第二楽章 〜surprize〜
荒井の行き先が気になっていた宏紀は、
その場所を突き止めるチャンスを手にした。
彼の行き先は意外な場所だった。
――何で音楽室?
疑問を抱きながらもそのドアノブに手をかけた。防音の整ったその教室の扉は重く、開けると中から涼しい風が吹いてきた。
と、同時に音が聞こえる。
ピアノだ。
僕はある種の期待を胸に抱きながら、音を立てないよう慎重に中に入り扉を閉めた。幸い弾き手はまだ気付いていない。
緊張してるのだろう。自分の心臓の音が分かる。
扉の位置からだと顔が見えないため、僕は弾き手の顔が見える位置まで身を低くして移動した。
やっぱり荒井だ。
荒井は力強くも、どこかもの悲しげな、そんな音を奏でていた。彼の指が器用に走る。
普段の姿からは想像できないほどの激しい音。切ない音。そしてどこか孤独な音。
今弾いてる曲は聞いたことがないけど、僕は一瞬でそれを覚えた。それくらい強烈だった。
冷房の効いた部屋の中で、縮こまりながら荒井の音を聞いていた。汗を吸ったシャツが少し冷たい。
荒井の演奏が終わる、と同時に僕はやらかした。
「へくしゅっ!」
「!?」
ガタン、と音を立てて荒井は立ち上がり僕を確認した。眉間にしわがより、明らかに不機嫌だ。その眼に射抜かれて、僕は一歩後ずさった。
「……いつから?」
「え、っと、2・3分くらい前…かな?」
ごめん、サバよんだ。本当はもっといると思う。
「なんでここに?」
当然の質問だ。音楽室なんて滅多に人が来ない。
まさか、荒井を追ってきました、なんて言えるはずもなく、僕は苦し紛れに「冷房を少々……」と答えた。
その答えにため息をつきながら、彼はピアノに向き直った。何事も無かったかのようにまた弾き始める。どうやら居てもいいらしい。
出て行けと言われなかったことが嬉しくて、僕は少し荒井に近い席に座ってみた。
ちょっとだけ精神的に近づけた感じ。きっと誰もこんな彼の姿を知らないんだろうなぁと思うと、なんだか優越感。
僕は音楽のことなんて全く分からないけど、それでも荒井が上手いことは分かった。
大きい身体で繊細な音を奏でるその姿は、ミスマッチなような気もするけど、なぜか僕を安心させた。
次々と弾かれる曲の中でやっと僕も知ってる曲が流れた。曲名は知らないけど、CMとかでも使われるようなちょっとポップなやつ。
軽くリズムを足で刻んで、鼻歌を歌ってみた。自然と身体が揺れる。楽しくてふわふわした感覚。
ふと視線を感じて荒井のほうを見ると、視線が交わった。
そして彼は、柔らかく笑った。
本当に柔らかく。
一瞬、僕は何が起きたのか分からなくなった。
――荒井が笑った?
僕の心臓はさっきの比じゃないくらいドキドキし、結局その曲の後半は全然耳に入ってこなかったんだ。
今回は短くなりましたが、大事な部分が書けました。
次回はもう少し進展が欲しいです…。
ここまでお読みくださって有難うございます。
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