第六楽章 〜happening〜
荒井の家に行った宏紀。
彼は宏紀のために、楽譜を集めてくれたようだった。
「で?何?結局付き合ってんの、お前ら。」
昼休み。今日は西村と結城と一緒に昼食をとっていた。
教室の後方で、聞き捨てならない言葉が吐かれる。
「ゴフッ!!」
西村の突拍子もない質問に、僕は飲んでいた麦茶を盛大に噴き出した。
慌てて荒井が教室に居ないかを確認をする。
汚いの何のと文句を言われるが、そんなことは関係ない。
「何言ってんの?!そんなわけないでしょ。」
口元を拭いながら僕は答える。
「宏紀、顔真っ赤。」
慌てて両手で頬を隠す。西村が余計なこと言うのが悪いんだろ!
「だってわざわざ家にまで招待されたわけだろ?しかも楽譜がどうのとかいう理由で。」
「そうだね、音楽室でも済む話だよね。」
惚気にしか聞こえないんですけど、と続ける結城。
西村と結城は僕と荒井の関係を前々から疑っていたようだ。
「あれは、楽譜をたくさん持ってくるのは大変だから呼んだんだって荒井が言ってた!」
ムキになって返すと、二人から意味深長な目線を送られた。
昨日、初めて荒井の家にいった僕は、恥ずかしい間違いをし、「天然」のレッテルを貼られたのだ。
そのことをついさっき、この友人二人に話したところ、このような事態に発展した。
もちろん、荒井がピアノを弾くことを話してもいいと、彼から許可は取ってある。
「それに、男同士なんだから、そんなの有り得ないよ…って、な、なんだよ……。」
二人の視線に居心地の悪さを感じ、少し後ずさる。
「まぁ、別に俺は男同士だからって否定する気は無いからさ。話す気になったら話せよ。」
西村が勝手なことを言いながら、パンをほお張る。
――だからそんなんじゃないんだってば……。
僕の言葉は彼らには届いていない様子だ。
「付き合ってるのどうのは置いといて……、実際、荒井の雰囲気、柔らかくなったよね。」
「そうなの?」
確かに、僕にはよく笑いかけるようになってきたけど。
客観的に見る余裕がないため、僕にはその変化はよく分からない。
「あぁ、絶対そう。お前の影響受けてるんだろうな。」
僕が荒井に少なからず影響を与えているらしい。何だか嬉しいような恥ずかしいような、変な気分だ。
僕は、荒井は絶対に損をしていると思うんだ。
もともとカッコイイから、笑うとますます素敵になる。
あんなにピアノが上手に弾けるんだから、もっとみんなの前で弾けばいいとも思う。
もっともっと、そういう面を出していけば、あの近寄りがたいイメージなんてどこかにいってしまうはずだ。
そうしたら、多少口下手だってクラスの輪に入れると思う。
そうなったら良いのに、と思う反面で、やっぱり二人の秘密めいたものが壊れるのは嫌だと思う自分も居る。
――嫌なジレンマ。
心の中で呟いた。
自分がいかに心の狭い人間かって分かるようだ。
僕は二人にばれないように、小さくため息を吐いた。
「おい、山中。」
クラスメートの一人が、僕の名前を呼んだ。
弁当を片付けかけていた手を止め、声の方に目を移す。
教室のドアに他クラスの女子が来ていた。どうやら彼女が僕を呼んだらしい。
女の子からの呼び出しなんて珍しいため、僕は少し期待してしまった。
「なになに、お呼び出し?」
茶化す西村の背中を軽く一発叩き、腰を上げた。
僕を呼び出した女の子は、わりと小柄でかわいく、真っ黒の髪の上品そうな子だった。
クラスメートの視線が気になったので、とりあえず場所を移し、人気の少ないところに来た。
「どうしたの?」
と、僕。
彼女はなんだか言いづらそうにしてる。
「……あの、山中君って荒井君と仲良いよね?」
「荒井?うん、仲良いかな。」
何で荒井の話が出てくるんだろう、と思っていると彼女がついっと手紙を差し出した。
「これ、渡してもらえないかしら。」
差し出された手紙を受け取ると、そこには、荒井君へ、と書かれていた。
彼女は僕に、荒井との橋渡しになって欲しいようだ。
「でも、これ……。」
「よろしくね!」
そういうと彼女は走り去っていった。
――こういうのって本人に渡せばいいんじゃ……。
僕の思いは無視されたようだ。
それに何だか、これを荒井に渡したくないっていう気持ちが有るんだ。
――もしこれがきっかけで、荒井とあの子が付き合いだしたら……?
あの子は可愛くて、荒井と並んだらきっとお似合いだろう。そして荒井の笑顔は彼女に向けられるんだ。その時僕はどうすればいいんだろう。
「なんなんだろう、この気持ち……。」
僕は解せない気持ちを抱えながら、呆然とその手紙を眺めていた。
ここまでご覧頂き有難うございました。
ここらで、一発波乱を…と思いまして、女の子投入してみました。
これで一気に進めることが出来たら良いのですが…
私自身、どう動いていくか明確ではないので。笑
次回もよろしくお願いいたします。
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