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魔法世界の剣術士 中  作者: 相會応
大鷲の雛たち
110/189

2 ☆

「姫ノ乗セ心地ハ良イゾ。小僧トハ違イ、ヤワラカイ」

             ふぁふにーる

 夏休み終盤で交流を深めたと思えば、秋の序盤で競い合う。そんなアルゲイル魔法学園と行う体育祭の全容が、次第に明らかになってきた。

 アルゲイル魔法学園と合同で行う体育祭へ向けて、体育祭実行委員となった神山かみやまの元、2ーAは一致団結して、空いた時間を使っては競技練習を行う。

 体育祭の種目は全部で五種目。午前から昼休憩を挟んで午後に至る。最終種目を除いて、四種目のうち一つは必ず出ることになる。そして、自分が出る種目以外での重複参加は不可能。男女混成の同じ競技で、同じ競技を挑むのも、合同体育祭の特別な点だ。


「適材適所。そして、男子も女子も満遍なく勝てる編成でないと厳しいということか」

「ああ。例えばとばりやお前をすべての競技に参加させる、なんてことはできない。文字通りの総力戦ってわけ」


 教室の教壇上で、誠次せいじ神山かみやまが話をしている。

 

「競技種目はなんなんだ?」

「一種目めから、百メートル徒競走。障害物競走。騎馬戦。棒倒し。そして最終種目だ」


 合計五種目。少ないかとも最初は思ったものの、後輩の一学年生から先輩の三学年生まで、ヴィザリウスの魔法生約千名とアルゲイルの魔法生約千名同士が一斉に競い合う催しだ。いくら会場は確保しているとはいえ、五種目が限界なのだろう。開催場所は愛知県にある、ドーム型の運動場だ。東京と大阪から見て中心あたりの場所である。見た目的に、だ。


「最終種目とは……?」


 気がつけばいつの間にか、蝉の鳴き声も聞こえなくなっている気がする。

 誠次が問い掛けるが、神山は険しい表情で首を横に振る。


「それが、開催日まで何をやるかは明かされないらしいんだ」

「直前になるまで何をするのか、明かされないのか?」

「らしい。先輩にいてみても、ほら、去年体育祭自体なかったじゃん? だから何やるのかは知らないんだってさ」


 神山はお手上げ、とでも言いたげな様子で、肩を竦めていた。

 謎の最終種目を残し、クラス内毎にそれぞれ、誰がどの種目に出るのかを決めなければならなくなった。


「よし、みんな、話を聞いてくれ!」


 神山の号令の元、クラスメイト達が一斉に教卓の方を向く。

 誠次も自分の席まで戻っていた。

 体育祭に挑むメンバー決めが、クラス毎で行われる。教卓に立つ神山かみやまの指示のもと、選手たちが次々と選抜されていく。


「じゃあ、次に陸部以外の面子決めなんだけど――って、志藤しどうとばり、大丈夫か……?」


 神山の言葉に、クラス中の視線が、中央へと向けられる。

 きょとんとする誠次を縦で挟み、前の席に座る志藤と、後ろの席に座る悠平の二人の男子が、机に突っ伏すようにして倒れてしまっている。二人共制服はしわくちゃであり、髪の毛もハネが目立ち、何かの激しい運動をしたように、ツンとした汗臭さも感じる。


「だ、大丈夫だ……続けて、くれ……」

「はっはっは……」


 相変わらずきょとんとしている誠次を挟んで、志藤と悠平が、力なく応じている。

 

「二人共どうしちゃったの……?」


 誠次の隣の席に座る桜庭さくらばが、心配そうに尋ねてくる。


「特訓が激しすぎたのか……」

「特訓? ああ、体育祭の特訓かー。やっぱ男子ってこう言うのやる気あるよね」

「絶対に負けられないからな」


 誠次がうんうんと頷いていた。


「前者二つはともかく、騎馬戦と棒倒しのメンバーは早めに固定しておきたい。戦術や合同練習だって必要なはずだし、どうせやるんなら勝とうぜ、みんな」


 意外なことと言えば失礼かもしれないが、神山はテキパキと、司会の仕事をこなしている。やはり普段はやや斜に構えてやる気がないだけで、本人がその気になればそつなく出来るタイプの人なのだろう。

