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その二十一

長いので無理やりわけました。


 山には入って直ぐに獣の足跡を発見した。


 地面に両手をつき臭いを嗅ぐ。


 犬や仲間たちには劣るが、これでも山で生きてきた。狩るものとして鼻は鍛えられている。時間が経ってなければ十分追跡できる。


「臭いと足跡からして2匹なのは間違いないな」


 その足跡を辿ると、広場を見下ろせる場所に出た。


 また地面に両手をつき臭いを嗅ぐ。


 しばらくここにいたのかか臭いがキツい。眼を辺りに走らせればそれを証明するかのように毛が落ちていて木に爪痕があった。


「……木に登る獣、ね……」


 直ぐに思いつく獣といえば熊だが、これは熊ではない。もっと鋭く、もっと柔軟な体を持った獣だ。


 なんの獣か想像していると、誰か近づいてくるのを感じた。


 それが誰なのか直ぐにわかったのでその場から移動して神崎さんの前に出た。


「───夕太郎くんっ!? いったいなにがあったの?」


「この近くに肉食の獣が2匹いる。しかも、そのうちの1匹は木に登り、眼下を見下ろしてた」


 ギョッとする神崎さん。まあ、当然の反応だね。


「ちっ、近くにいるの!?」


「いる。半径100メートル以内にね。だから早く山を下りて。多分だけど、この獣たちは腹を空かせている。鉢合わせになったらエサと認識されるから」


 どんな臆病な獣でも生死がかかっていれば自分より強い生き物にも襲いかかる。まあ、そんなの当たり前といわれれば当たり前だが、当たり前なだけに『食うか食われるかの戦い』になるのだ。


「自分の命は自分で守れ。生きる術を持て。そうママとおとうさんから学んだ。あたしもそうあるべく鍛えた。だからあたしはあたしの意志でここに残る。あたしは夕太郎くんの側にいる!」


 腰に装備してあるナイフ(本物)を抜いた。


 ……うん、まあ、普通の女の子じゃないとわかってるから流します……


「わかった。もういわない。神崎さんの意志で動いて」


「うん!」


 そう力強く頷く。と、どこからかサイレンが鳴り響いた。


「───本部より緊急連絡。笹原さん宅の子供が2人が見当たらないとのことです。各隊員は3名選出し、速やかに捜索に当たってください。繰り返します。笹原さん宅の子供2人が見当たりません。早急に発見、保護されたし。以上です」


 拡声器から菅原さんの声が山中に響き渡った。


「……なんというか、サバイバルゲームの粋を超えてない……?」


「ま、まあ、リアルがうちの売りだから……」


 また明後日を見る神崎さんだった。


 それを『触れてくれるな』と解釈し、それ以上追求するこては止めた。


 と、また風が獣の臭いを運んできた。


 その方向へと向き直り、閉じていた感覚を全開に開くと、猛スピードで移動する気配を感じ取った。


 ……このピリピリ感、なにかを狙っているときの感じだ……


 近くの高い木に登り、その気配が向かおうとしている方向へと眼を向けた。


 目の前には野球場くらいの人工池が広がり、その向こう側にはボート乗り場がある。その先には森林公園のようなものがあり、更にその向こうにはなにかあるようだが、ここからではなにがあるかまでは見えない。


「神崎さん。池の、森林公園の向こうってなにがあるの?」


 下にいる神崎さんに尋ねる。


「森林公園? ───あ、アスレチック公園ね。えーと確か、展望台があったと思う」


「そこだ! そこに子供がいる───」


 神崎さんの返事を待たず木から飛び降り、山を下った。


 野球場の横にある陸上競技用のグラウンドを突っ切り、演台に立つ眼帯おばさんに視線を向け、池の向こうを指差した。


 それを的確に理解してくれる眼帯おばさん。直ぐに人を動かしてくれた。


 こちらに向かってくるのを背中で感じながら池を囲むように造られた散歩道へと出ると、獣の気配が濃くなり、ぼくの鼻でも判別できるくらい獣の臭いが漂っていた。


 ……ん? 臭いが減ってないか……?


 森林公園に入る前で立ち止まり、獣の臭いを確かめると、やはり1匹分の臭いが減っていた。


 辺りへと眼を走らせるが、身を隠せるような場所などない。右は芝生の丘だし、左は元の広場へと戻る散歩道だ。


 ……どういうことだ……?


 訳がわからないが、今優先するべきは子供の確保と、森林公園に突っ込んだ。


 神崎さんがアスレチックといってたが、なるほど、いろんな遊具があった。


 いろんな遊具を抜けると、石碑の周りで遊んでいる子供2人と、それを狙う黄色地に黒の斑点を持つ獣が視界に飛び込んできた。


 ぼくの記憶に間違いがなければその獣は『ジャガー』という猫科の獣だ。


 動物番組で軽く見た程度だからジャガーの生態はわからないが、あの"眼"の輝きは自分が狩るものだと知っている輝きである。


 1匹になった理由はわからないし、狩るものの邪魔をするのは摂理に反するが、今のぼくは人間の世界で生き、人間のルールで従っている。ならば人の子を守るのは年長者の義務である。なによりここで子供になにかあったら主催者の責任になる。そこのお嬢さんと付き合っている彼氏としては見過ごせないでしょう。


 ……なにより神崎さんの悲しむ顔は見たくない……!


 るぞっ!





読み難かったらごめんなさい。

それでも読んでくださりありがとうございます。

時間の無駄になってなければ幸いです。


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