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「ねえ隼人! 私の知ってる騎馬戦となんか違うよ!?」
ちえ
『さあ次は二学年生の部だ、野郎共ッ!』
ミシェルの実況の元、スタジアムに続々と入場する、騎馬戦に挑む白と黒の魔法生たち。スタジアムの両端から一斉に現れたその人々の出で立ちは、合戦前の武人たちのよう。あれほど観客席でフザケていた人も、この戦場に来れば自ずと争いを前にした戦士の目つきと表情をせざるを得なかった。
『一学年生の部はアルゲイル魔法学園が総合点で勝利した! 午後からの部では合計獲得点数が隠される為に、どっちが勝っているかは最後まで分からないぜ!』
『要するに全て勝てばいいのであるッ!』
『そういう事だ、馬鹿野郎ッ!』
ミシェルとダニエルのある種仲の良い実況と解説が頭上で響く中、魔法生たちは横に伸びた線の前で並び、しゃがんで騎馬を作っていく。
『さあここで二学年生騎馬戦の注目選手紹介だ!』
唐突に、ダニエルとミシェルが映る放送室のホログラム画像が切り替わる。代わりに、巨大スクリーンに映し出されたのは、騎馬戦に出場する注目選手とやらだ。
「あ、天瀬くん……」
ルーナを支えるために下を向いていたため、誠次は画面を見ておらず、香月が何やら、切羽詰まった声をしてくる。
「どうした香月? まったく、まだ不安にしているのか?」
誠次が微笑みながら声をかけるが、斜め後ろから帰ってきた言葉は、震えていた。
「そうじゃないの……」
「う、上を見てください、誠次くん……」
今度は千尋までもが、誠次にそのようなことを言ってくる。
何事かと誠次が顔を持ち上げれば、なんとスタジアムの巨大スクリーンに、自分の学生証にも使われている胸元以上の証明写真が、映し出されているではないか。
「な、なに……っ!?」
これでもかと言うほど目立つ自分の写真に呆気に取られかけ、誠次は思わず背中のルーナを落としそうになってしまう。
「誠次!?」
「すまないルーナ……しかしこれは一体!?」
『注目選手はヴィザリウス魔法学園の2―A所属、剣術士こと、天瀬誠次だ! コイツは学園中の女子生徒に甘い言葉で手を出しては、あんなことやこんなことを強要する、厚顔無恥の胸糞野郎……即ち、女の敵だッ!』
「説明酷すぎないだろうか!?」
いてもたってもいられず、誠次は思わず大声でツっこみ返す。
案の定、誠次の紹介を聞いた観客席の魔法生たちは、一斉に悲鳴を上げていた。
「私の命の恩人に対して、何たる言いよう……っ。この私、ブチギレそうですわ!」
そして、誠次のすぐ隣の騎手であるティエラの口調がまたしてもおかしくなりかけるほど、怒り出す。
いかん、早速全ての作戦が台無しになってしまいそうだ。ここは、落ちついて対処しなければならない。囮となる以上、周囲との協力は必要不可欠だ。
誠次はティエラたちの方ではない、左側を見る。
「みんな、協力して共に勝利をめざ――」
「天瀬……お前と協力するつもりはない……」
「真っ先にリタイアすればいいのに」
「……お前は敵だ」
完全な孤立無援である。
「聞けって! アルゲイルに勝利するための作戦なんだ!」
「お前が早々に脱落すれば、他の連中の士気も高まるんじゃないか?」
慌てる誠次にかけられる、他クラス男子の冷たい言葉。もはやウィザリウス内部の味方はいないに等しい。
そして、彼方に聳える黒の集団――アルゲイル魔法学園側からも、こちらを睨みつける無数の殺気の目線は感じ取ることが出来た。ある意味では、こちらがわざと煽るまでもなく、囮としての役目は果たせそうになっていたが、如何せんやりすぎであろう。
「はっはっは。誠次の奴、目立ってるな!」
「悪い意味でな……」
