闇の神との死闘
「弱い!弱すぎる!これが誇り高き戦士だというのか、毛虫の王よ!」
「下等な人間どもが!我が主君ハールニッヒ様にこの程度で勝てるとでも思ったのか!!」
放たれる幾多の攻撃魔法を、青年は全て受け流していた。
青年の顔には苛立ちと侮蔑、黒猫には嘲笑が浮かんでいる。
「陛下!攻撃が当たりません!」
「オリヴァー!なんとかならんのか!」
国王が呼んだのは、グレイヒの特級魔術師オリヴァーだ。彼は国王と桜の後ろに控え、防御壁を張っていた。
オリヴァーは名を呼ばれ逡巡して、僅かに首を振る。
「恐れながら陛下、あの男は私と比べ物にならないほどの強さです」
「わかっておる!それをなんとかする手立てはないのか!」
「護りを解かねば攻撃できません。御身を危険に晒すのはーー」
「聖女を守れなければなんの意味もない!今すぐ護りを解いて攻撃しろ!!役に立てぬのなら任を解くぞ!」
恫喝した国王に、オリヴァーは一つ瞬きをして礼をとる。そうして攻撃を加えている同僚の魔術師と交代する形で屋上前に躍り出た。
その間も、魔術師達は力の限り攻撃を加えていた。
青年は姿を現したオリヴァーを見て片眉を上げた。
「おっと、少しはマシなのが現れたか」
「陛下、これでダメならば魔術師では適いませぬ」
オリヴァーはそう告げて、杖を掲げながら長い詠唱をはじめた。
先ほどから青年は攻撃をいなすだけで、遊ぶかのようにこちらには攻撃をしてこない。
ならばと、長い故に実践向きではなく、しかし一度の威力が強大な攻撃魔法を選んだ。
オリヴァーから光が浮かぶ。詠唱がオリヴァーを取り囲むように円を描く。
杖の先に、巨大な球が出来上がっていく。バチバチと音を立てながら膨れ上がるそれを、青年はやはり攻撃をいなしながら興味深げに眺めた。
「マリー、どう思う?」
「主さまなら問題ないかと」
小さな会話は誰の耳にも入らない。その間にも、オリヴァーの作り出す球は彼の大きさを簡単に越えた。
長かった詠唱が終わり、オリヴァーは全力で杖を突き出した。その瞬間、巨大な球体が青年に向けて放たれる。
国王も、民衆も、これほど巨大な魔法ならば倒せるだろうと光の球体を目で追った。
ドンッと鈍く激しい衝突音がする。
しかし誰もが考えていたような音ではなかった。何故ならば、球体はそのまま青年の手元にあったからだ。
青年は自分の数倍はある球体を抱え込んでいた。
「面白い。少しは使える毛虫もいたようだな。だが所詮、毛虫に過ぎぬ」
笑いを含んだ声音がした瞬間、青年は腕に力を込めた。ミシミシと球体が音を立て始める。
この力技にオリヴァーは驚愕するしかない。
「なんだと…?」
球体は激しい圧迫を受けて変形し始めた。
「おおおおお!」
青年の言葉と共に、圧縮された球体はバチンと音を立てて弾ける。
あまりの光景に、全ての攻撃の手が止まる。国王の額には汗が浮かんでいた。広場にも大きな緊張が走っていた。
オリヴァーは思わず、といったように桜を振り返る。
桜は、それこそなんとも言えない表情だ。オリヴァーの視線に気がつくと、僅かに首を振った。
演者として駆り出されたオリヴァーを、不憫に思いながら。
そしてあまりの力技に、呆れながら。