 個人種目である百メートル徒競走と障害物競走を除き、団体競技である騎馬戦と棒倒しの練習は必要だ。よって、早急にメンバーを決めなければならない。


「ま、ぶっちゃけ俺の独断で決めることもできる。ただ、その前にみんなの意見を聞きたい。クラス内を自由に歩いて、各自相談してくれると助かる」


 そんな神山の言葉を受け、クラスメイトたちは席を立っていた。

 楽に立ち歩けないほど、ボロボロになってしまっている我がクラス内体育科目二強である志藤と悠平は、机に突っ伏したままで動けそうになかった。まあもっとも、二人とも元々体育は得意な方なので、どの競技に出たとしても活躍してくれるだろう。


「誠次。誠次は、どの種目に参加するつもりなんだ?」


 後ろからかけられたそんな声に振り向けば、ルーナがやって来ていた。


「まだわからない。でも、どんな競技でもやるからには全力で挑む」

「ああ。もちろん私も、やるからには勝利のために全力で戦うつもりだ」


 ルーナ・ヴィクトリア・ラスヴィエイト。彼女もまた、勝負事になれば勝ちを望む心の持ち主であった。勝利ヴィクトリー精神の持ち主でもある。


「そこで私は、騎馬戦にエントリーしたいんだ」

「騎馬戦か。なんでだ?」


 誠次が訊き返すと、ルーナは得意げに、えへんと胸を張る。


ファフニールに乗るのが得意な私だ。何かに跨るのは得意中の得意だからな!」

「……」


 そわそわと、誠次を含めた男子陣が反応しそうな言葉を惜しげもなく堂々と言い放ったルーナに、顔を赤くした誠次も思わず俯く。

 一方で、目の前に立つルーナはきょとんとした表情をしている。


「? 私はなにか、おかしなことでも言ったか?」


 いたって真面目な表情で首を傾げているルーナに、よこしまな妄想をしてしまっていた誠次はこほんと、咳ばらいをしながら、「いたって健全です!」と言い逃れをしていた。

 ならば気にする事は無い、とルーナは元国のお姫様として、寛容にして寛大な心で誠次にお願いごとをしていた。


「それで……一つ頼みがあるのだ、誠次……」


 先ほどとは打って変わり、やや恥ずかしそうに顔を赤くして、ルーナは小声となる。


「なんだ?」

「私とともに、騎馬戦に出てくれないだろうか……? 私は君と共に戦いたいんだ」

「騎馬戦か……。確かに、体育祭じゃないと滅多に経験できない競技だ。わかった。俺も騎馬戦に出るよ」


 誠次が答えれば、ルーナは笑顔を見せていた。


「ありがとう誠次! 共に勝利を目指そう!」


 等と、そんな会話を繰り広げる二人の姿を、窓際の席から面白くなさそうに見つめているのは、紫色の瞳の少女であった。

 

「……」


 香月詩音こうづきしおん。彼女が現在、面白くなさそうに頬杖をついている理由はニつほどある。

 一つはやはり、体育祭そのものへの嫌悪感。基本的に運動音痴な彼女にとって、体育祭とは何も面白くはない学園行事なのだ。活躍をしたり楽しめるのは運動が得意な子ばかりで、自分はいかにしてクラスメイトの迷惑にならないかを考えなければならない。

 そしてもう一つ。天瀬誠次が即参加競技を決めてしまったこと。


「もう少しは、気遣ってくれても……」

「――香月はどうするつもりなんだ?」


 ボソリと呟いたまさにその時、なんと誠次が、香月のところまでやって来ており、声をかけてきていた。

 これには驚いた香月は「へっ」と彼女からすれば、なんとも気の抜けるような声を出し、頬杖をついていた手を思わず放してしまっていた。


「な、なによ天瀬くん」


 ジト目で誠次を見つめ上げながら、椅子に座ったまま香月は聞き返す。


「そ、そんな睨むような怖い顔をしないでくれ……。香月は体育祭、どんな競技に出るのかって思ってさ」


 と、誠次はなんの気ない風に尋ねる。


「……まだ、決めてないわ」


 香月はつんと、誠次から視線を逸らしながら答えていた。

 

