は嘘であったと著書に書いた、嘘つきだからだ!」


 日向が容赦なく言えば、ガブリール元魔法博士は頭を抱え、英語で何かを叫ぶ。

 影塚も確かにそうだ、と頷きかけるがその反面、ジト目を日向に送る。


「……日向。君、何か役に入り込んでしまってないかい……?」

「何を言う影塚。多くの人々を危険に晒した犯人を庇い、俺たちの静止を散々無視した男だぞ。自分の身の為ならば嘘もつくだろう」

「確かに私は嘘つきだ……。だが、妹の命の危険だったのだ! それに私だって、なぜ追われなければならないのかまったくもって意味が分からなかった。ただ黒ずくめの服を着ていたからと追われる理由を逆に聞きたいぐらいだ!」

「二人共落ち着いてくれ……」


 影塚が言い合う両者の間に割って入る。

 昔馴染みの関係だからよくわかるが、日向とこの元魔法博士は、根本的に相性が最悪なのだろう。

 

「なぜ貴男が、その服を着させられたのですか? それに、妹の命を守るためとは?」

「私にこの服を着させた男はこう言った。妹に害を与えられくなければ、この服を着て逃げろと。間もなく追手が来るだろうともな」

「つまり貴男は本当に、防御魔法を破壊してはいないと?」

「言ったであろう。この私にそんなハイレベルな真似は出来ないと!」


 やはり誇らしげに言うガブリール元魔法博士を前に、影塚は顎に手を添えていた。


「つまり、真犯人は他にいて、ガブリール魔法博士はその人に濡れ衣を着せられ、俺たち追跡者から逃げるように指示されていたと……」

「その男の特徴を教えてくれ。なんでもいい」

「それがこの私を無実の罪でさんざん追いかけ回した後の態度か!? ロングヘアーメン!」

「やはり撃つ!」

「そ、ソーリーッ!」


 次第にイライラがマックスにまで溜まってきている日向に、ガブリール元魔法博士はぎょっとなる。


「背丈はそこまで大きくはなかった気がする。白髪で、目つきがすこぶる悪い、若い男だった。見た目からしてあ、こいつ完全に悪ガキだなって感じだ」


 自分には身代わりになるように強要してきたという男の特徴を思い出しながら、ガブリール元魔法博士はうんうんと頷いて言う。


「私は男性用トイレに連れ込まれ、そこでこの服を着させられたのだ」


 ガブリール元魔法博士は黒ずくめの服をそっと触り、そう言う。


「その男はどこへ向かったのかは、分かるかい?」

「トイレから出て行って右方向だったはずだ……つまり、ゲートとは逆の方だ」

「ゲートから逆の方だと……?」


 日向が驚く。

 影塚も日向と同様に、驚いていた。


「つまり犯人は、まだスタジアム内いて、何かする可能性が高い」


 普通に考えれば、身代わりを作ったのならば、そのままゲートから逃げるのが犯人の定石のはずだ。

 それを敢えて、ゲートとは反対側の道へ行ったのだ。つまりは、犯人はまだスタジアム内で何かをする気でいる。

 影塚と日向は顔を見合わせ、同時のタイミングでそれぞれ電子タブレットを取り出す。


「僕は南雲なぐもに連絡を入れる!」

「俺は霧崎きりさきさんに伝える!」


 そうして、自分たちが乗ってきた車に戻ろうとした二人を、慌ててガブリール元魔法博士が追う。


