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旋律を奏でて  作者: 侑真
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第四楽章 〜unexpected〜


音楽室に来ても良いと、許可をくれた荒井。

彼の存在はますます宏紀の中で大きくなっていく。




 それからというもの、僕は暇を見つけては音楽室に通うようになった。

 会話も比例するように増え、彼はだんだんと自分の話もするようになった。

 親・兄弟の話、中学時代の話、音楽の話。

 他愛のない話ばかりだけど、僕は荒井と話せることが嬉しくて仕方がなかった。

 でも、たまに見せる笑顔はやっぱり僕の心臓に悪いようで、毎度毎度ドキドキしてしまう。

 これには当分慣れそうもない。

 荒井は放課後も音楽室に通っているらしい。

 僕が部活で外周を走っていると、窓を少し開けているのだろうか、音が微かに聞こえてくる。

 走りながらも、その音が聞こえてくると嬉しいような安心するような気持ちになる。

 ほぼ毎日ある剣道部の練習は、体力作りも多く結構きついけれど、ピアノの音に背中を押されるようにして僕は足を進めていた。


 七月も半ばになったある日、部の練習も終わり、滝のように流れる汗を手ぬぐいで拭いていると、体育館の入り口に荒井を見つけた。

 「え、荒井?」

 僕の声で部員達の視線を受ける荒井。にわかに体育館内がざわめく。

 荒井はそんな部員達の視線など気にも留めない様子だ。僕は、平然と腕を組み壁にもたれかかる荒井に駆け寄った。

 「どうしたの?あ、ゴメン、汗臭いよね。」

 2・3歩後ずさると、荒井が僕の手首を掴んだ。

 「いや、平気だ。」

 こんなに防具臭いのに??

 いえ、僕が平気じゃないです。と言いたいのだが、手首に神経が集中してしまい上手く口が回らない。

 硬直する僕には気付かず、荒井はそのまま続ける。

 「あとどの位で終わる?」

 「え、っと、シャワー浴びたいから、あと15分くらいかな。」

 「じゃあ校門で待ってる。」

 それだけ言うと荒井はスタスタとその場を離れてしまった。

 呆然とする僕に、部員からのしつこい質問攻めが待っていたことは言うまでもない。

 

 部員達を撒いて僕が校門に着くと、荒井が言葉通りそこで待っていた。

 「ごめん、遅れた。」

 僕は駆け寄って、ぺこりと頭をさげた。その頭を大きな手がポンポンと叩く。

 この行為にも慣れない僕は、赤くなった顔を見られないように少し俯いて話す。

 「帰ろう。」

 僕の変化に気付いていない様子の荒井は、駅までの道を歩いていく。

 こうして一緒に帰るのは初めてのことだった。

 並んで歩く道は、いつもと同じなのにどこか違う。

 二つの影が西日に照らされて伸びていく。

 横目でチラリと荒井を盗み見ると、彼は前をまっすぐ見つめていた。

 端正な顔が夕日に照らされて、まるで絵のようだ。

 視線に気付いた荒井が、こっちを見る。と同時に僕は目を逸らしてしまった。

 何だか恥ずかしかったんだ。

 隣で首を傾げるような気配がした。

 「…山中。」

 ふいに名前を呼ばれ、僕は彼の顔を見た。

 「これから家に来ないか?」

 「え?」

 僕は目を白黒させた。だって急すぎるじゃないか。

 「無理か?」

 「無理…じゃない…。」

 でも、なんで急に?

 「じゃあ、行こうか。」

 僕の疑問はお構いなしに、荒井は改札をくぐる。

 僕は慌ててその後を追った。

 正直、荒井が家に呼んでくれることはとても嬉しかった。

 彼が心を開いてくれている証拠だからだ。

 でも言葉少なな荒井の目的がどうしても分からない。

 僕は期待と不安のジレンマの中、荒井の家へと向う電車に揺られていた。

 




ここまでお付き合い頂き、有難うございます。


音楽室から舞台を変えていこうと思います。

そろそろ宏紀に「荒井が好きだ」とか言わせたいんですが…

まだいえそうもありません…。



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