「そうか。ならば香月、俺とルーナと一緒に騎馬戦に出ないか?」

「え……」


 香月は、呆気にとられたような表情で今度は誠次をまじまじと見つめる。こう言ってしまってはなんだが、一挙手一投足、ころころと反応が変わっている香月の姿が、なんだかとても可愛らしく、面白かった。

 

「失礼かもしれないけど、香月ってその……このような行事が苦手だと思ってさ。俺でよければ、一緒に頑張りたいんだ。個人の能力が強く反映される徒競走やリレーならともかく、騎馬戦ならばチームで挑める。みんなの力で、だ」


 きっと彼女は、体育祭は苦手だろうな――。最初からそんなことを思っていた誠次は、そう言って、こちらをまじまじと見つめ続ける香月へ向けて、手を差し伸ばす。


「なによ……。私は、その……」


 少しばかり彼女の押し問答らしい小言。しかし、それもすぐに終わりを迎えることになる。

 銀色の髪が伸びる顔を小刻みに左右に振り、香月は誠次が伸ばした手を、そっと握り返した。


「……ありがとう、天瀬くん。一緒に頑張りましょう」

「良かった、香月。一緒に頑張ろう」


 誠次はにこりと微笑み、香月と握手を交わす。

 そんな誠次の後ろに立つルーナもまた、微笑んでいた。


「詩音。共に戦えて嬉しい。勝利を目指そう」

「……私が一緒だと、あまり勝てないと思うわよ……」


 ルーナの言葉に、香月は難色を示すが。


「そんなことはない。それに、そこはこれからの特訓で、共に強くなっていけばいいんだ。私だって、騎馬戦は初めての経験だからな」


 えへんと胸を張るルーナがそのようなことを言えば、香月は、ぎこちなくだが微笑んでいた。

 二人のまったくもってタイプの違う銀髪美少女の仲睦まじい姿に、誠次もほっと息をつくが、まだまだ問題は残っている。

 

「騎馬戦は四人一組だ。あと一人は誰が良いだろうか……」


 誠次がしれっとそんなことを言えば、香月とルーナは顔を見合わせて、肩を竦め合う。

 クラスメイトたちを見るために、窓際の方から誠次が振り向けば、四人の女性が、興味津々そうに真後ろに立っていた。

 桜庭、綾奈あやな千尋ちひろ、クリシュティナの四名である。

 いつの間にかにと驚く間もなく、必然的に残り四人のうちから一名を選ばなくてはいけなくなった誠次は、内心で非常に焦っていた。


「残りは一人。誰を選ぶつもりなの?」


 背後からぞっとするような香月の言葉が聞こえてくる。

 

「そ、そうだ。もう一つチームを作るのはどうだろうか!?」


 切羽詰まった誠次がそんな提案をするが、


「単純計算で考えて。一人を加えたら残りは三人。そこでもう一つ四人組のチームを作ろうにも、必ず一人は気まずい思いを味わうことになるわ」


 容赦のない香月のご指摘は、ごもっともであった。


「確かに、言われてみれば……っ!」 


 誠次もまた、両手で頭を抱えて、愕然とする。


「凄まじい追い詰め方だな、詩音……」


 ルーナはなぜ、香月はここまで誠次のことを追い詰めるのだろうかと、内心で恐ろしいものを感じていた。どこか、誠次の反応を見て面白がってる節があるし、誠次もそのことに気がついていない。


「さあ、どうするつもりなの、天瀬くん? 選んで頂戴」

「俺は……俺は……っ!」

「ふふふ。私は高見の見物をさせてもらうわ。天瀬誠次くん?」

「し、詩音……? 余裕を得た君の顔が、ものすごく怖いのだが……? これが、正ヒロインの余裕と言うものか……?」


 完全に追い詰められた誠次は、後ろで微笑する香月とそれを見て戦慄するルーナの様子に気づくこともなく、あわわと頭を抱え続ける。

 せめてあと一人。あと一人、同年代でそれなりに話のわかる人がいてくれれば……!