「ま、待ってくれ! 妹の命の危険なのだ! 私も共に行く!」

「しかしその車は……」


 影塚がそう言いかけるが、ガブリール元魔法博士は毅然きぜんとした面持ちで歩み寄ってくる。


「車と妹であれば、私は迷うこともなく妹の身の安全を選ぼう! それに、また新しいのを買うつもりだ! あれ、中古車だし、壊れやすかったのさ!」

「もとより連れて行く気だ。犯人の顔を教えてもらわなければならない」


 すでに助手席に乗り込みかけていた日向は、後部座席を開け、そちらへガブリール元魔法博士を促していた。


「早く乗れ! インチキ魔法博士!」

「感謝する! クールガイズ!」

「その呼び方はどうにかならないのかな……」


 気分は一転、ノリノリで車に乗り込むガブリール元魔法博士と、満更でもない様子の日向を交互に見て、影塚もまた肩を竦めて運転席に乗り込んだ。


        ※


 激しい爆発音が起きたジャングル方面へと向かう誠次せいじしょうであったが、そこへ至る前に、大きな障害が一つあった。


「参ったな……」


 競技参加者用に用意されたホログラム画像地図を顔の正面に合わせ、翔が唸る。


「向こうに行くためには、なんとしてもあの大橋を渡る必要がありそうですね……」


 翔の隣で茂みに身を潜め、誠次も彼方を見据えて言う。


「エリアの収縮は迫っている。広いエリアに行くためには、この一つしかない橋を渡るしかないな」


 そう言い合う翔と、誠次の視線の先には、大きな川を跨いで架かる、車も通れる道路続きの大きな橋であった。背中の方からエリアは縮んでおり、向こう岸へ行くには、どうしてもあの橋を渡る必要がある。


「川の上に形成魔法を作って、そこの上を通ると言うのはどうでしょう?」

「無理だな。空間魔法の索敵によれば、待ち伏せをしてる連中がいる。大方、橋を渡ろうとするやつを狙い撃ちにする算段だろう。たとえ川の上に形成魔法で足場を作ったところで、その間他の魔法も使用できなくなるし、いい的だ。泳いでいくなんてもってのほかだぞ」


 誠次の提案は、翔によって却下される。

 こうしている間にも、どこかでなにかが起きてしまい、手遅れになっていくかもしれない……。差し迫った時間の中で、作戦を決めあぐねていると、ふと翔が何かに気が付く。

 それは、現状を打破する光明の光――ではなく、事態を増々混迷へと誘う禍の元。


「この反応は……」

「どうしました?」

「近くに一人、誰かがいる。この崖のすぐ下だ」


 空間魔法で索敵をしていた翔が、茂みから顔を出して、すぐ目の前の崖の下を見る。高さはそれほどなく、下である川岸に面した地面はすぐにあった。

 そこの緑に混ざる、赤い違和感。それは、撒き散らされた血痕であった。


「あれは、血……」

「行ってみましょう!」


 誠次は警戒の為にレヴァテイン・ウルを背中から引き抜き、崖の下へ向けて茂みから飛び出て、ずるずると下っていく。落下速度が上がる下降の途中で、崖の壁面にレヴァテインを突き立てて、速度を制御する。そして、大きな亀裂をつけた壁からレヴァテインを抜き、誠次は()()に崖下の地面の上に着地した。


