7
「特別講師って、一体どなたなのでしょうか?」
まこと
少女のころは、テストの成績で良い点を取った時に父親に頭を撫でられるのが大好きだった。大きくて優しく、温かい手の平でだ。
それも、父親が死んでしまってからは、味わえなくなっていた幸せの感情。身も心も成長し、姉を追い、魔法学園の生徒会長と言う身になってからは、ますますそんな幸せの感情を忘れていたはずだった。
だけど、ようやく思い出すことが出来た。最愛の人に頭を撫でられることとは、嬉しくて、それ以外にもいろいろな感情があふれ出してきて、涙がこぼれた。
そんな時も、彼は心配そうに、こちらの目元の水の雫を指先ですくってくれて、優しい言葉をかけてくれた。微かに重なるのは、優しく大好きであった父の面影。だけれども、はっきりと違う、年下の男の子の姿。
近くで顔を見なければ、視力もよくないし、涙で顔がぼやけてしまうから、これからはずっと近くにいよう。そうだ、これは夢じゃなくて、幸せの時間の続きなんだ――。
目覚ましで起こされない朝は、ずいぶんと久しぶりな気がした。いつもは早朝の時間ぴったりに起きているけど、今日は違う。
裸眼ではあまり視力はよくなく、なおかつ寝起き。ぼんやりとした視界で見える風景は、魔法学園の寮室ではない。そして、香る匂いも、また別のもの……これは、彼の、優しく落ち着く香り。
「――おはようございます、香織。起こしてしまいましたか……?」
後ろから彼の声がする。肌寒さすら感じている身体が、それだけでほんの少し、熱を帯びる。
どうやら、髪を撫でられていたようだ。瞳の色と同じ、群青色の髪。コンプレックスでもあった左目の下の泣きぼくろを隠すためにも伸ばしていたそれらを、誠次は纏めて、愛してくれた。
「ううん……おはよう、誠次……」
白いシーツをぎゅっと掴み、ベッドに横たわる香織は返事をする
誠次は一足先に起きていたようだ。
香織の髪を撫でていた手を引き、優しく、ぼそりと声をかけてくる。
「……香織。身体の具合は、大丈夫ですか?」
「うん……平気……気遣ってくれて、ありがとう……」
横たわるベッドに片膝を乗せて、心配そうに尋ねてくる誠次に、香織は恥ずかしそうに布団を胸元まで持ち上げて、答える。
「恥ずかしくて……顔、見られないよ……」
ぼそりと、そのような事を言えば、誠次もまた赤面し、後退った。
「す、すみません……。でも、寝顔もとても――」
「い、いやっ! 言わないでって! ……ますます、誠次の顔が見られなくなっちゃう……」
「……眼鏡なら、枕元にちゃんと置いてあります。香織はおっちょこちょいですから、無くしそうですからね」
「意地悪。そう言う意味じゃ、ないのは分かるよね……?」
「す、すみません……。俺も、やはり気恥ずかしくて……」
「だよねー……」
苦笑する香織はそう言って、布団にくるまる自身の腕をかるく擦っていた。
「朝ごはん、俺が用意します。サンドウィッチとお茶で、良いでしょうか?」
「あ、うん……。ありがとう、誠次……」
「……この時間では、学園の一時限目には遅れることは決まりです。であれば、もうゆっくりでも、大丈夫ですよ」
誠次が言う。
時計を見れば、確かに、ここから学園に戻る時間を計算すると、どうやっても遅刻だ。
「私人生初の、さぼりかも……」
香織はくすりと微笑み、寝返りをうった。
私服姿で立っていた誠次は、まんざらでもない様子で、微笑み返す。
「これでは、みんなの手本ととなるべき生徒会長、失格ですね?」
「おちょくらないで、誠次……。それに、それももう終わるから、たまには、ね?」
優等生であるはずの香織はえへへと、頬を赤らめて、微笑んだ。意図的ではないのならばともかく、進んでこのような不良行為をするのは、少しだけ、どきどきするものだった。
