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14話


『――レガン!』


 クラートの悲痛な叫びが通信回線に木霊した。

 しかし応答する声は無い。レガンの乗るランタンは力なく大地に倒れ、ぴくりとも動かない。その意味するところは明白だった。


「……」


 心臓が熱い。

 話には聞いていた。戦争とはそういうものだと。

 敵の命も味方の命も布切れのように千切れ、消えていくものだと。

 知っていたはずだ。だから揺らぐことではないはずだ。

 そのはずなのに、心臓が燃えるように脈打っている。


「……クラート、ウェインの援護に回ってくれ。こいつは俺がやる」


 そして心臓の熱に反して、頭の中は冷たく冴えている。この状況を切り抜けるための最善手を模索し続けている。CCCで繰り広げた戦いの経験がそうさせているのだろうか。


『ふざけないでください! こいつは私が!』

『ダメだ、クラート。ナナキの言う通りだ。お前はこちらの援護に回れ』

『っ少尉! ですが!』

『命令だ』


 ウェインは今も三機のブライを相手にしている。彼が崩れれば戦況はなお悪化するだろう。彼女もそれは解っており、ヘッドセットの向こうから悔しげに歯噛みする音が聞こえた。


『ナナキ、お前一人でやれるんだな?』

「やれる」

『ならば任せよう。――乗り切るぞ、この戦い』


 結論は出た。

 クラートの乗るランタンは、ウェインの元に駆け付けるべく推進機に火を入れる。

 当然ジャガーノートからの妨害がある。そう考え、移動しながら最大限の警戒をするクラートだったが、予想に反してジャガーノートは動かなかった。

 

「どうした、追わないのか」


 ジャガーノートの背後。

 アーキヴァイスに乗る七希の問いかけに返ってきたのは、余裕を含ませた笑い声だ。


『俺の勘が告げただけだ。もう一度お前に背を向ければ討ち取られる、と』

「アテにならない勘だな」


 白銀のMCと真紅のMCが向かい合う。

 冷たい金属で編まれた両者の間で弾け飛ぶのは、焼けつくような不可視の火花。

 

「背を向けようが向けまいが、お前はここで堕ちるのによ……!」

『嬉しいぞ。その威勢、死ぬ間際まで保たせてみせろ、新米ルーキー!』


 二つのMCは同時に動いた。

 奇しくも両者が選んだのは白兵戦。

 噛みあう意図は互いの距離を瞬く間に縮ませ、重なりあうレーザーブレードと金属槌の軌跡が雷火を産んだ。


(やはり硬い……!)


 一旦ジャガーノートから距離を取り、七希は考える。

 ブライの胴部を容易く貫通するアーキヴァイスのレーザーブレード。

 しかしその必殺の刃で以てしても、浅い斬痕を刻むのみで、金属槌を切り裂くには至らない。

 先ほどすれ違った時に入れた一撃も、同じように防がれている。いかなる金属で出来ているのかは知らないが、相当な硬度だ。


(十中八九、MC本体の装甲も相当だな……だとすれば)


 七希が狙いを定めるのは関節部位だ。

 いかなるMCといえど、関節は柔軟でなくてはならない。ジャガーノートとて例外ではなく、アーキヴァイスのレーザーブレードが入れば間違いなく切り裂けるだろう。

 無論それはジャガーノートのパイロットも承知のこと。必ず対策はしてくるはずだ。自分の技がそれを凌駕できるかどうか。これはそういう勝負になる。


『いつまで考え込んでいる!』


 睨みあいに焦れたジャガーノートが再度アーキヴァイスに迫る。

 振り抜かれる金属槌、旋風を巻き起こすその一撃を回避すると、アーキヴァイスもレーザーブレードで応戦し、受け止めた金属槌との間に火花を散らせる。

 ここまでは先ほどの焼き直し。その先に変化を求めたのはジャガーノートだ。距離を取ろうとするアーキヴァイスに対して、金属槌を盾にして突進した。

 七希は咄嗟にアーキヴァイスを操作し、両腕でその突進を受け止めた。ジャガーノートの加速こそほとんどなかったが、それでも両腕が軋む音。しかし盾にするための槌の矛先は横向きにされており、開いて挟まれることはない。


『――甘いな』


 瞬間、七希は敵の意図に気が付いた。


『この距離なら使わないと思ったか!』


 ジャガーノートが金属槌をひねると同時に、槌の陰に隠れていたレーザーキャノンが光を放った。

 刹那の判断で直撃を回避したアーキヴァイスだが、レーザーはすぐ傍の地面に衝突し、生じた爆発の衝撃波に吹き飛ばされた。

 無論、衝撃波を浴びたのはジャガーノートも同じ。しかしそうなることを知っていたジャガーノートの行動は早く、衝撃波が収まる前にアーキヴァイスを射程距離に収めていた。


『捉えたぞ!』


 突き放たれる金属槌。

 同時にそれは嘴のように二つに割れ、アーキヴァイスを挟み込むべく襲い掛かる。


「――いいや」


 操縦室コックピットのモニタに映るのは嘴の深奥。鈍く輝く金属杭の先端。そして――


「捉えたのは俺の方だ!」


 レーザーブレードが紫電を放った。

 その刃が向かう先はジャガーノートではない。

 開かれることで剥き出しになった、金属槌の関節部位である。


『なにっ――!?』


 神速の早業だった。

 金属槌の関節は二つ。レーザーブレードは恐るべき精度でその一つを切り裂くと、さらに返す刃でもう片方の関節も両断する。

 柄と切り離された金属塊は力なく地面に落下し、残るは剥き出しになった金属杭とその射出装置のみ。


『貴様、最初から!』


 ジャガーノートは杭の矛先をアーキヴァイスに向けて発射。しかし所詮は苦し紛れ。白銀の機体を捉えることはできず、その影に突き刺さる。最早遮る物のなくなったジャガーノートの懐にアーキヴァイスは飛び込んだ。


「――終わりだ、ジャガーノート!」


 紫電の一閃が、真紅のMCを切り裂いた。

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