「これは……っ!」

「っひ!?」


 崖下の茂みの中に隠れていたのは、流血し、傷を負って負傷したアルゲイルの後輩男子であった。黒の制服に赤い線が入っており、間違いない。

 負傷しているアルゲイルの魔法生は、レヴァテインを持つ誠次を見るなり、怯えて腕で顔を覆う。


「た、助けて……っ!」

「落ち着け! 大丈夫だ」


 誠次はレヴァテインを納刀し、茂みの中を掻い潜り、男子生徒の元へ近づく。

 遅れて、形成魔法で足場を作りながら降りて来た翔も、この場にやって来る。


「ずいぶんと危ない降り方をするな……。でも、こいつは……」


 息も荒く、瞳孔も血走っている他校の後輩を前に、翔も訝しげな表情をする。


「い、命だけは……」

「落ち着け、襲いに来たわけじゃない。酷い怪我だな。治癒魔法で治療してやる」


 翔はしゃがみこみ、アルゲイル魔法学園の後輩男子へ向けて、治癒魔法をかけてやる。


「これほどの傷……。一体どうしたんだ?」


 誠次は周囲を警戒しながら、慎重に後輩の男子に問う。

 翔の治癒魔法を浴びながら、しかし後輩の男子は、すっかり怯えきった表情を向けていた。


「剣で、突然、襲われました……」

「剣、だと……っ!?」


 黒い目を見開き、誠次は驚く。


「それは確かか?」

「間違いありません……。大きな剣で……だから、貴男がやったのかと、最初は、思って……っ」


 斬られた際の事を思い出してか、後輩の男子は再び怯えだす。


「君、名前は?」


 治癒魔法を浴びせ終えて、翔がしゃがんだまま尋ねる。傷は塞がったが、痛みは残っており、もうまともに競技に参加出来ることはないだろう。


岸野きしのです……」

「リタイアした方がいい。このまま競技に参加し続けるのは危険だ」

「しようとしました! ですけど、リタイアポイントがもう、橋を渡った先にしかなくて……」


 競技から自主的にリタイアするためには、この世界のどこかに点在しているリタイアポイントに向かう必要がある。本来ならばそれは、ここまで酷い怪我を負う事もないからと、各所に置かれているものであった。

 しかし今、岸野は歩けぬほどの重傷を負い、リタイアポイントに辿り着くこともままならないようだ。


「一体だれがここまで酷いことを……。それに、剣だなんて……」


 にわかには信じ難く、誠次は絶句しかける。


「ひとまず、岸野君を運ぼう。このままここに置いて行くのは出来ない」

「同感です。しかしそのためには、やはりあの大橋を通っていかなければなりません」


 翔の意見に賛同した誠次であるが、それには大きな困難が伴っていた。

 負傷した男の子を担ぎながら移動しようにも、あの目立つ橋の上では、攻撃されてしまうことは明白であった。


「どうして……」


 二人が話し合っていると、岸野がそっと口を開く。


「俺は、アルゲイルの敵のはずです……。それなのに、助けてくれるなんて……」


 岸野が戸惑い交じりの声を上げていると、誠次と翔は肩を竦め合っていた。


「残念だろうが、俺と翔先輩に見つかってしまったのが運の尽きだ。このまま君をここに置いてはいけない。一緒に来て貰うぞ」

「……やっぱり、俺を襲ったのは、剣術士さんではないのですね……」

「ああ。なにか、他に手掛かりはないだろうか?」

「顔は全然覚えていません……姿も、怖くて……。ですが、あの橋を通っていったのは確かです」


 岸野からそのようなことを聞き、誠次と翔は頷き合う。

 

「まだ後ろの方からも他の奴らが来るかもしれない。そうなれば橋を前にして挟み撃ちにさらされる危険性もある。岸野君には一刻も早いちゃんとした治療が必要だ。歩けるか?」