――それとも、どきどきの理由はただ単純に、最愛の彼を見つめているから、だろうか。
「まだ寝てて大丈夫ですよ、香織」
「ありがとう誠次……。私の我が儘に、付き合ってくれて……」
「とんでもありません。身体の調子が悪いのであれば、無理は禁物です。なにか、必要なものとか、ありますか? 情けない話ですが、女性のその、事情の事については、まだ疎くて……」
「大丈夫だよ。でも……強いて言えば、あなたの愛情、かな……?」
「は、はい……喜んで」
優しく微笑む誠次はそう言って、香織が横たわるベッド横まで近づき、彼女の効き手である左手をそっととる。昨日何度も繋ぎ合った手の感触は、もう、忘れることはないのだろう。
「やはり俺は、この手を離したくはありません……。俺は最低で我が儘で、傲慢かもしれません……。それでも俺は、はっきりと言います。俺は貴女のことがこれからも必要であり、貴女のことを、愛しています」
「……っ」
左手の行方を見つめて、香織はますます赤面する。
見開かれた青い瞳は、やがて落ち着きを取り戻し、澄んだ色合いでもって、俯く誠次を見据えた。
「そんなこと言わなくても平気だよ、誠次。もう私は、未来永劫あなたのもの……」
「香織……。……約束します。なにがあっても必ず貴女を守る。俺の命を懸けても、守りきります」
一つ年下の少年の願いと思いを聞いた、一つ年上の少女は、こくりと、枕の上で頷いた。白いシーツの上で広がる青い髪が、海に描かれる波のように、広がっていた。
ただ、
「ちょっと、違うかな、誠次……」
「え……?」
戸惑う誠次と繋がっている左手に、今度は香織が力を込める。
「あなたが守ってくれる人は、私だけじゃない……。みんなが、あなたを必要としているの……。だから、それはとても大変なことだから……私も、手伝うよ。私も、ヴィザリウス魔法学園や、お姉ちゃんたちのことが……なによりもあなたが、大切だから」
「あ……。ありがとう、ございます」
誠次の嬉しそうな表情を見つめ、また、心の底から安堵したかのような安らぎの表情を見つめ、香織も確かに、微笑んでいた。
誠次が朝食を用意してくれている間、香織は着替えを済ませ、眼鏡をかける。
ぼうっとした表情と、寝ぐせがひどい髪は、洗面台に行って鏡を見つめても、しばらく手付かずなままだった。
「私も頑張らないと、駄目だよね」
自分にそう言い聞かせ、香織は頬をかるく叩き、顔を洗う。まだ、高校生活が終わったわけじゃない。生徒会長としての仕事も、残っている。
ただ、重たく感じていたその肩書も、責任も、今はやけに軽く感じる。胸にあったつっかえが、すっと落ちたようだ。
「あ、誠次。ベッドの上にあるあなたの電子タブレットに、連絡来てるよ」
部屋に戻ると、誠次の電子タブレットに着信があった。二人とも遅刻する旨は学園側に伝えてあったのだが。
「志藤からの連絡です。おそらくは、今後のことについての話し合いをするのでしょう。学園も、始まりましたし」
朝ご飯であるサンドウィッチを食べながら、誠次は言う。
「影塚さんや日向さん。みんな揃ったし……いよいよ、特殊魔法治安維持組織との戦いになるんだよね?」
「そのはずです。志藤にだって、父親の仇があるのですから」
咀嚼したサンドウィッチを飲み込み、誠次は呟く。゛捕食者゛を憎むのと同じ、志藤にも、父親を廃人間際にさせられた今の特殊魔法治安維持組織への憎しみが、あるはずだ。
「私にも、お姉ちゃんをあんな目に合わせた今の特殊魔法治安維持組織を変えたい思いはあるの」
客室備え付けのテーブルを挟んで言う香織の思いも受け取り、誠次は頷く。彼女が目標にしていた姉は、昨年のクリスマスイブの日に、特殊魔法治安維持組織によって非道な手段で処刑されかけていた。
「だから誠次。私も一緒に戦うよ。六月にも、約束したよね?」
