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侍女の決断2

本日三回目の更新です。前話と連続更新です。

復活祭の前日にオリヴァーに返事をするという約束だったため、マーガレットはオリヴァーを探していた。

しかしなかなか見つからない。目撃情報はあるし、なんなら言付けも頼んでいたのに捕まらないのだ。


サクラと過ごす最後の日にオリヴァーを探して終わるなど冗談ではない。復活祭の準備もあるのだ。マーガレットは探すのを諦めてサクラの元へ戻った。


サクラの元に戻ったマーガレットは復活祭の準備を始めた。準備と言っても明日にサクラげ身につける衣装の用意と小道具を磨いて揃えるだけなのでさほどかからない。

さらに最後なので、念入りにサクラの部屋を掃除した。


あらかた仕事を終えた後はサクラと二人でお茶を飲む。

明日になれば二度と会えないのだと思えば胸が震えた。枯れるほど泣いたはずなのに、油断すると涙ぐんでしまう。


時刻が夕刻を指した頃に、ようやくオリヴァーがマーガレットを訪ねてきた。その時マーガレットはサクラを瞼に焼き付けようと凝視していたため、少々苛立ちを覚えた。

邪魔をしに来るとはと眉を顰めながら、サクラに断りを入れてマーガレットはオリヴァーの元へ向かった。


オリヴァーと言えば居心地が悪そうに、若干気まずそうに視線を彷徨わせていた。


「午前中、探し回っていたのですが」

「あ、いや、ああ。知ってる」

「ではなぜ捕まえられなかったのでしょうねえ?」

「その、怖気づいた…」

「なるほど。あれだけ毎日告白をして、今日になって怖気づいたと?」


圧をかけるようにマーガレットが迫れば、オリヴァーは両手を上げて降参した。


「逃げ回って悪かった!」

「ーーまあいいわ」


謝罪を貰えば満足と頷くマーガレットにオリヴァーはホッと胸を撫で下ろした。

そうして上着のポケットから、小さな箱を取り出す。


「あんたに想いを告げるのはこれが最後だ。俺はマーガレットが好きだ。ずっと一緒にいてほしい」


オリヴァーが箱から取り出したのはマーガレットの瞳の色と同じ色の宝石が付いているネックレスだった。

淡い緑の宝石はキラキラと美しい。マーガレットは息を飲んでオリヴァーを見上げる。


「返事を聞かせてほしい」


「イエスよ」


「ああ……ありがとう、真剣に考えてくれ……はあ!?」


断られる事しか頭になかったオリヴァーはマーガレットの言葉を理解できなかった。

マーガレットは不機嫌な表情を浮かべてオリヴァーを睨む。


「イエスって言ったの。私はここに残るわ。あなたのせいよ。責任とってよね!」


照れ隠しでまくし立てたマーガレットをオリヴァーはマジマジと見つめた。


「俺と一緒にいてくれるのか?」

「だから、そうだって言ってるでしょう!」

「……そうか」


オリヴァーは嫌われてないと知った時のように、くしゃりと笑う。そうしてマーガレットの後ろに回り、恐る恐るマーガレットの首にネックレスをつけた。

繊細なガラス細工に触れるかのような手つきにマーガレットは赤くなる。


「マーガレット、ありがとう」

「私もよ。ずっと思い続けてくれて、ありがとう」


オリヴァーは後ろからマーガレットを抱きしめた。オリヴァーが顔を埋めた肩口が僅かに濡れる。


オリヴァーはマーガレットの決断の重さを知っている。

孤独になったマーガレットが見つけた家族がサクラだ。彼女との別れは身を切るように辛いだろう。それでもマーガレットはオリヴァーを選んだのだ。


「必ず、幸せにする」

「ええ……」


ーーーー


想いを通わせたオリヴァーとマーガレットは二人でサクラの元へ向かった。

告白が成功したと告げればサクラはオリヴァーに凄む。


「マーガレットを泣かせたら承知しないわよ。なんなら呪うわよ」

「分かってる」

「妹みたいに愛してるってのも無しよ」

「……分かってる」


実体験を込めたサクラの言葉にオリヴァーも真剣に頷く。


「明日はあんまり話せないと思うから先に言っておくわ。オリヴァー、今までありがとう。殴りたい時もあったけど、今のオリヴァーは結構好きよ。明日はよろしくね。強烈な一発を期待してるわ」