「どうにか……。ですけど、走るのは、無理そうです……すみません」

「謝らなくていい」


 翔が首を横に振る。


「では、俺が岸野を支えます。さすがに負傷しているアルゲイル魔法学園の後輩の姿を見れば、無暗な攻撃はしてこないと願いたいですが……」


 誠次はそう言いながら、岸野の腕を自身の肩に回して、ゆっくりと、立たせてやる。やはり岸野は苦しそうな呻き声を出し、歩くのも辛そうだ。


「よし。俺は魔法で援護をする。なんとしても対岸に辿り着くぞ」

「はい」

「ありがとうございます、先輩……」


 こうして、翔と、岸野を支える誠次の三人は、長い鉄骨橋の上を渡りだす。

 長い行先のスタート地点に足を踏み入れた途端、誠次は表情を歪ませる。


「……っ。やはり、大勢に見られています……いつそこから攻撃が来るか、その時はそう遠くはないでしょう」

「わかるのか?」


 誠次と戦えない岸野の先陣を担い、前を歩く翔が、正面を見続けながら訊き返す。


「はい……。向こう岸や後ろかも、囲まれている状況です」


 岸野を支えている状況では、誠次も満足には戦う事が出来ず、急いで渡らなければならないだろう。

 しかし、


「上だっ!」


 翔が叫ぶ。

 上に目を向ければ、魔法の光が一瞬だけ青空を貫いて瞬いたかと思えば、閃光がさく裂し、雨のように魔法の弾が降り注いでくる。


「《プロト》!」


 正体不明者からの攻撃が、天から鉄骨橋に降り注ぎ、翔が咄嗟に防御魔法を繰り広げる。ドーム型の薄い膜が魔法攻撃による暴力から、三名を守っていた。


「どこからの攻撃だ!?」

「橋の向こう岸からです!」


 周辺に着弾する魔法の衝撃の中、翔と誠次は叫び合う。自分の命を誠次へ預けていると言ってもいい岸野は、悲鳴を上げて誠次の肩に顔を寄せていた。


「マズイ……このままじゃここに釘付けにされる!」


 翔の防御魔法が、正体不明の敵の無慈悲な攻撃魔法から今のところは守ってくれているが、いつ崩れてしまうかも分からない状況だ。

 誠次は一旦岸野をその場にしゃがませ、翔の背後に身を寄せる。


「翔先輩。俺が突撃して、突破口を切り開きます。上手くいけば、敵の攻撃魔法を食い止めることができるかもしれません」

「正気か? この攻撃魔法の中を掻い潜るなんて無茶だ」

「やらなければ、三人ともこの場でやられてしまいます! それに――」


 誠次はその時からすでに、背中の鞘からレヴァテイン・ウルを引き抜き、彼方を睨んでいた。


「特訓の成果を見せる番です」


 誠次と翔は呼吸を合わせ、合図の元、飛び出す。

 彼方より、雨のように降り注ぐ魔法攻撃の発生元を見極め、誠次は走り出す。

 

