学園恋愛RPGの世界に転生した俺は暗躍することにしました。
交通事故で死んだ俺は気がついたら学園恋愛RPGの世界に転生していた。
もちろん初めはそんなことに気付かなかったが家名や世界の名前、兄の名前を聞き、魔法や魔物を見て6歳の時には理解した。
ここは俺が前世でプレイした事があるゲーム『マグノア学園物語』の世界、もしくはそれに酷似した世界なのだと。
そして俺はそのゲームの悪役の弟という微妙な立場で、ゲームの時はそんな存在がいる程度にしか触れられる事は無かった。
だが、はっきり言ってかなり不味い。なぜなら兄は最終的に王女や主人公の攻略相手を誘拐し、それがきっかけで家の悪事が芋蔓式に暴かれそのせいでエンディングでは一族郎党処刑されてしまうからだ。
俺は妾の子で発言力が皆無に等しく兄を止める事は不可能だ。
だから俺はいざという時逃げられるよう鍛えることにした。今逃げても6歳児が1人で生きていくことなんて金銭的にも実力的にもできない。それにこのゲームのバッドエンドは世界滅亡だ。その原因である兄を仕留めるにしても仮にも公爵家子息、確実に追われ犯罪者になってしまう。
立場的な事を考えると学園入学後に仕留めるにしても真っ先に疑われそうだし手を出しにくい。
それを考慮に入れるとできる限り見守ってエンディング直前まで付き合った方が良いか。となると処刑命令が出た時国家権力相手に逃げ切れるだけの力が必要だしな。
それにここがゲームに似た世界というだけであり俺の知っているイベントが起きなかったとしても魔物がいるこの世界、強くなるのは悪い事ではない。
幸いと言っていいか分からないが本妻の子も俺の1月後に産まれ、母も俺を産んで1年後に亡くなっているため俺に気をかけてくれる人はいない。
家を乗っ取る気か~!?なんて周囲に怪しまれないよう、けれど最速で強くなれるよう俺はひっそりとばれないよう努力し始めた。
*****
周りにばれないようこっそり努力しレベル上げを続け、とうとうゲーム開始の時になった。
ゲームはマグノア魔導学園の始業式の日、2学年に主人公が転入するところから始まる。
主人公は俺の兄のゴードンとこの国の第一王女であるエリザベス様を始めとした一部の攻略対象がいるクラスに配属され、青春の日々を送ることになる。
そしてこの年は俺が学園に入学する年でもある。ちなみに腹違いの弟とは違うクラスで第二王女と同じクラスだった。
これから1年間がゲーム期間だ。とりあえず介入がし易い年齢とクラスなことに感謝しよう。学園は部外者立ち入り禁止なため後1年遅く産まれていたらどうしようもなかったし第二王女がクラスメイトなため第一王女と接点が持ち易い。
ずっと努力をし続けたおかげで今の俺の能力は物語終盤の主人公と同等かそれ以上にまでなっている。……こっそり魔物退治に行くのにすごい苦労した。
空間魔法を覚えるまでは遠くに行き過ぎる訳にはいかないから近場の魔物を狩るしか無く、延々と雑魚を狩り続ける羽目になった。
ちょうどいいレベルの魔物がいないせいで初期の町周辺にでてくる雑魚を倒して中盤のボスと戦えるレベルにするという馬鹿げた真似をするしかなかったから大変だった!!「何やってんだろう俺……」って最後の方は虚しくなったなぁ。
幸いなのはこのゲーム、レベルアップの際手に入るSPを使ってスキルを取得&強化していくシステムで、取得するスキルを自由に選べたのが救いだった。
最初にアリバイ作りのために初期ポイント全て注ぎ込んで幻術をカンストまで上げ、後は隠密行動系のスキルを取得。その後空間魔法を取り立派なアサシンになりましたよ、結果的に。
ある程度特化させないと使えないキャラになるのはゲームを通して知っていたし、暗躍したり最終的には国から逃げる以上選択肢は無かったと言える。
まあ、とりあえず死なないよう頑張りますか!!
*****
ゲーム期間が始まってからいろんな事があった。
兄の悪巧みを物語が破綻しないレベルで邪魔したり主人公たちに俺だと分からないよう変装してそれとなくヒントを与えたり、ゲームの時とは違う動きをする第二王女を助けたり……
だがそれも今日で終わりだ。この国の第一王女エリザベス様とその妹である第二王女クリスチナ様が兄ゴードンと弟のボーマンに誘拐された。そう、とうとうラスボス戦直前まで来たのだ。
4月から3月まで長かったっ!!
