その十九
キャラの個性化は難しいです。
こんなこと、ぼくがいうのは間違ってる。いう資格もないさ。わかってる。ええ、わかってますとも。だが、いわせてください。お願いだからいわせてください。
───なんて異様な光景なんだっ!!
その広場に集まった200数十名。そのほとんどが迷彩服や軍服に身を包み、それぞれの愛用と思われる銃を手にしていた。
人それぞれ。趣味もいろいろ。それはわかるんだけど、やっぱり異様だよ、これは……。
同じ戦闘服に身を包んだ集団。自分が着ている軍服を自慢する集団。その昔軍隊にいましたというじいちゃんたち。家族連れの一団。友達同士で結成したにわかチーム。それらが集まり、車座に並ぶ露店───神崎さんちの店で働いていた人たち、先程の女の子たちが食べ物やらグッズを売り、なぜかわからないけど、水着姿で小銃を持った女の人や軍服を着た人たちがトラックの荷台でファッションショーをやってたりと、もうなにがなんだかわからなかった……。
広場を見下ろせる東屋で呆然としてると、異様な世界からはしっこい猫を連想させる女の子が出てきた。
「驚いたでしょう?」
ぼくのところにくると、なにやらフレンドリーに声をかけてきた。
あの激しい光景を2度も見ている者としてはこの態度を素直に受け入れることができないが、ここは神崎さんの顔を立てて見なかったことにしておこう。
「う、うん。ちょっとね……」
「ハハ。その顔はちょっとどころの顔じゃないよね」
……まったく、表情は変えてないのに、なんで女の子にはわかるんだろう……?
「うん。異様な光景だった」
「アハハ。あたしも初めて見たときは驚いたわ~。あ、自己紹介がまだだったね。あたし、1年A組の相原愛理。あだ名は"アイアイ"っていうの。ピッチ───あ、これ桃のあだ名ね。で、ピッチとは小学校からの付き合いなんだ」
ほんと、あれがウソのように話してくるな~。
「そ、そうなんだ、そういう話、全然出てこないから……」
「まったく、普段はあけっぴろげな性格のクセに、これと決めたら1歩も引かないんだから。ピッチの頑固さは超合金ね。今回も好きな人ができたというだけで誰なのか頑としていわないし、女の子っぽい服を買ったと思ったら化粧までする始末。大事にしてたサバゲー関連のもの全てしまっちゃうんだもん。ナッキ───あ、背の高い子で佐々木夏樹っていうの。そのナッキなんて大激怒。まあ、あの子の場合ちょっと危ない気があってね、恋人を盗られたって感じなの───」
いやもう聞き取るのが精一杯っスよ、ほんと……。
それでもがんばるけど、3分もしないでギブアップ。もう右から左に流しました。
「っと。そろそろ戻らないと。じゃーねー」
何事もなく去って行った。
……いったいなにしにきたんだ、あの子は……?