「俺はここだ! 当てられるものならば当ててみせろっ!」


 走りながら叫ぶ誠次の右や左に次々と、魔法が着弾し、結晶となって残り、爆発を起こす。その爆発の衝撃波を利用してジャンプをし、鉄骨橋の柵に飛び移り、さらに高く跳ぶ。

 魔法による攻撃の照準は今や誠次へと向けられており、その隙に、翔は岸野を背負って走り出す。


「いいぞ誠次!」


 空中を回転しながら、鉄骨橋の支柱と支柱を飛び移り回る誠次の真下を翔は駆け抜け、その途中で岸野を形成魔法で作った壁の中に置く。

 その壁の上に誠次は着地をし、岸野を改めて肩に背負い、駆け抜ける翔の背中に向けて叫んだ。


「確認しました! 二時の方角です!」 


 その時に、すでに翔の右手には魔法式が組み立てられ、照準はそちらへ向けられていた。


「掴まえた……《フォトンアロー》!」


 走りながら、翔が放った魔法が、橋の柵と柵の間を縫い、狙い通りの方向へ向かっていく。

 着弾。それと同時に、執拗なまでの魔法による攻撃は、止まっていた。


「やったか」

「無事か、岸野?」

「は、はい……」

「――どう言うつもりだ長谷川はせがわ!?」


 橋の中間地点ほどで、互いの無事を確認し合っていると、後ろの方から白い制服を着た魔法生がやって来る。緑線の、翔と同い年の三学年生の見知らぬ先輩であった。


安藤あんどうか……?」

「そいつはアルゲイル魔法学園だぞ!? とっとと討ち取れよ!」


 安藤は誠次が匿う岸野を睨み、怒鳴る。

 怯える岸野を庇うように、翔が割り込んだ。


「落ち着けよ安藤。こいつはもう戦えない。リタイア地点まで運んでいるだけだ」

「運ぶって……置いて行けばいいだろう!?」

「怪我をしているんです! 一人では動けません!」


 岸野を支える誠次が言葉を返す。


「ポイントを無駄にするつもりか!」

「ポイントじゃない! 同じ魔法生だ!」


 安藤に対して、翔が腕を振り払って反論する。

 そんなやり取りの最中、新手の攻撃魔法の気配を察知した誠次はハッとなり、周囲に向けて声を出す。


「全員伏せてくれ! 狙われている!」


 誠次の声が終わるや否や、再び鉄鋼橋に魔法による爆撃が起こる。翔と安藤が咄嗟に防御魔法を発動し、衝撃の中、魔法による攻撃から身を守る。


「これはこれは! ヴィザリウスのカモどもが橋の上で井戸端会議か!」


 声のした方を見れば、アルゲイルの三学年生魔法生が、向こう岸からやって来たようだ。


「攻撃をやめろ! こちらは負傷したそちらの魔法生を抱えている!」


 誠次が叫ぶが、向こうからすれば無防備な橋の上に三人分ものポイントがいるのである。見逃せと言うのが、戦場に身を置く者の真理としては無理な事であった。


「橋を渡る為の人質としか見えないな。ではこうしよう、その男をこちらに渡せ」


 アルゲイルの敵は、誠次たちへ向けて魔法式を向けたまま、そんなことを言う。


「そしてお前たちはここでリタイアしろ。その男子は、俺がリタイアポイントまで運んでやる」

「ふざけるな!」


 安藤が怒鳴り、翔もまた、反撃の攻撃魔法を展開する。

 尚更ここでリタイアなどするつもりもない誠次。まだ、岸野が言った剣使いはこのフィールドのどこかにいるかもしれないのだ。

 右腰からもレヴァテイン・ウルを引き抜くと、それを連結させ、大剣の形状となったそれを片手で持つ。


「協力してくれ安藤。確かにヴィザリウスの勝利は重要だがそれよりも、今は人としてすべきことがあるはずだ」


 翔がぼそりと告げれば、安藤は視線をちらりと、誠次が支える岸野へと向ける。


「……わかった、わかった。置いていけば楽だってのにまったく……」


 安藤は肩を竦め、戦局を素早く見極める。


「あの様子じゃ、敵はきっと一人じゃない。おそらくどこかに伏兵がいるはずだ」

「では、俺が少しづつでも前進します。囮としての役割は果たします。お二人は敵の伏兵を探し出し、あわよくば――」

「仕留める。ただ、探すのは手間取るかもしれないぞ」


 翔が頬に一筋の汗を流しながら、ぼそりと告げる。


「俺にもヴィザリウスの魔法生の最高学年生としての意地と誇りはある。剣を持った後輩に遅れなどとらない」


 安藤が手で軽くジェスチャーを送り、誠次と翔は軽く頷く。


「しばし、揺れるぞ。しっかり掴まっていてくれ、岸野」

「は、はい……」


 岸野を背負いつつ、誠次は「心配無用だ。人を守ることには慣れている」と軽く微笑んでいた。


「――行けっ! 《グィン》!」


 安藤が放った汎用魔法が、橋の上で閃光を発生させる。

 それが合図となり、あらかじめ目を伏せていた誠次と翔は動き出す。

 閃光をまともに浴び、やや初動に遅れたのは、立ち塞がるアルゲイルの敵だ。


「小癪な……しかし、かかったぞ馬鹿どもめ!」


 アルゲイルの敵が合図を送り、橋の下方から曲線の線を描き、まるで花火のような光の筋が何発も浮かび上がる。それらは空中で花を咲かすこともなく、次の瞬間、急に角度を変更して、橋の上にいる魔法生たちを狙った光弾と化した。


「この程度!」


 岸野を背負いつつ、誠次はレヴァテイン・ウルを橋の床上に突き刺し、盾のようにして前面に押し出し、攻撃から身を守る。

 床の上に突き刺した状態のレヴァテイン・ウルを分解し、片側だけを逆手で握った誠次は、尚も迫り来る魔法による攻撃を斬り払い、弾き飛ばす。


「腕を回せ岸野! 強く掴まるんだ。ここが正念場だ! 敵の攻撃は全て俺が防ぎ止めよう!」

「い、行けますっ!」

「よし! では足を止めるな! 進み続けるんだ!」


 誠次は岸野と共に橋の上を歩きだし、ゆっくりと、着実に前進を始める。

 

