希望への歩み2
最後の聖地は王都から離れたヴァーレンという地にあった。
ここから王都までは馬を最速で走らせても1ヶ月ほどかかる。
使命を果たした事で、巡礼の一団は王都へ帰還しなければならない。だが焦った旅ではなかった。
全ての浄化を終えて国に平和が訪れる事を示しながら、彼らは王都へ戻るのだ。
浄化を終えるまでは王都へ戻らない、というのは周知の事実だったから、一団の帰還そのものが平和を告げるパフォーマンスになる。
だからこそ一行は、通る街々全てに顔を見せていく事が決められていた。
しかし彼らが通らずとも、国民は肌で平和の訪れを感じていた。
魔物の量が極端に減ったこと、穢れによる病が少しずつおさまっていったこと。
この一年、聖女が訪れた地から広がるように沢山の問題が改善されていった。
だからこそ一行が訪れると街の住人は彼らを歓待した。祈るように膝を折るものや、贈り物を用意するものもいた。
一行は戸惑いながらも住人の厚意に感謝を示し、偉ぶることもなく街を後にする
それは特に聖女の雰囲気によるものだろう。
黒髪黒目の異国の少女はいつも柔らかな笑みを浮かべていた。華奢な体は折れそうなほど儚く見えた。
聖女はいつでも住人に感謝を示した。食事を作ればありがとうと言い、道案内をすれば頭を下げた。
それが仕事なのだと恐縮しても、感謝を伝えたいのだと譲らなかった。
そうして聖女が笑う時、いつも傍には顔立ちの整った侍女が控えていた。その侍女は聖女を護るように一定の距離を置いて佇んでいた。
彼女はいつも誇らしそうに聖女と共にあった。
そしてもう一人、いつも聖女の近くにいた人物がいる。この国の第一王子マクシミリアン・フランツ=グレイヒだ。
彼もまた、聖女を護るように寄り添っていた。聖女はそうした事に慣れないのか多少ぎこちなかったが、住人たちには仲睦まじくうつっていた。
優しい聖女、優秀な第一王子。
彼らが一緒になったらどれだけいいだろう。
いつしか人々はそう思うようになっていた。
願いが通じたのかはわからないが、彼らが王都へ戻った1年後、聖女と第一王子の婚約が決まった。