主人公のアルフレッドに監禁場所を伝えた俺はこっそり王女たちとゴードンを監視している。隠密スキルと幻術スキルをカンストしている俺を発見する事は彼らと彼らが雇った傭兵3人には不可能で、すぐ近くにいるのに全然ばれていない。流石に攻撃や激しい動きをしたら隠密が解除さればれるだろうが……
「さて、いい加減私と結婚する決心はつきましたか、エリザベス?」
お~拘束した相手に紳士ぶっても意味無いんじゃないですかゴーマンさん?
「誰があなたなどとっ!!」
拘束されているのに何でそんなに強気なんですかね王女様?危ないですよ~
「兄上、さっさと抱いて終わらせましょう。 何時までも時間をかける訳にもいかないでしょう?」
さっきから何度か繰り返されていたエリザベス様とゴードンの会話にボーマンが割って入った。
王侯貴族である以上婚前の清らかさは必須。王族なんて特にだろう。
俺たちの家は公爵家。家格的に結婚相手には問題ない以上醜聞を隠すために結婚させるしかなくなる。
抱いてしまえば醜聞を隠すために王家が暴露する事も出来ず、かえって隠すことに力を注がなくてはいけない。
それに隠す以上その事で処罰もできず泣き寝入りだ。今の王族はこの2人しか子供がいない以上手を出す事を許してしまえば大変なことになるだろう。
「それもそうだな。 そろそろ遊ぶのはやめて本番に入るか」
そう言って口元を歪めるゴードン。その手がエリザベス様の制服に伸びていく。
「それじゃあ僕はクリスチナ様に相手をしてもらおうかな?」
そう言ってゆっくり近づいていくボーマンを目尻に涙を浮かべながら睨みつけるクリスチナ様。
(おいおい、まだか……?)
本来ならこのタイミングでアルフレッドとその仲間たちが部屋に侵入してくるのだが一向に来ない。索敵スキルで探るとどうやら入り口で足止めされているみたいだ。
ゲームの時にはいなかった優秀な門番がいるようで、ここに来るまでにはまだ時間がかかりそうだ。
(これも散々介入した影響か? そのせいで警備が厳重になった? 今までも介入したせいで所々ゲームの時とずれていたし……)
はあ……と溜息を吐く。仕方が無い。
この場にいる敵はゴードンとボーマン、それに護衛に雇ったらしい3人の傭兵。
傭兵は1人1人は俺より弱いが同時に来られると勝てるか怪しいな。
だが、やるしかないか……
「ふっ……!!」
覚悟を決めゴードンとボーマンに全力でスローイングナイフを投擲する。
「ぐああ、痛い痛い痛いっ!!?」
ゴードンの方は近くにいた傭兵の1人に防がれたが、ボーマンは咄嗟の事で回避できずに腕にナイフが刺さって喚いている。
「っ!? また貴様かっ!!」
攻撃した事で隠密状態が解け、突然現れたように見える俺に突然の攻撃に動揺し尻もちをついたゴードンが叫ぶ。睨みつけてくるその眼は憎悪に染まっている。まあこれまで散々邪魔したからなぁ。
反対に2人の王女は安堵の表情を浮かべている。これまで何度も助けた事があるため怪しい格好をしているが味方だと分かっているせいか。
ちなみに今の俺の恰好は全身を黒マントに包まれフードを目深にかぶり、白い仮面で顔を隠している。使用武器は刀と投擲具だ。ちなみに万が一フードが取れてもいいように幻術で髪の色を変える念の入れようだ。
(とりあえず護衛の3人を沈めるか)
護衛は剣士、魔術師、弓使いの3人。邪魔な魔術師から片付ける!!
