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6 一回目のデート



 あの夜会の日から何日かして、約束通りバートさんから手紙が届いた。オーケストラを聴きに行きませんか?とのお誘いの手紙だ。もちろん行く。絶対に行く。すぐに返事を書いて出した。音楽か。寝てしまわないように気をつけないと。



 デート当日、私は朝から元気に頑張った。少しでも綺麗に見えるようにアニカと相談しながら準備をする。ドレスも髪型も少し大人っぽいほうが良いかな? そのほうがバートさんに釣り合うかな?


 両親はバートさんからの誘いに大喜びしていた。辺境伯様からお誘いの手紙が届いた! あのヘンリエッテが恋に目覚めた!と大騒ぎだ。どれだけ心配かけていたのだろうか、と少し申し訳なく思った。


 そして時間通りにバートさんが迎えに来る。バートさんは相変わらず素敵だ。彼は私を見て微笑んだ。


「ヘンリエッテ嬢、今日も可憐ですね」

「あ、ありがとうございます」


 可憐だって、私。そんなこと好きな人に言われたら挙動不審になってしまいそう。怪しい動きになる前にバートさんと家を出ないと。馬車に乗ってコンサートホールへ行く。向かいに座ったバートさんと話していたら、すぐに目的地についた。もう少し話したかったな。


 バートさんにエスコートされて会場に入る。しばらくしてコンサートが始まった。……残念ながら、私は眠気に負けてしまった。弱かった。あと少しまで頑張ったのに、気付くとバートさんにもたれかかって眠っていたようだ。せっかく誘ってくれたのにごめんなさい!と内心冷や汗をかいていると、バートさんが安心させるように私を見た。


「疲れていたんですね。気にしないでください。私はあなたの可愛い寝顔が見れて幸せでしたよ」


 もう、好き! その厳つい顔に似合わない甘い言葉はなんなの! 眠ってしまったことを私が気にしないように、冗談で言ってくれてるのはわかるけど。それでも、そんなこと言われたらドキドキする。


「せっかく誘っていただいたのに、申し訳ありません。眠ってしまうなんて思いもしなくて、ご迷惑をおかけしました……」

「本当に気にしないでください。お疲れのところを私が誘ってしまったんですから」

「いえ、そんな……」

「ヘンリエッテ嬢、私はあなたと出かけるだけで楽しいんですよ。さあ、気を取り直して、どこか食事にでも行きましょうか」

「アルバート様、ありがとうございます」


 優しい。本当に優しくて素晴らしい人だ。私のような駄目令嬢を見捨てないでいてくれる。反省して次は迷惑をかけないようにしないと。


 食事のために入った店は、高級そうなレストランだった。メニューを見ながらバートさんがウェイターに注文を伝える。彼はワインも頼んだようだが、私はまだ飲める年齢ではない。なんだか年齢差を感じてしまった。バートさんに釣り合うくらいに、私がもっと大人だったらいいのに。


 注文が届き食事を始める。どれも美味しくて食が進むけれど、メインの肉料理は格別だった。牛フィレ肉が柔らかくて美味しくて頬がゆるむ。


「ヘンリエッテ嬢は幸せそうに食事をされるんですね」

「あら、顔に出ていましたか? お恥ずかしい」

「見ているほうも幸せになれます。全然恥ずかしくないですよ」


 バートさんが私に微笑みかける。なんて幸せな時間なんだろう。前回バートさんと街で会ったとき最高の一日だと思ったけれど、すぐに更新しそうだ。そうして食事を続けるうちに、残りはデザートだけとなった。


「ヘンリエッテ嬢は甘いものはお好きですか?」

「ええ、好きですわ」

「それなら、次回は甘いものでも食べに行きましょう」

「ええ。楽しみにしていますね」


 さらっと次の約束をしてしまった。コンサートであんな失態をしてしまったというのに、また会ってくれるなんて嬉しい。次はいつかな? バートさんはいつまで王都にいるのかな? 少しでも長くいてくれたらいいのに。


「何度も会ってくださると、アルバート様が辺境に帰られるときに寂しくなりそうですね」

「私もですよ」

「帰られるときには教えてくださいね。お見送りに行きますから」

「来てくださるのですか?」

「もちろん、アルバート様に会いに行きますわ。だってせっかく仲良くなれてきましたのに、これで終わりだなんて悲しいですもの」

「そ、そうですか」


 バートさんが照れたように首の後ろを掻いている。ヘンリエッテとして会うのは二回目だけど、ちょっと攻めすぎただろうか? いや、しかし、いつ辺境に帰るかわからないのだから、少しでも好意を伝えておきたい。


「アルバート様、辺境に帰られてから手紙を出してもよろしいですか? 迷惑でなければ文通など……」

「構いませんよ。私からも書きますし楽しみにしていますね」

「ありがとうございます」


 良かった。縁が繋がって安心していると、バートさんが私をまっすぐに見る。


「こうやって少しずつお互いのことを知っていきたいですね」

「はい。私もアルバート様のことが知りたいです。子供っぽい私ですが広い心で接していただけると嬉しいです」

「いや、子供っぽいなんて思ったことはありませんよ」

「そうですか? 今日もご迷惑をおかけしましたし」

「あれは迷惑なんかじゃありません。本当に気にしないでください」

「それなら良いのですが」


 エマのときには十四歳くらいだと思われていたし、ヘンリエッテは年相応に見えてるのか不安になる。妹くらいの気持ちで誘われてたら困る。ちゃんと恋愛相手として見てもらわないといけないから、これからの言動が大事だ。


「では、そろそろ送りましょうか」

「はい。楽しい時間をありがとうございました」


 食事が終わり店外に出ると辺りは暗い。バートさんに送ってもらい屋敷に帰る。


「今日はありがとうございました。アルバート様、お気をつけてお帰りください」

「こちらこそありがとうございます。ヘンリエッテ嬢、次回の約束楽しみにしています」


 バートさんが馬車に乗り去っていく。たった今別れたばかりだと言うのに、もう会いたい。次が楽しみだなと思いながら、私は屋敷に入った。



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