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12話


 荒れた大地の上を、四機のMCが推進機ブースターを噴かせて滑走する。

 先頭を行くのは三機のランタン。そして最後尾につくのがアーキヴァイスだ。

 モニタ上に映るランタンの背中を追いながら、七希は複雑な面持ちで操縦室に座っていた。


『どうした傭兵レヴナント、気分でも悪いのか?』


 ヘッドセットから揶揄するようなレガンの声が届く。七希は嘆息しながら答えた。


「あんたは腹の中に毒があってハッピーでいられるのか?」

『はっ、まだ言い返す元気はあるみたいだな』

『レガン、からかうのは止めなさい。彼は明らかに被害者ですよ』

『なんだよクラート、傭兵を庇うのか』

『無関係な政争に巻き込まれた挙句毒を飲まされたとなれば、同情の一つもしますよ』


 クラートがそう言うと、不貞腐れたようにレガンは舌打ちをした。

 そんな二人の様子に、どことなく壁が低くなったのを七希は感じる。あの戦いで力を示し、そして先ほどヘルヴィニーナに翻弄されたことで、少しだけ距離が近づいたのかもしれない。

 もっともその代償として、自分のお腹の中にはとんでもない爆弾が放り込まれたわけで。

 

「一つ聞きたいんだけど、ヘルヴィニーナさんはいつもあんなに無茶苦茶なのか?」

『それは少し違いますね』


 クラートはどこか苦労を滲ませる声音で言った。


『あの程度、これまでヘルヴィニーナ中尉がやってきたことを思えば、無茶の内に入りませんよ』

「…………」

『気になるなら今度教えてやるぜ、あの人の逸話は山ほどあるからな』

「……毒で死ななかったらお願いするよ」


 呻くように答えたところで、ウェインの声がヘッドセットから響いた。


『3人とも、お喋りはそこまでだ。もうじき会敵するぞ』


 七希たちはすぐさま意識を切り替える。

 剥き出しの岩が転がる荒地から、小さな草木の生える平原地帯に突入すると同時に、レーダーが移動する敵MCの存在を捉えた。

 だが同時に相手の方もこちらに気づいたようだ。レーダー上で素早く動いて陣形を展開しているのが解った。さらに程なくして距離は近づき、その姿はモニタ上にも浮かび上がる。

 四機の敵MCは突撃銃を構えながら、点在する丘の一つを盾にするように布陣していた。その四機はブライと呼ばれる、あの日七希が戦ったMCと同型機だ。


『ほう、抗戦の構えを取るか……』

『上等! 鉄の国ランケアッドの田舎者をぶっ潰してやりましょう、ウェイン少尉!』

『いいだろう。レガン、俺と斬りこむぞ』

『了解!』


 意気込むレガン。次いでウェインは指示を飛ばす。


『クラートとナナキは援護に回れ。何か仕掛けをしているかもしれん。周辺警戒も怠るな』

『了解しました』

『俺らに当てるんじゃねえぞ傭兵レヴナント!』

「誤射するほどの速度を出してから言ってくれ」

『ハッ、口の減らねえ奴だ!』


 七希達は前衛と後衛に素早く別れると、ウェインとレガンの乗るランタンが四機のブライに向かって疾走した。

 ブライ達は当然応戦に出るが、そこに向かって突き刺さるのがクラートのランタンと、七希のアーキヴァイスによる援護射撃だ。

 後衛の二人が精密な射撃で丘の陰にいるブライ達を牽制することで、前衛二人への狙いは荒くなり、そんな腰の引けた弾幕などウェインとレガンは悠々と泳ぎ切る。


『丘が邪魔だな。レガン』

『任せてください!』

 

 ウェインの指示を受けたレガンのランタンが加速する。同時にその両肩に展開されるのは、模擬戦の時は許可されなかった武装――多数のロケット弾を擁する発射装置ロケットポッドだ。


『まとめて吹っ飛びな!』


 十を越えるロケット弾が発射装置ロケットポッドから射出された。

 ロケット弾に追尾性はなく、発射されれば一直線に飛翔するだけの単純な仕組み。しかそそこに込められた爆薬は強力無比であり、着弾するや否や凄まじい閃光と衝撃波が大地を揺らした。

 その爆発が冷めやらぬ中、舞い上がる噴煙を物ともせずにウェインとレガンは半壊した丘を駆け上がる。そして丘の裏に到達した両者のモニタに映ったのは、直撃こそ避けたものの爆発の衝撃で浮足立つブライの姿だ。


『ハッ、ボケッとしてる暇があるのかよ!』


 ウェインとレガンは実体剣を引き抜くと、一番近い場所に立つブライに切りかかる。

 息の合った二人の攻撃を前に、そのブライはあえなく胴体を切り裂かれた。

 ウェインたちはすぐさま別の機体に狙いをつけるが、それよりも残る三機が動揺から立ち直る方が早かった。

 一機切り伏せ、ちょうど攻撃後の隙が生まれた二人に対し、三機のブライは突撃銃の狙いを定め――そこに、丘の側面から回りこんだクラートの援護射撃が届いた。


『レガン、前に出過ぎです!』


 クラートの斉射がブライ達の周辺に突き刺さる。思わず三機が怯んだところで、さらに彼らの持つ突撃銃が横合いから撃ち抜かれた。ウェインたちに次いで丘を登った七希の狙撃だ。

 武器を破壊されたブライ達は、背負っていたチェーンソー型の近接武器を急いで持ちだすが、情勢は既に決定的だ。

 七希の乗るアーキヴァイスを除いても、ウェイン達と相手のパイロット達では練度に差がありすぎる。あと十分も経たない内に残る三機のブライも撃墜されるだろう。

 だからこそ。


『――ッ!?』


 突如として各々の操縦室に鳴り響く警報音アラート

 その理由はすぐ間近に現れた高エネルギー反応。生じたのは点在する丘裏の一つで、ウェイン達から死角となる場所。

 伏兵――三人がそう考えた次の瞬間、大出力のレーザーが丘ごと貫いてクラートの乗るランタンに襲い掛かった。


『しまっ――』


 クラートは咄嗟に回避を試みる。

 だが遅い。レーザーは無情にもランタンに迫り――


「だと思ったぜ」


 刹那、ランタンが吹き飛んだ。

 七希の乗るアーキヴァイスが、ランタンを蹴り飛ばしたのだ。

 地面に転がるランタンと、蹴った反動で軽やかに宙に反るアーキヴァイス。その両者の間にある無人の空間をビームは貫いた。


「来るとしたら、このタイミングしかないってな」


 着地したアーキヴァイスは、反応のあった丘にメインカメラを向ける。

 するとビームに貫かれた丘の向こう側から、今まさに一機のMCが姿を現そうとしていた。


『……慣れない不意打ちなどするものではないな』


 モニタ映るのは、真紅に染められた重厚な装甲。

 肩には大口径光学兵器レーザーキャノンが備え付けられ、両手に構えるのは巨大な金属槌。

 そのMCはランタンよりもさらに一回り大きく、感じる質量と圧力はさながら歩く要塞だ。


『やはり敵というものは、真正面から叩き潰すのが正道だ』


 緑の光を放つメインカメラを七希達に向け、それは高々と宣言した。


傭兵レヴナント・ジャガーノート。これより敵MCを殲滅する』



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