ほっとしたのも束の間。今度はのんびり屋の羊の着ぐるみを着た女の子がやってきた。
「こんにちは」
と、溢れんばかりの笑顔を咲かせた。
その背中にチャックがなければ無条件で可愛いと思うのだが、その中身を想像したら絶対に可愛いとは出てこない。それどころか警戒警報が鳴りっぱなしだよ。
「こ、こんにちは」
取りあえず挨拶に応えると、なぜか手が触れれるところまで近づき、うるうるさせた瞳でぼくを覗き込んだ。
しばし見詰めたあと、また笑顔を咲かせた。
「ピッチちゃん、面食いさんだったんですねぇ」
いってる意味がわからず首を傾げた。
「あ、ピッチちゃんの友達の相原リコです。よろしくねぇ」
「あ、うん。よろしく……」
「いいなぁ~ピッチちゃん。こんなカッコいい彼氏がいてぇ。リコも夕太郎くんみたいなカッコいい彼氏が欲しいですぅ」
なんというか、甘ったるい毒を突きつけられているような感じがしてしょうがないな……。
「ま、まあ、世の中広いし、そのうち見つかるんじゃないかな……」
……変わり者が多いから、とはいわないでおこう……
「夕太郎くん、リコみたいな子、嫌いですかぁ?」
「ん、ん~。まだ相原さんのこと知らないから好きとも嫌いともいえないかな……」
その背中のチャックを開けてみないことにね。まあ、余り開けたくはないけどさ。
「そうですかぁ~」
とっても残念そうな表情になったのも一瞬。直ぐに笑顔を復活させた。
「だったらこれから仲良くしましようぉ。お互いわかり合えるようにねっ!」
ぼくの手を取り自分の胸に押しつけた。
「じゃっ、帰りに携帯の番号とメールを交換しましよねぇ」
嵐のようにやってきて嵐のように去って行く。彼女とは一生わかり合えない自信があるな、うん。
疲れたので広場の横の野球場のベンチに移り、水を飲んで一息ついていると、戦闘服にエプロンをかけたまともな女の子がやってきた。
……やれやれ、今度はこの子ですか……
「菅原里佳子という厄介者ですが、隣、よろしいですか?」
ぼくの心情をズバリいい当てた洞察力ではなく、その冷静な観察眼に驚いた。
先入観や己の感情を一切排除し、ぼくの言動に全神経を注いでいた。なのに、顔は笑顔で態度は自然なのだから凄い女の子だよ。
……なにやらこの子からすみれちゃんと同じ匂いがするぞ……
「ど、どうぞ」
ちょっと横にずれると、観察眼を緩めることなくベンチへと座った。
そのまま黙って観察してくるのでこちらも黙って観察されていると、ふいに笑った。
「わたしは他と違って桃と知り合ったのは中学3年の夏。だから他のバカどもからすれば嫉妬心も少ないし、冷静に朝霧くんを見れる。っていってもこうして見るのは今日が初めてで、全然というほど知らない。そのちょっとの間の感想だから気にしないでね。朝霧くん、桃を彼女として見て───ううん。彼女と思ってないんじゃない?」
……さすがすみれちゃん属性。よく見てるコト……
「そう見えるとしたら多分、ぼくが女の子と付き合ったことがないからであって、まだ、神崎さんという人を理解してないからだと思う」
「フフ。よくわからないってところは同感ね。わたしみたいなへそ曲がりを友達にしちゃうんだから……」
昔を思い出したのか、ぼくから視線を外し苦笑した。
「……まあ、桃もかなり変人だけど、朝霧くんも負けてないよね」
反論できないので黙ってた。
「この間、ラブレター出したのわたしなんだ」
ラブレター? なにそれ?
そんな思いが態度に出たのか、菅原さんが呆れて天を仰いだ。
「なにそれ、覚えてないの?」
まったく覚えてません。そんなことありましたっけ?
「まったく、普通の男ならラブレターもらったら一生ものだよ」
「あ、いや、そういうの、興味ないから……」
「よくそれで桃の告白受けたね……」
うーん。それが未だに謎なんだよね……。
「ぼくなんかより神崎さんを見てるからわかると思うけど、神崎さん、ぼくが好みだったり、ぼくと気が合うからとか、そういったことでぼくを好きになったんじゃない」
そういった外見を重視したりしない。一目惚れとは違う。ぼくであったから───いや、ぼくでなければダメといった感じが、する……。
「じゃあ、どんな理由よ?」
「その理由を知りたいのはぼくの方だよ」
なぜぼくなのか。どうしてぼくでなければいけないのか。それが知りたいから付き合っている……んだと思う……?
「……なんとなくだけど、桃の空回りがわかったような気がする……」
その言葉に意識を向けると、すみれちゃんばりに笑顔を見せた。
「他のバカどもはともかく、わたしは応援するわ、その仲を。じゃーね───」
と、自分だけ納得して去って行った。
……ったく。これだからすみれちゃん属性の人は厄介なんだよな……
読んでくださりありがとうございます。
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