「頼りにしています、香織……先輩」
ここへきて誠次が、思い出したかのように、言葉を付け足していた。
やや寂しそうな表情をしたのもつかの間、香織もうんと、頷いていた。夢の時間は、今はしばしのお別れだ。
「大丈夫だよ誠次。たとえ何があっても、私はあなたの味方だから」
微笑む香織からすれば残り僅かな学園生活。昨日今日とでやり残したことと言えば、それはきっと、あと少しだけ。大好きな後輩の夢を叶えてやることも、立派な先輩の務めであるはずだ。
約定とも言うべき未来の約束は、私が皆より一つ年上と言う事もあり、一足先に果たすことが出来た。だけども、今はまだ、お互いにしなくてはいけない事がある。
でも、大丈夫。きっと大丈夫……。いつだって彼は、進むべき道を切り開いてくれたのだから。私はそれを、精いっぱい手伝おうと思う。
彼の傍で、彼を支えていくこの道に、後悔などなかった。二人で回答したテストの答え合わせの結果は、例え全てが正解でなくても、少なくとも、きっと赤点ではないのだろう。
※
「よ、朝帰り」
「「「アッサガーエリ。アッサガーエリ」」」
二時限目の休み時間に、夏休み明けの初日から堂々と遅刻をした誠次を迎える音頭は、行われていた。
ぱちぱちと手を合わせ、男子の大合唱。どこから情報が漏れていたのか、まあ、日焼けした肌が眩しいあの水泳少女のところからだろうなと、漠然と予想しながら、誠次は2-A教室に入室していた。
「音頭をやめろーっ! これは学級委員命令だっ!」
「朝帰り菌が移るぞ! みんな逃げろー!」
「「「うわー!」」」
「小学生かっ! いや、むしろこの菌なら感染した方が良いと思うのだが!?」
「「「確かにそうかもしれない!」」」
逆転の発想である。
その後、担任の林には呆れ半分で職員室でこっぴどく怒られてしまった。ちょうど同じ頃、職員室には同じようにして担任の森田に、どちらかと言えば心配されている制服姿の香織と遭遇し、顔を合わせる。
(ごめんね、誠次……)
机を挟んで隣の列から、こちらへ向けて香織は気恥ずかしそうに微笑み、また、悪戯っぽく舌を出していた。
すでに彼女の様々な表情や姿を知っている誠次は、構いませんと、頷き返していた。
夏休み明け初日の授業をサボった誠次への追及は、志藤やルームメイトを前にして集結した昼休みの多目的室の場でも続いていた。ただ、こちらは誠次の事情を知っているため、悪意はまったくなく、マイルドであってくれた。
「遅れてすまなかった、みんな」
「にしても前代未聞じゃね? 夏休み明け初日の授業サボるとか」
「体調を崩してしまった香織先輩を介抱していただけなんだけどな……」
腕を組んでロッカーに背中を預けて立つ志藤の言葉に、直立する誠次は気まずく弁明する。
「とにもかくにも、こうしてまた皆さんで集合出来てよかったですよ」
椅子にきちんと座っている真が穏やかに言えば、椅子の背もたれ側に足を回しながら座る姿勢の悠平が、確かにと相槌を打つ。
「今年の夏休みはどっちかと言うと、色んな戦いに関わった気がするしな」
「部活や宿題に始まり、お姫様の護衛に魔法学園の戦い阻止と、夏祭りどころじゃなかったからな」
聡也が、やや寂しそうにして、言っていた。皆と共に遊ぶ機会が少なめだったことを、やや寂しく感じてくれているようだった。
「悲しい事言うなよ夕島。ぶっちゃけ寮生活の学園生活なんて、毎日遊んでるようなもんだしさ」
志藤が片手を飄々と掲げながら、言っていた言葉に、この場の誰もが確かにそうだと頷いていた。
「ただ、俺たちのそんな学園生活……いや、この魔法世界を守るために、どうしてもやらなくちゃいけないことがあるんだ。それもこれは、他人に任すことは出来ないことなんだ」
お気楽な雰囲気を置き去りに、一気に真剣な様子となった志藤。この切り替えの迅速さは、きっと親譲りのものなのだろうと、感じた。
