悪(わる)な俺!!
人は俺を札付きの悪と言う。
服装検査? この世にそんなものあるのかよ!
髪は金髪。幾度始末書を書かされ黒に染めても、また金髪だァ!!
授業中に携帯のスイッチを切らず、着メロを流す。
当然、教師はその携帯を取り上げる。
すると今度は退屈だ。
「帰るぜ!!」と言って椅子をガタンと鳴らし、立ち上がる。
両手はポケットに突っ込んで、上履きを突っかけ教室を出る。
背を向け、数式を黒板に書いていた教師が振り返るが、けっして引き止めようとはしない。
ずれた眼鏡の隙間から、見ているだけだ。
そう、廊下の両端にちゃんと教育指導の教師が待っている。
で、俺はそいつらに捕獲される。
もともと授業をまともに受けたことなどない。
だが、これが自習時間ともなれば話は別だ。俺は煩いのは嫌いだ。
ベラベラしゃべりやがって、何の得があるというのだ。
「煩い!! 少しは静かにしろよ」
大きな声で奴らを罵倒する。
クラスに一人はいるという、お調子者がピクリとして俺の顔を見る。
「何見てんだよ! なあ、ここで真面目に勉強してる奴がいるだろ?」
となりの席の学年トップの男子を見る。
その時、奴は「ありがとうよ」と言わんばかりに片手を上げる。顔は上げない。
こいつは俺のダチだ、まぶダチだ。
分からない問題はこいつに聞くが良い。
大体の問題に的確に答える。
そして教師のウケも良い。
で、突然だがそんな俺が恋をした。
小さな花が咲いたような可愛い女子だ。だが、この女子は、鈍い。
運動神経も鈍いが、恋にはもっと鈍感だ。
ついこの間も、隣のクラスの女子から預かってきたと言って、俺に手紙を持ってきた。
「何で預かってくるんだ!」と怒鳴ってやりたかったが、我慢した。
その鈍い小花ちゃんはこの前の席替えの後、俺の後ろに座っている。
成績は隣のまぶダチの次くらいだろうか、妙に礼儀正しい性格だが、変な笑い方をする。
そこ? と思うくらいポイントがずれていて、
授業中でもお構い無しに「ヒー、ヒー、ヒー」と引き笑いをしてブッ壊れる。
「何でだ! どうしてそこが面白いんだァ!?」
俺には理由がわからない。
さあ、どうやってこの気持ちを伝えるかが問題だ。
とにかく鈍い。
可愛いから、他の男子も狙ってはいるが、誰にも振り向く気配が無い。
下級生からも告白されたらしい。
だが俺は告白して、「ごめんなさい」と言われた日には格好がつかない。
だって俺は札付きの悪だ。
性質が悪いことに、この小花ちゃんは俺のことを怖がらない。
鈍いからか? 天然だからか? わざとか??????????
早い話が相手にされてない?
しかし、ここで諦めるわけにはいかない。
小花ちゃんと話をする機会は沢山ある。俺の席は小花ちゃんの前だ。まず、分からない問題を聞くことから始めよう。
俺が小花ちゃんに数学の分からない問題を聞くと、隣のまぶダチが怪訝な顔をした。だが、そんなことを構ってられるほど暇じゃないんだ、俺は。
もうすぐ卒業なんだぞ、小花ちゃんと同じ学校には進学できそうもないんだ。だから時間がない。
でも近頃の小花ちゃんは受験のことしか頭にないようで、俺の分からない数学の問題をスラスラ解いたら、直ぐに自分の問題集を取り出す。
なら、と面白そうな話をしたが、「そうなの? すごいねえ!」と感服された。
この前、笑っただろ? 何処が違うんだ? 何がポイントなんだ!
やはり絞りきれない。
なかなか手強いぞ、小花ちゃん!
そうこうするうち、受験が始まり卒業式を迎える。
小花ちゃんは俺のまぶダチと同じ進学校に合格し、俺もまた二人のおかげで希望校に合格した。
しかし、とうとう告白できなかった。
だが、それでも良い。
これで俺は悪としてのプライドを傷つけることなく、卒業できる。
卒業しても、
俺の携帯の待ち受けで小花ちゃんはいつも引き笑いをしている。
この前、つい、こっそり盗み撮りをしてしまった。
「写真を撮らせてくれ」と小花ちゃんに言えばきっと「いいよ」としか言わないだろう。
だから、どうしてもそれだけは言いたくなかった。
だって俺は札付きの悪だからな。
盗みは俺の得意技だァ。
……?
……そういえば、
その俺でも小花ちゃんのハートは盗めなかった……
なのに、
小花ちゃんは悪な俺のハートを盗んだ!
札付きの悪以上の悪だ。
とんでもない奴だァ、小花ちゃ~ん!! (了)