8 二回目のデート
あれからすぐにバートさんから手紙が届きデートの日も決まった。今日は街のカフェでデートだ。ついでに美術館にも行くことになった。美術館か、芸術さっぱりなんだよね……。
迎えに来てくれたバートさんはジャケットを着てカジュアルな感じで格好良い。私もワンピースで髪もハーフアップにしてもらい、なるべく可憐な感じに仕上げてもらった。アニカありがとう。
街に着き、バートさんと目的地まで歩く。歩幅を合わせてくれるので歩きやすい。バートさんが何をしても優しいなと思う。
「美術館は久しぶりですわ。あまり絵画のことは詳しくないので、感想がうまく言えなかったらごめんなさい」
「私も絵画のことは不得意ですよ。でも、きっと綺麗だなとか色が好きだなとか、そんな感想で良いんだと思います」
「そうですか?」
「ええ。思ったことを素直に伝えてください。楽しく見るのが一番ですよ」
「わかりました」
バートさんは私の気を楽にしてくれる。背伸びしようとする私を、そのままで良いと受け止めてくれる。好きだな。この人を誰にも渡したくないな。
肩の力が抜けたのか、美術館は思っていた以上に楽しめた。綺麗な絵を見て、この色遣いが好きと言えば、バートさんが説明してくれる。不得意だと言っていたが、説明が詳しくてわかりやすかった。多分バートさんは絵画を見るのが好きなんだと思う。
美術館を楽しんだ後にカフェに入る。王都でも有名なこの店は若い人向きの店だった。店内は賑わっていて、ショーケースのケーキはどれも可愛くて美味しそうだ。エマの時もだけれど、バートさんは私に合わせてくれる。
「バートさんはどれにしますか?」
「私はあまり甘くなさそうなものにします。ヘンリエッテ嬢は好きなケーキを注文してください」
「では、このチョコレートケーキを」
席に座り注文したケーキが届くのを待つ。その間二人で楽しく話していたのだけど、途中でバートさんは言いづらそうに口を開いた。
「明日、領地に戻ることになりました」
「まあ、そんな急に」
「本当はもう少しこちらにいる予定だったんですが、どうしても戻らなくてはいけなくなりまして」
「そうなのですね。寂しくなります」
「ええ。明日は見送りに来てくれますか?」
「はい。約束しましたから」
注文したケーキが机に置かれる。生クリームがたっぷり添えられたチョコレートケーキは、普段ならとても美味しそうに思うけれど、今は色褪せて見える。
「ヘンリエッテ嬢、せっかくの美味しそうなケーキです。食べましょう」
バートさんは空気を変えるように明るく言う。私は微笑んでケーキを食べて美味しいと伝えたが、心の中は悲しみでいっぱいだった。
店を出てから、色とりどりの花が咲く公園を歩く。時間帯のせいか人がまばらだ。二人とも言葉が少ない。言いたいことはたくさんあるはずなのに、言葉が出てこない。でも、このまま別れるのは嫌だ。
「アルバート様、私……」
「ヘンリエッテ嬢」
私が話そうとすると、バートさんも同じタイミングで私に話しかけるところだった。口を閉じると、バートさんが続きを話す。
「ヘンリエッテ嬢、その、私はあなたより随分と年上ですが、あなたに相応しい人間になりたいと思っています。もしあなたが私に少しでも好意をもってくれているのなら、私を選んでくれませんか? 早すぎるとわかっていますが、あなたが他の誰かと一緒になるのを見たくないのです。私と婚約していただけませんか?」
バートさんと婚約? 私が? 今聞いたことが信じられなくて、耳がおかしいのかと思った。頭がちっとも働かない。
「ヘンリエッテ嬢、困らせてしまいましたか? やはり私のような者と婚約など考えられませんか?」
バートさんが困ったような不安そうな顔で私に聞く。そんな顔してほしくない。でも言葉が出てこない。どうしよう。
涙が出てきて、そんな私をバートさんが息をのんで見ている。思わず俯いてしまったけれど、嫌じゃないんです。嬉しいんです。
「すみません、ヘンリエッテ嬢。困らせてしまったんですね」
バートさんが私を諦めようとしている。泣いている場合ではない! 頑張れ、私!
「ち、違うんです。嬉しくて、言葉が出てこなくて。初めてお会いしたときからアルバート様をお慕いしております。私の方こそ随分と年下で子供っぽくて。それでも構いませんか? 好きでいてくださいますか?」
「もちろんです。私はあなたが好きです。初めて会ったときから、私もあなたに惹かれています」
そう言ってバートさんは私の両手をギュッと包むように握った。温かくて安心する。
「ア、アルバート様が私のこと好きになってくださるなんて奇跡です。アルバート様……」
涙が止まらなくて言葉が上手く出てこない。顔も大変なことになってるだろう。恥ずかしいし見て欲しくない。でも嬉しいし、バートさんを見ていたい。バートさんが手を離し、ハンカチで涙を拭ってくれる。
「ヘンリエッテ嬢、泣かないでください」
「無理ですわ」
誰かに見られたらバートさんが私を泣かせてるように見えるかもしれない。通報されたらどうしよう、と一瞬頭をよぎった。頑張って泣き止まねば。一生懸命泣くのを我慢する。
困ったように微笑んで、バートさんが私の頭を撫でてくれた。これは子供扱いされてるよね。
「アルバート様、子供扱いしないでください」
頑張って涙を止めてバートさんを見る。確かに泣いたのは私だけど、小さい子にするような頭の撫で方はやめて欲しい。大人の女性としてバートさんの隣に立ちたいんだから。
「子供扱いした訳じゃないんだが。ヘンリエッテ嬢に泣かれると、どうしていいかわからん」
焦っているせいか、いつものバートさんの口調が出ている。なんだか愛おしさが込み上げてきて、私は思わずバートさんに抱きついた。はしたないと思われるかもしれないが、どうしても抱きつきたかった。
バートさんは私を受け止めて、恐る恐る背中に手をまわす。
「ありがとう、ヘンリエッテ嬢」
バートさんの優しい声が聞こえた。