観客席で見守る悠平と志藤は、誠次へのブーイングが止まらない会場内で、肩を竦める。
「そんな……一体どうすれば……っ」
誠次がどうしたものかと焦りの言葉を声に出せば、背中に密着するルーナがそっと、誠次の耳元に息を吹きかける。
「大丈夫だ誠次。私は君を信じる。だから君も、私のことを信じてほしい。周囲など気にする事は無い」
ルーナの言葉にはっとなった誠次は、唾液を呑み込み、うんと頷いた。彼女の使い魔の竜であるファフニールもまた、背に跨がるルーナにこのような言葉を受け、深い信頼関係を成り立たせているのだろうか。
「ありがとうルーナ。申し訳ないが、最後まで付き合ってくれ」
「つ、つき合う!? さ、最後まで……そうか……わかった……」
対戦を前に頬を赤く染めたルーナはそれきり、誠次の肩をぎゅっと握り締めていた。
しかし、そんなルーナに、大会の審判を務めている男子教師がやって来る。
「あ、君。そのハチマキの巻き方はルール違反だぞ」
「え?」
ルーナが前髪の下に隠すようにして巻いている白いハチマキを見つめ、そんな指摘をされる。
当のルーナは、愕然とした表情を浮かべていた。
「髪の下に隠しちゃいかんでしょ。ズルだよ、それ」
「そ、そんなっ。この私の作戦がっ!」
誠次に続いて、ルーナの作戦まで夢の泡に終わり、二人して項垂れだす。
「もう、しっかりしなさいよ二人とも!」
隣に立ち、ティエラを支える綾奈が喝を入れてくる。
競技開始のカウントダウンが開始され、人が作る騎馬たちは一斉に立ち上がる。ここから先、騎手は僅かでも地面に触れたら失格である。
誠次とルーナとも気を取り直し、競技に向かう。
最初の作戦では、こちらが真っ先に敵陣前まで躍り出て、囮として敵の注意を引くという算段であったのだが、先程の選手紹介により必要はなくなる。
むしろ……、
「せ、誠次……見間違いでなければ、私の目には、敵が一点突破の陣形でこちらを真っ直ぐ突き進んできているような気がするのだが……!」
誠次の背に跨がるルーナが、おっかなびっくりに呟く。
ルーナの言うとおり、真っ先に剣術士を潰せと、魔術師の集団が、集団で三角形の形を作るかのように迫ってきている。怒りを糧にするその迫力たるや、凄まじいものがあり、百戦錬磨の誠次でさえ、恐怖を感じるほどの人の勢いであった。
「て、撤退だっ! 香月、千尋! 回れ右だっ!」
「は、はい!」
「え、ええ!」
千尋と香月も、予想以上であった誠次を狙う敵の集団の勢いに気圧され、ルーナを支える腕のバランスを崩しかけながらも、右に向けて回り始める。
しかし、撤退しようとした道には、あろうことか白のヴィザリウス側である他クラスの騎馬が立ち塞がっていた。
「貴様ら、道を空けろ!」
誠次が叫ぶが、向こうに聞く耳などは最早なかった。
「やはり許せん! まずはお前から脱落させてやる!」
「ふざけているのか!? 同じチームの仲間同士で消耗戦をするつもりか!」
「突撃ーっ!」
誠次の騎馬めがけて、ヴィザリウス陣営他クラスの騎馬が突撃してくる。まさかの、同士討ちの始まりである。
その騎手である男子生徒が、ルーナへ向けて手を伸ばしながら迫りくる。
「覚悟!」
その手がなにか、邪な思惑を宿し、本来取るべき頭の白いハチマキから、大きく下へ向けられるのは素早かった。
「しまった手が滑ったーっ!」
男子生徒は興奮しながら、待ち構えるルーナの大きな胸元へ向けて、両腕を伸ばす。
「そうか、手が滑ったか――」
互いの騎馬と騎馬が接触する寸前。そして、男子生徒の手とルーナの胸先が接触する寸前。
ルーナは男子の手を華麗に捌くと、反撃に相手の体操着の胸元を掴み取り、肘を強く打ちつける。
「かはっ!?」
