21話
「町の名は、リブロと言います」
軍用車両に後部座席に揺られながらヘルヴィニーナは言った。
「人口は8千人ほどですね。決して大きな町ではありませんが、バルド基地に勤めてる人間は大抵あそこで休みを過ごすので、色々な娯楽施設がありますよ」
「娯楽施設かぁ」
異世界の娯楽とはどんなものなのだろうか。まさかCCCというわけでもあるまい――などとヘルヴィニーナの横で七希が考えていると、運転席に座ってハンドルを握るウェインが口を開いた。
「開戦当初は前線が近いこともあって、多くの住民が避難して閑散としていたんだがな。膠着状態になることで、ようやく人が戻り始めた」
「避難……そうか、そうだよな」
戦場に近ければ近いほど、戦火に巻き込まれる可能性も高いのだ。よほど酔狂でない限り、わざわざ危険な場所にとどまりたがる人間など軍人や傭兵ぐらいだろう。
「ちなみに俺は釣りを勧める。リブロはそもそも湖畔に造られた町でな。ボートも釣り竿も借りれるから、湖でのんびり釣り糸を垂らすのはいいもんだ」
「へえ、釣りなんてできるんだ」
「ウェイン少尉は休みの度に釣りに出かけていますからね。……少々枯れてるというか、年寄り臭い気もしますが」
年寄り臭いと言われてウェインが衝撃を受ける中、七希はヘルヴィニーナに問いかけた。
「ヘルヴィはいつも休みの日は何してるんだ?」
「私ですか? そもそもあまり休みが取れる立場でもないので、あまり決まったことはしていませんね。だいたい町を適当に歩いて回って終わるか、基地で静かに過ごしてますね」
「……枯れてるのはヘルヴィニーナ中尉の方では」
「ウェイン少尉、何か言いましたか?」
「いえ、なにも。――もうじき町に着きますな」
車両が小高い丘を越えると視界が開け、その先に見えた景色に七希は声をあげた。
「おー、ほんとだ湖がある」
湖の鮮やかな青色と、その傍に造られた街並み。そこに降り注ぐ太陽の日差しのなんと柔らかなことか。もしもカメラがあれば思わずシャッターを押したくなる光景だ。
「とりあえず、私が知っている範囲でめぼしい場所を見て回りましょう。途中でナナキさんの興味を惹くようなものがあれば、そこで遊ぶということで」
「解った、それでお願いするよ」
そうして話にているうちに、車両は町の外縁部まで到着する。
「ウェイン少尉、ここまでで結構です。後は歩いて行きますので」
「了解しました」
車が静かに停車し、七希とヘルヴィニーナは外へと出る。
「へえ……これが異世界の町か」
立ち並ぶ建造物。白く素朴な壁面と、その上に乗せられたオレンジや茶色の屋根が鮮やかだ。バルト基地はあくまで戦うための施設dったが、ここからは人が健やかに生活するために造られたという印象を強く感じる。
果たして建材は石やレンガだろうか。あるいは全く未知の物質かもしれない。
そんなことを七希が考えている横で、ヘルヴィニーナとウェインは言葉を交わす。
「ヘルヴィニーナ中尉、迎えは夕刻でよろしいですか?」
「ええ。通信機は持っていますから何かあればすぐに連絡をしてください。それと」
「目障りな小娘がいなくなって、これ幸いにと動きだしそうなネズミを見張ってろ、ですな?」
ヘルヴィニーナはにっこりと笑った。
「結構。任せましたよウェイン少尉」
「了解しました。ではまた後程」
ウェインは再び車を動かし、基地に向かって戻って行った。
去っていく車の後ろ姿を見送りながら七希は言った。
「今、ウェインと何か話してた?」
「大したことではありません。ナナキさんとデートをするついでに、ネズミ駆除の準備も進めておこうというだけです」
「ネズミ……?」
この世界にはネズミがいるのか、と七希は思ったが、あくまで翻訳機が勝手にそう翻訳しているだけなので、もしかしたら自分が想像しているネズミと全然違うのかもしれない。
「さ、そんなことより早速町に入りましょう。既にプランは出来上がっていますので、私に万事任せてください」
「そう言われると逆に不安になるんだが……」
「そんなもの吹き飛ばしてさしあげますよ。まずはこちらです」
ヘルヴィニーナに導かれるまま、七希はリブロの町へ踏み入った。




