その一
三作目です。
毎日投稿は無理です。
でも、なるべく間を開けないように努めます。
自分にいってます。読んでくださる方にもいってます。
第一章 彼女からのコクハク
ぼくには彼女がいる。
ん? いや、今の段階では、今日ぼくに彼女ができたというべきが正解かな?
いやまあ、そのことはどうでもいいんだよ。
彼女から告白されて受けちゃったことが問題なんだよ。
ぼくの名前は、朝霧夕太郎。苗字は響きはいいが、名前古くさいと思う。歳は15。背は175センチ。体重は62キロ。これといって目立つところはない───というか全然目立ってない存在だ。
高校は青海学園という私立。入学基準が少々変わったところだが、高くもなければ低くもなく、まあ、ちょっとがんばれば大抵の人は入学できる高校らしい。
特長といえばスポーツに力を入れている学園で、特に女子空手部とバスケ部が有名らしく中央校舎の展示室にはトロフィーがいっぱい飾ってあったっけ。
まあ、ぼくも男子空手部に在籍してはいるが、活動という活動はしていない。廃部にならないための人数合わせだし、試合のときに出てくればいいといわれてるからね。
性格はそう悪くはないと思うが、社交的ではない。休み時間はいつも1人だし、友達と呼べるのは2人だけ。女子にいたっては0だもんな。
2年前、家族が死んでしまったから親の威光なんてものはない。生きてたとしても同じだろう。遺されたものは荒れた農地と山1つだけ。あとは粗大ゴミに出すものばかりだ。
今は小説家の叔父さんの家に厄介になってる身だし、ぼく個人の財産といえばアルバイトで稼いだ程度のものだ。
1年前から写真が趣味になったが、特に限定して撮ってる訳でないしこだわりがある訳でもない。写ってるのがおもしろいから撮ってるだけ。コンクールに出したこともなければ展示会なんてしたこともない。たまに知り合いが見るくらいで彼女に見せたこともない。カメラだって彼女の前では出してもいない。
どう考えても彼女に好かれる要素がないんだよな~。
……いったい彼女はぼくのなにを見て好きになったのだろう……?
彼女の名前は、神崎桃さん。
体のバランスがとてもよく、動きも風のように颯爽とし、ぼくの知る女の子では上位に位置するくらい身体能力が優れている。
それ以上に優れているのは性格だろう。人に媚びることもなければ見下すこともない。誰であろうと気さくに話し、誰とでも仲良くなっていたっけ。
確認した訳じゃないが、見た限りでは部活はしてないみたいだ。耳にした会話から親しい子たちとなにかやってるようだが、なにをやってるかまでは聞かなかった。これといって興味もなかったし。
賢いけど、勉強はそれほど好きじゃないみたいだな。特に日本史が苦手らしく先生に指されると涙目になってたっけ。
そんな女の子を認識したのは入学して一週間後。席替えで隣になってからだ。
最初に声をかけてきたのは彼女から。『よろしくね』の声に『こちらこそ』というのが最初だったと思う。
それからしばらくは挨拶か天気の話、まあ、5秒程度のお付き合い。仲が良いという関係ではなかった。反対側の男子にも同じように話しかけてたからな。
彼女の朝は友達と登校。休み時間はクラスの女子に囲まれ、ぼくは外に避難。帰りも友達と帰るから接点など繋げようもない。
クラスメート。それ以上でもなければそれ以下でもない。そこにいるなといった認識だった。今日の放課後までは……。
そのときのことを思い出してみる。
久しぶりに遠くまでのバイトがあり、寝れないほど忙しかったため、そのまま学校にくることとなった。
2日3日寝なくてもへばる体ではないのだが、暖かい気温に柔らかい日射しのお出迎え。もう放課後まで寝なかったのが不思議なくらい気持ち良かった。
帰る前にちょっとだけ仮眠するかと思ったら不覚にも熟睡してしまい、気がついたら5時の下校チャイムが鳴っていた。
「おはよう」
目覚めると、横から誰かの声が飛んできた。
びっくりしたよ。もう口から心臓が飛び出るくらいの驚きだったね。こんなに驚いたの生まれて初めてだよ。
だって人がいないことを確認してから寝たし、近寄ってくる気配なんて感じなかった。それが起きたら横から声が飛んでくるんだもん、驚くなっていうほうが悪い。
「ふふ。そこまで驚く人、初めて見たわ」
全身の毛が逆立ち、硬直するぼくを見て笑う女の子の声。それでも首を動かして見るが、逆光なのと思考の混乱で、それが誰なのかわからなかった。
「珍しいね、夕太郎くんがこんな時間まで残ってるなんて」
その呼び方でわかった。隣の席の神崎さんだった。
彼女の主義かクセかはわからないが、男子は『くん』付けで呼ぶのだ。
「あ、うん、ちょっと忙しかったからね……」
体の緊張をほぐしながら辺りに目を走らせる。
当然のことながら神崎さん以外は誰もいない。壁の時計を見れば5時過ぎ。グランドからは声が聞こえてくるが、ぼくたちがいる南校舎からは人の声は聞こえてこなかった。
「か、神崎さんは、なにしてるの?」
いつも……かは知らないけど、長い時間残っていることはなかったはずだが……?