 そう念じた誠次のもとへ舞い込んできたのは、制服の胸ポケットにある電子タブレット振動と言う名の、幸運の知らせ。

 ポケットの上からペン型のそれをタッチし、ホログラム画面を起動すれば、まさしく今の誠次にとっては救世主となり得る人物からの、連絡がやってきていたのだ。


「あ、よかった……目途が、つきそうだ」

「誰か一人、他に候補がいると言うの?」


 香月が驚いたように、誠次を見る。


「ああ。これでもう一つも、四人組のグループが作られるはずだ」

「じゃあ、誰が天瀬たちのチームに入るか、四人でじゃんけんしよっか?」


 未だ付加魔法エンチャントが成功できていない桜庭も、友としてそこでは平等だ。恨みっこなしのじゃんけんの結果は、一発で出ていた。


「まあ、また私が一番抜けです!」

「「「そう言えば、そうだった……っ」」」


 パーの手を高らかに掲げ、ぱあっと明るい表情で微笑む千尋に、敗者である桜庭と綾奈とクリシュティナは、手をぐっと握り締めていた。千尋の、あり得ないほどの強運を前に、千尋含めてだがそれを忘れていた三人は無残にも敗北していた。


「本当、凄まじい運ね……」


 敵に回さなくて良かったとホッとしている香月の前で、誠次は相変わらず申し訳なさそうにしていた。


「では、ルーナと香月と千尋と俺で一つ。そして、桜庭と綾奈とクリシュティナと、後から合流できそうなもう一人で、もう一つのチームを作りたいと思う」

「そのもう一人の女性とは……?」


 クリシュティナがやや心配そうに尋ねてくる。

 なんと言えば良いのか、と誠次も心配そうに、頬を軽くかく。


「まあ、ルール的にはギリギリな所だと思うけど、俺が八ノ夜はちのや理事長に直談判してくるよ。おそらく彼女の参加も、認めてくれると思う」


 みんなも知っている顔だ、と誠次は告げて、彼女から送られてきたメールを見せる。

 そこに映る女性の顔を見た六人の少女は、どれもみんな、驚いているようだった。 

 2-Aの体育祭、騎馬戦出場選抜メンバーは、これにて決まった。

 誠次とルーナと香月と千尋のAチーム。桜庭と綾奈とクリシュティナと後から来るもう一人のBチーム。出場選手は八人。合計二チームなのは、何処の学年、クラスでも同じなので、すっきりとはまったと言うべきだろう。


