その三十二
一つに纏めようとしましたが、疲れたので区切っちゃいました。ごめんなさい。
……自分の不甲斐なさに呆れるばかりです……。
終章 彼女とデート
「───本日午前8時、阿須葉村の松井渓谷で最後のジャガーが水死体で発見されました。発見した南原猟友会によりますと、ジャガーは散弾と思われる痕があり、半月前に射殺した大型の獣の近くにいて撃たれたものだろうとのことです。現在、地元の警察署に運ばれ、詳しい調べは獣医や専門家に寄って解剖されるとのことです───」
本を読みながら流れてくるテレビのニュースを聞いていると、ニトラばあちゃんがやってきた。
1つのところに長く留まるばあちゃんではないのに、あの初デートのときから高千寺に住みつき、この隠れ家でコックをやっているそーだ。
「なに読んでるんだい?」
これだよと本をかかげて見せた。
「いざというときのサバイバル術? 随分、変なもの読んでるね?」
「そう? なかなかおもしろいよ」
「……おもしろいって、山のことならなんでも知ってるお前が読むこともないだろうに」
「そうでもないよ。テントの張り方や火の焚き方、傷の手当に野営道具の使い方、なかなかためになる本だよ」
生きる知識なら十分あるけど、山で楽しむ方法なんて全然知らない。こんなに楽しいものだったなんて損した気分だよ。
「……変わったね、お前……」
「うん? なにが?」
「いや、なんでもないよ。それより今日はどうしたんだい? バイト、入ってないんだろう」
「今日は、川村さんとレマさんと待ち合わせしてるんだ」
「レマと?」
うんと返事しようとしたら、その2人がやってきた。
「ごめんね、遅れちゃって」
「悪いな。ちょっと本気になり過ぎて時間食っちまったよ」
「すみません。無理いっちゃって」
無精髭を生やした川村さん。どうやら不眠不休でやってくれたらしい。
「なーに。お前の頼みならどうってことないさ。ほれ、おれの自信作だ」
横に座った川村さんが持っていた小箱をテーブルの上に置いた。
……頼んだのはペンダントと指輪なんだけど……?
「お前の彼女に渡るものだ、剥き出しで渡せるかよ」
あ、中に入ってるのか。それは失礼しました。
「へ~~。お前が彼女にプレゼントなんてね。今時なことしてるじゃないか」
「まったくですよ。こいつが『彼女にプレゼントしたいからペンダントと指輪を作って欲しい』なんていうんですからね。そんなの野生の狼が首輪をくれっていうよりありえないですよ」
なにやら酷いいわれようだな。まあ、そんなこといった自分に驚いちゃったけどね。
「ペンダントと指輪なんて
まだマシよ。わたしなんて豪華客船の予約を頼まれたのよ。しかも、シャンシャール・ザ・クイーンのスイートルーム。聞いたときは我が耳を疑ったわ!」
「豪華客船の予約ぅ!? おいおい、
どうしたんだいお前? なんの毒に犯されたんだい?」
ペシペシとぼくの頭を叩くニトラばあちゃん。べつに毒に犯されてませんよ。
「神崎さんや神崎さんの家族に迷惑かけちゃったからね、そのお詫びだよ」
「ふ~ん。お詫びね~」
と、ニトラばあちゃんの顔が歪んだ。
「ダメだからね」
「なにもいってないだろう」
「いわないからいったの。今回は、彼女と彼女の家族だけで過ごすんだから例えニトラばあちゃんでもダメだからね」
そっちが小さい頃からぼくを知ってるように、ぼくだって小さい頃からばあちゃんを見てる。それがどんな笑いかぐらい瞬時に見破れるよ。
「わかったよ。着いて行かないよ」
「レマさんもだからね」
この人もニトラばあちゃんと同じで思ったら吉日の人。直ぐに首を突っ込みたがるんだから。
「そーだ。以前もらったカードって、その船でも使えます?」
ジャケットの内ポケットからカードケースを取り出し、中に入っているカードをテーブルに並べた。
「大丈夫よ。その黒いのと紫のカードなら無制限で買い物できるから。戦車でもクルーザーでも好きなの買っちゃいなさい。夕太郎くんにはそれだけの資格があるんだから」
戦車やクルーザーが幾らかなんて知らないけど、まあ、好きなだけ使っていいってことだけは理解しました。
「じゃあ、遠慮なく使わせてもらいますね」
「え? あ、うん。けど、なにに使うの?」
レマさんの問いに、ぼくは『いろいろ』とだけ答えて隠れ家をあとにした。
読んでくださりありがとうございます。
時間の無駄になってなければ幸いです。
あとほんのちょっとだけお付き合いください。