「俺の方こそ本当にありがとう。俺が言うなって話だが、サクラ様は優しすぎるから元の世界に戻ったら騙されないように気をつけてくれ」

「失礼ね。これでも強くなったのよ」


オリヴァーの忠告にサクラは唇を尖らせる。その表情は晴れやかで翳りのないものだった。


「じゃあ明日、復活祭で」

「ああ」


オリヴァーはそうしてサクラの元を去った。マーガレットはそのやりとりを見ながら、やはり寂しさに涙を浮かべた。


「サクラさまあ」

「もうやめてマーガレット。あなたに泣かれるとつられるのよ。私の目を見て、泣きすぎてカピカピになっちゃったわ。明日目が腫れたらどうするの」


そんな軽口を叩きながらマーガレットとサクラは一緒に食事をした。普段侍女であるマーガレットとの食事は別々だが、最後くらいはと一緒にとったのだ。

さすがにニ晩連続で泣き明かすわけにもいかないので、マーガレットは夜に自室へ戻った。


そうしていつも通りの朝が訪れた。復活祭の準備で今日は忙しい。普段はマーガレット一人で事足りるが、今日は複数の侍女が朝早くからサクラの部屋を行き来した。


準備が整った後、サクラの命令で室内にはマーガレットとサクラだけが残る。


「向こうに行けば話をする時間ないと思うから。本当に、本当に今までありがとう、マーガレット」


そう告げてサクラはマーガレットを抱きしめた。マーガレットもたまらずにサクラの体を抱きしめ返す。


「離れても、私の主人は一生あなただけです。あなたの幸福を誰よりも祈っています」

「私もよ。幸せになってね。……それとこれを」


体を離したサクラは机から小さな石を取り出した。その石はほんのりと光を帯びている。


「私の力をありったけ込めたお守りよ。身につけてね。きっとあなたを守ってくれるから」

「ありがとう、ございます。……それでは、私はこれを」


マーガレットはポケットから懐中時計を取り出した。


「父の形見です。これをお守りとして受け取ってください」

「そんなーー」

「お願いです。別の世界でもあなたをお守りできるように」


マーガレットが膝をつくと、サクラは困ったように首を傾げて、それから嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「ありがとう。大好きよ、マーガレット」

「私も大好きです、サクラ様」


ーーーー


そうして光の奇跡を残してサクラはこの世界から消えた。

サクラが去るほんの少し前、彼女はマーガレットに目を向けた。

遠いから分かりにくいはずなのに、その目はしっかりとマーガレットを捉えている。

マーガレットは溢れる涙を無視してサクラに深く礼をした。

聞こえるはずがないのに「ありがとうございます」と繰り返しながら。


サクラが去ったグレイヒ王国は、その後新しく国王に就任したマクシミリアンのもとで大きく栄えた。


マクシミリアンは倒れるのではないかと心配するほど体をはって政策に力を入れていた。

それはオリヴァーも同様で、マクシミリアンに文句を言いながらも全力で彼のサポートをしていた。


マーガレットと言えば、王妃となったマリアベラの侍女として働いていた。

正直に言えばサクラの事もありマリアベラを警戒していたが、サクラが言うとおり彼女は優しくて努力を怠らない人物だった。我儘もなく使えるには理想的な上司でもあった。


しかしその後、オリヴァーが過労で倒れた事で、職を辞しオリヴァーとの結婚を決めた。

贖罪のために頑張るのもいいが限度がある。マーガレットが知る主人は、彼らが過労で死ぬ事を喜ばないはずだ。

だからオリヴァーと一緒にマクシミリアンにも苦言を入れた。


マーガレットはオリヴァーとの婚姻後、彼が頑張りすぎないようにサポートをした。

そうして今は、大きなお腹をさすりながら遠くにいる主人に想いを馳せる。



自分は幸せを手にできた。

主人は今、幸せだろうか。

幸せでいてほしい。


心からそう願っている。


これで主人公以外のこぼれ話は終わりです。次からは主人公の後日談になります。

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