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5 辺境伯様との出会い



 結婚相手を見つけに来たって? それ本当? だったら、こんなところでのんびりしていられない。チャンスがあるのに逃してたまるか。エマだとバレるかもしれないが、その時はその時だ。


「兄様、今の話聞きましたか?」

「えっ? なんの話だ?」

「辺境伯様が結婚相手を探されている話です」

「そんな話してたか?」

「ええ、しっかり聞こえてきました」


 私はバートさんを見る。なんとか話しかけるチャンスを作らねば。どうすればいい?と悩んでいると、バートさんの足元に何かボタンのような物が落ちているのが見えた。誰のボタンか知らないが活用させてもらおう。


 私はバートさんに近付くために歩き始める。兄様が驚いた顔をしていたが無視だ。そして足元に落ちているボタンを拾って、バートさんに差し出した。


「あ、あの、これ、落とされましたか?」

「えっ?」


 恥ずかしそうに俯きながらボタンを渡す。社交界でのヘンリエッテ嬢らしく振る舞うのが面倒くさいが、貴族受けが良いので仕方ない。バートさんは自分の服を見てボタンの確認をしていた。


「……私のボタンではないようだ」

「まあ、そうでしたか。申し訳ございません。落とされたのかと気になってしまって……」

「いえ、お気遣いありがとうございます」


 相変わらず淡々と話すバートさんに気にせず話しかける。


「あの、失礼ですがボルグハルト辺境伯様ですよね?」

「そうだが」

「私、フォーゲル伯爵家のヘンリエッテと申します」

「ああ、フォーゲル家の。噂はお聞きしていますよ。とても、お淑やかなご令嬢だとか」

「そんな、お淑やかだなんて恥ずかしいですわ」

「いえ、噂通りの方ですね」


 よしよし。上手く話が出来てるんじゃないかな? しかも噂の内容はともかく、私を知ってくれているのは嬉しい。とりあえず名前を知ってもらえたから何とかなるだろう。


 顔を上げてはにかむように微笑んで、では失礼いたしますと去ろうとする。するとバートさんが声をかけてきた。


「あの、もう少し話しをしたいのですが……」

「えっ? 私とですか?」

「ええ、あなたと。構いませんか?」

「もちろんです」


 バートさんは、ではテラスでゆっくり話しませんか?と誘ってくれる。嬉しい。二人でテラスに出ると綺麗な星空が見えた。


「あら、綺麗な星空ですね。こんなに綺麗な夜空は久しぶりに見ますわ」

「そうでしたか。辺境は王都より空気が澄んでいるのか、星がたくさん見れますよ」

「そうなのですね。辺境は素敵なところですね。私も一度行ってみたいですわ」

「機会があれば是非」

「ええ」


 お淑やかな令嬢っぽく答えるのは正直大変だ。しかし貴族っぽさは大事だ。バートさんだって貴族らしい振る舞いをしている。言葉遣いも丁寧だ。


「そういえば、きちんと自己紹介をしていませんでしたね。私はアルバート・ボルグハルトです。アルバートとお呼びください」

「アルバート様、私のこともヘンリエッテとお呼びくださいね」


 そうだった。辺境伯様のお名前はアルバート様だったわ。今思い出した。バートさんのこと一気に色々知れた気がする。知り合いの家じゃなくてタウンハウスに泊まったんだろうなとか、商売ねぇとか、正体隠してたんだな。


「ヘンリエッテ嬢は、私と話すのは、その、怖くはないのですか? 私は女性に遠巻きにされることが多いので……」

「怖いなどと思いませんわ。アルバート様のこと、素敵な方だと思いますもの」

「す、素敵な方ですか?」

「ええ。あ、ごめんなさい、はしたなかったですね」

「いえ、嬉しいです」


 バートさんが微笑んだ。良かった。いつものバートさんに会えた。私も微笑み返すと、バートさんが顔を少し赤くした。こうやって顔を見ているとエマだってバレるかな?と思うけど、髪も化粧もだいぶ違うから大丈夫な気もする。


 少し話して、そろそろ中に入ろうかとバートさんに促される。冷えてきたかもしれないし、ちょうど良いタイミングだ。


 会場に入ると、みんなの視線が私たちに集中した。すごく気にされていたらしい。コソコソ話が聞こえる。


「ヘンリエッテ嬢は大丈夫か? 怖くて震えてるんじゃないだろうか」

「辺境伯様が微笑んだのを初めて見たよ」


 怖くて震えてるわけないでしょう! 嬉しくて踊りだしたいくらいよ!と怒りたいけど我慢する。そして辺境伯時のバートさんの微笑みは貴重だったみたいだ。それを私が引き出せたのが嬉しい。


「ヘンリエッテ嬢、申し訳ない。こんなに注目されるとは……」

「いえ、アルバート様、謝らないでください。私、アルバート様とお話し出来て楽しかったですし、また機会があればと思いますもの」

「ありがとう、ヘンリエッテ嬢」


 バートさんが申し訳なさそうにする必要ないのに。注目望むところだ! こうやって二人が仲良くなっていくところを見て、あの二人良い感じなんじゃない?と噂してくれたらよい。お似合いだから邪魔できないね、くらいまで早くもっていきたい。


「アルバート様はしばらく王都にいらっしゃいますか?」

「ええ、しばらくはこちらにいる予定です。……あの、もし良ければ、私がこちらにいる間にどこかへ出かけませんか?」

「ええ、喜んで。いつでもお誘いくださいね。待っています」

「必ず連絡します」


 次の約束を取り付けた私、素晴らしい。バートさんからの誘いが無ければ、自分から誘うところだった。ほくほくとしながら、バートさんと今度こそお別れをして兄様のところに戻る。


「ヘンリエッテ、何があった?」

「兄様。帰りの馬車で話しますね」


 兄様が心配そうに私を見る。馬車の中で私は兄様に辺境伯様に一目惚れしたこと、お近付きになって結婚出来たらいいなと思っていることを伝えた。


 もちろんエマのことは内緒なので、今日一目惚れしたことにした。兄様は驚きながらも、ヘンリエッテがそれでいいなら、と私の頭を撫でた。




アルベルトだろうなと思いながらも、アルバートでいきます


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