「怪我人を抱えている奴すら討ち取れないのか! 馬鹿者共め!」


 橋の上で誠次らを迎え撃つアルゲイルの敵兵は、直進する誠次を睨み、そこへ向けて魔法式を発動する。


「やらせるか!」


 翔が放った妨害ジャミング魔法が、敵の魔法を寸前で打ち消し、攻撃を中止させる。

 橋の下からは幾つもの攻撃魔法が相変わらず降り注ぎ、誠次たちに襲い掛かる。激しい爆発と火花がそこかしこで起きる中、誠次は懸命に前へと進んでいた。


「進め! 立ち止まるな!」

「そこか!」


 怒声がこだまする中、安藤が橋の下に隠れていた敵兵を見つけ出す。

 なりふり構う事もなく、橋の柵から飛び出した安藤は、空中で身体を捻ると、左手で支えた右手で照準を合わせ、魔法で狙い撃つ。


「手加減するつもりはない! 《エクス》!」


 ひときわ激しい爆発と衝撃が鉄骨橋を襲い、揺らされた誠次は思わず前のめりとなって倒れ掛かる。咄嗟に床の上にレヴァテイン・ウルを突き立て、転倒は避けるが。


「あともう少しだ!」

「ここは突破させるものか!」


 翔と魔法による一騎打ちを繰り広げていたアルゲイルの敵は、近づく誠次を睨み、焦りの色を見せる。


「アルゲイル勝利の為に、負けられない!」

「ヴィザリウスは勝つ! 先輩たちの無念の為にも! 邪魔をするなーっ!」


 翔が放った雷属性の魔法が、敵の一瞬の隙を突き、身体に到達する。白い光が敵の身体に纏わりつき、相手は悲鳴を上げて膝をつく。


「逃がすかーっ!」


 駆け付けたアルゲイルの増援が、あともう少しで橋の終わりにまで到達する誠次の背を狙い、魔法式を展開する。


「このまま行け誠次! 進め!」


 翔が魔法を連射し、敵を足止めしようと試みるが、敵は翔の攻撃の間を掻い潜り、橋の上を転がるようにして躱しながら、誠次の元へ接近する。


「クソっ! 止まれーっ!」

「覚悟、剣術士!」

「なにっ!?」


 翔の攻撃が敵の左腕を掠めたが、敵は魔法式を完成させ、その照準を、走りながら誠次へと向ける。

 誠次の双眸が赤く染まったその瞬間、その目の前で灼熱の炎が吹き荒れた。

 身を焦がすほどの熱を感じたのも少々に、驚いて目を見開くと、全身を水に濡らした安藤が、目の前で防御魔法を発動していた。


「行けーっ! 剣術士ーっ!」

「うおおおおおっ!」


 安藤が咄嗟に魔法を放ち、敵の足にそれを命中させる。敵の足には魔法の紐が結び付き、その場に倒れさせることに成功していた。

 そのまま誠次の隣を並走し、安藤は岸野の背を押していた。


「振り返るな! 突き進め!」

「行けーっ!」


 そして、誠次と安藤は共に長い鉄骨橋を渡り終える。

 転びかけながら二人が対岸に辿り着くと、上空から舞い降りた翔が、橋の後ろから迫り来るアルゲイルの敵たちへ向けて、強力な攻撃魔法を発動する。


「……終わりだ。《アイシクルエッジ》!」


 無数の氷の礫が、迫り来る敵たちへ降り注ぎ、悲鳴を上げて倒れていく。


「やった……やったぞ!」

「忘れものだぞ、誠次」


 軽く微笑む翔が、誠次のレヴァテイン・ウルを持ち、手渡してくる。


「そいつは俺が持つよりもお前が持つべきものだ、だろ?」


 思い出すのは、梅雨の日の、相村あいむらが攫われた時のホテルでの彼女の電子タブレットの受け渡しの際の会話だ。誠次もまた軽く微笑み、翔からレヴァテイン・ウルを受け取る。


