哀しみの檻2
自分には私だけだと、彼は言った。
どんな状況になっても、私だけを思っていると言ってくれた。
それほどまでにショックを受けなかったのは、彼の隣に立つ時に別の女性が立つ可能性を考えていたからだ。彼の弟は二人とも腹違いだったから。
上に立つ者のリスクを考えずに安請け合いしていい場所ではない。何かある度に以前のように伏せるわけにはいかない。
ただ一つ譲れない事があった。彼の支えるのは自分だけである、という事だ。
支えられたいだけではない。私は彼を支えたいのだ。優しい彼に、守られるだけじゃ嫌なのだ。
そのためには聖女である事すら利用しようと思っていた。
いつの間に、こんなにも思っていたのだろうか。最初は純粋な好意だった。言ったわけではないのに、最初から彼は私を聖女ではなく一人の人間として接してくれた。
向こうでは当たり前だった事が、たまらなく嬉しかった。
恋に変わったのはこの地で生活するために動き出してから。誠意を持って接してくれたからだけではない。
国民のために身を切る生き方を見てきたからだ。遅くまで走り回り、その中で会いに来てくれた彼。
婚約を決めてからは愛情に変わった。側から見ているのと実際にやるのとでは、見える世界が違った。
浄化したからと言って国が自動的に良くなるわけはない。上に立つものが協議を重ねて対策を講じなければ荒れた地は治らない。そこに加えて厄介な国との外交も彼はこなしていた。
私より一つ年上なだけなのに、している事がまるで違う。祖国では考えられない事だった。数え切れない命を背負い、それでも決断していかなければならない。
そしてその決断を覚悟を決めてする様に、私はついていきたいと思ったのだ。
だから大丈夫、そう思ってた。
だけど人間は愚かで哀しい生き物だ。
愛した分だけ愛してほしいと思ってしまう。無償に人は愛せない、愚かな生き物なのだ。
愛されているなんて勘違いをしなければ、この気持ちを抑える事が出来たのに。
ーー婚約など、しなかったのに。
どれだけ嘆いてもあの頃には戻れない。
あの日あの瞬間、私は思い知るのだった。




