表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/31

8話


 優れたMCメタルクレストとは何か。

 敵を打ち砕く強力な武装があれば優れたMCか?

 猛攻を阻む堅牢な装甲があれば優れたMCか?

 莫大なエネルギーを産む動力があれば優れたMCか?

 そうではない。

 強力な武装がなくても、堅牢な装甲がなくても、莫大なエネルギーがなくても、工夫次第で結果を出すことは可能である。それらは重要ではあるが根幹ではない。

 では優れたMCとそうでないMCの違いはどこで決定されるのか。

 それはすなわち――OSオペレーティングシステムである。

 火器管制、機体状況の把握と掌握、内界及び外界センサの情報処理等、MCは常に幾つものアプリケーションを実行し、莫大な量のデータを蓄積させている。

 それらアプリケーションの土台であり、またデータの処理速度を決定するのがOSの質だ。

 MCとは機械であり、そこに自意識というものは介在しない。歩く、走る、腕を振る、物を掴む――そう言った動作はパイロットの要求に従い、搭載されているアプリケーションが実行しているにすぎない。

 その上で、考えてもみてほしい。手を握ることにすら何秒もかかるロボットがまともに戦えるだろうか。メインモニタの映像が処理落ちするようなロボットが戦場を駆け抜けられるだろうか。――できるはずがない。

 戦いにおいてはパイロットの刹那の判断が生死を分ける。その判断に対する実行処理速度が如何ほどかが、優れたMCとそうでないMCを決定づけるのだ。

 そして、今。

 レガンはまさしくその格差を見せつけられていた。


「なんだ、この機体は……!?」


 レガンの乗る操縦室のモニタに浮かぶ光景。

 それはアーキヴァイスから十重に二十重に繰り出される剣閃の雨だった。


『レガン! 押し負けないで!』

「解ってる! だが――!」


 通信機から聞こえるクラートの声に応じながら、レガンは必死にランタンを操縦する。しかしアーキヴァイスの猛攻は留まるところを知らない。反撃はおろか防御さえも完全にとはいかず、浅い傷が次々と装甲に刻まれていく。

 たまらず攻撃から逃れようと機体を動かし、見計らったようにクラートの援護射撃も届く。――が、その悉くをアーキヴァイスは軽やかに回避し、息つく間もなくレガンへの攻撃を再開した。


(くそっ、明らかに機体性能が段違いだ……!)


 実際のところ、相手の傭兵レヴナントが強敵であることは、最初の射撃の精度だけで把握していた。油断すれば――いや、油断してなくても食われかねない。それほどの相手だと。

 だからこそ最初に自分たちの想定していた形に納められたのは大きかった。自分は接近戦の距離まで入りこみ、敵に射撃させないよう足止め。そこに遠距離からクラートが攻撃し、じわじわと削る。片腕を失ったものの、このままアーキヴァイスと距離を維持していれば持久戦でこちらが勝てる。そう思った。

 だがその目論見は崩される。アーキヴァイスの圧倒的な攻勢にレガンは追いすがるだけで精いっぱいであり、またその恐るべき反応速度によってクラートの射撃は全て回避されるのだ。

 これはパイロットの腕前だけの話ではない。間違いなくランタンよりも相手の乗っているMCの性能が二段は上を行っている。


(どうする。距離を取って仕切り直そうとすれば、あいつのライフルで撃ち抜かれる。だがこのままの状況を続けても、クラートの訓練用弾丸が底を尽き、先に倒れるのは俺たちの方……!)


 状況は不利。それを認めるや否や、レガンの頭脳は次なる手を求めて高速で回り始める。

 不測の事態を前にしても決して思考を放棄することがないのは、常日頃から厳しい訓練を己に課しているからこそだ。

 しかしその懸命な努力を、アーキヴァイスとそれに乗るパイロットはいとも容易く凌駕する。


『さて、ウォーミングアップはもう十分か?』

「なに……!?」

『さっき言ったろう、振り落とされるなってさ。――上げていくぞ、レガン!』


 瞬間、外界センサによって取りこまれた映像にも関わらず、モニタに映る白銀の機体が何倍にも膨れ上がったようにレガンは感じた。

 咄嗟にランタンの体を捻ったのは経験による反射だ。同時に衝撃。果たしてどれほどの速度で放たれたのか。文字通り、目にも留まらぬ速さで繰り出されたアーキヴァイスの刺突が、ランタンの左半身にめりこんでいた。


(――負け)


 敗北の二文字がレガンの脳裏をよぎり、

 

「て――――たまるかよおおおおおおおお!」


 咆哮と共にレガンはランタンの右腕を動かした。

 狙いはアーキヴァイス――ではない。


「おおおおおおおおおおおおおおお!」


 ランタンとアーキヴァイスの実体剣が振り抜かれた。

 アーキヴァイスの剣は今度こそランタン胴部の中心を叩き、そしてレガンの剣はアーキヴァイスの持つライフルを打ち砕いた。


「すまん、クラート……!」


 浴びせられた連撃によってランタンの体が傾き、倒れ行くのを感じながらレガンは通信機に向かって言った。


「後は任せた……!」


 レガンの乗るランタンが倒れ伏せた。

 空高く舞い上がる土煙。

 その噴煙の中、赤く揺らめくのはアーキヴァイスの頭部センサ。

 見据えるのは離れた場所に立つ、クラートの乗る二機目のランタン。


『レガン機、撃墜。アーキヴァイス、ライフル破損』


 ヘルヴィニーナが判定を告げ、一対一の戦いが始まる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