「さすがは、先輩です。魔法戦のエキスパートですね」

「まさか本当に無傷で突破できるなんて……俺は水浸しだけどな」


 濡れた髪から水を滴らせながらも安藤は、ふうと息をつく。


「助かった安藤。俺と誠次はこのまま、岸野君をリタイアポイントに運ぶ。そして、ジャングルへと向かう。良ければ手を貸してくれないか?」


 翔が手を差し伸ばして、安藤に語り掛ける。


「ここまで来れば乗り掛かった舟だ。最後まで戦い抜く」

「よし。行くぞ安藤、誠次。残されたフィールドもあとわずかだ。当然、敵もこれより密集しているに違いない」

「注意して行きましょう」


 見事に鉄骨橋を突破した誠次たち四人は、パーティーメンバーとなり、ジャングル地帯へと急いで向かっていた。


                ※


「ルーナ!」


 自分の名を呼ばれ、ルーナは、鬱蒼と生い茂る木々の中で、コバルトブルーの目を開く。

 

「マーシェ!」


 同じ姫という身分であるが、名を偽ってまで体育祭に参加している同級生、ティエラが、ジャンルの木々の中から走ってやってくる。


「どうしたんだ? アルゲイルの敵を見つけたのか?」

「いいえ違いますわ。それよりも、街を見つけたのです! 木に登って確認しましたわ!」

「え……。君の右手は、まだ使えないのでは?」

「木登りぐらい、片手でできて当然ですわよ?」


 得意げにえへんと胸を貼る、臨時でヴィザリウス魔法学園の制服を着ているティエラに、ルーナは唖然となる。

 しかし、自分も人のことは言えない身分と力を持っているものだと自覚をし、ルーナは休憩とばかりに休んでいた地面の上から、スカートをはらって立ち上がる。


「平和だな。生き残りサバイバルとは聞いていたものの、未だ敵と遭遇していないぞ」


 両手をぱんぱんとはたきながらルーナは不満気に言う。戦闘狂と言うわけではないが、せっかくのいい機会なので、自分の得意な魔法戦が出来るチャンスだと張り切っていたのだが、まさかの敵とまったく遭遇しない状態である。

 ()()()()()()()使()()()()()()ファフニールも、眠たそうにルーナの中であくびをしている。


「街へ行ってみませんこと、ルーナ? そこでしたならば、流石に人もいると思います」

「一緒に参加した誠次も、どこかでまだ生き残っているはずだ」


 そう言い合い、次の目的地を市街地に決めた二人のお姫様は、今のところ接敵もなく、優雅で長閑なVR観光をしているようなものだった。

 二人は周囲を警戒しながら、歩いて進んでいく。ジャングルに住まう鳥のさえずりや、頭上高くにあり、鬱蒼と生い茂る木の葉を何かが揺らす音を聞く。それらは全て作りものであるが、この地球にある確かな風景の一部として、また人の手が届いてはいない大自然の様相を、二人に見せていた。二人とも、このようなジャングルとは無縁の場所の生まれであるのならば、その感心はなおさらだ。

 しかし注意しなければなるまい。

 大自然の美しい一面を持つ一方でここにはすでに、二人を狙う魔の手が忍び寄って来ていることにも。


「マーシェ。止まってくれ」

「ええ。私も、ニーズヘッグが警告のようなものを送って来ましたわ」


 コバルトブルーとバイオレットの視線を交錯させ、ルーナとティエラは頷き合い、ほぼ同時に振り向く。

 何かが木々をかき分け、二人に急接近してきている。


「来るぞ、マーシェ」

「一つ言い忘れていましたわ、ルーナ」


 片手が使えないティエラを守ろうと身構えるルーナの、さらに前に立ち、ティエラは左手を構える。


「私への心配は無用です。あれから私はこっそりと、左手でも魔法が扱えるようにも特訓したのですから。少なくとも、ガンダルヴル魔法学園()()であった頃の実力は戻ってきていますわ」