理由あって多目的室に集合した四人の男子は、その理由を、いよいよ集合をかけた志藤から伝えられることとなる。
「みんな。俺はこの面子を信じている。これはこの場のみんなだからこそ、頼めることなんだ……」
志藤は背を預けていたロッカーから離れ、軽く息を吸ってから、四人を見渡す。
「今の特殊魔法治安維持組織のことは、みんなもよく分かっているはずだ。雨宮さんが持ち出した情報にも、今の特殊魔法治安維持組織がどれだけ腐敗しているのかが、わかる内容だった。不正を暴こうとした雨宮さんたちへの非人道的行為の数々に、光安と結託しての、元局長排除……っ」
志藤の言葉に、次第に憎しみの感情が込められていることは、四人の男子にもよくわかった。
「だが、新崎はこれくらいで局長の座を降りるような奴じゃないってのも、影塚さんたちの共通の意識だ。それに、向こうは腐っても国家組織だ。いくら弱体化したとは言え、まだまだ強大だ」
志藤の言うとおり、影塚や日向が抜けたとは言え、あくまで絶対的なエースを欠いただけであり、個人個人の力は未だに決して衰えてはいない。
影塚が言うには、自分はあくまで広告塔のような扱いであったとのことであり、実力的には同等の人物が、今の特殊魔法治安維持組織にはまだ多くいると言う。
「近い将来、必ず戦わなくちゃいけないときが来る。向こうの数は少なく見積もっても、影塚さんクラスの魔術師が百は超えている。俺と天瀬は、そんな奴らと戦う気でいる。それはこの魔法世界を、そして、ヴィザリウス魔法学園のみんなを守るためにだ」
志藤はそこまで言うと、三人の友人へ、頭を下げていた。
「俺からの頼みだ。お前ら三人を見込んで、頼む。もしかしたらお前らの将来も危ないかもしれない。けど、今を守る為にも、三人の力を貸してほしい!」
「つまり、俺たちも特殊魔法治安維持組織と戦う、と言うことか」
聡也が志藤に尋ね返す。
「ああ……。こんなのは絶対普通じゃないって、俺も思っている。でも今の特殊魔法治安維持組織は変えなくちゃ、このままじゃまたみんなが危険な目に合うかもしれない……。だから、その為に少しでも多くの仲間が必要なんだ」
志藤はそう言って、三人を見渡す。
「改めて頼む。俺と天瀬と一緒に、戦ってくれ。お前たちの力が必要なんだ。そして約束する。この戦いに意義はあって、絶対に、俺たちが正しいと言う事を」
志藤は頭を下げ、しかし、悔しそうに口端を噛み締めていた。
「……悪い。本音を言えば俺は、親父の敵を討ちたいだけなのかもしれない……。そんな俺に、手助けを頼む資格なんか無いかもしれないけど……」
国家実力組織である特殊魔法治安維持組織との戦いに、協力してほしい。
志藤の頼みを受けた三人は、しかしすぐには頷くことも出来ず、口を閉じる。将来の事が関わる、当然のことだ。言い方は悪いかもしれないが、見て見ぬふりをして、関わらない生き方だって出来るはずなのだ。普通の高校生であるのならば、どちらを選びたいかは、言わなくても分かることだろう。
だがしかし、志藤は逆の可能性に賭けていた。それは誠次と同じ、彼らが、定められた現状に抗う未来を選択することを取ってくれると――。
一瞬の沈黙を破ったのは、誠次が着信を受け取った電子タブレットを胸ポケットから取り出した時だ。そこには数日前の美容院の時に、連絡先を交換していた、友からの連絡だった。
「みんな、ちょっといいか?」
数歩下がった誠次が、床に電子タブレットの先端を向けると、そこから半透明の青いホログラム画像が出力され、端正な顔立ちをした大阪の同級生の姿が映し出される。
『僕も共に戦うよ』
アルゲイル魔法学園所属、星野一希であった。
「一希。大丈夫なのか?」
