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その九

秋は『風は吹くんだよ』に出てきた秋です。

同じ世界観で創ってます。

真実子のことで忙しいので出てきません。

なにをいっているのかわからない人は気にしなくても大丈夫です。

あと、投稿する間隔が落ちてすみません。

こんなものでも読んでくださる方には感謝しかありません。

時間の無駄にならなければ幸いです。

 ───高千寺レンガ通り。


 200メートルちょっとのこの通りは、駅前にも関わらず2年前までは閑古鳥が鳴く商店街だった。


 この通りにある写真屋で働いていた青年とその友人がこのままではいけないと立ち上がり、人を集め、資金を調達し、徐々に賑わいを取り戻して行った。


 空き店舗をチャレンジショップとして若き経営者に貸し出したり、色々な催しものを開催したり宣伝したりと、苦難苦闘の末、今では1日3万人もの往来するまで発展させたのだ。


「……噂には聞いていたけど、凄い混みようだね……」


 食関係のチャレンジショップのオーナーは太陽と同じ。


 陽が昇ると同時に起き出し、9時オープンに向けて動き出す。そんなやる気を見せられた他のオーナーたちも負けじと開店を早めるものだからお客も早く出てきてくるから10時前には行き来するのも大変なくらいの混みようとなるのだ。


「早くきてるのはだいたい地方からきてる人みたいだよ」


「地方? どういうこと?」


「んーと。どこかの旅行会社がここの人気に便乗してね、夜間バスの経路に組み込んだらしいよ。で、人気が出たから他もとなってって訳。ほら、あそこ」


 100メートル先にあるバス停を指した。


「凄い数ね。わっ! 九州からもきてるの!?」


 神崎さんは九州からきていることに驚いているが、ぼくはここからナンバープレートを認識できる目の良さに驚いた。


「目がいいんだね、神崎さんって」


「エヘヘ。あたし、目がいいのが自慢なんだ」


 ちょっと得意気な神崎さん。


 ……なんというか、徐々に神崎さんの性格が崩れてきてないか……?


「おっ。夕太郎じゃないか。なにしてんだこんなところで?」


 大通りで立ち止まっていると、全身黒で纏めあげ、鼻と耳にピアスをつけた男の人が現れた。


「おはようございます、川村さん」


 見た目は怪しい人だがこの高千寺レンガ通りを支える12人のうちの1人でアクセサリーを売る見せの社長さんだ。


「珍しいな、お前が……」


 ニコニコしていた目が驚きの目と変わり、その目が下へと移動した。


 視線を追うと、ぼくと神崎さんの手が繋がるところで止まった。


 なにやら口をわなわなさせながら視線を戻した。しばし見詰めたのち、横にいる神崎さんへと移った。


「………お嬢さん。つかぬことを尋ねるが、もしかして、こいつの彼女、さんかな……?」


「はい。夕太郎くんと付き合ってます」


「───ぬあっ!!」


 2、3歩後ずさると奇声をあげた。


 口をわなわなさせる川村さんは、ぼくと神崎さんを交互に見て、そして通りへと駆け出した。


「……変わった人だね……」


 良くしてもらっている身としては『違う』というべきなのだろうが、どうしても口から出てくれなかった。


 ……ごめんね、川村さん……




「あ、アリシアの家がある」


 ゆっくり歩きながら店を紹介していると、神崎さんの目が2軒先にあるレストランへと注がれた。


「知ってるの、アリシアの家のこと?」


「もちろんよ。美味しいって有名なところだもん。うちの近くにもアリシアの家があって毎日凄い混みようだよ」


「そこはなんの店なの?」


 基本、なんでもありのファミリーレストランなのだが、最近できたものは専門店が多いのだ。


「洋食の家なんだけど、ピザとジェラートが美味しいんだ。トマトとチーズだけなのにすっごく濃いんだけど全然しつこくないの。だから30センチくらいのものでも1人で食べれちゃうんだ。でもね、ジェラートも負けてないんだよ。牧場から直送だから新鮮なの。ピザ1枚食べたっていうのに2つも食べちゃったんだ」


 そう楽しそう連打してくる神崎さんに頷くのが精一杯だった。


 年上の女の人なら何人も知っているが、同年代なんてあいつだけ。いや、真砂美ちゃんや加奈美ちゃんも入れてもいいが、あいつも双子ちゃんもあまり事例には適してはいない。なんたって行動原理が突飛すぎるからね……。