赤子の手を捻るように、ルーナはいとも容易く男子の腕を交差させてみせると、そのまま彼を騎馬の上から突き落とす。両手を拗じられ、何かに掴まる事もできなかった男子は、背中から芝生の上に落とされていた。
「つ、強……っ」
「囮と侮ってもらっては困る」
ルーナは凛々しい表情のまま言い放ち、誠次たち騎馬を巧みに乗りこなしていた。
「ナイス、ルーナ!」
呆気にとられる騎馬を置き去りに、誠次と香月と千尋は走り出す。アルゲイル魔法学園側である黒の騎馬隊が、迫ってきていたのだ。
ヴィザリウス側の白の騎馬隊も、仲間割れなど起こしている暇ではなく、本来戦うべき相手へと向かって突撃する。途端、周囲で起こる激しい怒声や気合の声。そこへ観客席からの大歓声が加われば、スタジアム内は瞬く間に戦場と化す。
緑の芝の上で、白と黒が交わり、互いにその数を減らしていく。スタジアムの真ん中上空からその動きを映していたドローンの映像の中で、黒い騎馬隊がそれでもとある一点を狙って突き進んできているのはよくわかる。その先にいる騎馬こそ、誠次たちのものだ。
「定石通り、俺たちはこのまま敵の注意を引き、できる限りの囮をする!」
「ああ! 回り込んできたものは私が捌く!」
先頭に立って進路を突き進む誠次に、彼の両肩に掴まるルーナは力強く答える。
「ハアハア……っ!」
「詩音ちゃんさん!? 大丈夫ですか!?」
「ええ、まだいけるわっ」
後方にいる香月と千尋も声を掛け合い、必死に誠次の跡をついて行っていた。
「いたぞ剣術士!」
「挟み込めっ!」
しかし、向こうには男子四人組の騎馬隊もざらにいる。そんな騎馬隊は真っ先にこちらに食い下がってきて、瞬く間に両サイドに展開、挟み込む形をとる。
「なんて連携だ……同時に接近してくるつもりか!」
左右に視線を送り、誠次は焦る。逃げ道を塞いでくる敵の算段であった。
ルーナも左右に視線を送り、いつ敵が迫ってもいいように、片手を掲げる。
そんな折、斜め後ろの方から猛スピードで近づいてくる味方の騎馬隊が一騎あった。
「ちょっと、これどうするつもりマーシェ!?」
「当然、直進ですわっ!」
綾奈を先頭にしたティエラ騎手の騎馬であった。
「貴女も覚悟を決めなさい、綾奈っ!」
「ああもう突撃するわよ! やってやるってばっ! 行くわよ莉緒、クリシュティナ!」
「う、うん! みんなを助けるよ!」
「誠次とルーナに手出しはさせません!」
彼女たちはぐんぐんと速度を上げ、誠次らを狙うアルゲイル魔法学園の騎馬隊の横っ腹に突っ込む。
ティエラもまた、竜騎士として巧みな騎乗センスを持っている。騎手として申し分のないバランス感覚を駆使し、綾奈の肩を掴んでいた左手を離し、通りすがり様に、黒いハチマキを奪取する。
相手は完全に誠次たちへ気を取られていたため、直前までティエラたちの接近に気づけてはいなかった。
「マーシェたちか、助かった!」
誠次はちらりと後方を確認してから、再び前を向く。
「ええ! 共に頑張りましょう、誠次!」
「ああ、頑張ろうマーシェ!」
誠次には素直なティエラたちの加勢もあってか、追撃の手はしばし止むことになる。
しかし、ずっと走りぱなしであったために、スタミナの消耗は予想以上に大きかった。それを一番に受けてしまったのは、誠次からして斜め左後ろを支えていた香月であった。
「ごめんなさい……私、もう……っ」
辛そうな顔をして、ルーナを支えている左手が次第に折れて沈んでいく。
「安心してくれ詩音。……私には、秘策がある」
「秘策……?」
振り向いて得意げに語るルーナに、汗ばんだ銀髪の香月は、顔を上げる。
「前から来ています!」
水泳部として、スタミナは残っている千尋が前を見つめて叫ぶ。
残り三人が一斉に前を向けば、アルゲイル魔法学園側の騎馬隊が、まるで昔の時代の合戦のように、文字通りの一騎打ちを仕掛けに来ていたのだ。
