縛る者たち
早朝に3発の花火が打ち上がる。
復活祭の朝が明けた。女神イシスが歓喜しているかのような晴天だ。
昨年の復活祭もやはり晴れており、活気付いた街並みも変わらない。
しかし昨年と圧倒的に違ったのは、ひしめく人口の多さだ。ベイリッヒの収容人数をはるかに越えた国民達が王都に集まっていた。
予想を遥かに上回る人数に規制が敷かれ、王都に入ることすらできなかった者たちは、それでも引き帰らずに王都の周りを囲んでいた。
理由ははっきりしている。聖女奪還の阻止か、興味本位だ。
聖女を奪われる事を危惧する者、聖女の儀式を観たい者、騎士や魔術師が黒い神と戦う姿を観に来た者たちだ。
国民達も己の国の武力には自信がある。魔物と生死を掛けて戦い、他国から自国を護る彼らは強い。
黒い神の奇跡を見た者たちですら、兵の多さに圧倒され、これなら大丈夫だと確信していた。
安心からなのか、訪れた人々は物珍しげに街並みを眺め、露店を楽しみ笑顔を浮かべている。
ただ王都に住まう者たちだけは、どこか緊張していた。それだけ先日の出来事は印象的だったのだ。それでも街が活気付けば、商売人達は精を出し、そうで無い者は聖女が訪れる聖堂に向かった。
王都ベイリッヒの中央に位置する広大なベイル広場の中心には巨大なデエス大聖堂がある。
職人達が施した繊細なファサードと100本ある尖塔は圧巻で、初めて見た者は皆息を飲んで圧倒された。
大聖堂の周りを一万にも及ぶ騎士と魔術師が囲い、さらに左側では楽隊が控えている。
彼らが囲う数メートル離れて、円を描くように数十万の民衆が囲っていた。人口が60万を越えるベイリッヒに、さらに人が集まり中央部に集まれば、歩く隙間もなくなってしまう。後列にいるものは、デエス大聖堂を見ることもままなら無いだろう。
それでも人は増え続けていた。
大聖堂の中にはすでに王族と聖女が控えている。
民衆の間に緊張感と高揚感生まれ、一つの声となった。
「「「国王陛下、万歳!聖女様、万歳!グレイヒに栄光あれ!」」」
声の高まりに合わせるようにファンファーレが鳴る。登場を意味する音に民衆の声はさらに膨らんでいく。
そうして大聖堂の屋上から、グレイヒを統べる王、ベルナール・ステファン=グレイヒが顔を出した。
数十万の雄叫びが王都に響く。
自分たちを鼓舞するように、聖女を逃さぬように。