 まあ、神崎さんも普通とはいい切れないが、入る隙がないくらいの連打に心が折れそうだった。もうなにをいっているのかわからないよ……。


「あたしとしてはチョコ派なんだけど、友達はイチゴ派なの。そりゃああたしもイチゴは好きだよ。でもパフェには絶対チョコよ。夕太郎はどう思う?」


 と、突然話をふられた。


 もうほとんど聞き流していたから逆に冷静になり、ラジオでも聞いているかのような気分だったので慌てることも聞き流すこともなかった。


 とはいえなんと答えていいかさっぱりわからない。が、なにかいわなければならないのは嫌でもわかった。


「あ、えと、そーだね、ぼくは、バナナが好きかな~?」


 とりあえずなんかいっとけだ。


「夕太郎くん、バナナが好きなの?」


「大好きってほどじゃないけど、甘い果物が好きなだけ。ぼく、梅のすっぱさなら食べなれてるから平気なんだけど、果物がすっぱいってどうしても理解できないんだよね」


 食べるのがないのなら食べるけど、必要ないなら極力食べないな。


「じゃあ、夕太郎くんはチョコ派だね」


「え? ぼく、チョコ派なの?」


 今いった中にチョコが好きと繋がる言葉があったっけ?


「うん。だってチョコと相性がいいのはバナナだもん」


 もんといわれても困る。が、反論しようにも言葉が出てこない。まあ、ここは素直にチョコ派になっておこう。別にチョコが食べられないってことはないのだから。


「そ、そうだね。チョコレートとバナナの組み合わせは合うよね。あ、そうだ。お昼はアリシアで食べようか。確かデザートも充実してたはずだから」


「でも、混んでるよ」


 行列を見ながらいう神崎さん。


「大丈夫。行くのは"隠れ家"の方だから」


「隠れ家?」


「まあ、隠れ家というよりは社員食堂って感じかな? ここで働いている人たち専用の店だから」


「部外者のあたしが行ってもいいの?」


「平気平気。ここで働いている人と同伴なら問題ないからね。あ、あそこがアルバイト先だよ」


 2軒先にある"秋の写真館"を指した。


 この高千寺レンガ通りを復活発展させた中心人物の店にも関わらず、秋さんの店だけ昔のまま。50年前からちっとも変わってないらしい。


 店を隠すように蔓が生い茂り、風雨にさらされたガラスケースは雲がかかったように白くなっている。唯一看板だけが新しく、かろうじて商売しているんだなとわかる程度にはなっていた。


 ぼくの感覚からいってもその店は『古い』と呼べるものであり、周りから『逸脱』している店であった。


「……なんだか魔女でも住んでそうなところだね……」


 神崎さんの呟きに『確かに』と頷いてしまった。


 ……いわれてみればこんな家だったっけ……


「───あら、夕太郎くんじゃない。どうしたの、正面からくるなんて?」


 2人で店を見上げていると、中から事務員で裏社長の貴子たかこさんが出てきた。


 秋さん、写真の腕は凄いのに、こと経営になるとダメ社長になるらしい。貴子さんがくるまでよく潰れなかったとすみれちゃんが不思議がってたっけ。


「あら、その子……」


 当然のごとく横にいる神崎さんに気づく貴子さん。川村さんと同じく繋がれる手に視線を落とした。


 さすがこの店を裏から仕切っている人だけあって川村さんのように驚くことも、顔に出すこともしない。繋がれる意味を一瞬で理解したように笑顔になった。


「初めまして。わたしは、河原《》かわはら貴子たかこです。ここの事務員をしていれるの。よろしくね」


 大人な笑みを浮かべて神崎さんに挨拶をした。


「か、神崎桃です! よろしくお願いします!」


 こちらは勢いよく挨拶を返した。


「ふふ。がんばってね。本人自覚ゼロだけど、けっこう女の子を射止めちゃってるから、この子ったら」


 いろんな人がそういうけど、それがどういう意味か誰も教えてくれない。いったいなんなのさ?