こちらの騎馬は左側に傾いており、ルーナを狙わずとも、土台となる騎馬を崩せば簡単に崩壊してしまうことだろう。相手の狙いも、きっとそうであろう。
「剣術士の首は貰うっ! 行けーっ!」
「どこの時代に馬の首を狙う武士がいる!」
誠次はそうツっこみながらも、負けじと突撃を開始する。
その最中、ルーナがそっと姿勢を前のめりにさせ、誠次の肩の上に顔を乗せ、ぼそりと呟く。
「誠次……。詩音の為、前もって言っていたあの技を使う」
左耳にルーナの吐息を感じながら、誠次はこくりと頷く。
「わかった。俺たちを信じてくれ、ルーナ」
「ありがとう誠次……」
ルーナはそう言って、名残惜しそうに誠次の首筋を見つめてから、そっと顔を離す。
「聞け、アルゲイルの敵兵たち! 俺たちはヴィザリウス魔法学園2―A所属、天瀬誠次――!」
「同じく、ルーナ・ヴィクトリア・ラスヴィエイト――!」
「「いざ尋常に、参るっ!」」
突如、声を合わせて名乗った二人の気迫を前に、向かってきたアルゲイル側の騎馬が慄く。
「な、なんだ……!?」
「ひ、怯むなっ! 奴らの騎馬は崩壊寸前だ! このまま体当たりしろっ!」
それでも負けるわけにはいかないのは、向こうも同じこと。アルゲイル側の騎馬もまた、こちらへ向けて突撃を再開する。
それを確認したルーナは、足腰に一瞬だけ力を込めると、次の瞬間。鮮やかな銀色の髪を靡かせ、宙に浮いていた。
「なにっ!?」
呆気にとられるアルゲイルの敵たちは、空中を軽やかに舞うルーナに見惚れるように、その場で動きを緩めてしまっていた。
宙に舞ったルーナは、敵とのすれ違いざまに、上空で手を伸ばし、敵の頭に巻かれている黒いハチマキをかっさらっていた。
「ルーナ!」
「誠次!」
鮮やかなムーンサルトを行ったルーナは、誠次単身の背に舞い戻り、黒いハチマキを片手に掲げていた。そして、声高らかに宣言する。
「敵将、討ち取った!」
ルール上ではかなりのグレーゾーン、ギリギリ。前例がない騎馬戦での空中戦。普通の人間の身体能力を遥かに凌駕したルーナは、騎馬戦の概念を突破する。
当然、観客も空を舞ったルーナの艶技に関心半面、これはアリなのかと物議を醸すところであったが、その声は実況のミシェルの叫び声で一蹴されることとなる。
『最高にクールだからアリだぜッ!』
『ロシアの新体操か……流石であるッ!』
二人がいいというのであれば、いいのだろう。
観客たちも、初めて見るようなルーナの身体能力の高さに、驚きと好奇の目を向けていた。
「一組だけ別競技やってるやつらがいる!?」
壇ノ浦の戦いで鬼神の如き戦いを見せたと言われる源義経の如く、船の上ではなく騎馬の上を八騎飛びをし、黒のハチマキを次々と奪い取っていく元お姫様。
誠次と千尋と香月は、彼女の落下点を予測して先に回り込み、彼女が落ちてきたところで足場となり、再び彼女を上空へ跳ばしていた。
「騎手を討ち取れなければ騎馬をやっちまえ!」
「殴るとか、直接的な暴力は駄目だろ!?」
「だったら体当たりだ! そうでなくても奴らの道を塞げっ!」
これ以上のルーナの無双を食い止めるため、アルゲイルの騎馬隊が誠次たちの動きの妨害を実行に移す。
目の前に立ち塞がる人と人の群れ。無論、騎馬係が手を出して相手のハチマキを奪うのは不可能である。
「まずい……! ルーナの足場がなくなるっ!」
アルゲイル魔法学園側の騎馬隊も、ルーナの進行方向を予測し、彼女の下から逃げるように立ち回っていた。
その瞬間、太陽と重なったルーナを見上げる誠次の脳裏に、かつてのライバルの男の言葉がフラッシュバックする。
――死んでも落とすなよ? 多少の無理はしてでもいい。女子を落としてしまう男子は最高にダサい。
(ルーナを、落とすものか!)
あの人が見ている……あの人には、負けられない!