「夕太郎くんの寝顔見てた」
「ぼくの?」
「うん」
「……なにか、変な顔になってた……?」
ヨダレでも大量に流してたのかと、思わず口を手で拭いた。
「ううん。かわいい寝顔だったよ」
「あ、うん、ど、どうも……」
なんといっていいのかわからないので適当に答えた。
「でも、寝顔見てたって危ない発言だよね」
「ま、まあ、逆よりはいいんじゃないかな」
女の子の寝顔はジロジロ見るものじゃないらしいから。
「優しいね、夕太郎くんは」
ぼくを見てい瞳が不意に外れ、なぜか俯いてしまった。
どうしたのと覗き込もうとしたら突然顔を上げた。
「───夕太郎くん!」
「はい!」
叫びに近い声に反射的に返事してしまった。
「今、好きな人とか男女交際してる人とかいますか?」
その突然の問いについて考える。
……えーと。つまり、ぼくに"つがい"となる人はいるかと聞いてる、ってことだよな……
「ううん。そういう人はいないよ」
そう答えると、なぜか神崎さんはホっとする。と、また俯いてしまった。
なんとも重苦しい沈黙が訪れた。
神崎さんは、手をモジモジさせたり、チラッチラッとぼく見たり、挙動が不信だ。そんな不信が5分ほど続き、やっとのことで顔を上げた。なにやら決意の表情で。
「夕太郎くん! あたしと付き合ってください!」
その場面に2度、遭遇したことがある。
従姉の説明によれば男が女に、または女が男に『愛』もしくは『恋』を伝える言葉だそーだ。
そう理解できたし、これが告白というのも理解できた。けど、どうしてぼくにいってるのかが理解できなかった。
だってそうでしょう。女性から好かれる要素がまったくないし、今の今まで接点がなかったのに、どうして告白されるの? 一目惚れというのも教わったけど、それならとっくに告白してるはずだ。
「……ダメ、かな?」
「あ、いや、そうじゃなくて、ぼくにいってるの?」
彼女は大きく、そして真剣な目で頷いた。
「だから、その、恋愛って、大切なことみたいだし、その、なんていうか、だからその、よ、よく考えてからのほうがいいと思うよ……」
たぶん気の迷いだよ。一回落ち着きなよ。大切なことなんだからじっくり考えるべきだよ。
「いっぱい考えて、いっぱい悩んだ」
真剣な目がふっと和らぎ、とても柔らかい気配を醸し出した。
「あたし、夕太郎くんが好き。それが答え。あたしと付き合ってください」
といわれても返答に困る。こんなこと初めてなんだからさ。
とはいえこのまま放置してても問題は解決しないし、誰かが助けてくれる訳でもない。なんとかしろ、ぼく!
「えっと、あの、だから、その、好きっていってもらえるのは嬉しいよ。ぼくも神崎さんは嫌いじゃないしね。いつも挨拶してくれるし、気配がとっても静かだし、なんというか、存在が綺麗だしさ……」
自分でなにをいってるのかわからない。なにかいわなければならないと思う気持ちがいわせてるのだ。
「……だから、その、ぼくで、いいの……?」
彼女はまた大きく頷き、恥ずかしそうに微笑んだ。
そんな彼女になぜかぼくも恥ずかしくなり顔が赤くなった。
そして、ぼくは彼女と付き合うことに承諾してしまったのだった……。