 その日の放課後、誠次はフレースヴェルグの一員であるルームメイトの真と、廊下を歩いていた。


「真は陸上部だし、百メートル走か?」

「任せてください。長距離は苦手ですが、短距離は自分の出番ですからね。誠次さんこそ、騎馬戦頑張ってくださいね。男女比がものすごいことになっていますけれど……」

「ははは……。でも、ルーナとクリシュティナは体育祭は初めてらしい。そんな中で、一生の思い出を作りたいんだってさ」

「なるほど確かに。海外ですと、体育祭と言う行事自体が珍しいのですかね」


 真はそう言えばと、頷きながら言っていた。


「優先すべきはやはり、クラスと学園の勝利だ。その為ならば、どんな競技であったとしても、全力を尽くす」

「……並々ならぬ情熱を感じます……。何が誠次さんをそこまで駆り立てるのでしょうか……?」


 真がおっかなびっくりな面持ちで、すぐ隣を歩く誠次を見つめ上げる。


「……兵頭ひょうどう先輩を筆頭に、先輩たちさ。あの人の無念を……俺は、なんとしても晴らしたいんだ……っ!」


 握りこぶしを作り、静かな闘志を胸に秘め、瞳を燃やす誠次を、真は硬直していた。


「あの……なにかに取り憑かれていませんか……?」

「いや、至って正常だ。それよりも、体育祭と並行して俺たちは、個別にフレースヴェルグの活動もしなければならない」

「う……改めてそれを言われますと、やや緊張するのと同時に、若干の恥ずかしさも……」


 顔をやや赤らめて俯きかける真であったが、以前のように、縮こまったりなどはしていなかった。胸に軽く手を添えて、うんと頷く。


「はい。自分も紛れもなく、フレースヴェルグの一員です。風を巻き起こしてみせますよ!」

「ああ。共に頑張ろう! 風を巻き起こすんだ!」


 風を巻き起こせ! ……周囲にいた、普通の魔法生たちは、二人がそんな体育祭のスローガンでも決めたのだろうかと、しばし誤解することとなる。

 小野寺真も、立派なフレースヴェルグの一員である。普段の授業で目立つことは、当人の性格もあってあまりないが、ほぼ全ての属性魔法をそつなくこなせる技術はある。しかし、本人も認めている通り、戦闘向きな性格でもなく、どちらかと言えば防御魔法や治癒魔法を得意としている。


「――なる程。君の得意分野は、おおかた分かったよ」


 そんな真の特訓相手は、影塚広かげつかこうとなっていた。紛れもない有名人である彼を前に、小野寺真はやはり、緊張しているようだ。

 無理もない。少し前ならば、特殊魔法治安維持組織シィスティムがこうして目の前におり、しかもマンツーマンのレッスンを行うなど、あり得ないことであったからだ。なにもそれは、誠次も昔に味わっていた感覚である。

 

「は、はい……っ」

「ん?」


 影塚もまた、何度か経験していることだったのだろう。

 緊張に緊張を重ね、気をつけの姿勢で硬直している真を見て、軽く微笑んだ。


「あはは。そう緊張しなくても平気だよ」

「わ、わかっていますけど、足が、震えてしまうのです……っ」


 がくがくと、華奢な身体の細い足を震わせ、真は言う。憧れの人を前に、言葉すらも、震えてしまっていた。

 そんな彼の気持ちもよくわかる誠次は、「リラックスリラックス」と言う。

 しかし、真はもはや立っていられないほどで、誠次の服の袖をぎゅっと掴んでいた。

 困ってしまったような表情を浮かべ、影塚は自身の髪を軽くかく。


「これは……どうやら、最初は彼の緊張をほぐすところから始めないといけないようだね……」


 苦笑混じりに、影塚は言っていた。

 こうして、真の特訓相手は影塚となっていた。果たして真は、影塚への緊張の糸が切れるのだろうか。


「真君。そんなに緊張しなくても大丈夫だ。安心してほしいな」

「真。大丈夫か? もし何か分からないことがあったら、俺もサポートするからさ」


 影塚と誠次を前に、二人の影に覆い包まれる形となった真は思わず後退ってしまうほど、どきどきと胸を鳴らしていた。

 演習場の壁にとん、と背中をつけると、真は退路を失い、されるがままとなり、やがて、


「や、優しく、お願いします……」

「「それはなにか意味が違う気がする!」」


 口元に手を添えて、真が横を向いてぼそりを言った言葉に、誠次と影塚は揃ってツッコんでいた。


挿絵(By みてみん)

~あざとくたって良いじゃない~


「意外です」

まこと

「影塚さんも、甘いものを食べるのですね」

まこと

       「僕も普通の人間だし」

              こう

       「食べちゃいけないわけじゃないよね……?」

              こう

       「もちろん、運動はきちんとするよ」

              こう

「あ、自分も、きちんと走ります」

まこと

「陸上部ですので、いくら食べても太らないって」

まこと

「免罪符を得てるみたいですよね」

まこと

       「もっとも、僕の場合は」

              こう

       「学生の頃はそこまで甘いものは好きじゃなかったんだ」

              こう

「え、ではいつからなんです?」

まこと

       「特殊魔法治安維持組織に入ってから」

              こう

       「出会った先輩によく連れられてね」

              こう

       「しこたま食わされて、すっかり好きになったんだ」

              こう

       「今ではもう、大好きだよ」

              こう

「はい、自分も大好きです!」

まこと

       「二人ともそんなこと言い合ってると……」

              かおり

       「周りの人に凄い誤解されちゃいますよ?」

              かおり

「アンタが言うな!」

みゆう

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