「ほう。一位は私か?」


 ルーナは面白気にすぐ隣に立つティエラに問う。


「冗談を。両手が使えるのであれば、私の実力はガンダルヴル魔法学園一位ですわ!」


 つまりはと、ティエラは木々の茂みの間に向けて、攻撃魔法を発動する。

 無属性の攻撃魔法であったそれは、迫り来ていた気配がある木々の間に命中し、小規模な爆発を起こす。地面に落ちていた木の葉が巻き上がり、白い煙が一気に充満した。


「やったのか?」

「いいえ……あくまで牽制ですわ」


 未だ警戒したままのティエラは、ふと、なにかに気がついた様子で、上を見上げる。

 作りものの人工太陽の日差しが目に痛く射し込む中、木の枝を巻き散らし、黒い影が急速で降下してきている。状況的に、ティエラの放った攻撃を一瞬で躱し、上空へ移動し、そこから奇襲をかけてきたのだ。


「マーシェ!」


 警戒していたルーナが防御魔法を発動し、至近距離にまで接近してきた敵の攻撃を受け止める、が。


「なに!?」


 魔法を使わずに降下してきた敵と、ルーナの防御魔法が直接接触したとき、激しいスパークが発生する。

 その中で、ルーナは直感する。 

 こちらが、破られる……!?

 自身の防御魔法が破壊されることを悟ったルーナは、咄嗟に傍らに立つティエラの身体を、自身の身体を押して押し倒す。

 そうすれば、ティエラは悲鳴を上げて地面の上に倒れてしまう。その直後、ルーナが発動した防御魔法が崩され、上空から迫ってきた敵が、立ったままのルーナに対し、攻撃を加えた。


「なっ!?」


 コバルトブルーの瞳を大きく見開く、ルーナ。自身の視界の前で、赤い血が、舞っていた。

 同時に感じたのは、左肩に奔る、想像を絶する激痛。あっと驚いた表情で、ルーナが自身の左肩を見ると、そこから血が噴き出していた。


「くうっ!?」


 左肩を抑えたルーナは、突如現れた敵を前に、膝をつく。

 

「そ、それは……っ!?」


 高温多湿なジャングルは、先程までの長閑な雰囲気とは一転し、のこのこと入り込んだ人を苦しめる緑の地獄となっていた。


「剣……っ!?」


 驚き、汗を滲ませるルーナが確かに見たものは、敵が担ぐ、銀色の鋭利な刃だ。その銀色の刀身に擬似太陽の日差しが反射し、倒れた二人の少女の目を刺激する。

 

「おい教えろ女……。アイツは……剣術士は、どこだ……?」


 日の光が影を作り、そう言って立ちはだかる男を黒く塗りつぶす。しかし、アルゲイルの魔法生ではない。着ているものが、魔法学園の制服ではないのだ。つまりは、第三者であるということ――。

~学級委員同士、わびさびわびさび~


「しかし、とことん意味不明だな」

しょう

「ジャンプだけでそこまで跳べたり」

しょう

「敵の気配を察知出来たり、魔法が効かなかったり」

しょう

「お前、本当に人間か?」

しょう

          「ずいぶんと失礼ですね」

               せいじ

          「俺から言わせてもらえば」

               せいじ

          「念じるだけで目の前に色とりどりの魔法式が浮かぶのも」

               せいじ

          「十分意味不明ですよ」

               せいじ

「寝てる時とか、寝返りをうったら」

しょう

「目の前で魔法式がきらきら光ってて」

しょう

「驚いて起きることもある」

しょう

          「……魔術師って、大変ですね……」

               せいじ

          「ですが、俺も夜寝るとき」

               せいじ

          「レヴァテインを抱き枕のようにして抱いて寝ていたって」

               せいじ

          「ルームメイトに言われたことがあります」

               せいじ

          「その点では似た者同士、かもですね」

               せいじ

「……暴露してくれたところ、すごく言い辛いんだがな、誠次」

しょう

「俺でも冗談ぐらいは、言う……」

しょう

          「……」

               せいじ

「いや、あの」

しょう

「いいんじゃないか!?」

しょう

「戦国時代とか、武士が枕元に太刀を置いていたと聞くし!」

しょう

          「共にアトラクションに乗った仲だと言うのに……」

               せいじ」

「そこは思い出させないでくれないか!?」

しょう

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― 新着の感想 ―
[一言] 戸賀かな・・・また物騒な人が来てしまった・・・。 やっと追いきました、更新頑張って下さい
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