急接近し刀を抜き様に斬り付けるが俺の動きに反応した剣士が間に割って入り防がれる。さっきもそうだったが良く反応する!!俺よりレベルは低そうだが経験も豊富そうで十分凄腕だ。
止むを得ずそのまま剣士と斬り合う。弓使いと魔術師の援護攻撃に邪魔されるが実力は俺の方が上だ。少しずつ相手に傷が増えていく。
「くそっ!!」
その様子を見て脅しのつもりか魔術師がクリスチナ様に向けて上級魔法【ダークフレイム】を放つ。黒く、巨大な火球がゆっくりとクリスチナ様へと飛んで行く。
「ぐっ……!!」
そしてそちらに気を取られた隙を突かれ、剣士の攻撃をまともに食らってしまった。
「っツアアア!!」
だが攻撃が決まったために剣士にも隙ができた。その隙を逃さず剣士の首を刎ねる。
「ジョッシュ!!?」
弓使いの叫びが聞こえたが今はそれどころではない。剣士が殺されたことに動揺したのか火球が霧散する気配も止まる気配も無い。魔術師の慌て様からして暴走したようだ。
縛られ、身動きが取れないクリスチナ様と火球の間に止むを得ず割って入る。後1秒でも余裕があれば斬って無効化することもできただろうが、既に庇うぐらいしかできないほど火球は近付いていた。
「があああぁぁっ……!?」
障壁を張り背中で火球を受ける。背中を襲う衝撃と全てを焼き尽くすかのような高温に歯を食いしばり耐える。クリスチナ様の悲鳴が響き、受けた衝撃で仮面が落ちたがそれらを気にする余裕もない。
ほんの数秒で火球は消え去ったが受けたダメージは大きい。そのまま倒れそうになるのを気力で堪え、縮地スキルで素早く魔術師に接近し袈裟斬りにする。
その一撃で倒れた魔術師と共に倒れそうになるがまだ倒れる訳にはいかない!!素早く弓使いの方へ振り返る。だが、その一瞬の停止がいけなかった。
そのせいで弓使いが放った技【インパルスアロー】をまともに食らい、壁に叩きつけられる。
「がはっ!?」
ぎりぎり魔力障壁を間に合わせたがこれまでのダメージもあり立ち上がれそうもない。
「手間取らせやがってっ……!!」
弓使いが吐き捨てた様に言う。仲間が2人もやられ、内心怒り狂っているのだろう。
(不味いな……)
積み重なったダメージに加え、剣士につけられた傷口からの出血が止まらないせいで血が足りなくなってきた。頭がぼうっとする。
刀は辛うじて手放さなかったが肋骨が何本も折れ、斬られた箇所からの出血は止まらず、背中には酷い火傷。立つ事も出来ずとてもじゃないが戦闘続行は難しい。
(だが、まあ…… 時間は稼げた。 後は……)
ボーマンが未だにのた打ち回り、ゴードンがこちらを下卑た笑みを浮かべながら見下し、眼の前の男が弓を引こうとしたその瞬間、
「エリー!!」
激しい音と共に扉が吹き飛ぶ。索敵スキルで彼が近付いていたのは知っていた。
「主人公に任せるさ……」
ようやく主人公アルフレッドが乱入してきた。
「これは………!?」
アルフレッドと後からやって来た彼の仲間たちは部屋の状況を見て呆然としている。
だがすぐに思考を切り替え弓使いに斬りかかった。
前衛がいない弓使いがバランスの取れたパーティーに敵うはずもなく、あっさり斬り伏せられるのを横目に亜空間に収納しておいたポーションをあおる。全快には程遠いがとりあえず出血は止まった。
眼の前ではゲームのシナリオ通りゴードンとボーマンが禁術を使って悪魔化し、主人公パーティーと戦いを繰り広げている。
ただ、俺がつけた傷のためかボーマンの動きが鈍く、苦戦はしても負けはしないと思える戦況だ。
「くっ……」
その様子を見て安心する。まだ足元がふらふらするが立ち上がり、隠密スキルを発動させひっそりとその場を去る。
このまま国を出て、後は自由に生きる。1年前に偽名で冒険者ギルドに登録をし、ランクもそれなりに上げているため国境を越えるのも簡単だ。冒険者として活動している時は常時幻術を纏っていたしこれからもそうすれば正体が露見する可能性も低い。
そんな事を考えていたせいかじっとこちらを見つめてくる視線に俺は気付かなかった。
*****
「ふぅ……」
町の外、1本の立派な木が生えている丘で休憩をとる。全身ぼろぼろで歩くのもつらい。
「これで、ゲームは終了だな……」
そろそろ悪魔化した2人を倒し終わっている頃だろう。
そうすると実家は大騒動になるだろうな。なにせ跡取りが王女誘拐の挙句禁術を使ったのだから。血縁関係のある俺の寮部屋にも今頃兵士が来ているかもしれない。
木にもたれかかる様に座り込む。すると全てが終わって気が緩んだことが体のダメージと合わさり、凄まじい眠気が襲ってきた。
(まあ、出血はしてないし死ぬ事は無いだろう)
魔物避けの結界をなけなしの気力で施し、俺は意識を手放した……
それからどれだけの時間寝ていたのだろう。段々体中の痛みが引いていく感覚に眼を覚ますと眼の前に予想外の人物がいた。
「クリスチナさっ……」
それに驚き、急に動こうとしたせいで背中に激痛が走る。
「まだ背中の火傷は治していないんです。 じっとしていてください!!」
強い口調でそんな事を言われ、思わず頷いてしまう。いかにも怒っていますという雰囲気を出している今のクリスチナ様に逆らおうとは思わない。
痛みが和らぐ感覚はクリスチナ様が治癒魔法を使っていたためらしい。
程なくして折れた肋骨は元通りになり、火傷の治療へと移る。
それにしても誘拐され解放された直後だろうにどうしてここに……?