「じゃあ、わたし、買い物に行ってくるから好きにやってて」


 そういって人混みの中に消えて行った。


「なんだかできる大人の女性って感じだね」


 まあ、あのすみれちゃんが一目置く人だからね、できるのは確かだね。


「さあ、入ろう」


「う、うん。でも、本当に入ってもいいの?」


 大丈夫といって中へと引き入れた。


 店内は思いの他明るく内装も上品。このレトロな写真館にはぴったりの家具類が置かれ、壁にかけられた写真がなんともいい感じを出している───と、トータルコーディネーターなるものを目指すすみれちゃんがいっていたが、ぼくには全然わからない。ぼくにとって重要なのは、どこから入れてどこから出れるか。そして、どこに隠れられるかに尽きる。


「……ほんと、別世界に入っちゃった感じ……」


「ここは、秋さん───ここの社長さんの思い出の場所だからね、なるべく変えたくないんだって」


 ここは玄関であり裏口。本来の仕事は隣の建物でやってるからね。


「……思い出か。それは大切だよね……」


 なんとも柔らかく微笑む神崎さん。


 どうも神崎さん、ぼくに隠していることがあるんだよね。


 いやまあ、追及するつもりはないし、誰にでも秘密はある。無理に聞くつもりはない。けど、なにかいいたそうな目をするならいって欲しい。なんだか非難されているようで落ち着かないんだよ……。


「おっ、夕太郎じゃないか。珍しいな、お前がこっちからくるなんて」


 隣の建物と続くドアが開き、秋さんの1番弟子の登一とういちさんが現れた。


 いつ見ても、どこから見ても冒険野郎といった感じの登一さん。この大柄の体と雰囲気から社長と間違われるが、これでも21歳。見た目17、8歳くらいの秋さんより2つも下なんのだ。


「ええ。今日はちょっと」


「うん? そっちの子は彼女か?」


 当然のごとく神崎さんに気がつき、繋がれる手に視線が落ちる。


 とはいえ、この人も秋さんに見込まれた人だけあって顔にも態度にも表さない。自分の見たものを素直に受け止めているのだ。


「う、うん。そう……」


 神崎さんへと視線を移すと、神崎さんがぺこりとお辞儀した。


「初めまして。神崎桃です」


「ああ。初めまして。おれは、篠崎しのざき登一とういちです。よろしくね」


 貴子さんと同じく神崎さんになにかを感じたのか、クスっと笑った。


「そうだな。夕太郎を相手にするなら直球ど真ん中に投げないと当たらないか。このニブちんには」


 ぼくの頭を小突く登一さん。


 まったく、こーゆー人たちの会話はどうにもわかり難くくて困るよ。もうちょっとわかりやすくいえないのかね……。


「じゃあ、今日はデートか?」


「なにもなければですけど」


「バーカ。お前の初デートを潰してみろ、ここの住人から石投げられるぞ。今日はなにもなし。そのままデートを続けろ」


 と、外へと放り出されてしまった。


 ………困った。


 ここでアルバイトのことなど話してお昼まで時間を潰すつもりだったのに、あと2時間近くどう過ごせばいいんだ?


「えーと、どうしようか?」


 すみれちゃんに『デートなんて2人になれればいいんだから深く考えないの』といわれたが、まさかここで立っている訳にも行くまいし、隠れ家で2時間もおしゃべりなどぼくには無理。いったいどうすればいいのさ……。


「夕太郎くんは、どこのお店がお気に入りなの?」


「え? あ、う~ん。なんの店かは見て回ったけど、これといって気に入った店はないかな。いつもは外を見てるから」


「外を見てる?」


「ここにきてるのは、社会勉強の一環で、人に慣れるためだからね」


 まあ、暇なら掃除や治安を守るようにあわれているくど、ここの安全は警備会社に委託してあるからぼくの出番はそうそうないんだけどね。


「前にもいったけど、ぼく、人の中で生きるより山の中で生きる方が長かった。おじさんの家にくるまで街中に入ったことはあっても街中で暮らしたことはない。そもそも自分が人だなんて思ってなかったからね。だから従姉が人の中で生きられるようにとここを紹介してくれたんだ」


 まさか山で助けた秋さんたちがやっているとは思わなかったけどさ。


「それで慣れたかといわれると全然慣れてないんだけどね」


 アハハと情けなく笑うと、神崎さんの手に力がこもり、これってないくらい笑顔を咲かせた。


「そういう夕太郎くんって大好き」


「え、あ、うん。ありがとう……」


 純粋というか、無邪気というか、見れば見るほど、話せば話すほど、神崎さんがわからなくなる。


 ……でも、なぜだかそういう神崎さんを好ましいと感じてしまうのはなぜだろう……?












 


 

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