プロローグ
見渡す限りの草原に綺麗な歌声が響く。
「ラーラーラー、ララーラー」
その歌を聞いているものは歌っている本人の少年しかいない。
それが心の底から残念に思うほどにその音色は聞くものすべてを魅了するほど、素晴らしいものだった。
「ピィー」
いや、聞くものが少年一人しかいないと言うのは訂正だ。
たった今、少年の被る深いぼうしに一羽の小鳥が止まり、聴衆が増えたところだ。
少年は深見ーーいや、この世界ではシングと名乗ることを決めた一人の吟遊詩人だ。
「なーんつって」
自分の状況を脳内で実況してみると一気に恥ずかしくなった。
聞くものすべてを魅了するほどの歌声ってなんだよ、俺はナルシストか!
ちょっと物語のプロローグな感じにしたかっただけなんだけどな。
きっと俺は浮かれているんだろう。
そうだといいな、ナチュラルにナルシストとかマジ勘弁して欲しい。
まあ、それは置いておいても俺が浮かれているのは確実だ。
だって俺は今、まさに物語のテンプレな状況にいるんだから。
簡単にダイジェストに説明すると
1 神様に間違って殺される
2 チート能力を貰って異世界トリップ
ってな感じだ。
はしょりすぎかも知れないけど、これさえわかってもらえば十分だ。
そうして俺はまたテンプレ通りにプレイしていたMMORPGのカンストキャラの能力と異世界での言語知識をチート能力としてもらった。
テンプレと違うところがあるとするなら俺のキャラ、シングの職業が吟遊詩人だったということぐらいだろう。
けれどそれこそが俺の浮かれている一番の要因だ。
俺は音楽が好きだった、愛していると言っても過言じゃない。
しかし、俺の音楽の才能は皆無だった。
ガキ大将並みの歌声を持ち、さわった楽器はことごとく壊れる。
数回の授業で小中学校の音楽の先生が俺を見ただけで必ず悲鳴を上げるようになったと言えば才能の無さがわかってもらえると思う。
それは音楽を愛している俺には心が張り裂けるほど辛いことだった。
自分で綺麗な音楽を奏でたい、そんな思いがずっと俺の中にあった。
しかし、この異世界にきて俺の望みは叶えられた。
キャラ、シングの吟遊詩人の能力を手に入れたことによって天使の歌声と完璧な演奏技術を手に入れることができたんだ!
未練たらしく吟遊詩人のキャラを作っていて良かった!
だから俺は今、かなり浮かれている。
浮かれながら、歌って人里を探しているのも理解してくれるよな?
あー早く、歌を聴かせたい。