そんな疑問が頭に浮かぶが話しかけられる雰囲気でも無く、結局治療が完了するまでお互い無言のままだった。
「フードを取ってもいいですか?」
先に口を開いたのはクリスチナ様だった。
幻術で髪の色も、顔の造形も変えているため取られても問題ない。下手に拒否する方が問題がありそうだと思い、頷いておく。
ゆっくりと俺のフードを取ったクリスチナ様はにっこりと笑い、
「【ディスペル】」
全ての魔法の効果をキャンセルする魔法を唱えた。
「っ!!?」
【ディスペル】を唱えられるとは思っていなかったせいで動揺する。その魔法の効果で幻術が解け、黒髪が元の金髪に、顔の造形も本来の、俺、ノーマン・ダールトンのものへと変わる。
「……やっぱりあなただったんですね、ノーマンくん」
その言葉に前々から気付かれていたんだと悟る。
「いつから気付いていたんですか?」
「10月の終わりにはそうなんじゃないかと思っていました。 あなたがいないときにしか黒マントさんは現れませんし、剣技とかがどことなく似ていたから」
黒マントさん……いやそう呼ばれているのは知ってたが……
だが前半は俺の不注意だから仕方ないとしても後半部分に驚いた。授業など人前で見せるときはかなり手加減していたしできる限り本来の物と変えようとしていたんだが……
「それで、どうして、どうやって追って来たんです? いえ、追って来た理由は分かります。 あんなことをしたダールトン侯爵家は一族郎党打ち首でしょう。 当然その中には俺も含まれる」
それにしては護衛がいないのが気になるが。
「別にあなたを捕まえに来た訳じゃありませんよ。 いえ、ある意味捕まえに来たんですけど…… 追ってきた方法は仮面の残留魔力を辿ってです」
ああ、そういえばそんな追跡方法があったな。すっかり忘れていた。本来だったらアルフレッドはそれで監禁場所を見つけたんだった。ゲームで重要なイベントだったのに何で忘れてたのか……
この方法に使う物は持ち主にとって大切なものでかつ他の人の手になるべく触れていないものが好ましい。ゲームではルート確定時に主人公が攻略対象へプレゼントしたものか王女のペンダントが使われていた。
仮面は確かに俺にとって大切なものだ。正体を隠す大事な道具だったし、変装道具を他人に渡せるはずもない。条件を満たす絶好のアイテムだったろう。
「あなたを処刑する気はありませんしさせません。 あなたには私の守護者になってもらうんだから」
そう言って俺の手を握ってくる。その瞬間、白く、優しい光が彼女を包む。
「………は?」
今の状態に唖然とする。頭が回らない。
守護者と言うのはこの世界において重要な意味を持つ言葉だ。元の世界で言うと婚約者とが一番近いか。破棄不可能だったりなんだりといった追加要素はあるが。
このゲームのラスボスであり、かつて人類滅亡の危機に陥らせた悪魔は聖属性の力が無いと止めを刺せない。
そして聖属性は女性しか使う事が出来ず、愛し合う想いが聖属性という力を生み出す。
……掲示板で「せい」の字が間違ってると散々叩かれてたな。
まあそれはともかく、聖属性を使う彼女たちを守り、聖属性の力を生み出す存在として守護者という制度が生まれた。
聖属性は互いにしっかり愛がないと現れないし、愛し合っている相手との距離が近いほど威力が増すからな。
悪魔がほぼ絶滅し禁術でも使わない限り悪魔と遭遇しなくなった今でも聖属性は神聖視され、聖属性を発現させた場合身分やらなんやらを超越し結ばれる。
ちなみにゲームでは主人公はエンディングで、結ばれた相手の守護者となる。
守護者は身分を超越するって設定だから平民である主人公が王侯貴族と問題無くくっつくための措置だろうな。
半ば現実逃避でそんな事を考える。
クリスチナ様が聖属性の光を纏っている以上彼女への愛情を抱いているのは否定できない。
何度も助け、共に学園生活を送る中で彼女への恋情が募っていったのは間違いない。
そもそも愛してなかったら第二王女で言ってしまえば代えのきくクリスチナ様は切り捨て、あの火球から庇っていなかっただろうしな。
あ~、あなたも私を愛してくれていて良かった、なんて言って微笑んでいる彼女からは逃げられないだろうな。
その後、処刑を阻止する為俺が黒マントであることと隠してきた実力が暴露され、その上で守護者宣言されたために厄介事が山のように降り注いだが必要経費と割り切るか……