『もちろんだ。薺総理は、かつて存在したテロリスト集団、レーブネメシスを影で操っていた。僕の存在が、そのなによりもの証拠だ』
「現役総理大臣がテロリストと繋がっていただなんて……。大変なことですよ」
真が恐ろし気に言う。
「そんな間違いを指摘する声も、今まで潰されてきたってことか……」
悠平もまた重苦しい息を吐きだしながら、言う。
「戦うと言っても、具体的にはどうするつもりなんだ?」
聡也が慎重に尋ねてくる。
志藤は頷き、これからの計画を五人の男子に説明する。
「近い将来、俺たちは戦わなくちゃいけない時がくるはずだ。はっきり言って、今のままじゃ特殊魔法治安維持組織の魔術師と一対一で戦っても、勝機は薄い。だから、これから時間があるときには、特訓をしたいんだ。魔法戦闘の」
「それも魔法学園の授業レベル以上の、高度のものと言う事か」
誠次が確認の為に言えば、志藤はそうだ、と頷く。
「特訓か! なんかわくわくしてきたな!」
志藤の言葉に、悠平が腕を鳴らす。
「と言っても、特訓と言うからには指導する存在が必要なはずだ。俺たちの知識でも限界があるし、何よりも経験値不足のはずだ。指導……はっ、まさか、志藤……しどう……する、気か!?」
そうして何かを閃いたかのようにぶつぶつと言い出した聡也に、志藤は「ダジャレかよ……」とげんなりとする。
「ですが、現職の魔法学園の教師が、生徒を危ない目に合わすような特訓なんて、させてくれないと思いますが……?」
真の言葉に、志藤は頷く。だがやはり、今の自分たちの最低限から中級者ほどの魔法戦の技術では、戦いにすらならないと言うのが、影塚らの判断でもある。
――よって。
「安心してくれ。特別講師を、それぞれつけたいと思う。そしてそれぞれマンツーマンで、実戦魔法の特訓を受けてもらう。これは絶対に無駄にはならないはずだ。だから頼む、一緒に戦ってくれ!」
そうして、震えかける身体の肩に、ぽんと手が添えられる。顔を上げると、悠平が穏やかな表情で手を差し出してきていた。
「わかったぜ、志藤。俺たちの将来の為にもだ」
悠平の言葉に、真もうんと頷いていた。
「まだ実感は湧きませんが、お手伝いします。自分も、みなさんと一緒に戦いますよ。このまま見て見ぬふりをして大人になっても、後悔しか残りませんからね」
そして、聡也もまた、志藤に向けて口角を上げて応える。
「ああ。この面子なら、国家組織を一つ変えるくらい、出来そうな気がする」
「おいおい、珍しく夕島らしくない馬鹿げた言葉が飛び出したぞ」
「帳には言われたくないんだけどな……」
ハッハッハと豪快に笑う悠平に、聡也は呆れるようにため息をつく。
誠次と一希はすでに戦う覚悟を決めている為、何も言わずとも決意は固めてあり、無言で頷き合う。
「みんな……サンキュな」
この集まりのリーダーを務めるのは、志藤颯介。この件では志藤こそが、リーダーに相応しい。そう力説すれば、向こうもどこか納得したように、その任を引き受けてくれた。
自分は副リーダーとして、志藤の下、この命と力を尽くすつもりだ。
「俺たちは今の特殊魔法治安維持組織を変えなくちゃならない。それが、この魔法世界を本当の意味で平和にする、第一歩だ。お前たちは当分の間、いつか絶対やってくる戦うときの為に、それぞれ特訓をしてもらう」
「結局、戦うしかないのですかね……」
本来は心優しい性格である真が悲しそうな表情をしている。
それに対して答えたのは、志藤の隣に立つ誠次であった。
「みんな、この特訓で学ぶことは絶対に無駄にはならないはずだ。対人戦闘のみならず、対゛捕食者゛へ向けた備えだって、出来る」
『もっともそれは、ともすれば矛盾している行為かもしれない……。僕たちはかつての新崎率いる特殊魔法治安維持組織が行ったように、武力によって特殊魔法治安維持組織を変えようとしている……。それはやはり、世間から見てもいい思いではないはずだ。ましてや、僕らはまだ子供だ』