このままでは彼女の落下地点にたどり着けずに、ルーナを落としてしまう。なんとしてもそれだけは避けなければならない事態だと、誠次は群がる人混みの中、突破口を探す。
(迫り来る奴らの顔を見ろ! 表情を読み取れ……! 奴らの思考を……っ!)
左右から迫る敵意に満ちた腕の行き先を、誠次は咄嗟に見切り、走り出す。
「読めたぞ! そこだーっ!」
少ないスペースを瞬時に見つけ、そこを経由し、通り過ぎる。誠次を捕まえようと接近してきていた敵の騎馬たちは、寸でのところで誠次を捉えそこね、正面衝突をし、誠次の背後で自滅する。
「そこだ!」
芝生の上を走り、滑り込むようなスライディング。誠次は敵の騎馬隊の足元を文字通りに擦り抜け、空中から落ちてくるルーナの落下地点まで向かう。
上空から落下するルーナは、落下地点に駆け込む誠次を確認すると、安心したかのような表情を浮かべる。
「ルーナ!」
「誠次っ!」
「間に合えーっ!」
「行かせるかー!」
叫んだ誠次の目の前に、立ちはだかったアルゲイルの騎馬。是が非でもルーナの元へと行かせまいと、誠次をここで足止めする気だ。ルーナをキャッチできなければ、彼女が集めたポイントも、何よりも彼女自身に被害が出てしまうかもしれない。
「馬ならば大人しく人参でも食っていろ!」
「押し通る! そこを退けーっ!」
迂回する間もなく、誠次は踏み込んで地面を蹴り上げ、敵の騎馬の先頭の男の肩を踏み台に、騎馬を飛び越える。
「馬鹿なっ!?」
一瞬にして背後へと跳んでいった誠次の背を、四人の敵は見送る。
ルーナは落下寸前。誠次はなりふり構わず、芝の上でスライディングを行い、ルーナが地面に落下する寸前に、彼女の下に滑り込んだ。
「ぐはっ!?」
「誠次っ!?」
黒いハチマキを大量に奪い取ってきたルーナは、驚いたように、自分の下敷きとなっている誠次を見つめる。
ルーナを受け止めた誠次は、腰から曲がり、ちょうどくの字の形を作るようにして、悲鳴をあげる。
「ぶ、無事か、ルーナ……」
「私は平気だけど、誠次?」
「ルーナが無事ならば、良かった……っ」
嫌な汗をかきつつ、引き攣った表情で誠次は微笑み、そのまま仰向けで倒れてしまう。
縦横無尽の活躍を見せた武人も、駆る馬を失くせば、戦いをやめざるを得ない。
「誠次!? しっかりしてくれ、誠次ーっ!」
完全に体育祭の騎馬戦における主役となったルーナが、脇役に徹した誠次の上で叫ぶ。
高ポイントを稼いだ誠次たちの騎馬戦は、ここで幕を閉じることとなる。
間もなく競技は時間により終了。騎馬戦二学年生の部は、ヴィザリウス魔法学園側の圧勝であった。総合点の公表は、最後の最後までされない。
~ノットキャロット?~
「まったく。何が人参でも食べていろだ!」
せいじ
「あら、美味しいじゃない、人参」
しおん
「栄養満点よ」
しおん
「……それにウサギも好きだし」
しおん
「調理されたものならともかく」
せいじ
「生人参は流石に……」
せいじ
「人参嫌いな人がよく言う台詞ね」
しおん
「調理した人参だったら食べられる、なんて」
しおん
「それは心から人参を愛していないわ」
しおん
「……?」
せいじ
「ちょっと待ってくれ香月」
せいじ
「話が逸脱していないか……!?」
せいじ
「いい機会だわ天瀬くん」
しおん
「はい!?」
せいじ
(なにか、すこぶる嫌な予感がっ!)
せいじ
「一緒に人参、食べましょう」
しおん
「ケチャップは食べられるけどトマトは駄目」
しおん
「それはおかしい話じゃない」
しおん
「いや、人参どこ行った!?」
せいじ
「人参を好きにさせてあげるわ」
しおん
「わかり、ました……。一緒に食べよう……」
せいじ