それでも、と一希は綺麗に澄み渡り、それでいて力強い光を放つ青い瞳を、この場の全員に送りつける。
『真の正義は僕たちにある。胸を張ろう。たとえ今は苦しくても、いつかは僕たちの戦いは、報われる日が来るはずだと。だろう、誠次?』
一希に問われ、誠次も頷く。
「俺からも三人に訊きたい。本当に、共に戦ってくれるのか?」
誠次が自身のルームメイトたちに訊く。
「ここまで一緒にやってきたんだ。今さら、降りる、なんて言えねえよ。乗りかかった舟ってやつだ」
悠平がにこりと笑う。
「ああ。正直、今の特殊魔法治安維持組織のままでは、この国の未来は危ない。真実を知っている俺たちだけでも、行動すべきだ」
聡也もまた、眼鏡をそっと掛け直し、頷く。
「皆さんが戦うのであれば、自分ももちろん、共に戦います。男を見せないと、ですよね」
真もまた、張り切った様子で、胸元の前まで握りこぶしを作っていた
「みんな、改めてサンキューな」
言ってしまえば、この場の五人の男子の命を一身に預かった身だ。震えかける身体を律し志藤が頭を下げると、誠次は彼の背にそっと手を添えてやる。
「志藤。言ったはずだ。俺は志藤を支える。志藤たちと共に、この魔法世界の行く末を確かめたいんだ。この目でさ」
「ああ天瀬……。約束だ」
そうして、誠次と志藤は手を合わせる。
『僕も忘れて貰っては、困るよ』
一希もまた、ホログラム上でそんなことを言ってくる。
「まったく、今度は裏切るなよな……」
「病人の腹に剣ぶっ刺すなんて、最低だぞ……」
科連での非道極まりない行いをやり玉に上げる誠次と志藤がジト目で一希を睨めば、ギクリと、一希は後退っていた。
『そ、その件については、本当に申し訳ない! 闇墜ちしてたから、つい……』
「ハッハッハ。闇墜ちで済ませようとしているぞ!」
「と言うより、ずっと疑問に思っていたんだけど……お前は一体誰だ!?」
まさか、ここへ来て聡也が、一希を眼鏡越しに初めて見ているようだった。
『そこからなのかい!? い、一応自己紹介すると、アルゲイル魔法学園の同い年だ。姉さんがヴィザリウスでは、お世話になっています』
姉さん。今では一希の口から、自然と彼女のことも出るようになっていた。
「こちらこそ、自分の妹がお世話になっています」
真がくすりと微笑みながら、一希に言う。
『いや。……理に僕は、助けてもらってばかりだよ』
一希はそうして、穏やかに微笑んでいた。
「よし。じゃあみんな、手を合わせよう!」
誠次が手を差し伸ばせば、ホログラム上の一希も合わせ、六人の男子が円陣を組み、真ん中へ向けて手を差し伸ばす。
全員の手が重なったのを見るや否や、誠次はすぅと、息を吸い込み、叫ぶ。
「よし! 俺たちこそは、スーパーアルティメットファイナルマジシャンズだ!」
「クソダセェ! あと、なんでもかんでもファイナルつける癖な!?」
志藤のツッコみを受けながらも、一同は「「「「おう!」」」」と掛け声を上げていた。
これから起こるであろう激しい戦いへの予感を、胸に抱きながら。
~お次に決めるものと言えば~
「よし、ならば次はメンバーカラーを決めようぜ!」
せいじ
「うわ形から入るタイプだった……」
そうすけ
「リーダーはレッドが通説だから、俺は青だ!」
せいじ
「僕はイエローを貰うよ」
かずき
「ならば、俺はグリーンだ!」
そうや
「んじゃ、俺はブラックで」
ゆうへい
「では自分はピンクでしょうか」
まこと
「意外とすんなり揃ったな」
そうすけ
「次は、合体必殺技だね?」
かずき
「それぞれの乗り物も決めるぞ!」
そうや
「じゃあ掛け声も必要じゃね?」
ゆうへい
「ねえこんだけ男いてなんでツッコミ役俺だけなの……?」
そうすけ




